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28.ワイルドハント

「メイムと地味サムのCランク昇格を祝して、カンパーイ!」

「カンパーイって! 地味サムはやめてくれませんか!?」

「別にいいだろ事実なんだしよー」

「事実じゃないですし! ガセですし!」


「はぁ、メンドクセー」


 やいのやいのと言い合う2人を眺めて、俺はジュースを啜った。

 腕が完治するまでの1週間。本当に不便だったが……まぁしかたない。今日は戻った腕の調子を確かめるためにも、サクラと一緒にCランク昇格試験に臨んだ。


 結果は見事成功。

 2人とも無事にCランクになることができた。


「でも、サクラがあんなに強いなんて……」

「ええ、自分のカタナさえあれば! あとは自信と安定した環境が!」


 サクラ(ちなみに、呼び捨てなのは彼女から要望があったからだ)の強さについては俺が寝込んでいる間の話を聞いた時から、ある程度察していたが……。実際目にすると驚いてしまった。


 剣の技量と身のこなしだけで、あれほど大立ち回りをするのだから。


「んなことより、次はSだな! さっさとオレんとこまであがって来いよ」


 肉を豪快に頬張って、クラノスが話を切り替えた。サクラが私の話はそんなことですか! なんていつものように噛みついていたが、クラノスのあしらい方が日に日に上手くなっていた。


 あー、はいはい。なんて雑な返事でサクラの講義をさらりと躱して、クラノスは話を続けた。


「Sランクが3人、同じパーティーに入ってるってなりゃ、オレたちのパーティーが名実ともに最強だ」

「あ、私も試算に入ってるんですね。分かってるじゃないですか」

「そりゃ仲間外れは可哀想だしよ。実力はともか――」

「――実力も伴ってますってば!」


「2人は本当に仲がいいな」

「――よくねぇよ!」

「――よくないです!」


 と、2人から同時攻撃を受けてしまった。その息ピッタリ具合も仲良しの証拠だと思うのだが……これ以上イジるのはやめておいた方がいいだろう。


「Sはともかく、今の目標はAランクだな」

「弱気だなァ、おい」

「Sは国の英雄レベルだぞ? それに、SになるにはまずAだ。どっちにしろ、Aを目指さないといけないんだからな」

「そーいうもんか」


 もっと細かく言えば、次はBの昇格試験をクリアしなければならない。だから、次の目的はBランクになることだ。


 冒険者はCで一人前。Bで一流、Aで超一流、Sは怪物という評価が下される。今までDやCになることは比較的簡単だったが、Bからはひとつ格があがると考えて問題はない。

 だからこそ、一層気を引き締めないとな。


「ま、頑張ってこーぜ」


 そうクラノスが締めくくって、ささやかな宴会は終わりを告げた。

 クラノスとサクラは二次会と称した戦闘訓練をするみたいだけど……。


 俺はCランク昇格試験で疲れていたこともあってすぐにベッドに潜り込んで眠ることにした。



「起きて――さい」

「ん……」


 耳元で何かが騒いでいた。

 夢の世界から起こされた俺は、目をこすりながら身体を起こす。

 そして。


「起きてください! あ、起きた!」

「エリートか……どうしたんだ?」


 俺を叩き落とした諜報人のエリートに話しを聞くことに。ソウジの一件以来、俺の宝石の中がいいと間借りして住み着いている。


 エリートから声をかけて来るのは珍しい。しかも、こんな真夜中に……。


「とにかくエリートさんの言うことに従ってください……!」

「え?」


 と、状況を飲み込めないまま。


「今です! ベッドから下りて!」

「……!」


 その声に合わせて俺はベッドから転げ落ちた。

 何のことだか分からなかったが、エリートの声にはそうしないと何か嫌なことが起きるという気迫があった。


 刹那。


 音もなく、ベッドに何かが落ちた。

 それを確認するよりも早く、その何かは消え失せる。不味い。

 本能が、そう認識した。


「エリート! 部屋の明かりを頼む!」

「はい!」


 俺は護身用に身につけていた数個の宝石を手に取って、迎撃態勢を取った。

 とにかく、俺は確実に襲われている。

 それだけは分かった。


 寝ぼける頭が一気に覚醒していく。

 俺は自分の魔力を身体にかき込んだ術式に流して、全方向に放出。ある生物は音の反響で獲物の位置を探るというが……魔力でもどうようのことができる。


 俺の放出した魔力に当たった動くものに神経を尖らせる。

 暗闇の中で、なんとか襲撃者の位置を割り出した俺は、そこに向かって宝石を投げた。


「……万物破壊の理(アサシネーション)


 感情の機微が一切ない、そんな声が響いたと思えば、宝石が両断。これで、代償魔法の発動条件を満たした。あとは、ループコンボで……!


 しかし、宝石はただ崩れるのみ。

 それどころか、バラバラと砕け散り元型を留めない。


「……!」


 術式ごと、破壊されたのか!?

 俺はバックステップを行いながら、二の手を考える。なら、しかたない……!


魔力装填(ロード)・術式励起(れいき)――氷の右腕」


 氷の壁を前方に出現。

 まずはこれで時間を。


「……魔法消滅の理(アサシネーション)


 横に一閃。

 瞬間、氷の壁そのものが解体。物体から魔力へと逆戻り。消失した氷の壁を踏み越えて、暗殺者はとんでもない速度で俺の懐へ入る。


「……生命断絶の理(アサシネーション)


 背を悪寒がなぞった。

 ――殺される。回避できない絶対の死を本能が感じ取った瞬間だった。


「退け雑魚ッ!」


 瞬間。

 赤雷が俺と暗殺者の間に薙いだ。暗殺者の行方を阻むそれを確認して、俺は呑まれかけていた意識を取り戻し、暗殺者から距離を取った。


「大丈夫か!」

「ああ、なんとか……」


 クラノスの助けがなければ死んでたな……俺。

 明かりが灯った部屋の奥、そこに立っていたのは小さな暗殺者。蒼い髪を揺らした、無表情の少女がそこにいた。


「ガキか……」


 クラノスが盾を地面につけてそう呟いた。

 俺も同じことを考えていた。

 こんな子供が、俺の命を狙うなんて。そこに、どんな理由があるのだろうか。


「……これは、任務失敗」


 そう呟いて、少女はナイフを自らに向けた。


「クラノス、俺を投げろ、今すぐ!」

「あァ!? 分かったよ!」


 すぐに、俺は少女が何をしようとしているのかを理解したのでクラノスに叫んだ。

 俺の首根っこを掴んだクラノスは、遠慮なく俺を放り投げる。豪速で少女の元に迫った俺は、ナイフに蹴りを入れて弾き飛ばした。


「……!」

「今、自刃するつもりだったろ」


 無機質とも言える少女の目を見て、俺は言った。

 明らかに彼女は死ぬつもりだった。それも、何の疑いも躊躇もなく。いくら自分の命を狙った相手でも、そんな死に方は気分が悪いにも程がある!


「そういう風に、教わったから」

「……こりゃあれだ。ワイルドハントだ」

「ワイルドハント?」


 遅れて駆け寄ったクラノスが、ため息を吐いた。


「ああ、身よりのないガキ共を集めて使い捨ての殺し人形にする気色ワリー奴らさ。オレも実際見るのは初めてだが……」

「……ともかく、この子をどうするか決めないとな」


 取り敢えずワイルドハントを連れて俺たちは食卓に集まることに。

 本当、一難去ってまた一難とはよく言ったものだ……。

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