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15.クラン「薫風の刃」

「仲間が……こない!」


 幽霊屋敷の依頼から1週間。

 クラノスが元々住んでいた家から屋敷に引っ越す準備をしたり、リッチたちと親睦会をしたり、ようやく屋敷の修理が済んだり……色々なことがあった。


 それと同時に、冒険者としての活動もしている。

 仲間を募集すること。

 クラノスは必要ないというが、一般的には冒険者パーティーは5人、4人くらいの人数は必要になる。


 俺たちは2人。

 これだと今後の活動にも支障が出るかもしれなかった。


「おう、メイム。どうだった?」

「全然ダメだ……。Eランクも歓迎! って書いてあるのに、見学をしたいっていう人すらいないらしい」

「そっかそっか!」

「クラノス様は嬉しそうですね?」


 豪快に笑うクラノスの様子を見て、カウンターの向こうでフィリアさんが首傾げた。

 まぁ、それは俺たちのちょっとしたスタンスの違いが現れている。


「そりゃあ、オレとメイムは相棒同士だぜ。他の奴はいらねぇってこったァ」

「なるほど、そういうことでしたか」


 いつもの経済的笑顔を振りまいてフィリアさんは頷いた。


「ええ、クラノス様に同調するわけではありませんが、現状メイム様とクラノス様で十分な戦力かと?」

「だろ? メイムもオレを倒したんだから、実質Sランクみたいなもんだろーが。避けられてるんだよ」

「バーサーカーとメイム様ですものねぇ?」


「え、もしかして俺も何か言われてるんですか……?」


 クラノスは当然として、真っ当な冒険者である俺ですら何か避けられる理由みたいなものがあるのだろうか。

 それはちょっと心外だ。

 俺は本当に普通なわけで。クラノスと同列に語られるのは誇張表現にも程がある。


「え? 今さらですか?」

「……」

「オレとディダルを倒した時点で、メイムはこっち側なんだよ!」


 勝手にそっち側に入れないで欲しい。

 でも、2人の反応を見るにそういうことなんだろう。なら、まぁしかたない。


「パーティーメンバー募集の書類は変わらず掲載し続けますので、元気を出してください。きっと、()()()見つかりますよ。()()()!」

「そんなにいつかを強調しないでくださいよ……」


 こんなにたくさんの仲間募集の紙はあるのに、1週間待っても何の反応もないのは辛すぎる。


「フィリアさん。この募集を出している人への連絡をお願いします」

「あ……!」


 まさか、俺たちの仲間募集を……!

 そう思って視線を動かす。俺の隣に立っていたのは黒髪の優男。

 この辺りじゃ見ない、同じく見たことのない剣? ……を背負っている男性だ。

 

 柔らかい表情が印象的だった。


「ソウジ様、いつも精力的ですね」

「ええ、まぁはい」


 どうやら俺たちの募集じゃなかったみたいだ……。フィリアさんが奥へと入って行けば、クラノスがソウジと呼ばれた人に声をかける。


「久しぶりだな、また得物を変えたのか?」

「やぁ、クラノス。これは譲り受けたものでね。いい()()()だろう?」


 背負ったひたすらに長い剣、それに視線を移したソウジ。カタナという武器なのか……。勉強になる。


「カタナの収集癖は相変わらずみたいだな。あと、新人の収集癖も、か」

「あはは。君も相変わらず手厳しいね。そちらは?」


 と、2人の会話が落ち着けば話題は俺に移った。

 俺はソウジに会釈をする。向こうも同じ反応だ。


「オレのパーティーメンバーだ。それも、相棒」

「え? あぁ、君がメイム君か! 噂を聞いてるよ。ディダル・カリアを倒したことを皮切りに、クラノス・アスピダを下し、そしてロウェン総長に目をつけられている最強の新人だってね」

「多少……尾ひれも背びれも、色さえつけられてるみたいですけどね」


 ディダルとクラノスの勝利はともかく、後半は完全に噂話だな。それに、その勝利だって俺がたまたま勝ったに過ぎない。


 とてもじゃないが、1度の勝利で俺がディダルやクラノスよりも強いと喧伝する気にはなれなかった。


「謙虚でもあると、いいね。()()()よ」

「惜しい、ですか?」

「うん。クラノスに目をつけられてなかったら、ボクが君をクランに誘いたかったな」

「クラン……」


 クランとはパーティーの上位組織みたいなものだ。パーティーの人数が大きくなれば、冒険者ギルドに手続きを通してクランとして申請をすることができる。


 クランは冒険者ギルドにお金を納める。だからこそ、クランを立ち上げるだけで一定の信頼は得られる。人もいて、財力もある冒険者たちと示すことができるというわけだ。


 クランの設立を目標としている冒険者も多いのだとか。


 なんて、クランについての知識をおさらいしていたらソウジは少しはにかんだ。


「ごめん。名乗り遅れたね。ボクはソウジ・ミヤツ。クラン薫風(くんぷう)(じん)……一応リーダーをやらせてもらっているよ」

「薫風の刃……あの、薫風の刃ですか?」

「なんだァ、有名なのかソウジ」


 呑気に欠伸を噛み殺しているクラノスに、俺はソウジの凄さを説明した。


「薫風の刃といえば、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を遂げているクランだ。新人支援にも力を入れていて、その功績とギルドの貢献度からクランが生まれてから僅か数年にも関わらず4大クランの一角を担ってる……らしい」


 らしいというのは、俺が仲間募集の紙でたまたま見た情報だからだ。


「ソウジにSランクの推薦が来てたみたいだしなァ。オレにとっちゃタダの地味な奴だったぜ」

「あはは。クラノスは元気そうで安心したよ。Sランクになっても、仲良くして欲しいね」

「はぁ、テメェにゃまだ早いと思うがな」


 本当にクラノスは真っ直ぐだな……。


 と、丁度フィリアさんが帰って来た。


「あ、フィリアさんの準備ができたみたいだ。またね2人とも。次はゆっくり話したいな」

「はい、こちらこそ。頑張ってください」


 爽やかな笑顔。

 こっちまで清々しい気持ちになってしまう。ソウジの背中を見送って、俺はため息を吐いた。


「ああいう人が仲間に来てくれたらいいのにな……」

「そうかァ? オレがいるだろ。よし、気分転換に依頼やろーぜ! 依頼!」

「そうだなぁ。いつまでもウダウダするわけにもいかないや」


 ここで待っていてもしかたがないので依頼をこなすことに。

 地道に冒険者として活動すれば……いつか仲間が増えるかもしれない。

 そんな期待を抱えて、俺とクラノスは冒険者ギルドを後にした。

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