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47.「VSリグ」

「どうしたんだ? この僕を前にしてビビって声もでないとか?」


 大剣の切っ先を俺たちに向けたリグがギラついた歯を見せてそう言った。まぁ、確かにビビらないかビビるかっていうと――ビビる。

 なんでよりによって俺たちの方にリグが来るんだ。

 恐らくこの分け方からして、俺たちは二つのグループに分断された。そう考えるのが自然だろう。


 だとすれば、向こうはクラノスとサクラとギネカ。戦力を分散させるにしても、もう少し上手く分けて欲しいところだ。ともすればシルヴァは一人でSランクを二人相手することになる。


 まぁ、多分――。


 俺とクシフォスなら楽に勝てると判断して、さっさと俺たちを潰して合流するつもりなのだろうが。


「クシフォスの一撃は俺たちの勝敗を左右する大事な一撃だ。俺の合図で撃ってくれるか?」

「クラノス、サクラとは合流しない?」

「ああ。今の状況の方が俺たちにとって都合がいい」


 こそりと、俺はクシフォスに作戦を話した。(まぁ、作戦と言えるものの程でも無いのだが)

 いつもそうだが、俺の勝機は相手の油断に依るところが大きい。

 そしてリグは見ての通り……かなり不遜なタイプなので俺たちのことを舐めきってくれている。ありがたいことに。


 これがギネカやクラノスが一緒ならばリグの油断も相応に減る。


 皮肉なことに、俺がリグと戦うという状況において今ほど俺に勝機があるタイミングもそうなかった。


「作戦会議か、思う存分やってくれ。どうせ、何をしても僕には勝てないからね」

「ああ、待たせたな。もう十分だ。作戦会議は」

「そうか。なら、望み通り地獄に送ってやる!」


 思いっきり、リグが身体を屈めた。

 その動作だけで空気ががらりと変わる。肌をピリつかせる張りつめたそれ、息を吸うことすら忘れてしまいそうな……圧。

 でも負けてはいられない。

 俺は懐に手をやり、宝石を掴む。ソウジの時と同じ。相手がいくら俺より速くても、近接攻撃を主体とする相手ならば、どの道俺に接近しなければならない。


 ならば、敢えて的を絞らせる。


 予め、攻撃される場所が分かっているならタイミングを合わせるだけ。


 そう考え、俺は守りを固める姿勢を見せながら横腹の一箇所だけを空けた。できる限り自然に、他の急所を守ろうとするばかりに素人が晒してしまう隙を演じる。


「守りを固めたつもりらしいが――隙だらけだな!」


 飛んだ。

 精確には地面を蹴り俺との間合いを詰めたのだが、あまりの速度に飛んだとしか形容できない。


 あの口振りから俺の横腹を狙っていることは確実。ならば俺は先んじて宝石を設置。


「遅いんだよバカが」


 背に衝撃が伝う。

 ビキ。

 嫌な音が身体に響く。痛みを感じるよりも早く俺は吹き飛んでいた。まさか、俺の宝石を視認して、そこからすぐに軌道を変えて背後を取ったのか?


「がっ……!」


 地面を転がり、視界がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。地面に手をついて、俺はなんとか制動。息を吸う度に背がピキピキと嫌な音を立てている気がする。

 しかし、そんなことを気にしている場合じゃない。


 俺は夜空を見上げて、真上に宝石を撃ち込んだ。


 もう考えている暇はない。取り敢えず一度体勢を整えないと。


「代償魔法!」


 トパーズを爆破。

 代償魔法によって召喚するのは風の魔法。俺の身体を巻き上げて、いち早く脱出。宝石が砕けたことによって、込められた魔法が発動する。

 トパーズは爆発。


 大爆発が俺のいた場所に巻き起こるが……。


「宝石魔法と代償魔法の組み合わせか。しょうもない。それでどうなる?」

「魔力抽出! 即時錬成!」


 爆炎によって巻き起こる黒い煙の中から、リグの姿が見えた。

 俺は両手を合わせて、すぐに詠唱。

 爆発の魔力、宝石の欠片。それらすべてを魔力へと変換し、魔術式を逆算。宝石を錬成、次はサファイアだ。


「代償魔法!」


 サファイアを生け贄に捧げ、砕く。

 発生するのは雷電。リグの身体を雷鳴がつんざく。確認後、サファイアから氷が露出。ならばもちろん、その氷だって。


「代償」


 生け贄で砕いて再度雷を迸らせた。

 いくらリグが異様な防御力を誇っていても、生物であれば雷の麻痺には抗えない。ならば、これで足を止めることができ――。


「龍のいななき」


 地面が隆起。

 俺はバックステップ。凄まじい魔力が下から上へと立ち昇っていった。


「雑魚が、工夫してもSに勝てるわけないだろ?」


 その魔力の光柱からリグが姿を見せ、俺の胸ぐらを掴んだ。


「雷の麻痺を利用してたみたいだが、残念。龍の心臓はそれすらも無効にする」

「……!」


 俺のループコンボが通じない……か。


「所詮は雑魚の児戯。この最強の僕には、何もかも、無駄だったわけだ」

「……」

「さて、このままお前を地面に叩きつけて僕の勝ちだ。この後に、あっちのガキを痛めつけて父さんと合流だな」


 胸ぐらを掴んだまま、勝ち誇るリグ。

 確かに……俺の負けだ。今の俺じゃ、リグを上回ることは、もうできない。仇も、これがタイマンだったら……の話なのだが。


 俺は自分の両手をリグの手へとあてがった。


「……抵抗か? 辞めておけ、どうせ無駄だからな」

「ああ、かもな。だが、ここまで全部計算通りだって言ったらどうする?」

「……? 負け惜しみだろ、どう考えても」


 リグがそう思うのも無理はない。

 まぁ完全に計算通りってわけでもないしな。要は、リグが勝ちを確信して俺の身体に触れてくれればそれでよかった。

 今までのやり取りで、リグに勝つつもりなんてこれっぽっちもない。というか、ミアの魔力でどうにもできない相手を前にして、勝とうと思うわけがなかった。


 最初から、決め手はただ一つ。

 俺たちを侮ったことを後悔させてやるさ――反撃開始だ。

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