44.嵐の前の静けさ
「どこ言ってたんだ、オレに黙って」
「そーです。そーです。心配したんですからね!」
家に帰って来るなり、クラノスとサクラが俺に詰め寄った。
一方でクシフォスは誰が買ったか分からないウサギのパジャマを着て、少し遅めの昼食を食べているらしい。……本当に誰が買ったんだ、あのパジャマ。
「買い出しに少し。その後、リグと食事を」
「はぁ!? 何がどうなったらリグの奴と飯食うことになんだ……?」
「それは俺じゃなくてリグに聞いて欲しいくらいだけど……」
「何を話したんですか?」
「世間話……?」
「ますます意味が分からねぇな」
二人揃って腕を組み首を傾げていた。
そんな二人の間にわりいって、両手でぐいっと顔を覗かせたのはギネカ。そういえば、この人もここにいたんだった。
「ま、買い出しができたってことは準備万端ってことだろう? それは何よりだぜ! じゃあ、作戦のおさらいをしようか」
俺たち三人の方を順繰りに叩いて、ギネカはウインク。
もう既に俺たちのパーティーメンバーみたいな馴染み方をしているな……この人。彼女に言われるがまま、俺たちはテーブルを囲む。
「クシフォス、昼食は何を食べたんだ?」
「卵焼きとお肉。ギネカが作ってくれた」
「料理もできるイカす女ってこと。クラノスはできなかったみたいだし?」
「るせー。生でも食えんだよ、俺は」
なんて会話を小耳に挟みつつ、俺たちは作戦会議を始めることに。とは言っても、大まかな方針は決まっている。
俺たちがリグを引き留めている間に、ギネカがシルヴァを倒して施設を破壊する。
言葉にするとなんてことはなさそうだが、これがまぁ実際にやると大変なんだろうな……。
「さて、作戦決行は今夜。目標は複製された龍の心臓の破壊と、複製施設の破壊。ここまでは大丈夫かな?」
「作戦っつーほど大したもんでもねぇけどな! これ!」
「ははは、まぁ、そうかもね?」
ギネカとクラノスの軽快なやり取りが続く。俺はその作戦に異存はなかった。実際、やることはこれくらい単純なんだ。
問題はそれを守っているリグやシルヴァがSランクで凄く強いってことに集約される。
「で、メイム君はどういう作戦を立てたの?」
ギネカがニヤリと笑って、俺に話を振った。それに合わせて、三人の視線も俺に集まった。
「実際に龍の心臓を見てみないと分からないけど、あの異様な防御力は恐らく龍の心臓から供給される魔力が多すぎるからだと思うんだ」
「なるほど? 多分君の言う通りだね」
「どういうことですか?」
納得するギネカと首を傾げるサクラ。俺はサクラにも分かるように、もう少し説明に時間を割くようにした。
「龍の心臓から魔力が常に過剰供給されているから、リグには常に分厚い魔力シールドに覆われているって感じ?」
「なるほど……。どうにかして、その魔力シールドを除去しないといけないというわけですか!」
「そうなる。これに関しては俺に任せてくれ。で、シールドをどうにかできたらそこでクシフォスの出番だ」
「ん……?」
パクリと、卵焼きを口に放り込んだクシフォスが、コテリと首を傾げた。
「私……?」
「そう。クシフォスのあの技を使って、リグの龍の心臓を破壊する」
「……メイム君、一応あれ国宝なんだけど」
「はい。ですが、龍の心臓そのものがあると根本的解決にならないですし……」
「あっはっは! オレは賛成だぜ、リグの鼻っ面を折ってやるって意味でもな!」
ギネカが困惑しているところを初めて見た気がする。やっぱり国宝を破壊するっていうのは、相応に不味いことらしい。
とはいえ、クラノスの援護もあって納得してくれたのかギネカは腕を組んで、うーんと唸った後に首を縦に振った。
「まぁ、やむを得ない……か。よし、そうしよう! 複製品の処理は私に任せておくれ?」
「はい。お願いします」
「じゃ、作戦開始まで休憩ってことで! 英気を養っておいてね!」
「……なんでお前が仕切ってんだよ」
と、クラノスが噛みつきながらもギネカの言葉に逆らう必要もないので、俺たちは作戦決行の夜まで英気を養った。
今回の相手はSランクが二人。
単純な戦力で言えば、此方も増強されているとはいえ今までで一番の強敵。気を引き締めて作戦に向かわないとな。
腹を括った俺は、最後に装備や持ち物の点検を済ませていった。