-01- 魔王ルシフ・テスタロッサ
ルシフ・テスタロッサ
種族:魔人
職業:魔王/社長
Lv.6
魔力:2250/2250
スキル:【生殺与奪】
見るも無残なステータスに成り下がった。あれだけ誇らしかった魔王という職業が、こんな低位なステータスのせいで滑稽に見える。
魔王とは世界中から畏怖を集めた者のみに与えられる称号だ。この称号が俺に手元にあるということは、まだ世界中から恐れられているということだった。
「リゼ。この会社に残ったのは誰がいる」
「ルシフ様と私のみです」
能力を回収すればいい。そう思っていたが、事はそう上手く運ばなかった。
会社に戻った俺を待っていたのは、部下たちの罵詈雑言だった。
ぶち殺すと息巻いて帰ったはいいものの、肌で感じ取った圧倒的な実力差に臆してしまった。
魔王として恥ずかしい。
急激に上昇したステータスを見て、俺の受けた処罰がどういったものか気が付いたのだろう。
あれだけ俺に羨望の眼差しを向けていたというのに、道端に落ちたゴミを見るような蔑視に変わっていた。
加えて、ステータスの低下に伴って幼体化した俺の体を見れば、仕方のないことだった。魔王に相応しい威圧的でダンディズムな風貌は影をひそめ、今の見た目は10歳の少年。誰が尊敬するというのだ。
社員はリゼを残して退職。その後は独立し、世界征服をするために散り散りになった。
犯人も捜すことが出来ず、魔王として世界征服を果たす言う夢は無残にも散ってしまった。
「すまなかったなリゼ。こんな社長で」
「後悔先に立たず、です」
リゼは俺のことを責めず、ただ笑みをくれた。
不甲斐なさに胸が締め付けられた。
見た目の年齢が下がったことが原因なのか、感情と涙腺がリンクしており、意図せず涙が零れ落ちた。
いかんいかん。俺はこれでもまだ魔王だ。袖で涙を拭い、リゼに向き直った。
「長い間ご苦労だったな」
最後まで社長として社員を見送ろう。
リゼは辞めると思っていたが返ってきた回答は予想しえないものだった。
「私は辞めませんよ。一応条件を提示させては頂きますが」
リゼは変なところで形式ばるきらいがある。
何も言わずについて来てくれればいいじゃん。
「何だ。言ってみろ」
内心はホッとしていた。辞めない可能性をちらつかされて、餌を与えられた家畜の様に飛びつきそうになる気持ちを押さえ、憮然とした態度で聞く。
「残業なし。年間休日数はそのまま。有給消化は月2回。私の進言に耳を貸すこと」
リゼがつらつらと条件を並べていく。条件は1つと言っていたがどうも1つに聞こえない。
これを飲めば残りますよ、と言われていた。
ワンマン気質な俺はリゼの進言に耳を貸してこなかった。
それが不満だったのだと最後の条件で分かる。
「そして最後に1つ。ルシフ様がずっと子供の姿のままいて下さるのなら、いつまでも付き従います」
リゼは頬を赤らめながら言い放った。恐らく最初に並べた条件よりもこれが本命だろう。紅潮した頬を両手で押さえながら、俺のことをちらちらと見ている。目が合うと恥ずかしそうに目を背ける仕草は乙女そのものだった。
冷艶清美。
常に冷静で誰に対しても凛とした態度を崩さないリゼのこんな姿を見るのは初めてだった。
「いいだろう。その条件を飲む。これからも秘書として俺を支えてくれ」
「かしこまりました」
リゼはいつものように傅き、俺への忠誠を誓った。