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その15 モブ令嬢のわたしはお茶会で第一王子と密会する

 特に何かしらのトラブルが起きることもなく、お茶会はつつがなく進行していった。

 わたしが担当していた考えたテーマは、新緑のお花畑だ。まだ若い緑の芝生の上で、屋外のお茶会。ドレスや礼服の鮮やかさが、お花畑に似てるなーなんて思ってそう提案したらお母さまからGOサインが出た。まぁ、そうは言ってもいろいろと手伝ってもらって、やっと形になったくらいだ。貴族って大変なんだなぁ。他人事ではないんだけどね。


「ニナ!」


 名前を呼ばれて振り返ると、次兄ことアークレ・シャルフ・ブルゴーが手を振って満面の笑みで近づいてきた。なんか怪しい。何だろ?


「お疲れ様です。アークレ兄さま。今日はお仕事はお休みですか?」


「ああ。今日はちょっとしたサプライズゲストのエスコート役でな」


 そう言って指し示す先には第一王子の護衛騎士筆頭のアシル様が軽く手を挙げて微笑んでらした。


「まあ! アシル様もいらしてくださったんですね」


「ああ。そうなんだ。あっちで話をしてくるといい」


「ありがとうございます。兄さま」


 言われなければ気付かなかった。来ている来客の方にはほとんど挨拶をしたと思ったのに。気配消してたのかな?


「アシル様、ありがとうございます」


「健勝のようで何よりだ。ところで、三十分ほど時間をいただきたいんだが大丈夫かな?」


「え? あ、はい」


 誘われるまま庭の隅にある四阿(あずまや)に向かえば、何か変な気配がして首を傾げた。一度後ろを振り返って、それから前を向くとなんとそこにはこの国の第一王子がいた。


「えっ?!」


 思わずはしたない声が出てしまったので、慌てて口を塞ぐ。

 リオネル王子は満面の笑みでわたしに近づいてきた。


「ニナ。会いたかった」


 何度も瞬きをしてこれが夢や幻ではないことを知る。アシル様を見れば、少し微笑んでいて彼が何かしらの工作をしてくれたことは想像に難くなかった。


「アシルが、いろいろ手配してくれたんだ。ここに一時的にめくらましの魔法をかけたから、少しの間だけなら二人で話をしてもいいって」


 そう言ってわたしに手を差し伸べる。本当に、夢みたい。思わずもちもちのほっぺを片手で引っ張った。


「何してるんだ? ニナ」


 それを不思議そうにリオネル王子が見ている。ああ、本当に本当なんだ。


「いえ、ちょっと、その、うれしくて」


 思わず本音がぽろりとした。今度は口を塞がなかった。

 リオネル王子は少しだけ目を見開いて、それからまた優しく笑った。ああ、夢かな。これ。

 四阿は少し小さい造りで、四本の柱に屋根が支えられていて壁がないものだ。ベンチとテーブルが申し訳程度に設置されているが、そこにはすでにお茶の準備がされていた。


「今日の時間を取るために仕事を頑張ったんだ。褒めてくれるかい?」


 そんなことを照れながら王子が言うので、わたしは何も言えなくて微笑むことしかできなかった。

 だって、ずっと脇役だったのだ。好きになった人にはいつも別のいい人がいて、諦めて後押しをしてそうやっていたのが前の人生だった。今の人生は別のものだってのは分かる。年齢を重ねるごとに前の人生の記憶が薄れていくのも。

 目の前のカップにあたたかい紅茶が注ぎ込まれて、そこから上がる湯気をみていると本当に夢の様にしか思えない。


「さっき」


「はい?」


「うれしい、って言ってくれただろ?」


 両手を握って、まっすぐにわたしを見て王子が言う。


「俺も、うれしい。君に、ニナに会えてうれしいんだ」


 本当に、すごくすごく嬉しそうに笑うから、錯覚しそうになる。王族の一人と、こうやって一対一で話をすることだって夢のようなのに、まるで、わたしのことが好きみたいに言うから。


「わたし、殿下のこと何も知りません」


「ああ、そうだな」


「わたしのどこが、いいんですか?」


 こんな質問、不敬極まりないと思う。でも、もうどうしても、聞かずにいられなかった。会いたいって思った気持ちも嘘じゃない。抱きしめられるのだって嫌じゃない。だって。


「俺たちはもっと、話し合うことが必要だな」


「へ?」


 予想外の答えが返ってきて、思わずうつむいていた顔をばっと上げてしまった。話、聞いてた?


「クォーカン、えっと、コーカンニッキ、だったかな? なんだか最近学院で、仲の良いもの同志でやるのが流行ってるらしい」


「はあ」


 気のない返事になったのはご容赦いただきたい。ていうか、なんだそれ。誰だ、広めたの。はっ! あの三人娘か?!


「それで王家のいろんなものを駆使してこんなものを作ってみた!」


 差し出されたのは一冊の本。恐る恐る開いてみれば、すべて白紙。……あ! これ、ノートか!


「これは対になっているんだ。俺が持っている方のものに書き込むと、ニナに渡したこちらに反映される。逆も然り。そういう魔法道具なんだそうだ」


 なる、ほど? そしたら直接受け渡しをしないから、二人だけでやり取りできるってこと?


「いろいろ考えたんだ。俺はニナに気持ちを押し付けすぎた。でも、俺はニナが好きなんだ」


 なんでだろう。なんで、こんなにまっすぐなんだろう。前の人生の分、ちょっとわたしがひねくれているせいもあるかもしれないけど、この王子様は本当にまっすぐにわたしを見て話をしてくれる。


「ニナとたくさん話がしたい。他愛のないものでいい。でも、今の地位ではそれは簡単に出来ないから」


 ただの男爵令嬢と王家の第一王子。

 それはずっと思っていること。

 この世界に生きている限り、この立場の違いは変わらない。


「だから、これでやり取りが出来たらと思ったんだ」


 わたしが何も言わないので、王子はちょっと不安になってきたらしい。いつもの自信に満ち溢れた姿とは違う、少し弱弱しい言葉に胸がちくんと痛んだ。だから、意を決して口を開いた。


「わたし、わたしも、殿下に抱きしめられるのは、嫌じゃないです」


 本当は遊びだっていいんだ。わたしはただのモブで、脇役でしかないから。ヒロインの誰かと結ばれて、王子が幸せになるならそれでいい。そう思ってた。そう、誤魔化してた。


「殿下が会いに来てくれるのも嬉しかったんです。でも、殿下が誰かに悪く言われたりするのは嫌です」


 それだけ言うのが精いっぱいだった。まだ、この心の奥にある気持ちを素直に伝えることは出来そうにない。


「コーカンニッキ、殿下から書いて下さるのでしょうか? わたし、楽しみにお待ちしてますね」


 ぎゅむっとノートを抱きしめる。顔を上げるのは出来ない。なんか、耳まで赤くなっている自覚はあるんだよ? すごく熱い。顔が。


「ニナ」


 やさしい声がわたしの名前を呼んでくれる。


「リオネル殿下」


 わたしが名前を呼び返せば、すごく嬉しそうに笑ってくれる。 

 ちょっと泣きたくなってきた。怖い目にあっても涙なんて流したこともなかったのに。


「抱きしめてもいいかな?」


 でも王子の続く言葉がそれだったので、ぱちぱちと何度か瞬きした後、ちょっと笑ってしまった。

 いつもは問答無用で抱きしめてきたのにね。だから、ノートをテーブルの上に置いてそれから両手をおずおずと広げてみる。


「はい」


 ぎゅうっと抱きしめてくれるその腕の強さが、今はそれだけは信用してもいいんだと思えて、ずっとこの時間が続けばいいのにな、なんて考えていた。


作者も予想外のふたりの両想い回。

でもまだニナには不安がたくさん。

そこは王子がこれから頑張ってくれることでしょう。

次回はお茶会反省会? 体育祭も差し迫ってきましたよ。

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