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80.いってらっしゃいといってきます

 あれから一週間が経った。

 俺の右腕と引き換えに、一件落着となった騒動だが冒険者ギルドの方はそうもいかなかったらしい……。

 シルヴァ、ギネカと引き続きに穴が空いたというのに今度はオメガニアの脱落である。クラノス曰くフィリアさんが随分と愚痴っていたらしいけれど……。まぁ、親父の穴はミアが埋めることになった。


 俺は寝癖でボサボサの髪を整えつつ欠伸を堪えた。

 未だに右腕がないのには慣れないが……。まぁそのウチ慣れることを祈ろう。なんて呑気に考えつつ、扉を押し開けて本邸の赤い絨毯の上を歩く。

 目指すは食堂。

 朝食を食べに行くのだ。


 あれから、俺の体内に封印したはずの親父はうんともすんとも反応はない。喋ることができないほどに弱っているのか……ただ黙っているだけなのか。どちらかは分からないけれど、気にするつもりはない。


 食堂に入って、俺はみんなに挨拶する。


「おはよう、みんな」

「おう、ちょいと寝過ぎじゃねぇか? リグの奴はもう出て行っちまったぞ?」

「あの人……本当せっかちですよね……」


 食卓に並ぶのはクラノスにサクラ、そしてクシフォス。クシフォスは俺に会釈をして、朝食の到着を今か今かと待ちわびているようだった。クシフォスらしいや。


「まぁ、オレたちものんびりしていると遅刻しちまうわけだが」

「今日のSランク定例会議の題目は何でしたっけ?」

「……新しいSランクの、紹介?」


 こてりと首を傾げるクシフォス。

 エプロンを首にかけている辺り、相当に朝食が待ちきれないらしかった。

 ふと、奥のキッチンの扉が開いて香ばしい香りが漂ってきた。

 

「その通り。そして待たせたな。朝食を持ってきたぞ」


 奥から姿を見せるのはミア。(驚くべきことに)彼女は料理を嗜んでいたらしく、随分とハイクオリティな手料理をこの一週間で披露してくれた。

 本日の朝食メニューはスクランブルエッグにハム、トースト。それにサラダとスープ……あとデザート。多いな!?


「兄様、あーんしましょうか。あーん」

「い、いや必要ないけど……」

「そうですか、食べにくくありませんか? いつでも言ってくださいね?」

「いーっつも思ってたんだけどさ。今までのツンケンした態度はどうしたの、お前」

「……黙れ、脳筋。兄様は私の兄様だ。その関係性について“部外者”からとやかく言われる筋合いはない。兄様の友人だというから、それなりに持てなしているが……あまり口五月蠅いと料理も取り上げるぞ?」

「はァ! オレたちもテメェの命の恩人っつーこと忘れてねぇだろうな!」


 そう。

 あの一件以来、ミアは俺への態度を一変。クラノスが指摘する通り、今ではかなりデレている。

 今まで兄弟仲良く、なんていうのは親父の目もあって難しい話だった。その反動……なのだろうか?


「クラノス悪いな……妹が。多目に見てやってくれ」

「まぁ、キリアがそういうならしゃーねーが」

「あと、ミア。左腕に引っ付かれると……その食べにくいから離れて欲しいんだけど?」

「やはり、あーんがいいと!」

「いや、そうじゃなくて……」


 より少なくなった可動域でちびちびと朝食を食べつつ、ニコニコと俺を見上げるミアを見る。まぁ……楽しそうでよかったよ。うん、本当に。


「さてと、ごちそーさん。オレたちは先に馬車で待ってるぜ?」

「はい。お先に失礼しますね。ミアさん。美味しい朝食ありがとうございました!」

「ああ。兄様と一緒ならば、またもてなしてやろう」

「ブラコンめ……」

「何か?」

「いいや、なんでも」


 バチバチと見えない火花がクラノスとミアの間で迸っているような気がした。

 そんな空気を取り払うように、二人の間をマイペースなクシフォスがトコトコと歩いて行く。


「美味しかった。またね」

「……ああ、また」


 流石のミアもクシフォスには少し柔らかくなるらしい。

 そんなやり取りを微笑ましく眺めて、俺も先に出て行ったクラノスたちの後を追う。


「――兄様っ」

「ん?」


 呼び止められて、俺は振り返った。

 銀の髪を弄りつつ、俯いたミアは少し唸って口を開いた。


「その、改めて兄様には謝りたいと思ってました。色々なことを、私が兄様をもっと信頼して、全てを話していれば――兄様は腕を失わずに済んだかもしれません。それに、家を追放されることだって……」

「いいや、違うよミア」

「……?」


 ミアの言葉を俺は明確に否定した。


「確かに相談はして欲しかったけどさ、でも俺とミアだけじゃ多分……親父には勝てなかった。それこそ、俺かミアのどちらかが命を落とさない限りはな」

「……」

「この結末は、俺が追放されたことも含めての結末だからさ。だから、ミアが気にすることじゃないさ」

「兄様、そう言って頂けて私は幸せです」

「じゃあ、俺もそろそろ行ってくるよ」

「はい。その、えーっと――いってらっしゃい。いつでも帰って来てくださいね」

「ああ、いってきます」


 何気ない“いってらっしゃい”と“いってきます”がとても貴いものに思えたし、実際そうだった。


 ◆


「さて、本日の定例会議に入る前に……一つご報告を。Sランクの皆々様に新しくSランクへ認定された冒険者を紹介したいと考えておりますわ」

「オメガニア――改め、ミア・フォン・アルファルドだ。正式にSランク冒険者に選出された、よろしく頼む」

「そして、もう一方いますわ☆ さぁ、中に入ってきてくださいまし」


 フィリアさんに呼ばれた俺は扉を押して、中へと入っていった。

 クラノス、リグ、ミア、ロウェン、それに見知らぬSランクの冒険者が数人。緊張はしてるけど、俺は自分の席と思わしき場所へ腰を降ろした。


「キリア・フォン・アルファルド様ですわ☆ ミア様と合わせて、この異名が与えられました――無限の魔法使い、と」




最強の魔法一族を勘当された落ちこぼれ、ループコンボで最強に。威力は低いがダメージが1でも入れば余裕で削り切ります。コンボ中に謝っても『もう遅い』【無限の魔術師】<了>

これにて、当作品は完結となります!

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです!


また、楽しんでいただけたのでしたらぜひ評価や感想などを頂けると泣いて喜び次回作の励みになります!

それではまたどこかでお会いしましょう!

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