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13.リッチ

「つまんねー話だったなァ。普通のことしか話しやがらねぇ」

「そりゃそうだって……。必要な情報は聞けたからいいだろ?」


 ガシャガシャと騒がしい音を隣で立てるクラノス。

 俺が依頼人とやり取りしてる間にも、彼女はずっと暇そうにしてた。まぁ、クラノスの柄じゃないだろうしなぁ。


 俺が主という話はどこへ行ったんだと思ったり、思わなかったり。まぁ相棒がいいって言ったのは俺だからなぁ。

 仕方ない。


「で、何だって?」

「郊外にある一軒家、そこにずっと幽霊が住み着いてて困ってるんだってさ。かれこれ数年以上も困ってるんだとか」

「あァ? 数年以上も解決されてねぇ依頼だ? そんなもん普通はCとかBに格上げされるだろうに……依頼主がケチったのか、それともギルドが……あぁ、だからメイムとオレに繋げたのか、してやられたなメイム!」


 がっはっは! とクラノスは笑う。

 なるほど……Dランク昇格試験につけ込んでアレな依頼を渡されてしまったらしい。とはいえ、困っている人がいるのも事実。

 俺は黙って依頼をこなすだけだ。


「さて、そろそろ着くんだろ?」

「ああ、この辺りのはずだ」


 街を出て数十分。

 木々が生い茂り、立派な門が見えてきた。

 郊外の豪邸という触れ込みは、どうやら嘘じゃないらしい。


「依頼人さんから貰った鍵で門が開くはずなんだけど……」


 貰った鍵を鍵穴に差し込むが、反応がない。

 鍵が刺さるということは鍵の形状は合っている。だというのに開かないということは……何か細工が加えられているんだろうか。


「なんだ、開かないのか?」

「ああ……そうだな」

「おう、そうか。ちょっと退いてくれ」

「……?」


 クラノスの言葉を聞いて、俺は素直に門の前から動いた。

 瞬間。

 彼女の大盾に見覚えのある赤と黒の輝きが集まっていく。もしかして!


「クラノスちょとま――」

「おらァアアア!」


 盾が門を破壊した。

 普通なら鍵の部分を潰すとか、そういう配慮があると思うのだが。なんせここにいるのはクラノス。


 門ごと吹き飛ばした。


 それはもう見事に。


「なんかかてぇなァ! この門!」

「あのなぁ……一応、人の所有物なんだけどどう言い訳すれば」

「テキトーに幽霊が強かったとかなんとか言っとけば――ん?」


 なんて話していると、警報のようなものが鳴り響く。

 耳をつんざく高音。

 ひとしきり音が響けば、既に形をなくした門の奥、地面から何本もの腕が突きあがる。しかも、ただの腕じゃない。


 白骨化したそれだ。


 片腕が外に出れば、頭が出現。スケルトンが何十匹も出現した。番犬代わり……というわけか。

 さて、一体一体はさほど脅威でもない。

 しかし、この数を相手にするとなれば……それなりに苦労しそうだな。


 フードの内に手を突っ込んで、臨戦態勢に。

 よし、やるか――。


「どけ雑魚共!」


 雷鳴が轟く。

 クラノスの姿はもうそこにはなく。


 勢いよく飛び上がった彼女は中央に着弾。そのまま無差別的にスケルトンたちを駆逐していった。

 スケルトンたちももちろん抵抗する――が、彼女の鎧の前では歯が立たないらしい。彼等の持つ剣は折れ、矢は弾かれ、そして何倍ものカウンターとなって身体が打ち砕かれる。


 凄まじい戦いぶりだ。

 流石はSランクといったところだろうか。


 時間にして10秒ほど。

 あれだけいたスケルトンたちは一体たりとも立っていなかった。


「よし。行こうぜ」

「あ、ああ……」


 これじゃあ盾というより剣だな。

 心の中でツッコミを入れて、俺とクラノスは屋敷の中に足を踏み入れた。

 当然のように扉も開かなかったのだが、クラノスが破壊した。木っ端微塵に。


 もう彼女の破壊癖を止めるのは諦めた。

 それよりも、さっさと元凶を見つけてなんとかした方が効率がいいだろう。


「……」

「どうしたんだ? 気になることでもあんのか?」

「いや、見覚えがある気がして」

「ふぅん?」


 この屋敷だが、不思議と初めて来た気がしない。

 何度か訪れているような、そんな既視感を覚えた。気のせいだろうか?


「ま、さっさと幽霊を見つけて――」

「え?」


 前を歩いていたクラノスが突如姿を消した。

 焦るな、クラノスが消える直前僅かに魔法の気配を感じた。つまり、転移系の魔法でクラノスと俺が分断されたということ。


 クラノスに気取られず転移を成功させる。かなりの使い手だ。

 しかし、彼女が気がつかなかったということは同時に害意がないことの証明だと思われる。殺意や敵意といったものが含まれていれば、Sランクのタンクならばまず防ぐ。


 彼女にその気がなくても、オートディスペル、オートリジェネを搭載したタンクが遅れを取るわけがない。それにそもそも転移系は攻撃には向いてない。


 結果的に、攻撃に繋がることはあるが……俺がクラノスに攻撃を返したみたいに。


 とまぁ、あーだこーだと理屈で考えたけどクラノスなら大丈夫だろう。それこそ、誰かを庇って底なしの谷に落ちでもしない限りは。


 心配するなら自分の心配だな。

 高位の魔法使いがいるということ。そして、戦力を分断するという戦略的思考を持っていること。

 かつ、スケルトンがいた。となれば、敵の正体も察しがつく。


「リッチだな」


 リッチ。

 魔法使い、その中でもとりわけ死霊魔法を専門にした魔法使いがたどり着いてしまう禁忌の1つ。

 不死者への扉を開いてしまった者。

 それがリッチだ。


「御名答」


 屋敷の天井から低い低い声が聞こえた。

 俺は歩きつつ、周囲を警戒する。リッチか、厄介だな。


「そう緊張なさるな、お客人。大人しく帰るならば命は見逃そう。しかし、これ以上我が領域を犯すのならば……魂を持って償わせようぞ」

「……」


 返事はしない。

 魔法使いを相手にするというのは、極論こういうことだ。相手に主導権は握らせない。相手のペースに乗らない。


 これが大前提。


 それに返事をすることで作動する術式を相手が用意している可能性だってある。

 まぁ、相手の予想に乗らないことが大切だ。


 さて、どうするか。

 声が聞こえるということは、何らかの魔法が使われているということでもある。それを解析して探知するか……?


 いや、でも下手に干渉するのは危険だな。


 なら足で稼ぐしかなさそうだ。

 ……いや、違うな。


「……クラノスは正しかったのか」


 遅れて、クラノスと同じ結論に至った。

 もちろん、彼女の考えは論理的ではないが奇しくも彼女は最適解を導いていたらしい。獣の勘か何かだろうか?


 俺はローブの内側からサファイアを取り出して屋敷の部屋に向かって放り投げた。


 もちろん、やることは決まっている。


「代償魔法」


 爆破。

 そして宝石が破壊されたことによる氷塊出現。それを代償。次いで魔力を抽出。そのまま錬金。宝石を再生成。

 更に爆破。

 氷塊。

 爆破。

 錬金。

 爆破。

 氷塊。

 爆破。

 錬金。


 俺にとってお馴染みのループコンボだ。

 もちろん、部屋は滅茶苦茶に破壊される。それが俺の狙いだ。

 リッチの話を聞いた感じ、彼はこの家を大切にしているみたいだった。なら、徹底的に破壊してやる。


 そうすれば、相手からこちらに何らかのアクションがあるはずだ。

 やってることはどっちが悪者か分からないけど。


 なんて思っていれば、ほら来た。

 警備兵代わりのアンデッドか。予想通り。幽霊屋敷と聞いた時から、ゴースト、レイス、アンデッドに対しての有効打は確保している。


 宝石ループコンボにリソースをある程度割きつつ、俺はもう1つのループコンボを用意する。


「洗礼詠唱」


 呪符を自分を取り巻く4点に配置。

 そのまま呪符を起動。

 4つの蓄音機。それが同時に洗礼詠唱と呼ばれる祝詞を言祝いだ。


 そうすれば、蓄音機によって詠唱はなされ。4点の蓄音機が囲む領域を強制的に浄化。

 中に踏み入ったアンデッドを癒やす。

 アンデッドやゴーストは物理攻撃などには滅法強い。しかし、浄化や清める攻撃には滅法弱い。それを利用すれば、並の洗礼でも彼等にとっては致命的な一撃となるだろう。


 そしてアンデッドは肉体が浄化されれば魂となる。この魂をネクロマンサーは利用するわけだが。

 もちろん、俺とて死霊魔法に適正を持つ。


 故に、これを利用する。

 

 浄化された空間に次々と足を踏み入れるアンデッドたち。彼等は思考能力に乏しいのだ。

 術者であるリッチの命令も、単純なものしか従えない。まぁ、複雑な命令を与えることもできるが手間だ。


 基本雑兵だし。


 で、こうしてアンデッドの魂がたくさん溜まってきたわけだ。

 これをどう利用するのかという話しだが。


 もちろん。魔力として扱う。


 死霊魔法とは、何も死霊を従える魔法だけではない。死霊を、どう使うかという魔法なのだ。故に、その魂を……魔力タンクとして消費することもできる。


「魔力ブースト、吹き飛べ」


 貯まった魂すべてを使って、爆破の魔力を底上げする。

 そして、その魔力はもちろん無駄にはしない。

 魔力抽出と錬金、宝石魔法によって使い倒す。つまり、リッチが兵隊を送り込む度に、俺の扱う魔法の威力が上昇する好循環となったわけである。


 ほとんど無限に、俺はこの家を破壊し尽くせるというわけだ。

 やっぱり、今回は俺が悪役かもしれない。


「さて、どうする。このまま雑魚を俺に差し出し続けても利用するだけだぞ?」


 見ているであろうリッチに、俺は相談を持ちかける。

 意訳すると。さっさと出てこいクソ野郎。と同じ意味だ。……クラノスの口調が移ってきたかもしれないな。


 と、言いながら回ごとに威力が増すループコンボを三巡ほどさせれば景色が変わった。


「……ようこそ、お客人。随分と自由な方らしい」

「ああ、お招きありがとうございます。素晴らしいもてなしでしたよ」


 薄暗い部屋の奥に居座るのが、恐らくリッチなのだろう。

 随分とお怒りのようだが……。まぁ、それもそうか。

 ローブの内側に手を突っ込む。


 臨戦態勢。

 このリッチが幽霊屋敷騒動の元凶で間違いない。

 なら、倒す。

 そしてDランクになるんだ。


 今、俺とリッチの戦いが始まろうとしていた。

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