34.あるぇ?
すいませんかなりの説明回になるかと思います┏○ペコッ
後、待っていてくれている方がいましたらすいません遅くなりました!
クオンの感情は今まで無くなっていなかったかのようにすっかり元に戻っていた。
ラティス曰く、全感情がふとした瞬間にいきなり戻ってくることなんてほとんど有り得ないことらしい。
『ほとんど』というのは、俺という所謂『普通』ではない人間を知ってしまったかららしく、今まで見た中では全くありえない事だったらしい。
……俺と手を繋いだりして魔力補給を行ったからなのか、それともまた別の要因があるのか。
まあ、今はもっと考えることがあるだろうし、それが終わってからでもゆっくり話をしながら気楽に原因を突き止めてみよう。
「はぁ……さて、そろそろよろしいですかね? こちらもあまり時間をかけるわけには行かなくなっておりましてね」
男の言葉にクオンと俺は恥ずかしさの欠片も感じずに名残惜しそうに離れる。
クオンが無表情の時でも大分魅力的だったけど、離れる瞬間のちょっと寂しそうな表情を覗かせるクオンはもっと魅力的だった。
「……なんか私の方が悪者っぽくなってませんかね?」
「ん、い……いや、話の流れを切ってしまった私達が悪いのだから気にしないでくれ。それよりも、結局これから何が起こるのかを教えてくれないか?」
流石クオンと言うべきか、自分の欲求を制御して今大切なものを優先させられている。
今思えばこういう所も『勇者』っぽいと言えばぽいのかもしれないな。
まあ、別に魔王を倒しに行く使命を与えられている訳では無いから関係ないかもしれないけど。
「ンッ! 分かりました。これから起こるのは簡単に言うならば戦争……いや、一方的な制圧戦になるでしょう」
制圧戦……?
このドームの外にいる奴らは皆、肉という肉がほとんどない骨皮人間にしか見えないような奴らだぞ……どこにそれだけの自信があるのだろうか。
「いきなりこう言われても理解できないのは分かる。確かに初めて彼らを見た貴方達からすれば負けるのは我々だと思うでしょう……しかし────」
そう言うと男は懐から銃を取り出す。
ドームの外の見回りが持っていたものよりも少々小型で、威力はあまり無さそうだったがその分発射前の音も小さくなっていた。
「彼らにはアレがあるのです」
そう言って男が銃で撃ち貫いたドームの外の人間を見てみると、額が貫通して後ろまで見える状態になっている女性のような骨皮人間がいた。
そのまま倒れるかと思いきやそんなことはせずに、何事も無かったかのように儀式のように頭の上げ下げを繰り返していた。
ちなみにだが、次に顔を上げた時に額を確認してもやはりというべきか穴は塞がっていた。
こんなの、映画とかに出てくるゾンビが弱点を克服したようなもんじゃねぇか……。
(…………? ゾンビ……なんか引っかかるな。何だったっけ?)
「一見『えっ、これだけ?』みたいなことを思う人は……この中にはいないようですね。なら話は早い、実は既に何年か前からこの力が地下世界でも有効かどうかを試すために、下に彼らの仲間が送られていたのです」
話を聞いているクオンはとても真面目な表情をしていたが、顔から血の気が引いておりとても青白い表情をしていた。
俺も考え事がなければ同じ表情をしていたかもしれない。
(ゾンビみたいな奴……何年も前からってことは俺がこの世界に来る前からってことだよな……組合かなんかで聞いたんだっけかな?)
「実はその実験段階でこの力が完璧ではないことが発覚して以来は、先人達は様々な場所で身を隠しているのですが、つい先日とある国が滅んだとの報告を天上に出した者がいました……そう『勇者様が国を落とした。我々も続こう』と」
ギュッッッ!!
近くにいるクオンから拳をきつく握る音が聞こえてくる。
今の俺には何も言わずに肩を抱きしめてあげることだけだった。
「勿論そのままだと地下世界が殲滅されてしまうので私は時間稼ぎをすることにしたのです『勇者様がここに向かっているからもう少し待とう』と、そして私の用意した人形を倒せるほどの力を示し、貴方達はここに訪れた」
「「あまり関係ないかもしれないが、どうして地下世界を制圧されたくないんだ? お前としてはどっちでもいいんじゃないのか?」」
俺の質問に対し男は少しだけ上を見て一息つくと俺達をまっすぐ見つめながら口を開く。
「嫁が……まだ下にいるからです。それに、あちらの自然は豊かです。我々が荒らしてそれを壊すこともないでしょう」
なんだ……こいつ意外としっかりした考えを持ってたのか。
それよりも、自分の嫁さんが自分の知らない所で死んでしまうかもしれないなんて……。
それに、きっとこいつだけじゃない。この骨皮人間の中にも内心では下の世界に殺されたくない人がいるやつだっているはずだ。
「ちょっと待て、そもそも仲間意識が強い筈の君達が下に落ちているとはいえ仲間を殺そうとしているんだ?」
「勇者様の言う通り、本来の我々ならこんな行動を起こそうなどとは思わなかったでしょう。しかし!! ────ッ!」
そこで男は頭に血が上りそうになっていたのか、それを抑えるため深呼吸をした後、先ほどと同じく落ち着いた声で話し始める。
「『天墜』の際に、密かに天上の地盤の核を再度作り上げ、いざ浮遊させようとしたその時、たった一人の女性が入り込んできたのです」
たった一人の女なら、いくら弱っていたとはいえ皆が協力すれば追い出すくらいはできたはずでは無いのだろうか。
俺の考えを察したのか男は首を横に降る。
「彼女はそちらの言葉で言えば『淵源の負者』と呼ばれる者だった……」
「「えっ…………いま、なんて?」」
珍しくラティスが「知りたくない」というかのような声で聞き返す。
『負者』とかいうくらいだから負魂機が絡んでいることはなんとなく想像がつくが、一体どんな奴なんだろうか。
「驚くのも無理はない……彼女はそちらの世界では精神の磨り減った所で殺されていると伝わっていたからね……真実として私から伝えられることは、彼女は自身の好いた人間の全身の骨を操り愛し合い、天上の人々の心を掴み……下の世界を消し去ろうとしていることだけだ」
下の世界で嫌な目にあったのだろうか……クオンも
常識の違いによってずっと酷い目にあってきてたし、負魂機を発現させたあとに復讐しようと思ってもありえないことではないだろう。
だけど、下にはレストやクローリー、その他にも今まで出会った人たちがいる。
いきなり「お前の知り合いを全員殺します」なんて言われて「はい、そうですか」って言うわけにはいかない。
また何かを失うかもしれないけど、いずれ治るものといつまでも戻らない者とでは天秤にかけるまでもなく後者の方が重い。
「「どんな理由だろうとそんなことはさせない」」
俺の口からこんなクサい台詞が出てくるなんてな……
たった少しの間過ごした時間も噛みしめる時間が長ければそれだけ大切な思い出となる。
「あぁ、悔しいが君には期待している……負魂機を纏った勇者様を解放したと報告を受けた時は身が打ち震えたよ。下の……いや、この世界の皆を彼女から守ってくれないか」
「クハハッ、セスなら大丈夫だよ。どんな敵が相手でも必ず私と共に生き残るから」
名前もまだ知らない男からいつの間にか期待をされていたようだ。
この世界には俺よりもっと強いやつなんていっぱいいるし、もっとこの世界を大切に思っているやつだっているだろう。
ただ、ここにいるのは俺達だけで、残された時間も多くは残されていない。
なら、この事態を知らない人たちの分まで俺が頑張るしかない。
俺は特に何も言わず、ただ二人の方を見て静かに頷く。
決意は固まった……今やるべきことは天上からの侵攻を止め、皆の平和を保つことだ。
「『淵源の負者』は、ここからも見えるあのデカイ城にまだいる。天上の侵攻については私が捕まらない限りは始まることは無いから安心してくれ。ここの昇降とバリアの解除とかの鍵は私が握っているからね」
「「なるほど、ここを囲むようにして人がいるのはただ単にここに入れないからなのか」」
「そういうこと、逆に言えばいきなりドームが開いて人がなだれ込み、下に向かってしまえば……」
「私達の負け……ということになるのか」
まあ、今まで隠れきれていたのなら、俺達が城に行って侵攻を止めさせるくらいの時間は見つからないだろうし、やはり重要なのは今回の相手を説得できるかどうかだろう。
それも行って見なければ判断も出来ない……時間もないならそろそろ向かった方がいいだろう。
「「クオン」」
「ん、そろそろ向かうとしようか」
「あわわわ、たくさん喋って時間を結構消費してしまったね、私の特別型透明装置くんのエネルギーが切れるまでになんとかよろしく頼むよ」
「「なんか締まらないけど、任せておけ!」」
背中に背負っていた奴隷娘を彼に預け、一直線に城へ向かうことにした。
「「クオン、空から行こう。その方が早い」」
「そうだね、今回は時間をかけていられないし早さ重視で行こう」
「「リリース!」」「ヴァリアント」
俺の脚には目に見えるほどの風がまとい、久遠の全身には暗闇の魔力が現れる。
……負魂機で空を飛んでいた時よりも暗さが増してるように見えるのは気のせいなんだろうか。
こういうのを見てしまうと全然勇者っぽくないなぁ、と感じるのは多分勇者への偏見なのだろう。
実際に彼女は目も開けられないほどの光の剣を発動することだってできるのだから、分類的にいえば全属性が使える方の勇者だという考え方もできるだろう。
「ああこれ? これはね、負魂機から発想したんだよ。全身を闇に包むことで空中でも全身を操作できるんだけど、そのかわり全身を操る想像もしなくちゃいけなくて結構難しいんだよ」
そう言っていつものように「クハハ」と笑って先に飛び出していってしまう。
俺も遅れないよう慌てて追いかけるが、心中では彼女の底の知れなさとその適応力に憧れと焦燥感を感じていた。
(置いていかれないようにしないとな……)
────────────
「ふっ! そこだよッ!」
「「リリースッ!」」
城に近づくにつれ機械兵のような奴らがその数を増していく。
チューリオを作り出して外の世界に流していたというのも、こっちの人たちにとってはただの不良品を捨てていたのと変わらないのではないだろうか。
「ピュギゴゴォォーーー!!」
「セス、合わせて!」
「「任せろよっとぉ!」」
数十体といた人型機械兵の最後をクオンの拳と俺の脚が貫く。
自爆装置などが付けられていないことは他の奴らで試していたので心置き無く破壊させることが出来る。
「クハハ、あの時よりもずっと強くなってる。これなら…………ゴニョゴニョ……」
「「クオーン、何かあったか?」」
「いや、な、何でもないよ……ただ前よりもずっとずっと私たちの距離が近くなってる気がして、その……ドキドキする……かな」
!!? な、なんだ……何が起こってる?
敵の大軍を倒しきったと思ったらクオンの顔がいきなり赤くなりだして、今じゃ腕を組まれ顔をのぞき込まれている始末だ。
「私はどうも感情をうまく外に出せなくてね、どうか誤解しないで受け取ってほしいんだ。私の気持ちをその全身で」
オイィイイイイ!! 今それやる瞬間じゃないだろぉおおお!
って待て待て、クオンは心の中にこういう感情を抱いていても時と状況が読める素晴らしい女性の筈だ。少ないとはいえ一緒にいた俺にだってそれくらいは分かる。
いつものクオンじゃない……ということは何かしらの状態異常になっている危険性が高いと考えるのが普通だが、意識に直接なんて魔法…………あっ、レストが使ってたな。
「「待てクオン! その先は今のお前からは聞けない────そこかッッ!!」」
戦っていた辺りにある建物の中からとてつもなくデカイ豚男がこちらを覗いていた。
見た感じ生身の人間のようだからもしかしたら不死になっている可能性もある、むしろその可能性が高い。
「んでゅるるる、はぁはぁ、半端者サイボーグの下半身に取り付けられた最棒具に心奪われる姫騎士……今までの思い出を振り返りながらさり気なく胸を押し付け、彼に残された人の性心に呼びかけるが呼びかけに応じない。彼女は持てる力を使いサイボーグを地面に叩きつけ馬乗りにな────ブベラホォアっっっ!!」
どうやら見つめていたのは俺ではなくクオンということから、恐らく見つめた相手に自分の妄想を投影させることが出来るのだろう。
……誰が半端者サイボーグだ。
壁をぶち抜きクオンの方に吹き飛んでいくが、操りの効果が切れていたのか肩で息をしながらも豚男を地面に殴りつける。
「くふぉお……僕ちんに向かってこんなことするなんて許せなぁい! そこの女共々僕の玩具にしてやるぅ!!」
「……ふぅふぅ、くっ、よくも私に恥をかかせてくれたな、どうせ不死があるなら遠慮はいらないな……ヴァリアント」
あるぇ、クオンさんの様子がおかしいぞぉ?
静かに、しかし確かに発動ワードを口にした彼女から湧き上がってきたものは『朱』そのものだった。
顔の色も相まって朱に染まった俺の視界はとっくに豚男を映していなかった。
恐らくそれは豚男も同じだろう……。
「灰くらい残ればいいな……消えろ」
きっとこんな場面とかそんな表情じゃなかったらもっと格好よかったんだろうなぁとか思った俺は悪くないはずだ。
見事に『朱』は豚に降り注ぎ悲鳴をあげることすらさせずに溶け落ちてしまった。
あまりの光景に開いた口が塞がらない。と言ってもラティスのマスクのおかげで口の開閉は誰にも見えないのだが。
どうでもいいことを考えているうちに『朱』を消さないままクオンが近づいてくる。
もう一度今度はハッキリと言わせてもらおう。
きっとこれはラティスも思っていることだろうし二回言ってもバチは当たるまい。
「「あるぇ、クオンさんの様子がおかしいぞぉ?」」
読んでいただきありがとうございます!
そろそろ矛盾点とか出てきたかも知れませんが、もう気にせずに進みたいと思います(笑)
ちょっと今後の方針で悩めまくってたら目先の更新が遅れていました。すいません!
もしかしたら今後も週一でできなくなるかもしれませんがよろしくお願いします!