-40- 再起
俺とリゼ、そしてヤリエスが飛んだ先は勇者都市ロリドン。そしてそのロリドンでも俺の知る最高戦力がいる場所である㈱勇者興業の社長室だった。
突如現れた3人の魔族の姿を見て目を丸くさせたスズだったが、俺とリゼの状態を見て全てを察したようだった。
「随分とやられたね」
スズは全身が焼き爛れた俺の身体を見て、他人事のように笑った。人によっては冷酷に感じるかもしれないが、下手に情けをかけられるよりは救われる。
スズは社長椅子から立ち上がると、壁に懸けられた刀を手にし、腰に差した。
「元魔王ともあろう方が勇者に助けを乞うとは。あれだけ魔王とはどうあるべきかを語っていたというのに、能力だけではなく誇りも失ってしまったようだ」
ヤリエスは俺の行動を非難した。
「魔王の矜持など知ったことか。他人の力を借りようともお前だけは絶対に殺す。俺のつまらぬプライドよりも、リゼの敵を討つことの方が大事だ」
俺のことを見下ろすヤリエスを、それよりも強く睨み返した。
「俺の心配をするよりも自分の心配をした方が良い。お前はもうこの街から出られない」
「何馬鹿なことを……」
ヤリエスが鼻を鳴らした瞬間、血飛沫が上がった。瞬きをして目を開けた時にはもう、スズがヤリエスとの間合いを詰め、刀を振り下ろしていた。ヤリエスの竜鱗を両断してはいたが、肉に到達したのは切っ先のみ。
「硬いね」
スズは半歩後退すると、柄を引き、切っ先をヤリエスに向けて突きの姿勢を取った。そして放たれる突き。
「雷突」
空気を切り裂いた摩擦によって空気を燃やし、バチッと燻るような音を立てた。それは稲妻が落ちる前の前触れに聞こえ、そして白く光る直線は稲妻そのものに見えた。
「竜角山」
ヤリエスは頭を引き、頭角でスズの突きを受けた。切っ先同士が衝突し、弾かれたのはヤリエスの方だった。身体が後方へ跳び、建物の壁を突き破って外へ放り出された。
「ルシフ君がここまで一方的にやられるとは思ってもいなかったな」
「俺の受けたダメージは俺がヤリエスに与えたものだ。アイツは互いのダメージを入れ替えるスキルを持っている。触れられるなよ」
「ホント負けず嫌いだね君」
スズは呆れたように眉を下げた。
「さて君の敵を討ってしまうけどいいのかな?」
「問題ない。アイツに死を与えられるのなら、手段は選ばぬ」
スズは僅かに頷き、ヤリエスを追って外に出た。
スズがいなくなり、社長室に静寂が訪れたのも束の間、直ぐに階段を駆け上がってくる音が聞こえた。上の階から壁が壊れる音が聞こえれば、人が集まってくるのも当然だった。
「大丈夫ですか!?」
現れたのは2人の勇者。ジークとマリアだった。
「って社長じゃねーか」
見知った顔の2人が地面に倒れていることに気が付くと、彼らは慌てて駆け寄ってきた。
「スズが今の魔王と戦っている。増援を出せ」
ジークに現状を伝える。スズと言えど1対1でヤリエスと戦うのは骨が折れる筈だ。それどころか負ける可能性すら孕んでいる。卑怯と言われようが、複数人でヤリエスを叩く方が確実だった。
「マリアは回復魔法を使える勇者を呼んでくれ。リゼに治療を……」
俺のことはどうでも良い。まずはリゼに救命措置を施したかった。しかしマリアは首を横に振った。
「もう間に合わない……」
「いいから呼べ。やってみねば分からぬだろう」
「死んだ人を生き返らせる魔法なんてない……」
俺はリゼの頬に手を添えた。既に温もりがなく、氷のように冷たくなっていた。慌てて首の頸動脈に指をあてるも脈拍がない。既にリゼの心臓は鼓動を止めていた。
「……分かった。なら俺を回復させろ。満身創痍の状態であるが、数回だけでも魔法が使える状態には戻せるだろう」
俺はリゼの加勢に行つもりだった。誰が殺しても良いと考えてはいるが、出来ることならば自分の手でヤリエスを下したい。
「無理したら社長も死んじゃう……」
「ふっ。本当に貴様らは良い奴だな」
ジークとマリアとの出会いから、彼らとの付き合いを逡巡した。俺たちをぼったくりから助けたことから始まり、リゼに会いに行く時にも自身の能力を貸してくれた。自分の利益など省みず、他者を手助けするその姿勢に勇者の本質を見た。
「だがそれでも良い。とびきり優秀な術師を呼んで来い」
折れたマリアが1人の女を連れて来たのは数分後だった。短時間で呼べるということは同じ会社に所属している勇者なのだろう。
「ひどい怪我」
女は俺の体の状態を見て口を押えた。全身の火傷に加えて体内も焼かれている。正直、自分でも生きていることが不思議なほどのダメージだった。
女は慌てて俺の横に座すと、両手をかざした。女の手から発生した光は俺を包み込むように覆い、まるで繭のような形に落ち着く。その中にいると徐々に痛みが和らいでいき、ダメージが回復されている実感があった。
それでも重度の火傷は治療できないようで、ある一定まで回復された後はいくら時間が経過しようとも回復の兆しが見られなくなった。この女の回復魔法ではこれが限度らしい。
しかしこれで充分だ。僅かに痛むが自由に体が動く。肉弾戦に持ち込まれれば勝ち目はないが、近づけさせずに魔法を使用できれば戦える。
「礼を言う」
俺は立ち上がると、スズが空けた穴から外に出た。
ロリドンを吹く風が俺の肌を撫でた時に激痛が走ったが、俺は歯を食いしばって主戦場に向かった。




