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7.精霊訪問

 パチッパチッ


 異世界の夜空は、とても綺麗に星が見える。目の端に映る焚き火の色も、良い具合に夜を演出してくれる。

(こっちの世界にも宇宙とか星とかは、やっぱりあるんだな)


 そんなことを考えながら、草原に横になる。


 そう、俺達が今いる所はすでに草原となっている。今日の昼までは森の中だったが、なんとか夜になる頃には森の外に出ることができたのだ。


「セス、そろそろ食事でもどうかな?」


 焚き火を挟んで、向こう側から声をかけてきたのは、エルフのように整った美人顔に、緑の髪を雑に束ねた女の子、クオンだ。


 ちなみに、エルフの門番とは違い、ボンキュボンのナイスボディだ。そのせいで、この世界ではいい目にはあわないらしい。


「セス……無視は良くないよ、そういうことをするなら────食べちゃうよ?」


 と、聞こえてきた時には、横になっていた俺の上にクオンが覆いかぶさっていた。所謂、床ドンである。


「……ハッ!? 待て待て待て! 落ち着けっ、非常に嬉しい展開だが流石に外ではっ!! ……ってあれ?」

「クハハハハッ!! 落ち着くのはセスの方だよ。早く起きて食事にしよう」

「そ、そうだな」


 そう言うと、恥ずかしさを紛らわせるために、急いで空間を開け、狼の肉や、森で拾った草、それとエルフの村から持ってきた鍋を取り出す。


「おっ、肉についていた血がそのままだ! ────ってことは」

「うん、収納している間は時間が止まっているようだね。これは、あまり人には話さない方がいいだろうね」

「やっぱり、こういうのは存在しないの?」

「いや、一応物を入れている間、時間を停止する袋は存在する。だが……王族くらいしか持っていないくらいのレアものだからね」


 なるほど、それなら人前でボコスカ物を入れないようにしなければならないな。


 収納空間について一つわかったので、次は本題の飯を作ることに集中しよう。


 どうやらクオンは料理ができないらしく、今まで外では、魔物の肉を焼くだけ〜とか、野草を水で洗ってそのまま〜などの簡単なものしか食べていなかったらしい。


「村で食べた料理は美味しかったよ、またセスの作ったものが食べたいな」

「わ、分かったからちょっと待っててね」


 美味しいと言ってくれたクオンには悪いが、俺が村で作ったのは、塩っぽいなにかを混ぜて炒めた野菜だ……

 今回は肉もあるから、ある程度味に変化を出せるに違いない。


────────


「セスッ!これ美味しいよ。もう食べようよぉ」

「うーん、そうだな。そろそろいい感じだろ、開けてくれクオン」


 鍋の蓋を開けた先には────肉野菜炒めがあった。


 正直……悪いと思っている。

 俺自身が、作ってる最中に「あぁ……」ってなってたからな。


「セス!これ盛り付けちゃうからね」

「うん、どうぞ。こんなので良ければ食べて……」

「こんなのって……セスは何でそんなに落ち込んでるの?」

「いや、村で作ったのとほぼ同じの作っちゃったから……飽きるかなって」

「セス、作る前に私が言った言葉覚えてるかな。私はね、セスが作ったものが食べたいって言ったんだよ」

「……あっ」

「だから、同じものだとか、成功とか失敗なんて言わないでさ、セスが作ったものを一緒に食べられれば良いんだよ」


 そう言って、盛り付けられた肉野菜炒めをこちらに差し出してくる。

……クオンは、本当に優しいな。俺には勿体ないと心の底から思う。


「うんっ、ありがとう。────いただきます」

「セス?『いただきます』ってどういう意味なんだ?」

「あぁ、いただきますっていうのは────」


 ありがとう、俺と一緒にいてくれて。

 そう思いながら、クオンと飯を食い、話をして夜を過ごした。



 ────翌日────


「……うーん!!はぁ……よく寝むれたなぁ」


 辺りがまだ薄暗い頃に目が覚める、早起きの習慣は元々ついていたので、早く起きるくらいはどうってことは無い。


「とりあえず、飯を温めるか……リリース…」


 体を起こし、昨日の残った枝に火をつける。

 薄暗く周りが良く見えなかったが、となりでクオンが寝ていたようだ。


 それと……寝る前に周りに張り巡らせた水のバリアによって、ゴブリンと狼の肉が手に入った。やはり匂いに釣られてやってきたんだろうか。


 鍋が温まり、いい匂いがし始めた頃にクオンがモゾモゾ動き、目をゆっくりと開ける。


「ん、いい匂いだね。お腹がすいてきてしまったよ」

「おはようございます。昨日のあまりものを温めたので、食べたら街に向かいましょうね」

「ん、わかったよ。それじゃ、いただきます」

「いただきます」


────────


「「ご馳走様でした!」」


 食べ終わった後、魔法を使ってお湯を出し、鍋などを洗い収納する。


「こっちは準備できました」

「よし、それじゃあ今日の昼までには街に着きたいから、少し急いでいくことにしようか」


 そう言うと、クオンは俺の手を掴み足早に歩き始める。なぜこんなに急ぐのだろうか……ていうか、何故毎回歩く度に、手を握られているんだろうか。


「セス、手を握られるのは……その、嫌かな」

「……へ?」

「いや、手を握ると顔をしかめるから、嫌なのかなって」

「ああ……嫌ではないんだけど、なんで握るのかなって思って」


 俺って結構、考えてることが顔に出るのか……自分では極力無表情にしているつもりだったんだけどな。


「前も言ったんだけど、覚えてなかったのかな?人族同士で直接肌を合わせると、お互いの魔力が回復するんだよ」

「あれ、そんな事言ったっけ?」

「言ったよ、その調子だと精霊も呼び出してなさそうだね」


……アッ!! 完全に忘れてた!

 ヤバイな、あいつ絶対うるさいぞ。この際、呼び戻さないという手も……いや、人機を使えないのはこれから生き抜く上で、かなりの痛手になる。でもなぁ……


「ふう、仕方ないな……ハイ、乗って」

 クオンはそう言うと、こちらに背を向けて腰を落とした。これってもしかして────

 

「おんぶ……するの?」

「精霊の部屋に行くと、しばらく睡眠状態になってしまうからね。だからといって行かないわけにはいかないだろ?」

「でも、俺重いぞ?」

「構わないよ、男を背負うのは女の役目だからね。むしろ、もっと頼ってくれると私は嬉しいけどね」


 クオンのこういうセリフは、何回聞いてもドキッとしてしまう。何でこうも簡単にキザなセリフが言えるんだよ!


「ん、なら……お願いします」

「────よっと……うん、これくらいならまだ大丈夫そうだね。ただ、魔力消費が増えるから両手を握っててもいいかな」

「もちろんだよ、背負ってもらってるんだから、それくらいはいくらでもしてくれ。それじゃ、ちょっと妖精にあってくる」

「うん、いってくるといい」


 こうして、俺は目を閉じ集中する。

《妖精に会いたい! 妖精に会いたい!》

 しばらく念じていると、体が引っ張られる感覚がした。引っ張られるままに意識は沈んでいく。

 結構潜ったかな〜と思い、目を開くと、目の前には豪華な扉がひとつ。ちなみに周りは壁しかない。


(ここしかないみたいだし、開けるか)


 ギギィィ……


 見た目とは真逆の、古い扉を開く音が聞こえる。中には何も見えない────いや、なんかいるな。

 よく目を凝らしてみると、小さい部屋の中心で体育座りになっている少女がいた。


「ぐすっ……ぐすっ……ごめんなさい、またアタシ…」

「おいっ! 大丈夫か?」


「……!! ……ま、また!! またアタシを捨てに来たの!? もうイヤだよ……アタシは外が見たかっただけ……もっと世界を知りたかっただけ! なのになんで……なんでみんな捨てるの!!」


 少女が叫ぶと同時に、何も無かった暗い部屋に風が吹き始める。


「アタシが……アタシが何をしたって言うんだよ! 答えろよッ! 契約者ァ!!」

「ドワァッッ!」


 怒りと悲しみの感情が吹き荒れる風に乗り、風は暴風となっていた。

 この狭い部屋では避けようがなく、風に体を吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされながらも、少女がいた位置に顔を向けると一瞬だが目があった。


 今度は吹き荒れる風の中、床にしっかりしがみつき、少女の瞳を見つめ続けていると、頭の中に映像と声が流れ始める。


『おめぇ!! いい加減にしろやァ! そんなに外が見たいなら1匹で見に行きやがれ!! おちおち酒も飲んでられねぇ!!』

『君みたいなワガママ妖精初めてだよ……頭がおかしくなりそうだ……僕は外なんか行きたくないんだから、勝手にしてくれよッ!!』

『ケハハハッ!! 殺せ殺せ!! この力があればいくらでもやれる気がするぜ! ケハハハハッ!!』


……!!これが今までこの少女と契約してきた奴らか! アル中、引きこもり、狂人。ろくな奴と契約してないじゃないかッ!


《わぁ!! 人族がアタシに話しかけてくれるなんて初めてのことだよ!!》


 話しかけられてない所の話じゃない……話をする意思すら持ってもらえてなかったんだ。

 こんな奴らのせいでこの子は……いや、俺がこの暗い部屋に閉じ込めてしまったからか……


 なら責任は……俺が取らなければならないな!


「聞いてくれ! 少女よ!!」

「少女じゃ……ない!!」


 ブオンッ!! グシャァァ!!

「ッカハァ!! ……ゴホッ……ゴホッゴホ……」


《精霊には個体名称がないんだよ、だから好きに呼んでねっ》


 あぁ……そうか、最初からそうだったんだな。俺が気づいてないだけで、お前は俺にサインを出していたんだな。

 気づかなくて、気づいてやれなくて……本当にすまなかった!!


「ラティス……」

「……!?」

「お前は……今……から……ラティスだ!」

「もしかして、あ……アタシの名前……なの?」

「ハァ……ハァ……ゲホッ!! そうだ! お前は、これから俺と一緒に旅をするパートナー! 『ラティス』だ!!」


────────


 名前を叫ぶと同時に、体の痛みや呼吸の苦しみと共に体の感覚がなくなる。

 どうやら、現実に戻る様だ。消える感覚の中で見えたのは、涙で目を腫らせた可愛らしい少女の笑顔だった。


「ありがとう……セス」


 喜びの感情をのせた風が、フッと体を通り過ぎた後、俺の意識はなくなった。


読んでいただきありがとうございます。


なかなか、街にたどり着きませんね(苦笑)

なんとか街に行かせたいのですが、前に進んでくれないという…やっぱり書くのって難しいですね(。>人<)


次回こそは街に着きます。

そろそろ、セスにも勝たせてあげないとね( *´︶`*)

それではまた次回お会いしましょう( ̄^ ̄ゞ

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