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58/80

58.底へ堕ちる。

 凄まじい強風と、肌を焼くような静電気が頬を過ぎて行く。

 リグに思いっきり投げ飛ばされてしまった俺は、ただ運動エネルギーに身を任せて空を飛翔していた。目指すはもちろん雷龍オスビタリア。

 俺は空を飛ぶことができないので、まずあの龍の身体に着地したいのだが……。


「無理だな、これ」


 確実に、届かない。

 とはいえ、ここまで来れたなら問題はないはず。俺は足に魔力を込めた。己の足に刻まれた術式が励起する。今回は右足。

 風の力を利用した、緩やかな二段ジャンプ。空中でも好きな方向に移動できるのは、隙を殺すという観点において中々有用だった。


 さて、これでも随分と雷龍は遠い。

 だから俺は空を見上げて掌を下へと向ける。今度は腕に魔力を装填。腕から炎を噴射して、さらに加速。

 そのまま、雷龍の喉元へ到達。


 必要なのは最高のタイミング。雷龍が口から雷を迸らせたことを確認して、俺は手で印を結んでいった。雷轟と共に、閃光が目に焼き付く。

 俺に放たれた雷だが、俺は前方に転移魔法を展開。雷撃を吸収。転移させて龍へと逃がし、俺はこのタイミングを良しとして置換魔法を発動。

 クシフォスと俺の位置を置換。限りなく接近した俺の位置へクシフォスを届ける。そして、雷龍の攻撃時の隙を狙う。


「クシフォス、頼んだ!」


 地へと帰って来た俺は目一杯叫んだ。

 彼女に俺の声が届いているのかは分からないが……届いていると信じよう。


「万物破壊の理……」


 クシフォスの黒い一閃が雷龍の首へ炸裂。

 雷龍の首に亀裂が走る。それに合わせて、龍の身体に乗っていたサクラが追撃を咥えた。同じく、大ぶりな刀の振り抜き。

 それでもなお、雷龍の首は落ちない。後もう一押し。


「テメェの雷で吹っ飛びやがれ」


 その一押しをするため、クラノスが赤雷で自身をブーストして盾を振りかざす。その攻撃が後押しになり龍の首が完全に断たれた。


「よしっ!」


 地面へと堕ちる龍の首を眺めて、俺は拳を握り絞めた。

 いくら龍といっても、生きている。生きているのならば首を落とせば必ず死ぬ。簡単な原理だ。

 俺は地面に激突した龍の首を確認するために駆け寄る。


「バカ、まだ近づくな!」


 側にいたリグのそんな声が聞こえたかと思えば――。絶命した筈の骸が、大きな口を振り上げて。

 俺と、俺を庇おうとしたリグ共々丸呑みしてしまった。


 視界が黒に変わり。

 そのあまりの衝撃に、意識が遠のいていった。


 ◆


「メイムっ!」


 クラノスの叫び声が響く。

 自由落下していくサクラとクシフォスを両脇に抱えつつ、クラノスは着地。すぐに二人を助けるために地面を蹴るが……。


 それよりも速く。


 龍に身体が追いついた。


 切り落としたはずの首が接続し、龍は空を見上げ大咆哮。

 ビリビリとした圧を発するが……そんなことよりも、龍の身体に変化が生じていた。肉が龍の身体に纏わり付き、骨を覆っていく。


「……」


 ギリッ。

 クラノスは歯噛みした。この姿、見覚えがある。まさしく、あの時自分が戦った災害龍の姿ではないか。


「首、完全に破壊した筈なのに」

「あれは復活したわけじゃねぇ。骸を魔力っつー燃料で無理矢理動かしてんのさ。雷龍なのは見た目だけ……動かしている何かも、これを起こした奴も、雷龍とは何も関係がねぇのだろうよ」

「つまり、今のこの雷龍は操り人形だっていうことですか?」

「そういうこった。限りなく本物に近い……な」


 クラノスは焦っていた。

 目の前でメイムとリグが喰われてしまったのだ。焦らない方がどうかしている。

 だが、クラノスは耐えた。ここで冷静さを欠いてしまってはいけない。クラノスに求められるのは雷龍を対処すること。

 自分だって、龍に喰われつつも生還した。

 ならば二人の実力を信じて、生きているものと仮定し事に当たる。それが何よりの答えなのだろう。


「鱗までできあがってしまって、防御力がかなり高くなっているようですね」

「防御力、私には関係ない。まず、私が傷を作る。クラノスとサクラ、攻撃する。これでいい?」

「ああ、構わねぇ」


 なぜ突然の身体に肉が纏わり付いたのかは分からない。分かりたくもないが……。どうにも、嫌な予感がした。

 目の前の雷龍ではなく、なにか別のもの。

 そもそも、これほどに大規模なネクロマンシー。Sランクの魔法使いですら、単独ではなし得ない大偉業なのだ。しかし、これを成す規格外をクラノスは二人知っている。


 クラノスの予測は限りなく正しかったが。他でもない本人が、己の予測が外れていることに期待していた。


 どうか、そうであるな。


 そう願いつつ、クラノスは大盾を地面へと着けて――サクラとクシフォスを守り始めた。

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