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第60話 特技

 その日の夜、ホレイシアは娯楽室の中でムーンとフブキに一枚の紙を見せた。


「これ見て。今日のクエストでこれだけ儲けたの。アストラルがすごく頼りになった!」

「そうか。それはスゴイな!」とムーンが近くのアストラルに視線を向ける。一方で急に褒められたアストラルは照れた顔になった。

「霊視能力と遺失物捜索クエストの相性が良かっただけです。これくらいのこと、ハーデス族なら誰でもできます」と謙遜するアストラル。そんな彼女にホレイシアが笑顔を向けた。

「そうそう。アストラルが仲間になってくれなかったら、今日中に見つけられなかったかも」


「ところで、同盟の話はどうなりましたか?」とフブキが尋ねる隣でムーンが首を傾げる。

「同盟ってなんだ?」と疑問に答えるよりも先に、ホレイシアは首を横に振った。

「信用されてないみたいで、断わられたよ。同じクエストに挑戦する仲間同士、一緒にやりたかったんだけどね」

 ホレイシアがため息を吐き出す。

「最初は仕方ありません。実績を積めば、同盟を結ぶこともできるでしょう」

「おう、そうだな。いろんなヤツと一緒にクエストやりたいもんな!」ムーンが腕を組む。


「ところで、何というギルドと同盟を組もうと提案したのですか?」とフブキが尋ねると、ホレイシアは申し訳なさそうに両手を合わせた。

「ごめん、フブキ。名前までは聞けなかったの。ただ、ギルドマスターの男の人を、マックスって呼んでた」

「なるほど」とフブキが口んすると、アストラルが右手を挙げた。

「あの……似顔絵なら描けそうです。紙やペンはありますか?」

「だったら、これ使って!」

 ホレイシアが右手の薬指で二回空気を叩き、白い紙をペンを机の上に召喚した。アストラルが頭を下げながらそれを手に取る。


「では、お借りします」と断りを入れ、ペンで紙に地下道で出会った四人の男女の顔を描く。その様子を覗き込んだムーンが驚きの声を出した。

「アストラル、スゲーな」

「絵を描くの、得意なんだね!」とホレイシアも関心を示す。

「昔、体を貸した子から教わりました」


 そのアストラルの答えにムーンが首を傾げる。


「それって、どういうことだ?」

「マスター。ハーデス族はタダで現世に留まっている霊に体を貸し出しているわけではないのですよ。報酬として、その霊が身に着けていた技を一つだけ受け取ります。武術や特技、知識などを霊から吸収する種族。それがハーデス族です」


 フブキの解説にアストラルが頷きながら、ペンを進める。


「たまにハズレスキルを引くこともあるけれど、この体に憑依したら、霊は自分の未練を果たすことができますし、私は霊からスキルを引き継ぐことができます。つまり、どちらも得をするんですよ。因みに、この前憑依したミカからは、正しい発声方法を学びました」という間に、アストラルはペンを止めた。その紙には、写真のように繊細な四人の男女の顔が描かれていた。

「スゴイ。私が声かけたの、こんな人たちだったよ!」とホレイシアが目を輝かせる。

「これだけの情報があれば、相手のギルドの身元はすぐに分かるでしょう。それでは、ホレイシアに最後の質問です。同盟を断られたというこのギルドにどんな印象を受けましたか?」


 フブキからの質問に、ホレイシアは「うーん」と唸った。


「特に悪い印象なかったよ。この女の人と小太りの人は、私たちとの同盟に賛成してたけど、このメガネの人は冷静な態度で反対してた。ギルドマスターのマックスって人は、メンバーの意見に耳を傾けながら、私たちと同盟関係を結ばないって結論を出してた」

 ホレイシアが似顔絵を指さしながら説明する。

「……なるほど。そうでしたか」

「それと、賛成派のふたりは、私たちを尾行していました。その際、ヴォイドウィスプに襲われていた彼らを、私が救出しました」というアストラルの補足説明を聞いたムーンが明るい表情になった。

「マジかよ。アストラル、お前、イイヤツだな!」

「別に私は私にしか救えない人たちを救っただけです。このふたりを上手く取り込むことができれば、このギルドと同盟関係を結ぶことは容易でしょう」


 ホレイシアたちの話を聞いたフブキが頬を緩める。表情の変化が気になったムーンが目を丸くする。

「おい、フブキ、なんか嬉しそうだな!」

「マスター、なんでもありません。それにしても、アストラルは良い仕事をしたようですね。ヴォイドウィスプの襲撃は想定外でしたが、これでこちらの強みがアピールできました。それでは、仕上げです」

「仕上げって何だ?」

 

「来週のマルディア、クエスト受付センター広報誌で私たちのギルドが紹介されます。残念ながら、アストラルの紹介はされませんが、これでギルドの知名度が上がり、同盟も結びやすくなります。先週、完全週休2日製の件を公表してから、ウチのギルドの加入したいという問い合わせは増えていますが、それでも知名度は低いです」


「まだ活動初めて一か月も経ってないもんね。知らなくて当たり前だよ」とホレイシアがフブキの話に同意を示す。一方でムーンはフブキの真意を理解できなかった。


「おい、フブキ。お前、何しようとしてるんだ?」

 

「それでは、ご説明いたしましょう。まあ、私自身は特に何もしていませんが……サンヒートジェルマン第一地区での遺失物捜索クエストが多いと知った私は、他のギルドと同盟を結ぶチャンスだと思いました。そんなとき、私たちのギルドに指名クエストが入ります。他のギルドのメンバーたちと鉢合わせる可能性も考慮し、ホレイシアに積極的に同盟を結ばないかと誘うよう提案したのです」


「ああ、今朝、ホレイシアとそんな話してたんだな」とムーンが納得の表情で腕を組む。


「最初は断られて当たり前ですが、ハーデス族の子が所属するギルドが、サンヒートジェルマンに存在しているという印象を与えることはできます。あの場に私やマスターがいた方が効率的な印象を与えやすそうですが、お仕事なら仕方ありません。とにかく、今後、私たちのギルドは世間一般的に知られることでしょう。最も、これは私の目的を達成させるための手段ですが……」


「目的って?」ホレイシアが尋ねるとフブキは首を縦に動かした。


「他のギルドとの交友を深め、クエスト攻略に必要な情報を手に入れることです。私たちはまだ新人ギルド。知らないことの方が多いです」

「難しいことは分からないけど、フブキは友達がほしいってことだけは分かったぞ!」

 そんなギルドマスターの言葉を耳にしたアストラルがため息を吐き出す。

「どこをどう解釈したら、そんな解釈になるんですか?」と呆れるハーデス族の少女の近くで、ホレイシアが両手を左右に振った。

「まあまあ。ムーンがフブキの話を理解できないのは、いつものことだから」とホレイシアがフォローする。

「なるほど」とアストラルはジッとムーンの顔を見た。

「アストラル、お前、俺のことバカなヤツだって思っただろ? まあ、実際、そうなんだけどな!」

 ムーンが胸を張り、笑い飛ばす。

「ムーン、そこ自慢するとこじゃないから!」ホレイシアが苦笑いを浮かべる。


「でもな。他のギルドと一緒にいろんなクエストできたら、絶対楽しいぞ! 俺、フブキがそんなことを考えてたって知って、すごく嬉しいんだ」ムーンがフブキに笑顔を向けた。その明るい表情からフブキが目を反らす。

「別に……私は……」

「フブキ、お前、素直じゃねーな」


「とにかく、この話はこれでおしまいです。今からクエスト会議を行います」

 ムーンは思わず目を丸くした。

「おい、今から会議かよ!」

「はい。今晩はクエスト会議だと今朝、話したはずです」

「ああ、分かった。さっさと始めようぜ」とムーンが頭を掻く。そうして、セレーネ・ステップのメンバーたちは、来週行うクエストについて話し合った。

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