77.決戦前
「まず今回も勝負を決めるのはクシフォスだ。まず、親父――オメガニアとミアの接続を断つ」
「その方法は? 雷龍の時と違ってオメガニアはミアの身体を乗っ取ってるんだろう?」
「リグの言う通りだ。だが、まだ完全に同化しきっているとも考えにくい。そこで、母さんが託してくれた光魔法でオメガニアを剥がす」
「つまり……キリアさんがオメガニアさんに一撃をぶつけた後、クシフォスちゃんの攻撃で二人を切り離す……っていうことですね?」
「そういうことになるな」
サクラの確認に俺は首を縦に振った。言葉にすると簡単だが、実際は相当に困難なものだろう。そもそも、この理論が正しいとは限らないのが難しいところだ。
「そこで、今回もクラノスとリグの二人にはオメガニアの気を逸らしたり、隙を作るために攻撃をして欲しい」
「とは言ってもよ、アイツの操る闇は触れるだけでアウトだ。こっちの攻撃も全部闇に飲まれちまう」
「ああ。だから俺がサポートする」
伊達に俺は全ての魔法に適正を持っているわけじゃない。光魔法さえ使えれば――如何様にでも親父の対策を立てることはできた。
「エンチャント魔法と組み合わせて、全員に光の魔法を配ってみる。そうすれば、親父の闇にも対抗できるはずだ」
「……お前、魔力は人並みだろう。自分を含めて五人の面倒を見ることができるのか?」
「結構キツいけど……無理をする。それくらいは俺もやらなくちゃな」
正直、かなりキツい。
エンチャント魔法は言わば、他人に魔力を渡すようなものなのだ。キツいというか、下手をすると死にかねないが……それに関してもちょっとしたアテがあった。
「本邸の方に、色々な触媒が置いてあったから……即興で魔力タンクを作ることができるかもしれない」
「あーあれか」
普通じゃお目にかかれないような高級品たちが目白押しだったので、いくらでもウィッチクラフトだの、黒魔術だの、錬金術だので魔導具くらいは見繕える。なら、まぁ……死ぬことはないし、戦うこともできるだろう。
そう判断する。
「それで、二人には隙を作って貰う。そこから俺がどうにかしてオメガニアに光魔法をぶつけて……トドメをクシフォスが刺す。サクラには雷龍の時と同じように、俺とクシフォスを守って欲しい。……どうかな?」
そこまで説明して俺はみんなの方に視線を向けた。
全員こくりと首を縦に振って俺の作戦を承諾してくれた。
「じゃ、決まりだな! まずは本邸で準備か?」
「ああ、そうしよう」
そうして、俺たちは本邸へと移動した。
◆
本邸に置かれていた素材や触媒たちは本当に素晴らしいものだった。何もかもが普通に買えば一軒家くらい建ちそうなもので……オメガニアという一族の権力を象徴しているようだった。
俺はそんな素材や触媒たちを贅沢に消費していく。
後でミアにこっぴどく怒られるかもしれない……でも、それなら幸せだ。今を超えるためだけに、俺は全力を出したい。
錬金術で錬成したり、ウィッチクラフトで加工したり、黒魔術で変成したり。色々な形で、様々な魔力タンクや小道具を生みだしていった。
「器用なもんだな?」
ふと、顔を覗かせたクラノスが感心したようにそう言った。
「他のみんなは?」
「リグは周囲を警戒、クシフォスとサクラは斥候だってよ。ま、別に大丈夫だろ」
「ああ。そこは信頼してるよ」
「思えば、オレたちも遠くまで来たもんだよな?」
「ああ。まさか――全員で家に来ることになるとは思わなかったよ」
長い金色の髪を掻き上げて、クラノスは懐かしむように語った。
荒々しい彼女にしては珍しく、シミジミと落ち着いた様子なのが印象的で、どこか優しげだった。
「オレはキリアに盾を捧げたがよ。だが、対等な立場から言うぜ。アンタ、ここで死ぬつもりじゃねぇか?」
「……?」
「いや、気にしないでくれ。どことなく、昔のオレみたいに見えただけだ」
クラノスは静かに笑って俺の肩を叩いた。
ここで死ぬつもりか……。どうだろう、そんなつもりは毛頭ないけど、ただ他の誰かの命を使ってしまうくらいなら――多分俺は自分の命を捨てる。
それは誰に何を言われても、変えることのできない結論だ。
「キリアは昔のオレほどバカじゃねぇだろうしな。さてと、んじゃ。そろそろいこーぜ」
地面に魔方陣を描くクラノス。
彼女が指を鳴らせば、魔方陣が赤く輝いていつもの鎧が出現した。それを身に纏ったクラノス。ガチャンと重い鎧の音を響かせてみせる。
「ああ、そうだな。バカ親父を止めよう」
「ったりめぇよ」
全ての準備を整えて、向かうのは親父の居場所。
多分、俺の最後の戦いが幕を開ける。