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12.Dランク昇格試験

「マスター。さ、どうぞ。肉を食べましょう。肉を。力になりますよ」

「……」

「何見てんだ! マスターにガンつけてんじゃねぇぞ雑魚共がァ!」

「……」

「さ、マスター。人気は払っておきました」

「……落ち着けるか!」


 俺はテーブルを叩いて立ち上がった。

 イスに座るわけでもなく、俺の近くに腰を降ろした彼女は俺には騎士が如く。それ以外の人間には悪魔のように接していた。


 あの衝撃の告白から十数分。

 クラノスは人が変わったようだった。そんなクラノスを前にして、俺は当然落ち着けるわけもない。


「クラノスとパーティーを組むのは構わない。むしろ歓迎するよ。でも、クラノスとは主従関係じゃなくて、もう少し気安い関係になりたいんだが……」

「……しかし、これが正しい騎士の在り方だとロウェンに教わりましたよ」


 あぁ……一応クラノスも努力したんだな。

 俺は頷いて言葉を返す。


「騎士はそうだと思うけどさ。クラノスと俺はパーティーの仲間。つまり、相棒になるんじゃないか?」

「……!」


 クラノスの表情を見る限り、どうやらピンと来たらしかった。


「相棒か! 相棒ってのもいいな! ああ、いい! そうだ、そうしよう!」


 勝ち気な笑みを浮かべてクラノスは豪快に笑った。

 きらりと光る八重歯がどことなく彼女らしい。俺はついそんな姿をまじまじと眺めてしまう。


 まさか、あの鎧の中がこうなっているとは俺はまったく想像できなかったからだ。

 もっと大柄で、スキンヘッドの、身体中傷だらけな筋肉ダルマが出てくるのかと思ったら……こうだ。

 思い返してみれば、確かに声は中性的だった気もする。


 でも、鎧でくぐもってたし毎度毎度叫んでいたからそういうハスキーボイスかと思い込んでいた。


「しかし、急だな」


 それはともかく。

 俺はイスに座り直して話しを戻した。

 確かに俺はクラノスの命を助けた。しかし、俺もクラノスに助けられているわけで、それだけを理由に俺の盾になるなんていうとは考えにくい。


 だからその理由を俺は探った。

 クラノスを信用していないわけではない。まぁ、性格と行動に難はあるが、その根底には誰かを守りたいという想いがあることを知った。


 だけど、だからといって鵜呑みにするのも危険ではないだろうか。


「ん? メイムの盾になるって話か?」

「ああ」

「オレに勝った。オレの命を助けた。それだけで普通なら傅くに値するだろ? だがまぁ、正直に言うと惚れた!」

「え……?」

「男気にな! だからオレはメイムに着いていこうと思ったのさ」


 ちょっと面と向かって豪速球を投げられたが……。理由は理解できた。

 真っ直ぐで、疑いようもない。


「しかし、メイムの方こそよくすんなり受け入れたなァ? そーいう懐の深さがオレは好きだぜ?」

「クラノスは強いし、それに()()()じゃないって知ってるからな」

「……」


 と、こちらも理由を開示すればクラノスはポカーンと口を開けて呆けていた。


「どうしたんだ?」

「いや、なんでもねぇよ。さて、メイム。早速だが……」


 兜を被って、クラノスは立ち上がった。

 俺はその様子を目で追う。何をするつもりなんだろうか。


「オレがSだってのに、主のメイムがいつまでもEじゃ、カッコがつかねぇだろ。Dランク昇格試験、受けよーぜ」

「Dランク昇格試験……でも、確か受験条件としてBランク以上の冒険者から推薦を……って、あ、そうか」

「そ、オレが推薦する。オレに勝ったメイムならラクショーだぜ?」


 新人試験で決まったランクは、未来永劫そのランクというわけではもちろんない。

 基本的にAまでは試験というものを受け、実力が認められた場合は1つ上のランクに更新となる。


 試験を受けるには決まった条件があり、Dランクの場合は俺が述べた通り。

 もちろん、クラノスが推薦すれば試験を受けることができるというわけだ。


 クラノスは俺の返事を待たずに、俺の背を押してフィリアさんの元へと届けた。


「お話、ここまで聞こえてましたよ。まさかクラノス様がメイム様と組むとは……。驚きですね?」

「オレ自身驚いてるよ。ま、惚れたもんは仕方ねぇだろ!」

「ふふふ。ええ、そうですね」


 で、話しを聞いてたなら分かってるだろ? とフクラノスが言えば相変わらずの経済的笑顔で、フィリアさんは紙束をカウンター上に並べ始めた。


「はい。では、このフィリアがDランク昇格試験の内容を決めさせて頂きますね」

「お願いします」


 紙束を凄まじい速度でめくっていきながら、フィリアさんは目を細める。

 どの依頼を選ぶか、吟味しているのだろう。

 昇格するランクごとに試験の内容も変わっていくが……。Dの場合はDランク相当のクエストクリアだ。


 正直Dは誰でもあがることができると言われている。

 特に、強いパーティーに恵まれればEになった初日でDになる人もいるとか。本当に難しくなるのはCランクから。


「では、こちらにしましょう」


 ひらりと、紙束から依頼書を取り出したフィリアさん。

 そこの見出しには、幽霊屋敷の幽霊退治依頼と書かれていた。


「いかにもDランクっていう依頼だなァ?」

「ええ、そうでしょう? この依頼のクリアを以てメイム様をDランクに認めます。詳しい話は依頼書に記載されている依頼人を訪ねてくださいまし」

「分かりました。ありがとうございます!」


 俺は依頼書を受け取ってフィリアさんに礼を告げた。

 初めての昇格試験。

 初めての依頼人とのやり取り。


「よし行くかっ!」


 そして何より、初めての仲間との依頼だ。

 初めてだらけの中、心なしか俺の気持ちも弾んでいた。俺とクラノスは冒険者ギルドを出て、依頼人の元へ向かう。

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