50.ミア・フォン・アルファルドの参戦
「――失礼します」
ドアをノックして、ミアは重い扉を押し開けた。
彼女がリグと刃を交えて一日と数時間ほど。あの場にはメイムとその仲間たちがいたことを確認していたが……予想よりも事態の進展は早かった。
そもそも、メイムたちがまさか災害龍復活を阻止できないとは――。まったくもって予想外であった。とはいえ、だからどうというわけでもなし。
ミアがするべきなのは、当代のオメガニア……。つまり、父親に意見を仰ぐこと。それ以外にない。
「災害龍の復活を確認しました。私たちにも召集命令が下されていますが、どうされますか?」
「ふむ……。見ての通り、私は既に動くことはできない。お前を代わりに出してもいいのだが……成人の儀を直前に控えるお前を無闇に傷つけることは本意ではない」
ミアは傅いて父親の言葉に耳を傾けた。
本来であれば娘を心配する父親の言葉なのだが……残念ながらオメガニアに取っては娘であろうが、なかろうがどうでもいい。
ただ、次世代のオメガニアという事実のみがミアの価値を保証していた。それをよく理解しているからこそ、ミアもまた口を挟まなかった。
そもそも、ミアの意見などオメガニアは求めていないのだ。
「だが、オメガニアが出なければ国の運営に支障をきたすやもしれぬ。それもまた、私の本意ではない」
これもまた、正義感からの言葉ではなかった。
ただオメガニアという一族が存続するためには国の存続が有利だからこその言葉。ミアはどこか、自分たちの一族は畜生にも似ていると考えていた。
そこに人の情はなく。ただ、オメガニアという生物の生存のみを考えている。そのためなら、どんな手段だって問わない。
それがあまりにも……人の在り方から逸脱して気持ちが悪かった。
「災害龍本体への接近は禁じる。しかし、間接的支援を行い確実な討伐を行え、次世代のオメガニアならばその程度……容易いな?」
「……はい。問題ありません」
顔を伏せたまま、ミアは父の言葉を肯定した。
相当な無茶振りだが、やりようはある。その気になれば、超遠距離から魔法を打ち込むことすら可能だが――そんなことはしなくても、クラノスやギネカ、ロウェンがいる限り災害龍の討伐は遅かれ早かれ達成される。
ならば自分が行うべきなのは、可能な限り国への被害をなくすこと。
報告によれば災害龍のみならず、眷属である竜たちも復活していると聞く。恐らくだが、災害龍の出現に伴って複製された龍の心臓を触媒に生み出されたのだろう。
自分が相手取るのはその竜たちで十分。
本体はクラノスたちに任せればよい。
そう結論付けて、ミアは立ち上がった。
「では、そのように。父上はお身体を大切にして私の帰りをお待ちください」
踵を返して、ミアは部屋を後にする。
さて久方振りの王城だ。少しはめかし込む必要がある。ふと、窓を眺めれば、酷い曇天が空を支配していた。
遙か彼方に、雷の柱すら見える。




