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75.再起

 ひとまず、俺は敷地の外を目指して歩いていた。

 クラノスやミアを見捨てるようで気分は悪かったけれど――ここで無駄死にする方が二人の思いを犠牲にしてしまうと思ったから離れた。


 それでも諦めの悪い俺は親父を倒すことばかり考えていた。

 でも、どんな手段を見繕っても親父に勝てる戦略がこれっぽっちも出てこない。

 クラノスの評価も間違いではないのだ。あれは無理。クラノスがそう判断した相手を、俺が一人でどうにかできるわけがない。


「……」


 初めての敗北だった。

 いいや、今までがトントン拍子に進みすぎていたのかもしれない。ディダルとの戦いに勝ったことから始まって――俺は敗北というものを知らなかった。

 クラノス、ソウジ、ワイルドハント、リグ、雷龍に――そしてギネカ。数多の猛者と戦って俺が勝ってきたこと自体が幸運だったのだ。

 その幸運も今尽きてしまっただけのこと。


 所詮、俺は家を追放された落ちこぼれ。それにしてはよくやった方だろう?


 親父だって、俺みたいなのをわざわざ見つけ出して殺そうとはしないだろう。新しいオメガニアとして、次世代の育成を始めるに決まっている。

 なら、このまま……。


 歩いて、歩いて、歩いたところでオメガニアの敷地と外とを隔てる門の前へとやって来た。ここを越えれば、俺の命は助かる。

 でもそれは二人を完全に見捨てることを意味していた。


「……」


 鉄の門に手を伸ばすけど、その手が止まってしまう。


 その選択すら、俺には選びがたいものだった。でも俺じゃ勝てないわけで。

 そんな思考がぐるぐると、俺の脳内を駆け巡る。堂々巡りで時間だけがただ過ぎて行った。


「……あっ」


 ふと、門を隔ててそんな声が聞こえてきた。

 視線を上げれば、そこにいたのはサクラ。


「サ、サクラ……? どうしてここに」

「僕とチビもいるがな?」


 横へ視線を向ければ、太々しい態度のリグとサクラの裾を引っ張るクシフォスの姿が。

 俺を追ってここまで来てくれたんだろうか。


「その、あの時はごめんなさい……。メ……キリアさんが貴族だった驚きとショックで気が動転していたようです」

「い、いや……それは俺が悪いんだ。気にしないでくれ」


 頭を下げるサクラに続いて俺も頭を下げた。


「服が汚れているが――何かあったのか? クラノスの奴はどうした?」

「……」

「ミアと喧嘩でもしているのか?」


 俺は全てを包み隠さず話した。

 オメガニアという一族の正体。ミアがしようとしていたこと、そして俺がそれを防いでしまったがために、ミアとクラノスの二人が犠牲になってしまったこと。そして、俺が逃げてきたことも含めて。


「……そんなことが」

「おい、クラノスは確かに無理だ、って言ったのか?」

「ああ。死ぬ気でやっても無理だって……クラノスは言っていたな」

「アイツがそこまで断言するのも珍しいな。だとすれば、雷龍よりも上っていうことか? 確かにそれなら“キツい”が」


 リグは腕を組んで、瞼を閉じた。

 数秒の沈黙の後、俺へと視線をやってリグは肩を竦める。


「それで、お前とお前の家族の問題だろう。そもそもこのパーティーのリーダーはお前だしな。どうするかはお前が決めろ。このまま逃げるのか――戦うのかをな」

「……」


 これはリグとしては俺が戦うといえば手を貸すという宣言だけど。

 それでも俺は戦うという選択を選べなかった。俺たち四人で戦ったとしても、勝率は多分……ゼロだ。

 親父の操る漆黒、あれがあまりにも反則だ。多分、あれは何もかもを奪い取っていく……闇のような魔法。恐らく、親父が言っていた“土俵”云々もそういうことなのだろう。


 あの魔法に対する対抗手段を持ち合わせていなければ勝負にすらならない。そういう意味だと思われる。

 だとすれば、辛うじてギネカが太刀打ちできるというのは……あれに抗う手段を何らかの形で持っていたからなのだろう。

 ただ、俺たちにはその手段がない。


 ただ、俺たちが向かって行ったところで犬死にだ。俺の我が儘に三人を付き合わせるわけにもいかない。


「逃げよう。クラノスとミアが繋いでくれた命だ。無駄にはできない」


 そう言って、俺は門を押し開けた。

 後ろ髪を引かれつつ、俺は門をくぐり抜けようとするが。


「それで、いいの? メイムは」


 クシフォスがそう言った。

 俺は潜ろうとした動きを止めて――返事をしてはいけないと思いつつも、思うことを言ってしまった。


「いいわけが……ない」

「なら、どうして?」

「俺はミアを助けたいし、クラノスが生きているって信じたい。でも、ここで逃げなきゃ……全てが無意味になってしまうかもしれないんだ……!」


 俺は自分の気持ちを吐露してしまった。


「メイムは、私に、こう言ってくれた。自分の好きなように生きればいいって。メイムは、好きなように生きたら、ダメなの?」

「……!」


 一歩、踏み出して。敷地に足を踏み入れたクシフォス。俺の顔を見上げて。


「メイムの本当にやりたいこと、私もやりたいな?」


 ニコリと年相応の笑顔を見せた。


「……なるほど。状況は絶望的らしいですね。だったら、私だってもちろん!」

「サクラ……でも、俺はサクラに……」

「気にしてません。メイムさんでも、キリアさんでも。私を助けてくれた素敵な貴方には違いがありませんし! それに――こんな絶望的な状況を覆して勝ったら……どうしようもなくカッコイイ、そうでしょ?」


 俺は挟むように、サクラが敷地に足を踏み入れて俺の顔を覗き込んだ。


「おいおい、やめろ。そんなクソみたいなメロドラマを僕に期待しないでくれ……。だが、お前たち烏合じゃあ、なぁ?」


 呆れたようにため息を吐きつつ、リグも頭を掻きながら敷地内へと足を踏み入れる。


「これで満足か? 今さら辞めるとは言わせないぞ? そもそも。まだ諦めちゃいないんじゃなかったのか? この僕に説教したんだ。有言実行してくれないとな?」


 みんなの気持ちは嬉しかった。

 でも……まだ、俺たちは土俵に立てていない。今戦っても……無謀すぎる。だから、みんなの気持ちは嬉しいけれど。


「でも――」


 そう断りを入れようとした瞬間。

 俺たちの前に転移門が開いた。これは転移魔法……?

 中から姿を見せるのは……ボロボロのクラノス。


「クラノス!?」


 俺は驚いて思わず彼女に抱きついてしまった。

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