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67.成人の儀

「到着か」


 馬車から降りて、クラノスは伸びをした。目の前に広がるのは、懐かしの我が家。巨大な敷地を有する4大貴族の一角――オメガニアの豪邸。

 馬車が入ることができるのは入り口まで。俺たちはここから先大きな門を通って本邸を目指さなければならない。これがまた、遠いのなんの……。


「流石は4大貴族ってところだな。で、メイムが住んでたのはどこなんだ?」


 きょろきょろと視線を動かして、クラノスは周囲を見遣った。結局、クラノスには俺のことをメイムと呼んで貰うことにした。

 なんというか、まだキリアに戻る覚悟がなかったとも言える。俺自身、本心ではオメガニアの名を背負いたくなかったのかも。あるいは、まだ都合のいいメイムのままでいたかったのか。


 まぁどちらにせよ、クラノスには一応誠意として俺が追い出された経緯なんかも話した。俺の生活も。

 彼女は興味なさげにそれらを聞いて、欠伸を一つ噛みしめてこう言ってくれた。


「ま、オレはなんでも気にしねぇさ」


 その言葉にどれ程救われたか、今さら言葉にする必要もないだろう。


「俺がいた離れはもうちょっと先だな。本邸はもっと奥だけど……」

「ったく、こんな敷地何に使うんだよ」

「歴代の当主たちの魔法の修練や、実験に使っていたらしいが……本当に巨大だよな。保有する土地の面積だけなら4大貴族でも頭一つ抜けて多かった気がする」

「だろうな。確か、オメガニアと国の約束だったか?」

「ああ。元々オメガニアが納めていた土地をいくつか国に分けた……っていう話らしい。一体、俺やミアの先祖はこれ以上に広大な土地を納めて何をしていたんだか……」

「知らねぇのか? 自分の家のことを」


「ああ。ウチは秘匿主義でさ。疎まれてた俺はもちろん、ミアだってその全てを知ることは禁じられているんだ。確か、本邸の地下には当代当主しか見ることのできない禁書がまとめられているらしいけど……」

「へぇ?」


 どうして、俺たちの一族はここまで自分たちのことを秘匿するんだろうか。そんな疑問がずっと昔からあった。

 けれど、そんな疑問を持つことも親父に疎まれる理由になると思っていたから……口に出すことはできなかった。ミアもきっと同じ気持ちだったんだろう。


「成人の儀ってのも、よく分かんねぇもんだな」

「ああ、俺もそう思うよ」


 オメガニアが代々続けてきた不思議な風習の一つ。成人の儀。当代のオメガニアが、次世代のオメガニアにバトンを繋ぐ儀式。

 何故それをする必要があるのかは俺はわからない。成人の儀の子細については、秘匿主義のオメガニア一族の中でも、最重要の秘密の一つとして隠されてきた。


「成人の儀ってのは何をするんだ?」

「さぁ。俺も詳しくは知らないんだ。ただ一つ確かなのは……」

「確かなのは?」

「当代のオメガニアが次世代へそのバトンを渡す時、古いオメガニアは死ぬっていうことだけ」

「はぁ? 命を捧げて次の世代に還元してるってことか?」

「多分、そうだと思う。ただまだ“何か”が隠されている気がするんだ」

「何か?」

「うん、重大な真実が秘匿されてるような。そんな胸の突っかかりがある」

「なるほどなぁ。メイムがそう言うなら、そうなのかもな?」


 なんて会話をしていると、いつの間にか本邸までたどり着いていた。

 懐かしい扉を押し開けると――。


「ようやくの到着でぇすか。お久しぶりですねぇ?」

「ディダル・カリア!?」


 懐かしい風景の中に、やや懐かしい人間が混じっているその景色は……なんともまぁ奇妙なものだった。

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