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46.VSシルヴァ

「メイムとクシフォスをどこにやった、テメェ」


 クラノスが盾を地面に乱雑に置き、吼えた。対面するのは空に浮かぶ魔導卿。シルヴァ。その名の通り、銀の髪を揺らして余裕綽々といった様子でシルヴァは不敵に笑う。


 それがさらにクラノスの怒りを煽ったのか、クラノスは舌打ちと共に赤雷を身体に纏わせた。


「戦力の分断は基本でしょう? まずは弱いものから、削り取る」

「どうして君は私とクラノスを残したんだい?」


 本来、戦力を分断するのであれば強い奴を均等に分けるべきだ。シルヴァもSランクではあれど、リグほど無敵というわけでもない。

 Sランクでもそれぞれの強みがハッキリとしたクラノス&ギネカを同時に相手取って勝てる確証など全くなかった。


「ふふふ。リグであればあの二人を処理するのに数十秒だって必要ありませんからね。お分かり頂けましたか?」

「ああ、分かったぜ。テメェが注意力散漫の雑魚だってことがなァ!」

「は?」


 クラノスの怒声と共に、シルヴァの真下で白が翻った。

 シルヴァ自体、Sランクの二人に気をやり過ぎている。ここにはもう一人、隠れた猛者がいることをクラノスは知っていた。シルヴァを捉えんと迫るのは一本の刀。


 三人が会話している間に、音もなくシルヴァへと這い寄ったサクラの容赦ない一刀が振るわれたのだ。しかし――。


「手応えはありません!」


 サクラの言葉に呼応するよう。シルヴァの身体が霧の如く胡散した。

 当然、刀は空振り。

 虚空を撫ぜた刀身を振り切って、サクラは振り返って二の太刀を差し込むが――やはり、これもまた空振った。


「これくらいは、当然のように行うことができますとも!」

「そうかよ。ギネカ、ここはオレたち二人で十分だ。テメェはテメェのやることをやれよ!」

「もっちろん」


 クラノスが地面を蹴り、疾走。

 一息にシルヴァとの距離を詰め、シルヴァが漂う空間に向け盾を振り降ろす。縦ではなく、横。

 つまり、扇ぐような形となり霧となって逃げる道を断つ。


 霧になるということは、質量がほぼゼロになるということ。クラノスの一扇ぎで、容易く霧は晴れる。

 そうなれば、後はシルヴァが身体を組み立てるまでひたすら吹き飛ばすだけで勝てる。流石のシルヴァもそれは不味いと思ったのか杖にてクラノスの縦を受け止めるが――。


「赤雷招来!」


 盾に稲妻が迸った。

 零れる雷が杖を伝ってシルヴァへと伝達。


「ぐっ!」


 一気に、その身体を駆け巡り麻痺。

 大きな隙をサクラは見過ごさず、刀を返し三の太刀。

 赤い血が舞った。


「手応えあり――です!」

「一発程度で油断すんじゃねぇっ!」


 喜ぶサクラにクラノスを注意を飛ばして、盾を横薙ぎ。

 シルヴァを飛ばして地面へと叩きつけて見せた。


 土煙が舞い上がり、シルヴァの姿を隠す。

 しかし、それでもなおクラノスの追撃は止まらない。くるりと空中で回転をして、自身の体重全てを乗せた垂直落下攻撃。

 盾でシルヴァが叩きつけられた場へと堕ち、押しつぶす。盾が着弾したことに合わせて、赤雷が炸裂した。


「相変わらず無茶苦茶ですね……!」


 サクラがその輝きを前に目を覆いつつ、そんな感想を零した。

 まともに直撃した三連撃。

 普通であれば確実に仕留めたと言えるのだが……。相手は普通ではない。


「吹き飛べ」


 クラノスの下から、そんな言葉が聞こえてきたかと思えばクラノスの巨体が凄まじい速度で吹き飛ばされる。

 その勢いで土煙が散り、ヒビ割れた地面の中央に立つシルヴァの姿が見えた。確かにダメージこそ受けているものの、あの連撃を受けたダメージとは思えないほどに軽微。魔力のないサクラには到底考えられないことなのだが――。

 実のところ、魔法使いといえどもミアやリグを見れば分かる通り魔力さえあれば物理的ダメージもカットできる。


 シルヴァもまた常人より遙かに多い並外れた魔力量を持っていた。その魔力によりクラノスの攻撃を真正面から受けても、なお余裕綽々と立てていたのだ。


「堕ちろ」


 シルヴァがそう告げれば、空中へ吹き飛ばされたクラノスが今度は一転地面へと叩きつけられる。

 サクラはその様をただ、眺めた。

 クラノスの真価は攻撃力ではなく防御力。シルヴァがクラノスの攻撃を受けきったように、クラノスもまたあの程度の攻撃は物ともしないだろう。そう信じていたからこそ、サクラは観察に努めた。


 いくら魔法といえども、たったひと言の詠唱でクラノスが良いようにされるほどのものを扱えるとは思えない。ならば、何か条件がある筈。

 サクラは刀を鞘へと戻し。

 次の隙を窺った。

 飛び込むならば、次の魔法行使と同時。


「弾けろ」


 その言葉と共にサクラは地面を蹴った。

 驚くべきはその初速と静かさ。身軽な分、クラノスよりも早くそして音がない。だが、サクラの身のこなしの真価は他にある。


 鞘入りの刀を構えて、一気にシルヴァの懐へと迫るサクラ。クラノスのいる方向から、破裂音が聞こえたが気にしない。どうせ無事だ。

 なら、自分の役目に集中するまで。


「――吹き飛べ」


 シルヴァが此方へと振り返り、そう呟いた。

 なるほど――見えた!

 サクラはシルヴァの振り向きに合わせて死角へと飛ぶ。サクラの真価は、素早さと移動力の両立にある。これほどの速度を維持しながらも、的確に自分の位置をコントロールする精確さも併せ持っていたのだ。


 サクラがサイドへ移動した直後。


 ついさっきまでサクラがいた地面が抉られた。


「チッ、吹き飛べ!」


 舌打ちと共に、シルヴァがサクラを見遣り二撃目。しかし、これも空振り。一歩身を退いたサクラを捉えることはできず、土煙を巻き上げるにしか至らない。


「ちょこまかと鬱陶しいですね……!」


 そんな言葉も気にせず、茶色の粉塵から月光を反射して白い刀身が露出。遅れて、鞘から刀が露わになる金属走りの音がシルヴァの耳を打った。


「はぁっ!」


 粉塵が真っ二つに裂かれ。

 シルヴァの身体も二つに割れた。当然、その身体を霧へと変えたわけだが……。


「三度目も同じ手に引っかかりませんよ!」


 刀を翻し、鞘へと戻し飛び上がるサクラ。

 それに合わせ、身体を再構成したシルヴァは視線を真上のサクラに向ける。


「弾け――」

「そこ!」


 言葉の途中で抜刀。チッ。という先程の抜刀音よりも幾分も軽い音が響いたかと思えば、閃光の如く剣がシルヴァの顔を捉えた。


「なっ!」


 着地し、刀から血を振り払い。サクラは困惑するシルヴァへ背を向けたまま、言葉を紡ぐ。


「視線を合わせて場所を指定するタイプの魔法だったみたいですね。そして、霧に身体を変える魔法も、他の魔法との併用はできない。そうでしょう?」


「……」


 刀を鞘へ戻し、サクラはそう締めくくった。

 サクラ&クラノス対シルヴァの戦いはサクラたちが優勢らしい。


「遅いですね……リグ。一体何をしているのだ……?」


 シルヴァの計算違いがあるとすれば、未だにリグが帰ってこないということ。

 あの二人は大した実力もない雑魚のはず。

 一体何を手間取っているというのだろうか。割かれた顔の回復に魔法を割こうとするが――。


「っと、回復はさせねぇぞ!」


 クラノスの攻撃が見えた。


 その一撃を回避し、シルヴァは垂れる血を地面へと零しつつため息を吐く。


「まったく、困ったものですね」


 しかし、なおも彼の余裕は崩れていなかった。

 そこにサクラは一抹の不安を覚える。

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