55.竜との戦い
「さて、どうすんだ? 次撃たれたらオレも守りきれねぇかもしれねぇ」
「……」
考えが浮かばなかった。
というよりも、あれは撃たせてはいけない。そういう類いの魔法だ。もしかすると、親父ならどうにかできるかもしれないが……。俺の手札じゃどうやっても回避できない。
そもそも、あの射程だ。
一度放たれれば城下町にすら届きうる。そうなってしまえば、俺たちだけじゃなく被害は甚大だ。
ならば、考えるべきなのは撃たれたらどうする? ではなく、どうやって撃たせないか。
地脈を吸い上げているようだったので、まずはその接続を断つべきだ。
「取り敢えず雷龍に近づく!」
「了解」
そう考え、雷龍に最接近。
今なお、魔力の吸い上げを行っていることを鑑みるに時間はそう掛けていられない。ただ、逆を言えば雷龍が動かずに魔力砲に徹しているのだとすれば――あの大技さえどうにかしてしまえば対処が容易になるかもしれなかった。
どうやって地脈から魔力を吸い取っているのか……。
近づいて確認してみれば、いくつかの管のような骨が地面に突き刺さり、そこから魔力を吸い上げているようだった。
つまり、あの管を破壊すれば魔力の供給をストップできるはず。
「よし、四人で手分けをしてあの管を破壊していこう!」
「はい。あれなら簡単に破壊できる」
「おう!」
「取り敢えず頑張ってみます!」
というわけで、俺たちは散開。このパーティーで一番火力に乏しい俺だが、ただ破壊するだけならばいくらでもやりようがあった。しかも、相手は動かない障害物のようなもの。
俺は早速管の一つに駆け寄り、触れる。
詠唱するのは転移の魔法。
転移の魔法によってワープゲートを作成し、間を別空間へと移動させる。そうするだけで、管の接続は途切れる。
雷龍もあの図体だ。
俺たちをまだ外敵と認識すらしていないらしい。それは好都合だった。もし俺たちを敵だと認識したのなら、簡単に管を破壊することはできないだろう。
とはいえまだまだ数も多い。
俺は他の三人とは狙いが被らないように注意しつつどんどんと管の破壊作業を行っていった。
およそ八本ほど破壊したところで、龍が吼えた。
地面を揺るがすような大咆哮。どうしたのかと思えば、周囲に集まり始めるのは眷属たち。なるほど、俺たちを取り除くために行動を始めたのか……。
管の破壊作業を止めて、俺は空を見上げた。
翼を折り畳んだ竜が一匹、高速でこちらへと降って来ていた。それを確認して、俺は横へ飛び退く。
地面すれすれで思いっきり身体を上にあげた竜はくるくると回転し、ホバリング。口に雷が迸った。
「……!」
すぐさま、次の行動を予感した俺は転移魔法を自身の前方へ起動。出口は竜の上に設置。竜から放たれた雷撃が転移魔法をくぐり抜けて、竜に落ちる。
あれを喰らっていたら危なかったな……。電撃はダメージもさることながら身体が麻痺してしまうのが厄介だ。
気を抜いて真正面から受けてしまえばその時点で詰む可能性すら出てくる。
それは相手にも言えるわけで――俺は竜が怯み、痺れている今の状況に合わせて踏み込む。地面を叩いてブーツの先から仕込み刃を露出させた。思いっきり隙だらけの竜目掛けて足を――。
竜の眼光が俺を貫いた。瞬間、悪寒が背を撫ぜる。
足を引っ込めて、俺は勢いよく方向転換。瞬間、竜の鋭い爪が空を斬った。
「そうか……雷に耐性があるのか」
着地して、俺は自分の迂闊さを恥じた。
敵は竜。生物として食物連鎖の頂点に立つ存在であり、災害龍の眷属でもある。自らが操る雷に、耐性がないわけがなかった。
「さて、一体でここまで手こずるか」
自分の非力さにはほとほと嫌気が差すな。
あんまりここで手札を消費するのは得策ではない。少し身体は痛ませることになるが、腕と足を使うか。
両腕の衣服を捲りあげて、式が刻まれた両腕を露出。
「魔力装填――」
そう呟いて、俺は左足に魔力を込めた。
「術式励起。風の左足」
実のところ、俺は両足にも術式を刻んでいる。左足が風。右足が爆発。今まで使うタイミングがあまりなかったけど、中々に汎用性が高い。
たとえば、風を利用して加速することができる。
一息に竜との間合いを詰めた俺。しかし、竜もそんな俺を迎え撃つように雷撃を口から迸らせる。こういう時に、爆発系の右足が刺さる。
「再装填――爆ぜろ」
足裏から爆発。
その爆風と衝撃により、俺は鋭角を描いて雷撃を回避。さらに――。
「再装填――風よ!」
風を纏い、その場で回転。爆風、風の加護、そして俺の体重と移動のエネルギー。それらすべてを乗せた渾身の回し蹴りが竜の首に炸裂した。だが、固い鱗を突き抜けることに成功したが、どうにも浅い。
致命傷ではない。
だが、ここを逃すつもりは毛頭ない。
「代償魔法!」
俺は隠し刃を生け贄に捧げ魔法を発動させる。
刃はバラバラに砕け散り、代償魔法として起動した爆発によって竜を内部から食い荒らした。
力無くうな垂れる竜から離れ、俺は息を吐いた。
「ふぅ……なんとかなった」
と思ったのもつかの間。
地面に黒い影が三つ落ちたかと思えば――。三体のお代わりが空より飛来。
次は1VS3か――ちょっとキツいな! 逃げて他の誰かに助けを求めようかとも思ったが、丁度三方向を囲まれてしまい中々逃げ出す隙が見つけ出せずにいた。
今ある手札を全部使うべきか……悩んでいたところで。
竜たちが突如、真っ二つに別れていった。その背後に人影が見えた。
助かったが――誰が助けてくれたんだろうか?
「相変わらず、どんくさい奴だな」
「……リグ」
竜たちを斬り伏せて、ギルドを抜け出したリグがそこに立っていた。
助かったが……しかし、一体どういうことだろうか?