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7/12

7.諦めたらそこで研究終了ですよ

短編版から大幅に追加しました。

 執務室に行くと、珍しく正装しているダニエルに迎えられた。首飾りも腕輪も、魔法陣の刺繍が入りまくった妙なローブもない。ダニエルにとってはなんの防御も武器もない、素の状態と言っていいだろう。


 ダニエルは爽やかと言えなくもない笑顔で、クララに手を差し出す。


「今日はダンスだ」

「もうちょい難易度下げなよ」

「なにおうっ。床一面に描かれた魔法陣が見えぬか」


 クララが床を見ると、何やらドス黒い色の魔法陣が見える。イヤな予感がして恐る恐る聞く。


「ねえ、もしかしてこの魔法陣って、血で描いてないよね?」


「ほう、よく分かったな。屠殺場で牛と豚の血液を買ってきたのだ」


「あ、なんだ。あなたの血かと思ってビックリしたじゃない」


「ほう、よく分かったな。私の血も少し混じっている。その方が効果が高いからな」


「バカー!」


「何を怒っている? たいした量ではない。本来なら全て自分の血で描きたいところだが、さすがにそれは体に悪いからな」


「バカバカ変態!」


「まあ、私はバカではないが、変態ではあるな。さあ、お手をどうぞ、お嬢さん」


 クララがダニエルに体を預けると、ダニエルの全身が震える。ダニエルは、パッと体を離すと部屋を出ていった。


 しばらくすると、ダニエルが髪をずぶ濡れにして戻ってきた。


「ど、どうしたの?」


「もう少しで君を抱きしめそうになったから、頭を濡らしてきた。危ないところだった」


「バカ……」


「今日はバカと呼ばれる日なのか? どうした?」


「バーカ、風邪ひいたらどうすんのよ。早く、タオル貸しなさいよ。拭いたげるから、そこ座って。タオル越しなら大丈夫でしょ」


 クララはダニエルの頭をゴシゴシ拭いた。クララは自分がどうして怒ってるのか分からなかった。



***



「お前、お前いったい何者なんだよ。もはや魔王に匹敵する破壊力ではないか」

「おい変態、お前には失望した。これぐらいで弱音をはくなんて」

「クッ、まだまだー」


 クララとダニエルはスライムと戦っている。


 冒険者ギルドに依頼して大量にスライムを確保してもらった。その間にダニエルは様々な魔法陣を描いた魔紙を用意した。


 スライムを一匹ずつクララから遠く離れたところに落とす。スライムがクララに引き寄せられる前に、魔紙でスライムを誘導する実験だ。


 残念ながらどの魔法陣も効果がない。スライムが飛んでくる度に、クララは手袋をした拳で叩き潰している。今日は執務室ではなく、殺風景な実験室で研究中だ。正しい判断だった。部屋はスライムの残骸でデロデロだ。



 全ての魔紙が役に立たないことが分かり、ダニエルは床に座りこむ。


「魔法陣で制御できない魅了の持ち主で嬉しいんじゃなかったの?」


 クララがツンツンした口調で言う。


「ダメだって分かることが大事。また改善すればいいだけだって言ってたじゃないの」


 ダニエルはクララのお腹あたりに視線をむけて、弱々しく笑った。


「その通りだ、ありがとう。失敗しても成功するまで続ければいいだけ、そうだったな」


 クララは少しためらったあと、手袋をはめた手をダニエルの肩にのせる。ダニエルはクララの手を凝視すると、そっとその上に手を重ねた。手袋越しに手を握る。


「ありがとう、クララ」


「こっちこそよ、ダニエル」




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― 新着の感想 ―
[一言] クララもだいぶ楽しくなってきてますね(笑)
[良い点] 二人のワチャワチャがとても楽しいです^ - ^ [気になる点] ダニエルが「才媛」と自分のことを言っていますが、辞書で確認したところ「才媛」とは才能ある女性のことです。本文の流れより「天…
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