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16.意外な再会

「はぁ、Dランクの依頼って面白くねぇなァ!」

「……同感だな」


 隣でいきり立つクラノスに俺は同意した。

 昇格試験のリッチは最低でもB、普通はA以上が担当する依頼だ。正体が判明していなかったとはいえ、Dランクの適正からは遠く離れている。


 実際のDランクの依頼の難易度といえば、やっぱりEに毛が生えた程度。

 クラノスはもちろん、俺にとっても張り合いのないものだった。街を出て僅か10分たらずで依頼を完了した俺たち。


 討伐の証明である魔物の一部位を麻袋に詰め込んで、帰り支度もバッチリだ。

 ギルドに戻って報告をしよう。そう考えた瞬間。


「きゃあ!」


 木々の奥から悲鳴が聞こえた。

 俺は考える間もなく、悲鳴の聞こえた方を確認して突っ走る。妙に聞き覚えのある声だが……。


「先行くぜ!」


 クラノスが両足に赤黒い魔力をチャージし、解き放てば急加速。先行していった。


 次いで、1度、2度、3度。雷鳴が轟いた。

 3発も持ったのか……中々強い魔物だったのかもしれないな。追いついて木の隙間から飛び出せば、巨大な魔物が地面に倒れ込んでいた。


「援護は……必要ないみたいだな」

「おう。オレがケリつけといた」


 森の奥地というわけでもないのに、こんな大物と出会ってしまうとは。襲われた人はよほど不運なのかもしれないな……。

 既に事切れた魔物から視線を外して、俺は悲鳴の主を探す。


「あ……」


 見つけた。驚きの声がもれる。

 そして、そこにいた女性と目があった。


「メイムさん!」

「サクラさん!」


 お互いの名を呼ぶ。

 冒険者試験で出会った剣士志望。俺と似た境遇を持つ人だ。

 まさかこんなところで出会うなんて……。そのうえ、襲われているところを助ける形になるとは。


「なんだァ? 知り合いか、メイム」

「ああ、冒険者試験でちょっとな」


 盾をガシャリと背に戻したクラノスは、その威圧感たっぷりな見た目でサクラさんを見下した。(本人に見下しているつもりはないんだろうけど、多分)

 心なしかサクラさんが怯えているようにも見える。


「取り敢えず、助けてくれてありがとうございます。私は急いでいるので――」


 よろよろと立ち上がって去って行こうとするサクラさんだが、その足取りはおぼつかない。

 よく見れば彼女はもうボロボロだった。あの魔物に襲われたからだろうか。

 そんな彼女を放っておけるわけもなく……。


「ボロボロじゃないですか。落ち着ける場所で手当てしますよ」

「え……でも」

「ここで会ったのも何かの縁ということで」

「……はい」


 ばつが悪そうにサクラさんは首を縦に振った。

 なんだか、以前あった時よりも元気がないような気がする。どうしたんだろう。

 取り敢えず、クラノスに負ぶって貰い、俺たちは自分の屋敷に向かった。



「で、結局手当てをしたら眠っちまったか」


 すやすやと寝ているサクラさんにブランケットをかけた。


「かなり消耗してたみたいだ」

「あァ、オレの見立てだと魔物に襲われたのが原因じゃねぇよ、ソレ」

「どうして?」

「外傷がねぇだろ。死に物狂いで魔物から逃げたんなら、ソイツの軽装なら枝かなんかで切った傷があるはずだ。魔物の攻撃も喰らった形跡もない。オマケに、その剣見てみろ」

「剣……あ」


 そう言われて剣を眺めて初めて気がついた。

 この剣、鞘の部分がベルトのようなもので固定されておりそれを外して抜くタイプ。だというのに、ベルトが外された形跡はない。


「オレ等が助けに入るのがかなり早かったみたいだな」

「……じゃあ、この消耗具合は?」

「さぁなァ。ただ、何かあんだろうさ、ソイツ」

「……」


 俺は顎に手を当てて考えた。

 確かにサクラさんもアカデミアに通っていなかった。それなのに冒険者試験を受けたということは、何らかの理由があるんだろう。


 しかし、だからといってむやみやたらに踏み入ってはいけない。

 彼女には彼女の事情があって、それを彼女から話さないなら立ち入らないようにする。それも冒険者として大切な線引きだろう。


「メイム。そちらの女性、もう少し詳しく調べた方がいいでしょうねぇ」


 地面からリッチが生えてきたかと思えば、そんなことを口走る。


「どういうことですか?」

「剣から、邪意を感じますよ」


 邪意(じゃい)か……。取り敢えず見てみよう。剣を手に取り、観察する。

 すると確かに、リッチが言ったように何か細工が施されていた。詳しく調べてみれば……。


「遠見の魔法だ」

「遠見?」

「ああ、離れていても位置情報を術者に送り続ける簡単な呪いだよ。ディスペル系の魔法と合わせて、うまく隠してたみたいだけど」

「へぇ、解除しといてやれよ」

「ああ、そのつもりだ」


 簡単な呪いは手軽だが、その分解除も簡単だ。

 剣に仕込まれたそれを解除して、彼女の側に戻す。


「しかし、どうしたって剣に遠見の魔法なんざ仕込むんだよ」

「それは俺にも……。でも、サクラさんに対して悪意があったのは間違いない」

「どうしてそう言いきれんだ?」

「魔法使い同士、そういうのはよく分かるんだ」


 細かい説明は省くが、実際この呪いを仕込んだ人間はサクラさんにいい感情は抱いていないだろう。

 特に、呪いというものはそういった部分がダイレクトに現れる。


 まぁ、彼女が起きたら報告も兼ねて少しだけ事情を聞いてみるのも良いかもしれない。

 取り敢えず、サクラさんが目覚めるのを俺たちは待った。



 あれから数十分が経過したが、サクラさんが目覚める気配はない。

 このまま夜まで目覚めないのかな? と思って来たところで屋敷に訪問者が現れた。呼び鈴代わりの魔法が屋敷の中で鳴り響く。


 リッチが用意した簡易的な遠見の魔法で訪問者を確認すれば。


「ソウジさんだ……」


 今朝出会ったソウジさんが、そこにいた。

 一体、ウチに何の用なのだろうか。取り敢えずリッチが外に出るわけにもいかないので、俺とクラノスで用件を聞くことに。


「……驚いた、まさか君たちが出てくるなんて」

「ええ、こちらもソウジさんが訪ねてくるなんて驚きましたよ」


 ……俺たちがいるって知らずにこの屋敷に来たのか。

 それはそれでどういう理由が……。いや、思い当たることがある。サクラの剣に仕込まれていた遠見の魔法。


 それで、ここに来たのだとしたら?


「用件は、サクラさんですか?」

「……よく分かったね。彼女はボクのクランのメンバーなんだ」

「クランのメンバーなのに、Eランクの冒険者を1人で放置していたと?」

「……彼女がどうしても、と言って聞かなかったんだよ。とにかく、無事でよかった。さ、彼女の身を預かろう。お礼もするとも」


「……」


 俺は黙ってしまった。

 一抹の不安を感じてしまう。本当に、このまま彼女を引き渡してもいいのだろうか。


「ふむ、Eランクなのだから世間知らずで仕方ないけどさ。部外者が、クランに首を突っ込むのはナンセンスだね?」

「それは……そうですね」


 ソウジの言うことは正しい。

 俺のような部外者が、おいそれとクランの内部事情に関わるべきではないのだ。それも、事情を聞きかじってもいない状態で。


「今のは聞かなかったことにするよ。お互い、不都合だからね」


 爽やかな笑みと共に、ソウジが屋敷の中に足を踏み入れる。クラノスが噛み付きそうな勢いで睨んでいるが、俺は彼女を制止した。


「手厚い保護をありがとう。これからの手当てはボクたちに任せてくれ」


 そう言って、サクラさんを背負ったソウジは屋敷を立ち去っていった。

 結局、最後までサクラさんは起きることがなかった。1つ言えることは……あのソウジという人は、何か黒いものを隠している。


 そして、サクラさんが何か不利益をこうむっていることも確定的だろう。

 だけど俺はそこに踏み込むことができない。

 ディダルの時とは違うんだ。相手がクランともなれば、しがらみも増える……。


 さて、どうしたものか。


 人助けをしたはずなのに、俺の心には本来あるべき晴れやかなそれではなく。ただ、暗鬱(あんうつ)とした迷いが生じていた。

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