表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪ん子の想い出  作者: 青山獣炭
3/4

Part3

 翌日。わたしは飛行機の中にいた。

 満席になっている機内。日本人がほとんだ。おそらく旧正月の休暇を利用して、里帰りするビジネスマンたちなのだろう。わたしもそうだけど。

 眠っている人も多く、エンジン音が際立って耳に届いている。


 キャンセル待ちをして、チケットが取れたのは幸運だった。それはわたしに、今回の旅行がまるで運命でもあるかのような、そんな印象を与えていた。


 わたしは目を閉じて、うとうとしながら職場の人間関係のことを考えていた。それは雪ん子の想い出とは関係ない、もうひとつの悩みだった。ずいぶんと長い間、抱えている深刻な悩み。


 自分の仕事は、上司から依頼された書類を、英語にしたり日本語にしたりすることだった。基本的には、ひとりでする仕事なので、職場の人たちと世間話をすることもない。この職場に勤めて八年。引っ込み思案のわたしには、まだ仲のいい同僚といえる人はいなかった。先輩も後輩も、いまだ赤の他人だ。


 こんなときこそ、日本にいる親友にでも相談できればいいんだけれど。残念ながら親友と呼べる人も、わたしにはもういなかった。学生時代の友だちは、異国で暮らすうちにいつしか連絡が途絶えてしまっていた。会う機会が減ると、人はだんだんと疎遠になるものだ。


 恋人も──かつてはいた。小学校の頃からのお付き合いだった。せまい校庭や公園で日が暮れるまで、ふたりっきりでよく遊んだ。


 大きくなってからは、映画やレストランやテーマパークにも行ったけど、わたしたちは古本屋巡りのデートが一番好きだった。ふつうの本屋さんではもう見かけない本たちが、ところ狭しと並んでいる書店の中を、わたしたちは飽くことなく立ち読みしつづけた。時には少ないお小遣いを出し合って、一冊の本を買ったこともある。


 そんな彼は商社に就職し、ヨーロッパ方面の駐在が長くなったと思うと、突然外国の人と結婚してしまった。三年前のことだった。


 ┄┄成田に着いた後、わたしは上野駅で新幹線に乗り換え、昨晩スマホで調べておいた新潟の温泉地に直行した。ホテルの予約も済ましてある。


 自分の実家は東京の外れにあるけれど、そこには行かないつもりだった。もうその家には、誰も住んでいなかったから。わたしは去年の春、父さんと母さんを流行り病によって相次いで亡くしていたのだ。


 わたしはひとりっ子だった。さらに親戚とのお付き合いもあまりなくて、今や天涯孤独に近い身なのかもしれなかった。


 去年いくつかの法事で、しぶしぶ何度か実家に足を運んだけど、できるだけあの家を訪れることは避けたかった。両親の生活していた雰囲気が、まだ生々しく残るあの家に入り、戻ることのない時間を感じることは、したくなかった。


 新幹線に揺られながら、実家のことを考えていたわたしは、ふとある事に気づいた。雪ん子の想い出が浮かぶようになったのは、両親を亡くした直後からだったような┄┄。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ