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39.クラノスとフィリア

 夜空を駆ける流星が如き我が妹を眺めて、俺は呆然と立ち尽くしていた。

 だってそうだろう?

 龍の川近くに魔導帝が居を構えていると突き止めて来てみれば、リグとミアが戦ってて……そのうえ、あり得ない野望まで聞かされたんだ。


 放心したくもなる。


「……災害龍って何?」


 俺の横でクシフォスがコテリと首を傾げた。

 あぁ、そうか……。この国の住民ならば誰もが知っていて当然ではあるが、クシフォスは年齢的に知らないのか。


 とはいえ、俺も詳しい訳じゃない。

 この中で唯一の当事者といえば……クラノスだけだな。


「クソったれの龍さ」


 珍しい声色でクラノスは答えた。

 その表情は分厚い鎧に隠れて見えないが、芳しくないのは理解できる。クラノスにとって災害龍は因縁の相手。それをイタズラに復活させようとしている魔導帝の目論見は許しがたいことなんだろうな。


「この国を襲った龍は雷の特性を持った龍だった。オレとオメガニア、ロウェン、シルヴァ、ギネカ、それにアイツと……あとレイラか」

「レイラ!?」


 思わず俺は聞き返してしまった。

 レイラというのは、俺の母親のことだ。レイラ・フォン・アルファルド。俺が幼い頃に亡くなってしまったが……。

 そうか、母さんも災害龍との戦いには親父と一緒に戦っていたんだ。


「オレはまだ新人だったが、災害龍との戦いが評価されてSになった。ありゃ正真正銘の化け物だ。もし、復活したっていうんなら――シルヴァ如きに手綱が握れるわけがねぇ」


 そう言ってクラノスは立ち上がった。

 今までのクラノスと違って、何か強い使命感のようなものを感じさせる口振りと雰囲気。それに少し気を取られていると。


「行くぞ」

「行くってどこに?」

「まずはフィリアに報告だ」


 思いの外落ち着いた判断だった。

 俺はてっきり、もうシルヴァたちに特攻を決めるのかと考えていたが、クラノスが慎重になるほど事態は深刻ということだろうか。


 それもそうだな。


 龍の川の規模からして、こんなものが復活した時の被害は想像できる。

 そんなこと絶対に許してはならないことも。


「クラノスさん、やけに真面目ですね?」


 俺の隣でサクラが首を傾げていた。


「ああ、そうだな」


 俺もその言葉に同意を示しつつ、冒険者ギルドを目指すクラノスの後を追う。


 ◆


「災害龍の復活……? それは確かなのですか?」

「オレが冗談や酔狂で、クソトカゲの名を出すと思うのかよ」


 フィリアさんから珍しく経済的微笑が消えた。


「いいかフィリア。お前はこの件には絶対に首を突っ込むんじゃねぇぞ!」

「そう言われましても、冒険者ギルド最高責任者としての務めが――」

「ごちゃごちゃ言うんじゃねぇ! 分かったな!」

「……」


 珍しくクラノスがフィリアさんに声を荒げた。

 それだけを言うと、クラノスは俺たちから背を向ける。


「メイムはギネカの奴に報告だろ? サクラ、来い。情報収集だ」

「え!? 強引過ぎませんか!」

「いーから、黙ってきやがれ!」

「はいはい、じゃあ、メイムもクシフォスも気をつけてくださいね」


 と、引きずられるように出て行くサクラを見送るクシフォスと俺。

 俺たちも行動開始――そうして冒険者ギルドを後にしようとしたところ。


「クラノス様はやはり、まだ気にしているようですね」

「……? 何をですか?」


 フィリアさんが言葉を漏らした。


「ふふ。実のところ、災害龍の戦いには私も参加していたのですよ」

「え?」


 思わぬ言葉に俺は間抜けな返事をした。

 フィリアさんが参加していた? まぁ、ギルドの関係者として災害龍との戦いに参戦していても不思議ではないが――口振りから察するに、そういうわけでもなさそうだ。


「実はクラノス様と私は幼なじみなんですの☆」

「え!?」


 今度は驚きも混じった。まさか二人がそんな関係だったなんて……ということはまさか?


「クラノスが言っていた死なせたダチって?」

「ええ、私のことですわ」

「……?」


 俺は首を傾げた。

 衝動的に言ってしまったが、自分で言っといておかしいことに気づく。だって、フィリアさんは俺の目の前でピンピンしているし、全く死んではいない。

 だというのに、フィリアさんがクラノスが昔死なせてしまったダチ――あ。


「私は災害龍との戦いで、冒険者生命を絶たれてしまったのですよ」

「なるほど、そういうことでしたか……」

「メイム、どういうこと?」

「比喩表現だよ。いや、クラノスにとっては本当に死んでしまったように感じているのかもしれないけど」


 ああ見えて彼女は義理堅いところがある。

 災害龍との戦いで何があったかは分からないが、彼女自身それを強く悔いているのだろう。だからこそ、フィリアさんには災害龍と関わって欲しくないと。

 その気持ちもよく分かる。


「ええ、私としては冒険者ギルドの受付嬢も非常に楽しくやらせて貰っているのですがねぇ。それはともかく、そのことからクラノス様はきっと勇み足になってしまいます。メイム様、クシフォス様、彼女を支えてあげてくださいね?」


 頭を下げるフィリアさんに、俺とクシフォスは首を縦に振った。


「では、行ってらっしゃいませ。ギルドでも調査を進めてみます」

「はい。よろしくお願いします」


 そう会話を交わして、俺はギネカさんの率いるクランを目指す。

 災害龍の復活を見過ごすわけにはいかないのだから。

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