はじまりの初日
時間帯的に現在はこんばんはですが、ここはいつもどおりのご挨拶を。
こんにちは、葵枝燕です。
この作品は、空乃 千尋様とのコラボ企画となっております。空乃様撮影のお写真をお題に、葵枝燕が文章を綴る——題して、[空翔ぶ燕]企画です。企画名は、僭越ながら私が名付け親です。一応、由来があるのですが——長くなると思うので、後書きで披露させてくださいませ。
そんなコラボ企画第一弾の今回のお題が、「海に浮かぶ朝陽(二〇一八年の初日の出)」です。本文の最後の写真が、お題として提供いただいたものとなっております。
本文中間および最後に、写真が入っております。ぜひ、合わせてお楽しみくださいませ。
「うぅ……さっむー」
空を、海を、町を、まだ闇が支配する時間。車を出たあたしを、容赦ない寒さが襲った。手の平をこすり合わせたり、息をハーッと吐きかけてみたり——色々やってはみたけれど、一時しのぎにしかならない。もっとも、冬場でも気温は十五度前後のこの島で「寒い」なんて言えば、北の雪国に住む方には申し訳ないくらいなのだけれど。
「そんな恰好してちゃ、そりゃ寒いだろうよ」
あたしの思考は、車から降りた別の存在の声によって、一時停止する。
ネイビーのダウンコート、その下には黒の長袖ハイネック、さらにその下には発熱と保温性のあるインナー、黒い長ズボンに、足元は黒のハイカットスニーカー、靴下は多分ハイソックス——そんな出で立ちの彼は、呆れ顔であたしを見ている。しかも、首にはグレーのマフラーまで巻くという、まさに寒さ完全防備スタイルだ。
一方あたしは、キャメル色のトレンチコート、その下には白黒横縞の長袖ハイネック、さらにその下にはタイツ素材の黒いインナー、紅色のミニスカート、足元は少しくすんだピンク色のショートブーツ、そして、チョコレート色のタイツ——そんな恰好である。ちなみに、マフラーは巻いていない。代わりに、オリオン座を模ったネックレスをしている。確かに、まだ寒い時期、しかも、まだ陽も昇っていない時間に、この恰好はおかしいかもしれない。
でも。
たとえ寒くても、あたしは、この恰好をしたかったのだ。
空が、次第に明るくなってきた。海面がキラキラと輝きだす。
いよいよ、そのときが来ようとしていた。
強く輝く太陽が、水平線からゆっくりと、その姿を現した。
初日の出、ご来光だ。
周りにいた人々が、それぞれに喜びの声を上げる。カメラのシャッター音が響く。
「きれいだね!」
「ああ」
「ほんと、晴れてよかったぁ」
「そうだな」
あたしと彼は、そんな言葉を交わす。こうして一緒に初日の出を拝みに来るようになって、これで五回目の元旦だ。何回目になろうと、あたしは喜びいっぱいだったし、彼はいつも反応が薄い。
でも、それでも、始まったばかりの今年は、いつもと違う気がした。
「来年も」
「ん?」
珍しく彼が相槌以外の言葉を発したので、思わず訊き返していた。表情が乏しいというか、変わることがほぼない彼の顔からは、何もうかがい知ることができなかった。
「その先もずっと——」
彼の目は、朝日が眩しい目の前の海へと向けられている。
「二人で、初日の出見られたらいいな」
あたしの中で時間が止まった。でもそれは一瞬のことで、その言葉を理解したあたしがこぼしたのは、
「プフッ」
と、いう小さな笑い声だった。あたしに視線を移した彼が、不満げな顔をする。
「なんで今ので笑うかな」
「ごめんごめん」
彼の言葉は嬉しい。とてもとても嬉しい。でも、だめだ。
「二人だけは、寂しいかなぁ」
「……え?」
キョトンとする彼。きっと、あたしの言葉の意味を摑みあぐねているのだろう。
彼とあたし。二人で見る初日の出はきっと、いつだってきれいだろう。海だって、陽の光だって、全てが輝いているに違いない。
でも——彼とあたしの間に、かけがえのない存在がいたら、きっとそれは、二人だけの今よりずっともっと、素晴らしいものになるんじゃないか。
「なーんてね」
そう言って、踵を返して歩き出す。彼が慌てて追いかけてくる気配がした。
「おい、さっきの言葉、あれ——」
「そんなことより、早く初詣行こ。駐車場混むと面倒でしょ?」
答えは教えてあげない。彼が考えて導き出さなきゃ、意味がないから。
来年の今日、彼とあたしの間に何か変化があるのか、あるとしたらよい変化ならいいな。
そう思いながら、あたしは車の助手席に乗り込んだのだった。
『はじまりの初日』のご高覧、ありがとうございます。
タイトルの「初日」ですが、作者としては「はつひ」と読んでいただきたいですが、色々と「はじまる」物語ですので、「しょにち」と読んでいただいても構いません。
さて。ここから色々語りたいので、お付き合いのほどを。多分、長くなります。
前書きでも書きましたが、この作品はコラボ企画です。名付けて、[空翔ぶ燕]企画。「空」=空乃様から一文字拝借、「翔ぶ」=お題から想像力膨らませて文章書くイメージ(「翔」という字には、「とぶ」の他「めぐる」や「さまよう」という意味もあるそうで、その意味も含めて「翔ぶ」を採用しました)、「燕」=葵枝燕から一文字——そんな由来で生まれた企画名です。
そんな今回のお題は、「海に浮かぶ朝陽(二〇一八年の初日の出)」でした。本文最後の写真が、お題となったものです。
私は毎年、家族で、海を見下ろせるゴルフ場近くに初日の出を見に行きます。今年は、新型コロナの影響があり行けませんでしたが……。今回のお話を書くにあたって、初日の出を家族で見に行った経験を思い出したりもしました。
そして、本文中に語り手である「あたし」が言う、「二人だけは、寂しいかなぁ」という台詞ですが、最初は「次は三人で見たいなぁ」だったんです。ですが、私自身が二人姉妹な所為か、一人っ子は寂しくないか?、となり、今の台詞に落ち着きました。
お題をいただいてしばらく経って、お風呂の中で漠然と浮かんできたお話が、今回のお話です。ちなみにそのときは、「あたし」のお腹には「彼」との間にできたかけがえのない存在が——なんて展開を考えていた気がします。
さて。これで語りたいことは語れたでしょうか。何か忘れてる気がしなくもないですが……思い出したら書きたいと思います。
最後に。
空乃 千尋様。ステキなお題をありがとうございます! そして、本文中間にもさらに一枚添えてくださり、ありがとうございます! おかげで深みが増したような気がします。拙く至らない点もあったかと思いますが、色々相談に乗ってくださいましたこと、感謝してもしきれません。またコラボできますように。それから、いつもありがとうございます!
そして。ご高覧くださった読者の皆様にも最大級の感謝を。もしご感想などをTwitterにて報告される際は、ぜひ「#空翔ぶ燕」を付けて呟いてくださいませ。
拙作を読んでくださり、ありがとうございました!