57.即席パーティー
龍、それは最強の生物だ。あらゆる生物の頂点に立つとされ、位の低い生物ならば龍のひと睨みで絶命するとさえ言われるほど。
幼い時にそんな話を本で読んだ俺は何を馬鹿なことを……なんて思ったわけだけど。
「まさか、今になってその気持ちがわかるなんてな」
曇天の空を制する雷龍のひと睨みに思わず俺は絶命してしまいそうだったからだ。
そうでなくても、本能が龍に抗うことを拒んだ。生物としての格が圧倒的に違う。
これが王……!
「さてと、考えもなしに龍を空へ返したと思いたくはないんだが……どうだ?」
リグが肩をすくめて俺たちへ視線をやった。リグやクラノスみたいな規格外ならばまだしも、空を飛ぶ手段に乏しい俺たち三人からしてみれば、空に居座られた時点で対抗手段に乏しかった。
ただ、まぁ数分ほど前にも言った通り。
たった一つの冴えたやり方なんて、端からなかった。
「無いのか……」
呆れとも諦めとも言えない、微妙な表情でリグがため息を吐いた。正直、悪いとは思っている。
「空を飛ぶ龍は、まさしく水を得た魚なんだが……」
「魚? あれ」
「いえ、魚ではありませんが……いや、私の故郷には、滝を登ったら龍になるという魚の伝説がありましたっ! リグさん、博識ですね!」
「僕は世界最悪の馬鹿どもと共に死ぬかもしれないな……」
今回に限ってはリグが正しかった。
「お前にしちゃァ随分と弱気じゃねぇか。龍の心臓がなけりゃそんなもんなのかよ?」
「ほざけ、リアリストなんだ。僕は」
「はっ、なら現実的な手段の一つや二つ見つけれんだろ?」
「というと?」
「飛んでってぶっ倒す!」
「どこが現実的なんだ……だがまぁ、気に入った!」
Sランク二人組はなんだかんだ言って気が合うらしい。屈んで両脚に力を込める二人を見遣り、俺はクラノスとリグの背に呪符を貼り付けた。
程なく、二人は飛翔。
恐らく魔力放出を利用した跳躍なんだろうけど、同じ人間とは思えない跳躍力だ。
空へと打ち上がっていった二人を見送り、俺は残った二人に同じ呪符を配る。
「これを身体のどこでもいいから貼っておいてくれないか?」
「あっこれはあの時の!」
「サクラ、知ってるの?」
「はい、確か置換魔法のですよね?」
「それ以外にも使えるけど、今回はその用途だな」
「なるほど! つまり、空を飛べない私たちは適宜クラノスさんやリグさんと交代して龍に接近するということですね!」
ご名答。俺はそう返事をして視線をクラノスたちに戻した。
「タイミングは俺の匙加減になっちゃうからいつでもいけるように準備しておいてくれるか?」
「わかった」
「はい!」
二人の返事を聞きつつ、空では閃光と轟音が鳴り響きまくっていた。多角的な三次元の戦いはおよそ俺では目で追うのがやっとなほど。
さて、狙うべきはどのタイミングか。自分にも呪符を貼り付けて、意識を集中させる。
不意に、リグが龍の背に降り立った。ここだっ!
「サクラ、頼む!」
俺は人差し指を立て詠唱。リグとサクラを置換。彼女が雷龍の背に降り立ったことを視認。さてと、次はリグにもう一度呪符を貼り付けるか。
「ったく、この僕を乗り物代わりか? もっといい方法があるっていうのにさ」
「どんな方法だ?」
少し嫌な予感がしたけれど、ぜひ聴いてみたかったので問いかけてみることに。すると、リグは俺の首を引っ掴んで。
「直接打ち込むっ!」
「やっぱり!」
ぶん投げられた俺は勢いよく空の旅へと打ち出された。