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第47話 勧誘

「ウソ。もう終わっちゃった?」

 岩場の上でホレイシアは目をパチクリと動かした。そんな彼女の右隣に、フブキが体を飛ばす。

「そのようですね。あのレッドグリフォンの命はもうすぐ尽きるでしょう。それにしても、私とホレイシアのサポートがあったとはいえ、一撃であのレッドグリフォンを討伐できるとは、流石としか言えません。もしかしたら、マスターがいなくても結果は同じだったかもしれませんね」

「おい、フブキ。どういう意味だよ!」

 目を怒らせたムーンがフブキの元へ歩み寄る。

「深い意味はありません」

「そっか。まあ、いいや。それでこれからどうするんだっけ?」

 首を捻る獣人の少年の前で、フブキが頷く。

「そうですね。ここは二手に分かれましょう。私とホレイシアは瞬間移動で村に戻り、レッドグリフォンを討伐したと報告してきます。その間、マスターとアストラルはここに残ってください。もしかしたら、息を吹き返して襲ってくる可能性もありますから、見張りをお願いします。大体、三分くらい待てば、呼吸が停止し、その心配もなくなります」

「えっ」とフブキの隣で話を聞いていたホレイシアが声を漏らす。

「ちょっと、待って。アストラルとムーンをふたりきりにするの? フブキ、私とじゃなくて、アストラルと一緒に報告に行くって選択肢ないの?」

 慌てるホレイシアの近くでムーンが首を縦に動かす。

「そうだな。フブキ、三分くらいならみんなで待ってもいいんじゃないか?」

「一刻も早く報告して、安心させた方がいいと思いますし、これはギルドのお仕事体験ではありません。依頼人への報告にアストラルを同行させるわけにはいきません。三分後、依頼人を連れて戻ってきます」


 そんな正論を耳にしたムーンが白い歯を見せ笑う。

「フブキ。お前、優しいんだな。よし、分かった。じゃあ、俺はアストラルとここで待ってるぜ」

 ムーンが納得の表情を浮かべた後で、ホレイシアが目を伏せる。

「まあ、ムーンがいいならそれでいいけど、気を付けてね」

「気を付けてって……何をだ?」

 とぼけるムーンの前で、フブキはホレイシアと手を繋ぎ、共に岩場から姿を消した。



 一瞬で村役場へと戻り、奥にある村長室の扉を叩く。それからフブキとホレイシアは一列に並び、部屋の中へと足を踏み入れた。


「失礼します」と声をかけ、村長の机の前で整列したフブキが書類を記している村長に視線を向ける。


「レッドグリフォンの討伐を完了しました。ご確認をお願いします」

 その報告を受けた村長が驚き、勢いよく椅子から立ち上がる。

「あれから一分も経過していないのに、ホントに討伐したのですか?」

「はい。瞬殺です。数年以内にこの村は、別のレッドグリフォンの縄張りになる可能性がありますが、最低でも一年間は安心して大丈夫だと思います」

「そうですか」と村長が胸を撫でおろすと、フブキが一歩を踏み出した。

「そこで一つ提案があります。レッドグリフォンの遺体から採取できる素材の所有権は村のものです。この村のためにお使いください」

「つまり、素材を売り、手に入った大金を使って、あの場所をレッドグリフォンの襲撃を受けない安全な地にしろと?」

「はい。その通りです」とフブキが頷く。

 その右隣に並んだホレイシアが彼女に優しい眼差しを向ける。

「依頼されたことだけじゃなくて、村の問題も解決しようとするなんて。フブキって優しいんだね!」

「そんなことはありません」

 表情を消したフブキが隣から感じ取ったホレイシアの視線から目を反らす。


「……そんなことより、早く連れてきてください。村の治安を守る自警団いますよね? ここに連れてくれば、この手で彼らをレッドグリフォンの遺体の前まで飛ばします」

「あっ、ああ」と首を縦に動かした村長が机の上に置かれた石板に手を触れた。



 一方、その頃、レッドグリフォンの遺体が転がる岩場の上に、獣人の少年が腰を落とした。

 血を流し動こうとしない怪物を岩の上から眺めていたムーンが、近くで佇むアストラルに視線を向ける。



「アストラル。お前、強いんだな! 俺と同じくらい強いんじゃねぇか?」

「そんなことありません」と謙遜するハーデス族の少女がムーンの右隣に座る。

「いや、強いと思うぞ。槍を一振りするだけでレッドグリフォン倒してたもんなぁ。まあ、俺も一太刀入れたから、俺と一緒に倒したようなもんか」

 ムーンが納得したように腕を組む。

「正確に言えば、フブキがレッドグリフォンの動きを止めなかったら、今も戦いは続いていたと思います。レッドグリフォンは、とても動きが速く、剣の達人でも一太刀入れるのが困難と言われています。それはそうと、フブキはスゴイ錬金術師ですね。あの一瞬でゴーレムの手を生成し、レッドグリフォンの体鷲掴みにするとは、なかなかの強者です」

「そうだろ? フブキはすげぇヤツだ。剣も俺より強いんだ!」

 ムーンが嬉しそうに鼻を掻きながら、胸を張る。その隣で、アストラルは首を縦に振った。

「そうでしょうね。お父さんと剣を交えたことがあるんなら、強くて当たり前です」


 それから、獣人の少年は何かを思い出したように両手を叩く。

「あっ、そういえば、ふたりだけで話がしたいって言ってたよな? その話、聞いていいか?」

「はい。早速ですが、私と一緒に夢を叶えてもらえませんか?」

 突然のことにムーンが目を丸くする。

「えっと、アストラルの夢ってなんだっけ?」


「私の夢は、天から授かりしこの能力を使い、私にしか救えない多くの人たちを救うことです。この世界に彷徨う多くの霊の未練を果たす。そんなことをしながら、冒険者の仕事でお金を稼ぎながら生きていく。それが私のお父さんに邪魔された夢だったんです。あの広場であなたに会った時、あなたとなら私の夢も叶えられるのではないかと思いました」


「それってどういう意味だ?」とムーンが隣の少女に問いかけると、アストラルが優しく微笑む。

「あの広場でムーンは霊をこの身に宿した私に優しい声をかけてくれました。その純粋な声があれば、多くの霊を救うことができます。だから、私と一緒に……」


「うん。分かった。じゃあ、アストラルは今日から俺たちの仲間だな!」

 言葉を遮ったムーンの声を耳にしたアストラルは「えっ」と声を漏らした。

「フブキとホレイシアが戻ってきたら、仲間にしていいかって頼んでやるぜ。よし。面白くなってきた。アストラルがいたら、死んでるヤツも助けられるんだ。それって、絶対面白いと思うぞ!」

 一人盛り上がるムーンの隣で、アストラルが慌てて両手を左右に振った。

「いや、私は仲間にしてほしいなんて、一言も……」と口にしたその時、ふたりの前に若い男性の姿が浮かび上がった。茶色いローブで身を纏う若者は、次々と姿を現す。

 突然の出来事に、アストラルは歯を噛み締めながら、右手の薬指を立てる。


「なんだ。お前ら?」と尋ねたムーンが座り込んでいた岩から立ち上がる。丁度その時、彼の前にフブキとホレイシアが姿を見せた。

「マスター。安心してください。彼らはテツノオ村の自警団の皆さんです。レッドグリフォンの遺体を回収に来たのです。この手で直接、彼らをここまで飛ばしてみました」

「なんだぁ。いきなり現れたからビックリしたぞ」とムーンが緊張した肩を落とす。

「ムーン。これでクエスト達成だから、サンヒートジェルマンに戻るよ」

 フブキの右隣に並んだホレイシアがムーンに右手を差し出す。

「おお、そうだった。アストラルが俺たちの仲間になりたいってさ」

 思い出したように両手を叩いた獣人の少年の前で、ホレイシアが首を捻る。


「えっ、ホントにアストラルが仲間になりたいって言ったの?」

「だから、私は……」と慌てるアストラルの顔をホレイシアの隣で見ていたフブキの頬が緩む。

「成功のようですね」

 そう呟いたフブキの顔を見つめたムーンが疑問を口にする。

「おい、フブキ。どういうことだ? ちゃんと説明しろよ」

「続きはギルドハウスの応接室でお話しします」と微笑んだフブキがムーンの右肩に自身の右手を触れさせる。その瞬間、ギルドマスターの少年は、一瞬で姿を消した。






 

 

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