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18.薫風巻き吹く陰の中

 俺はクラン薫風の刃の集会所に足を運んでいた。

 フィリアさんに仲介をして貰い、見学会の予定を取り付けた。ソウジが出して来た条件は1つ。クラノスを連れてこないこと。


 俺が何かを探りに見学会を申し込んだのはあからさまであり、それでもOKを出したのは尻尾を掴ませない自信があってだろう。

 そのうえ、疑いを晴らすことができれば俺も黙ると思っているらしい。


 さらに言えば、たかだかDランクの冒険者1人。容易に御すことができる。クラノスさえいなければ、それでいい。

 そんな考えが見え透いていた。

 正しい考えだろう。世間的に考えればDランクの冒険者などその程度なのだ。


「はい。薫風(くんぷう)(じん)へようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」


 クランの受付嬢さんに紹介状を見せた。それを確認した彼女は、誰かに連絡。しばらく待っていて欲しいとのことだった。

 手持ち無沙汰な俺はロビーを見渡してみる。

 なるほど、4大ギルドと称されるだけはある豪華絢爛な作りだ。人の賑わいだって、冒険者ギルドに匹敵するんじゃないだろうか。


 クランの利点はたくさんあるが、その1つが冒険者ギルドを頼らずとも依頼を受注できるということだ。

 本来ならギルドを介して受注しなければならない依頼を、クランであればクランで発注、受注を行うことができる。

 当然、ギルドに対する上納金というものがあるのだが……多くの依頼をこなせば得になる。


 クランとして名を挙げることができるならば、クランで活動する方がよほどお得なのだ。


「待たせた。そちらが今回の見学希望者、メイム殿で間違いないかな?」

「あ、どうも。はい、今回お世話になります。メイムです」


 俺と似たようなローブ(向こうのが上質っぽいけど)に身を纏った魔法使いっぽい人が現れた。


「私はフレデリク。このクランのサブマスターだ。メイム殿が魔法使いだという話を聞いて、私が案内することになった。今日はよろしく頼むよ」

「わざわざ貴重な時間を頂いて申し訳ありません」


 つまり、2番目に偉い人というわけか。

 それが普通なのか分からないけど、魔法使いが出てきたというのは、まぁ警戒はされてるよなぁ。ちょっと遅いけど。


 当たり前だが、見学をさせる場合はいい面しか見せない。

 しかも相手は俺なわけで、普通の見学者よりも厳重に見学させるはずだろう。最初から何の情報も期待していない。

 だというのに、見学を申し込んだのは俺に意識を向けるためだ。

 こういう調査にうってつけの味方がいた。


 リッチの操る死霊たち。


 その中でも言葉を話せるエリートゴーストを1体借りて既に解き放っておいた。

 俺の役目は囮だ。

 こっちに疑いの目を向けておけばいい。なおかつ、こちらでも何か掴めれば儲け物というわけである。


 俺はフレデリクの案内に従って薫風の刃を見学した。



 結果として、やはり俺は何も掴めなかった。

 分かったのは薫風の刃の基本的な情報。人数は100人以上。その過半数がEランクの新人で構成されているらしい。ソウジ、フレデリクを含めた5人のAランクのメンバーが中心となって、他はBからDで20人程度。それ以外が全員Eだというのだから驚きだった。


 ちなみに、このままつつがなく事が運べばソウジがSランクになるのは確定的らしい。


「で、どーだったんだ?」

「俺は何も、うまく隠してるのか、俺の思い違いだったのか……」


 帰り道、迎えに来たクラノスと言葉を交わす。

 黒い部分がカケラも見えなかった。本来なら、これで終わり。

 もう何も干渉できない所だが、俺たちにはエリートゴーストがいる。

 俺が持っている宝石の1つ。クォーツを取り出して声をかけてみる。


「どうだった?」

「はい! エリートさん、しっかりと偵察してきました!」


 ふわりと、白い霊魂のようなものが宙に漂い始めた。

 本来ならしっかりとした人型らしいが、キリッとするのは面倒臭いらしく人魂みたいな状態の方が楽なんだとか。


「真っ黒です! ブラック! アウト! ゴーストも驚きの労働環境でしたよ」

「どーいうこった?」

「大量のEランク冒険者が休む間もなく働かされて、成果のほとんどを上に巻き上げられているんですよ。不出来だと暴力とかも……しかも、地下に押し込められてるんです! 生者には辛いんじゃないですかね〜?」


 エリートの言葉に熱がこもると、その分人魂の動きも激しくなった。

 なるほど、急成長の影にはそういうカラクリがあったのか。


「マジかよ、古臭いやり方だなァおい」


 クラノスが呆れたように言葉を零した。

 彼女の言う通りで、右も左も分からないEランク冒険者につけ込んで、搾取するというやり方は悪い冒険者の間では当たり前の手法だし、今じゃアカデミアでもまず習うはずなんだけど。


 廃れた手法だからこそ、クランが大規模に行なっているとは考え難いものなのだろうか。

 知識があっても、実際に活かすことができるかは別の話しだし。あれだけ隠すことのできるクランなんだ。そのやり口も巧妙なのだろう。


「じゃあ、エリートさんは報告が終わったのでひと休みしまーす! メイムさんの宝石の中って寝心地いいんですよね!」

「ありがとう、ゆっくり休んでくれ」


 宝石に戻っていくエリートを見送って、俺は次の行動を考える。


「で、どうすんだ? フィリアに告げ口でもしてみるか?」

「いや、物的証拠がないとギルドは動けないだろう。まずは俺たちでどうにかするしかない」


 と、なるとだ。

 俺の目的はサクラさんを劣悪な環境から助け出すこと。なら、まずサクラさんと接触しないと。

 だとすれば……。


「正面突破だな」

「だよなァ! そうこなきゃな!」


 俺の言葉を聞いてクラノスが両手を叩いた。

 キィーン、という甲高い音が俺の耳をつんざく。


 俺の思考もクラノスに寄ってきたのかもしれないな。そんなことに多少の危機感を覚えつつ、はやるクラノスを抑える。


「今すぐ行くってわけじゃないからな?」

「はぁ!? じゃあ、いつだ! いつ! 最近暴れ足りてねぇんだよな」

「明日の早朝。あと正面突破とは言ったけど、なるべく穏やかに済ませたいから、まずは忍び込む」

「なんだよそれ……」


 露骨にテンションが下がったな。どれだけ戦いたいんだクラノスは。

 相手は大クランなんだ。事を荒立てて不利になるのは俺たちに決まっている。確固たる証拠が見つかる前に、騒ぎを起こしすぎるのは得策ではないだろう。


「ま、しゃーねぇ。騒動が起きるように願っとくかー!」

「そんなことは願うな」


 なんて軽口を叩き合いながら、俺たちは帰路についた。

 明日、薫風の刃からサクラさんを助け出す。そう心に決めて。


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