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43.強過ぎるが故の孤独

「またオメガニアの話ばかり! なぜ、この私が認められないのだっ!」


 がしゃん。

 テーブルの上の食器をすべて叩き落として、親父は叫んだ。いつもの癇癪だ。親父はSランクの冒険者。

 確か、この国に七人程しかいない最強の冒険者たち。

 聖王ギネカ。騎士王ハルベルド。そして魔法王オメガニア。

 この国の冒険者たちの頂点に立つ王。その中でも親父が特に対抗心を燃やしていたのは魔法王オメガニアだ。親父につけられた異名は魔導帝。


 親父もまた、魔法を極めたと言っても過言ではない冒険者だった。

 だが、それ故に大陸最強であるオメガニアと比べられ続けていたのだ。


「親父、またこんなことを」

「……リグですか。今は剣の修練の時間の筈ではないのですか?」

「もうあの師範じゃあ、打ち込みの相手にもならないから辞めた」

「そうですか。流石は我が子」


 親父の手が僕の頭に触れた。

 僕は毎日、毎日修行をしていた。剣、魔法、知識……冒険者に必要なことはなんでも教え込まれた。

 自分で言うのもなんだが、多分僕は天才だった。

 なんでも身につけることができたし、なんでも人よりすぐに上手くなった。


 まぁ、だから友達がいなかった。


 それに親父が友人を作ることを許さなかった。そんなことをしている暇があるなら修行に集中しろ、ということらしい。


「今年で十二でしたよね。では冒険者になりなさい。リグはいつか、オメガニアを越える冒険者になるのです」

「……オメガニアを越えたら親父は嬉しいのか?」

「ええ、とても」

「……分かった」


 それから、僕は程なくして冒険者試験を突破した。ランクはB。Bランクの試験官を難なく倒した異例のスタートだった。


「君がリグ・ベルベッド君だね? ようこそ、私はレイラ! 十二歳でBランク冒険者なんて凄いね!」

「なぁに先輩風吹かせてるんだぁ? そんなんだとすぐに追いつかれますよ?」

「もー、五月蠅いなーディダルは。いい? 私はSランクになれないんじゃなくてSランクにならないんだから!」

「その方針に付き合わされているこっちの身にもなってくださぁい……」

「自由なのが冒険者だもんね! あ、リグ君もどう? 一緒に、冒険しようよ! 丁度今人手が足りてなくてさ」


 初めてギルドに足を運んだ時にはそんな愉快な二人組に声をかけられた。

 親父以外で、初めて見た格上の冒険者。

 その実力に心が躍ったが……。しかし、親父はそれを許さなかった。


「おや、Aランクの冒険者如きが私の息子に何の御用ですか? 貴方たちとは違うエリートの道を我が息子は歩むので、近づかないで頂けますか?」

「おっとシルヴァさん。でも、それを決めるのは貴方じゃなくてリグ君じゃないでしょうか?」

「……この私に指図ですか?」

「もちろん。リグ君は貴方の願望を叶えるお人形じゃ――」

「おっと、申し訳ありませぇん。こちらの連れが」


 ディダルと言われた男がレイラの口を押えて、そのまま引き下がっていった。


「まだ私は言いたいことが――」

「はい、それはこっちで聞くからー」

「……」


 僕と親父は二人の退場を見守る。

 なんとも言えないような二人組だったが……その実力は確からしい。


「あんな情けない冒険者になってはいけませんよ?」

「……分かりました」


 結局、僕は親父に言われるがままに冒険者としての道を歩むことになった。

 基本的にソロ、親父としか組まない僕は冒険者ギルドでも孤立していく。そんな僕ではあったが、冒険者としての実力はどんどんと着いていった。

 一年と半年後には、俺は既にAランク冒険者に。


「またベルベッド家の息子が活躍したらしいぞ」

「バカ。どうせ親父の七光りだろ? 本人の実力なんて大したことねぇよ」


 Aランクになるにつれて、そんな言葉を耳にすることが増えて行った。さほど気にしたことはない。

 大抵が僕よりも弱い人間の取るに足らない戯言なのだ。


 僕は神童と呼ばれて過した。冒険者としても、多分天才だ。

 努力はした。凡人より上に行くために、時間を尽くしてきた。その結果として、周りは消えていた。


「やぁ、少年。聞いたよ、Aランクになったんだって? 遂に追いつかれちゃったなー!」


 ふと、ギルドのテラスで空を眺めていたら、レイラが隣にやって来た。


「ああ、どうも」

「嬉しくなさそうじゃん。なんで? Aランクって凄い冒険者って意味なのに!」

「Aランクが凄いとは思えないからだ。結局、こんなガキ一人をやっかむような器の小さい奴しかいない」

「ふうん? よーし、シルヴァさんは近くにいる?」

「……? いや、今日は確か仕事らしいけど」

「じゃ、身体を動かそうか!」

「は?」


 強引に僕の手を引いて、レイラはギルドの地下一階。闘技場に僕を連れて行った。

 そこで戦おうなんて言いのけた。

 僕は渋々承諾。

 Sランクの怪物たちならまだしも、今さらAランクの冒険者如きに僕が負けるわけもないけど。瞬殺して帰ろう。


 そう思って戦いを始めたが――。


「……っ!」

「ふふーん。私の勝ち!」


 手も足も出なかった。

 こんな経験は初めて。このレイラという冒険者は圧倒的に強かった。ともすれば、親父にも勝ると思える程に。

 地面に転がる僕に手を差し出して、レイラは底抜けに明るい笑顔を見せた。


「君が手も足も出なかった私だけど。こんな私も、最強ってわけじゃないんだ。君のお父さんや、Sランクの人たち。それにAランクにだってきっと私より強い人はうんといる!」

「……」


 僕はその言葉に懐疑的だった。

 だって、彼女は多分一角の英雄だ。その精神性も、その強さも。多分一つの分野で頂点に立てる人間だ。

 それは多分僕もそうだった。

 レイラや僕みたいなのが、うんといるわけがない。

 そんな僕の思いを感じ取ったのか、レイラは首を横に振る。


「それにさ、冒険者じゃなくたって凄い人は沢山いるんだ。ただ君が人より強いってだけで、孤立する必要はないと思うよ。ランクにだって囚われる必要はないんだ。君は自由で、私も自由だからね! 目一杯楽しもうよ!」


 僕はレイラの手を取って。


「って訳で一緒に冒険しない? リグ・ベルベッド?」


 その誘いは多分、嬉しかった。

 だからこそ、僕はその誘いを受けた。でも、レイラの言葉は実現しなかった。

 その一週間後。


 彼女は死んだ。


 突然の死だった。

 理由は分からない。後から知った話だが、レイラはオメガニアの妻で、既に二人の子供がいて、風の噂だとオメガニアが殺したという話もあったが。


 まぁ、僕にはもう関係のない話だった。


 その直後に、親父が災害龍の心臓を加工したものを僕に与えた。名実ともに、僕が最強になったのがその日だった。

 最強になるということは――今まで以上の孤独を意味していた。それでも、僕はそれでよかった。そうすることで、親父に褒めて貰えるなら。

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