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極東開花戦線 カムナビ  作者: スマ甘
3/6

激突

昨日の襲撃事件を受けて、イオニスは仲間達をブリーフィングルームに呼び寄せていた。


「イオニス。 一撃でエクゾスケルトンを破壊されたのは本当なのか?」


 破壊されたイオニスのエクゾスケルトンを見ながら、アルバート・メイソンは訊いた。


「ああ、目にも留まらぬ早さでフレームとモーターを破壊された」


 答えながら、イオニスはテーブルモニターを起動した。

 モニターから立体映像で映し出された映像は、イオニスの両目が録画していたもので、イオニスはその映像を遅めのスピードで再生させる。


「――これが、エクゾスケルトンを破壊された瞬間。 子供を車に叩き付けた時だな」


 説明した直後に映像は乱れ――イオニスのエクゾスケルトンは鉄くずに変わった。


「何も映ってない!?」

「そうだ。 どんなにスピードを落としても、映ってないんだ。 それに、面白い事もわかった」


 イオニスは映像を切り替え、エクゾスケルトンの損傷部位をまとめたデータを表示させる。


「損傷したアーマーの断面や、損傷の位置から攻撃の角度を割り出した。

 すると、この攻撃は当たった瞬間に湾曲(・・)し、生身の部分へ当てないように攻撃していたんだ。 しかも、オレの後ろの道路にはいくつかの亀裂があって、それを調べたら――オレが喰らった攻撃が貫通したものだったんだよ」


 断面図や図解を指差しながらイオニスが説明する間、アルバート達は唖然としていた。


「人を殺す気はないのね。 あの子供」


 ふと呟いたのは、女性兵士のカリーナ・リンチだった。


「ああ、塊の強奪だけが目的らしかった。 彼と交戦した他の兵士達も軽いケガで済んだよ」

「そういえば、あの塊は? 奪われちまったのか?」


 モニターに触れながら、イオニスは首を振った。

 そして、手にしていた塊をテーブルに置く。

 奪われたはずの塊がこの場にあることに驚き、アルバートとカリーナは目を見開く。


「何かあると思って、事前にすり替えておいたのさ」

「イオニスらしいっちゃらしいな……」


 やれやれといった風に、アルバートは肩をすくめた。


「塊はすぐラボの解析に回す。 それまでは、全員で本部周辺の警戒だ」

「じゃあ、わたしは市街地をパトロールするわ」

「俺は襲撃地点の調査でもする」


 その時、全員のD.N.Aに緊急通信が割り込み、視界にウインドウが表示された。

 映像には、炎に包まれたどこかの建物が映っている。


「湾岸の施設がアンノウンの攻撃を受けた! 頼む! 誰か来てくれ!」


 脳内に兵士の声と、爆発音が響く。

 映像には、炎を背にしてピエロマスクの目を光らせる少年の姿があった。


「嘘だろ!? あそこには曳航した豪華客船が係留されてるんだぞ!」


 アルバートは驚いていたが、冷静にエクゾスケルトンを装備して、アサルトライフルをチェックしている。

 事前にエクゾスケルトンを装備していたカリーナは、もうブリーフィングルームを出ていた。


「イオニス! エクゾスケルトンは俺の予備を使っていいぞ」


 アルバートがイオニスの回線に割り込み、ふざけながら言う。

 イオニスは、呆れながらため息をついた。


「お前のエクゾスケルトンは、胸がきついから嫌いだ――」


 ◇


 燃える施設を眺めながら、少年――神代 オウカは嘆息した。


 ――自分は、なんでこんな事をしているんだろう。

 そう思いながら、オウカは豪華客船を見上げた。


「――この船に用があるの?」


 施設の職員から奪い取った端末を見ていた時、一瞬だけ画面に影が映った気がした。

 殺気を感じたオウカは、夜霧桜を構えて瞬時に振り返る。


「――いい反応ね」

「殺気がしたからね」


 上から奇襲したカリーナが、装備したスタンロッドを叩き付けていた。

 オウカは夜霧桜でスタンロッドを受け止め、カリーナを睨む。


「D.N.Aを使ったからかしら? 一部のソフトウェアでは、D.N.Aの反応を探知するものもあるわ」

「そうなんだ。 でもボクは、D.N.Aなんて使ってないけど」

「あっ――そう!」


 カリーナは、エクゾスケルトンのアーム部分に増設されたスラスターを吹かし、強化した膂力(りょりょく)でスタンロッドを振り上げ、少年を宙に浮かせた。


「よっと……」


 だが、少年は謎の力を使い、空中に――立つ(・・)


「ひと筋縄ではいかないようね」


 カリーナは、空に浮かぶオウカを見て笑った。


「ボクは早く帰りたい」


 オウカはカリーナを見下ろしたまま呟く。


「船を取り戻したいの?」


 カリーナに訊かれ、オウカは首を振った。


「違うよ」


 そう言ってオウカは懐から小型のリモコンを取り出し、スイッチを押す。


「それは――!」


 直後に爆発音が聞こえ、あとから振動が伝わってきた。


「船を爆破するなんて!」


 豪華客船は、各所から赤い炎と黒い煙を吐き出していた。


「人払いは済ませてある。 あとは、そっちが居なくなってくれれば――」


 オウカが更にボタンを押そうとした瞬間。

 どこかからスモークグレネードが投げ込まれ、濃密な煙がオウカを覆った。


「させるかよ!」


 エクゾスケルトンの脚部スラスターを吹かし跳躍したアルバートは、オウカ目掛けてスタンロッドを突き出す。

 オウカはスモークグレネードで怯んでいて、反応が遅れていた。


「カリーナは非戦闘員を避難させとけ! 足止めはしてやる!」


 スタンロッドのグリップから、確かに手応えを感じた。

 舌なめずりしながら、アルバートはオウカの出方を伺う。

 

「了解」


 走り出したカリーナを見送ったあと、スタンロッドを突き立てられても平然としているオウカを見て、舌打ちする。


「そんなに睨まないでよ。 死人もケガ人も0じゃない」


 2人は互いに間合いを取り、互いに得物を構え直す。


「でもな――お前がやっている事は犯罪なんだよ」


 アルバートに言われて、オウカは大げさに笑う動作をした。


「あんたらの活動も、見方変えたら同じじゃない? 物とか壊してるんだしさ」


 何も答えないまま、アルバートは踏み込む。

 オウカと、まじめな会話はできないと察したからだった。


「――当たり?」


 しかし、アルバートが加速する寸前、隣にオウカが立っていた。


「――!?」


 自分よりも速く動いたオウカに、アルバートは驚く。

 そして、オウカが繰り出した鋭い蹴りを喰らっていた。


「大人を舐めるな!」


 アルバートは体勢を立て直さずに、設置式の非殺傷型地雷を投げた。

 ――至近距離での投擲。 普通なら避けられないはずだ。


「うわっ……!」


 ただし、オウカは普通ではないらしく、投げられた地雷を簡単に避けてみせる。


(強引に避けたんだな)


 オウカは地雷を回避するため、強引に体を反らしていた。

 そのため、アルバートに反撃できないようだった。


(その隙に――!)


 アルバートは、オウカの背後にある車に視点を合わせる。

 すると、光学迷彩によって車のドアに偽装されたワイヤーが放出され、オウカに向かって飛翔した。


「罠とかずるい!」


 オウカは夜霧桜でワイヤーを叩き落とすが、その瞬間、アルバートは間合いを詰めている。


「――捕まえた」


 アルバートは刃を掴みながらオウカの足先を踏んで、動きを止めた。

 刃を展開できないため、桜の花びらのような謎の物質は放出できずにいる。


「すごい体幹だね」


 びくともしないアルバートに、オウカは舌打ちしていた。


「ありがとう。 ――こうやって掴んでいれば、刃の展開もできないだろ?

 あの花びらは、ナノマシンの一種だと思ったからな。 強引な方法だが、対策は考えておいたんだよ」


 アルバートが説明した直後。


「でも、他に手はあるのよね」


 オウカは呟き、夜霧桜から手を離した。

 そして、オウカが着ているコートが、花びらとなって散る。


「仕込みか――!?」


 とっさに夜霧桜を捨て、アルバートはスタンロッドを振るった。

 だが、不可視の何かにスタンロッドは阻まれ、折れ曲がり、破壊される。


「ボクも戦いには慣れているので」


 ――マスクの向こうで、オウカは笑みを浮かべる。


 オウカの細い体を覆うように舞った花びらは、やがて紫に金の装飾が施された鎧へと姿を変えた。


「シャレた鎧だな!」


 ――背中と脚部スラスターを最大出力で起動。

 危険を感じたアルバートは、後ろに飛び退いて仕切り直そうとした。

 しかし、鎧を纏ったオウカは、エクゾスケルトンより速く動いて、アルバートに肉薄する。


「遅いよ」

「こいつ……!」


 ――なんてスピードだ!

 オウカは手を伸ばし、アルバートの顔を掴んだ。

 そしてアルバートは、自分の頭の中に熱が広がるような違和感を覚えた。

 その違和感の正体は――


「――てめぇ! オレのD.N.Aをハッキングしやがったな!」


 熱の正体に気付いたアルバートは、オウカの腕を掴んで振りほどこうとする。

 けれど、オウカの鎧はとても頑丈で、アルバート程度の力ではびくともしない。

 そして、D.N.Aのシャットダウンもできなかった。


「おかげで、本物のありかがわかった」


 あの塊について話したオウカの声は、どこか不機嫌そうだった。


「アルバート!」


 オウカがアルバートを地面へ叩きつけようとした瞬間、カリーナが姿を現し、ライフルを発砲する。


「時間切れか……」


 オウカはアルバートから手を放して跳び退き、夜霧桜を手元に呼び寄せながら、コート姿に戻った。


「――じゃあ、またね」


 そのあと、ひらひらと手を振りながら桜吹雪に姿を変え、逃亡した。


 ◇


「子供だからと油断してやられるなんて――かっこ悪いよな」


 HSS本部に戻り、医務室で診察を受けていたアルバートは、自嘲気味に笑いながら言った。


「いや、年頃の子供が相手だったんだ。 誰でも躊躇するさ」


 イオニスは俯くアルバートの肩を優しく叩く。


「そうよ――あなたはよくやった。 体に異常は無いんだし、それで良しとしましょ」


 カリーナは、アルバートにコーヒーの飲料パックを渡し、微笑む。


「早くあの子供を捕まえましょう。 やっていい事と悪い事を教えてあげないと」

「ああ、そうだな」


 イオニスは、HSSが使うソーシャルクラウド上にアップロードされたアルバートの映像にアクセスし、オウカについて考察することにした。


「やはり、あの杖やコートはナノマシンだったのか?」

「そうだ。 膨大な量のナノマシンが集合して、杖やコートになったんだろう。 だが、そんな事ができる技術なんて、見た事がない」


 ナノマシンは、基本的に有限である。

 体内を流れるわずかな電流を受け取って充電することはできるが、ナノマシンそのものの耐久限界は伸ばせない。

 安定した状態でD.N.Aを使うためには、定期的に新たなナノマシンを投与してもらう必要があるのだ。


「あのナノマシン……アーティファクトをどうにかしなくてはな」


 イオニスがぽつりと呟いた時、カリーナが何かを思い出し、クラウドデータを漁り始めた。


「カリーナ?」


 イオニスがカリーナに問いかけると、カリーナは無言のまま何かの映像を転送してくる。


「アーティファクトってキーワードで、ひとつ思い出したのよ」


 カリーナが送ってきた映像は、先月に起きた事件のものだった。


「これはあれだろ? 変な日本人の女が、ロボット達と一緒にナイル川連合の基地を攻撃したやつ」


 映像の再生を開始し、イオニスとアルバートは、実行犯とされる女の姿を確認した。


「アジア系訛りのある英語を話す以外、別に変なところはない気が……」

「いや――」


 イオニスは、映像を一時停止させ、女が握る剣を注視した。

 そして、刀身の辺りを拡大させ、2人に見せる。


「ここだ。 ほら、女が手にしたあの剣と、あの子供が手にした杖が似てないか?」


 イオニスが示したのは、刀身に刻まれた桜の紋章だった。


「似てるけど、偶然じゃないの?」


 カリーナは、指先で紋章の輪郭をなぞる。

 コンピューターによる解析では、杖と剣の紋章の形状は、完全に一致していた。


「あの女の武器も、ナノマシンの集合体って話しだったな」

「だから、この2人に何かの関係性はあると思うんだ」


 女と少年――オウカの画像を並べて表示させ、イオニスは見比べる。


「――もしかしたら、この2人は姉弟(きょうだい)だったりして。 仕草とか似てるところもあったし」


 カリーナがふざけながら言って、アルバートはうっかりコーヒーを吹き出しそうになった。


「勘弁してくれ……」


 笑いを堪えながら、イオニスはむせるアルバートにタオルを投げ渡す。


「まあ、2人が姉弟だったとしても構わないさ。 いっしょに行動してなさそうだし、何かつまらない事で兄弟喧嘩でもしたんだろう。

 どちらかが現れた時に、直接訊いてみればいいさ」

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