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32.メルセルニア

 街道から外れた道の闇夜を切り裂く一筋の光。

 車内に見える人影は三人だが、うち一人は既に夢の世界へと旅立っていた。


 「セス、ここどこ?」

 「「んーと、もう少しで獣人界のはずだ……多分」」

 「ほんと?」

 「「ええっーーー!! セスって獣人界行こうとしてたの?もしかしなくてもレスト達に会いに行くの!?」」


 そう言えばラティスにはまだ目的地を話していなかったな。

 現在の俺の目標としては、クオンの感情を戻すこと、レストやクローリーに謝ること……もし良ければまた仲間としてやっていくこと。

 この三つを達成できたら、また新しい目標を立てようと思っている。


 それにしてもラティスが驚きすぎなんだが一体どうしたんだろうか。


 「「セス……もっと早く言ってくれれば良かったのに」」

 「ラティスちゃん、どうしたの?」

 「「コッチ全然違う方向だよッ!! このままだと世界の境界にぶつかるよ!」」


 …………何だって!?

 確かにコッチの方に来たのは適当だったが、これだけ広大な自然に囲まれているのは獣人界くらいじゃないのだろうか。

 てっきり、俺は着いたものだと思っていたのだが……。


 「「コッチは私が生まれる前から何も無い場所……何かを作ってはいけない場所だとされてるんだけど、そこに用があるわけじゃないのかぁ」」


 ラティスには悪いがただの勘だ。

 逆にそこに行こうとする理由があるのだろうか……。


 別にこのまま突っ切れば最悪魔界には着くだろうし、魔界本土に入らずに穴の周りをぐるぐる回れば見覚えのあるところにも着くだろうから、そこまで悲観することもないだろう。


 「「セス……このまま突っ切ればーなんて考えてそうだね」」


 実際それでいいだろう。そこまで時間に制限はないしな。


 「「さっきも言ったけど、この先は何かを作ってはいけない場所……うぅん、作る前に殺されちゃう場所なの」」


 キュォイイイイッッッ!!


 猛スピードを出していた所を急ブレーキしてしまった事で凄まじい力が体にかかる。

 クオンに至っては抵抗すらしていなかったのか、チューリオの枠組みの部分に頭をぶつけていた、すまない。


 「「すまないクオン、それでラティス……この先には結局何があるんだ?」」

 「「私の予想で良いなら答えるけど、多分今アタシ達が乗ってるチューリオを作った国……『メルセルニア』があるはず。て言うよりもここにしかないはずなの」」


 メルセルニア? 地名を言われても、元々地理が苦手だった俺が分かるはずもないが……ほぼ車のようなこのチューリオを作ったということは相当な技術者、それか転生者がいるに違いない。


 そんな場所に行って殺されるってことは、予想でしかないがめちゃめちゃ高い城壁から銃で狙撃されたりとか、突然落とし穴が発動して下で串刺しとか……技術力がある国の防衛力は未知の部分が多すぎて近づく気にはなれない。


 「「ならどうすれば……」」

 「「大人しく引き返すか、行ってみるかだねー! アタシとしては行ってみてほしいなぁ」」


 興味がある……か。そりゃあそうか、これだけいろんなことを知ってるのにまだ知らないことがあるなら知りたくもなるよな。

 それに今は万全ではないにしろ戦えない状態ではない。

 慎重に行けば最悪の結果になることだけはないだろう。


 「「よし、んじゃ行ってみるか!」」

 「「オーッ! ……ほら、クオンちゃんも一緒にオーッ!」」

 「おーっ」


 可愛い……。

 恐らく今しか見れないであろうクオンの姿を目に焼き付けておくことにした。

 メルセルニアにビデオカメラがあったら是非とも欲しいところだ……無事に入れたらだけど。


 とりあえず目標自体は獣人界なので、ラティスに向かう方角を教えてもらい、今まで走っていた所からやや左にズレて走行を再開した。


 「「この方角なら世界の境界にぶつからないで獣人界に回り込めるはず」」


 さっきから言ってる世界の境界って何のことだろうか。

 言葉の通り受けとれば「その先にはいけませんよー」的な壁か何かがある感じだが、知ったかぶりはいけない。

 一応聞いておいたほうがいいだろうな。


 「世界の境界を説明するならコレがわかりやすい」

 「「クオンちゃん準備がいいー! アタシもこれがあった方がわかりやすいと思うよーっ」」


 俺が疑問に思ったことが顔に出ていたのだろうか。

 別に隠そうとしていた訳では無いがここまで話さずに知られてしまうと、なにか重要なことを考えた時ですらバレてしまいそうで怖くなってくるな。


 というわけで取り出されたのが長方形の布、これを世界地図として見た時に四隅が世界の境界と呼ばれるものらしい。

 現実での四隅の頂点から見た時、健康な人がランニングを一日中して辿り着いた距離までは見えない壁が広がっているようだ。

 ちなみに壁以外の所を抜けると反対側に抜ける仕組みになっているようだ。


 「「何でこんな四隅に透明な壁なんかできてるんだ?」」

 「それは私たちも分からない、ラティスちゃんは知ってる?」

 「「知ってる……けど、それを詳しくは話せない。ただ知ってて欲しいのはこの世界の為だということだけ……」


 詳しく聞かされてもどうせ理解できないからどうでもよかったが、ラティスの様子からして大分この世界にとって重要なことだということは分かった。


 方向の修正のおかげで壁にはぶつからなくなったようだが、布地図での説明の際に現在位置と獣人界の大まかな位置を教えてもらうと、全然違う方向に来ていたことがよく分かった。


 「「クオンも街とかの場所は頭に入っているのか? 説明の時も理解していたようだけど」」

 「人界の地形は全部把握してる。その他は知らない」


 ここ数日間走り続けて来て思ったことが、意外とこの世界が狭いことだ。

 現在いる場所は正確には人界ではないそうだから、とっくに人界は過ぎていた事になる。

 そもそも、全速力のチューリオとはいえ数日間で世界の端まで来ているのがおかしいのだ。

 これなら地理が苦手な俺でも人界の把握くらいはできそうだ。


 それと────

 「「ラティス、クオン……海って知ってるか?」」

 「う……み? 分かんない」

 「「うーん、知識としては知ってるんだけど見たことは無いなぁ。川とかよりももっと水がいっぱいあるんでしょ?」」

 「「そうだ、飲めないくらい塩辛……あぁ、辛い水がいっぱいあるんだ」」


 こちらの世界に来てから一度も海を見たことが無いのがとても気にかかっていた。

 川とかはたまに見かけるし、街の中には井戸があるのも見かけた。

 海は……どこにあるんだ。


 「……危ない」


 考え事をしていると隣のクオンがいきなり覆いかぶさってくる。

 瞬間、俺の座っていた座席の辺りに小さな穴が空いていた。

 この貫通した穴……焦げ臭い香り。間違いなくテレビや小説を見てイメージしていた通りの銃だ。


(となると、敵の国には8割超えで転生者がいることだろう。エルフの長、ミカも転生者だったしあり得るとは思っていたから問題ない)


 飛びつかれた影響でハンドルから手を離してしまい、チューリオが予期せぬ方向に曲がっていってしまう。


 「「うぉわぁああああ!!」」

 「セス、静かにした方がいい」


 クオンはこんな状況でも慌てることがないことが、頼もしくも思えたが同時に寂しくも思えた。

 とりあえず小さい子に怪我をさせるわけにも行かないので、チューリオへの魔力供給を打ち止めにし、外へと転がるようにして出ていく。


 ────ビジュリリ……パシュッ!


 ……!? 静かにしろってそういう事か!

 「「リリース!」」


 倒れた自分たちの周りから盛り上がる岩と土の壁、全員怪我したような声を上げることも無かったのでおそらく貫通もしていないだろう。


 とりあえず着弾地点から少しずれた位置に小さな穴を開け覗いてみると、余裕そうにしながら葉巻を加えているイケメンがこちらにスナイパーらしきものを向けていた。


(光学迷彩とかは付けていないのか、周りにもいるかもしれないから気をつけなければいけないけど、音で発射のタイミングが分かるならアイツ一人くらい何とかなりそうだな)


 銃弾を二度も自分に向けて打たれたことから、瞬間的に生存本能を感じたのか腹部の球は真っ青に光っていた。

 これならある程度の威力が出るだろう、もしかしたら殺してしまうかもしれないが、もう今更な気がするし生き残るために殺すのは仕方が無い。


 「セス、私が殺る」

 「「よし、んじゃ行って……えっ!?」」

 「ん、行ってくる」


 そう言うと止める間もなく壁の一部をくり抜き外へと飛び出したクオンは、敵に気づかれずに背後へと周り、手に纏った魔法刃を相手の首のド真ん中に突き刺した。


(どんなタイミングで殺人の提案してるんだよッ! 敵を斬る前に俺の発言が斬られてんじゃねぇか……ってもう終わってるぅううう!!)


 クオンは感情を失う前も後も、俺の想像を超えた行動をするからあまり気を抜けない。

 別に彼女の行動で不利になることは無い、むしろ有利になることしかしないと言っても過言ではないが、それでも『もしも』のことがあってからでは遅い。

 ……負魂機の一件があって以来『もしも』が頭から離れず少し過保護になっているのかもしれない。


 敵の首から血が噴き出すことは何故か無かったが起き上がる気配もなかったので、眠る奴隷娘を抱っこしたままクオンと合流する。


(ガリガリとはいえ女の子は抱き心地が良くてずっとこうしていたくなるなぁ)

 「セス、私凄く嫌な気持ちが溢れてくる気がする」

 「「んなっ!? か、かか感情が少し戻ったのかなぁ、す、凄いなぁ」」

 「無駄、夜まで覚えておいて。私の方が良いって嫌というほど覚え込ませるから」


 中途半端な感情の戻り方をしてしまったせいで思考と発言の制御が上手くできなくなってしまっている様だ。

 とは言っても中身はクオンのままだ、そこまで大胆なことをしないことはわかっているから軽く楽しみにしておく程度で問題ないだろう。


 「「おう、分かった! それより、コイツの持ち物で使えそうなものがないか探してみよう」」

 「ん、だと思って汚さないでおいた」


 刺された相手の喉を見ても傷一つないことから、どうやら突き刺した刃から血を急激に引き抜き殺した様だ……クオンの戦い方の多さに関してはそろそろ異常だと思い始めてきたがもう今更だろう。


 暫く漁ってみても大したものは見つからず、せいぜいが使っていた武器の銃くらいだった。

 服装も別に近代的なわけでもなかったし、少し相手を格上に見すぎていたのかもしれない。


 「セス、これ触って」

 「「ん? この腕についてるやつか? ……どれどれぇ」」


 男の腕についていたカードキーのようなものを触ると全身にピリッとした電流が走るのを感じた。


 「あっち見て」

 「「今のになんの意味がって…………マジかよ……」」


 魔力供給を絶ったチューリオが残った魔力で進んでいった方向に、透明なドームから中央と四方から伸びた柱が生えた巨大な街……いや、イメージだけで言えば『帝国』があった。


 「「ふぅあぁあああ!! セースー! 凄いよぉ大発見だよー!! またアタシの知識が一ページ刻まれたよぉ!」」

 「やったね、ラティスちゃん」

 「「クオンちゃんもぉっ!もっと驚こうよー!アタシには分かるよ、クオンちゃんも少し昂ってるんでしょお!」」


 あまりにも未来的なデザインの帝国を見て呆けていたら、ラティスが大興奮収まらないようにクオンに話しかけていた。

 ……あんまり迷惑かけるなよ、楽しそうだから止めないけど。


 「「セスっ、早く行こうよ。大丈夫! アタシがついてるからっ!! 早く早くぅ!」」

 「「はいはい、ちゃんと行くからあんまり急がせるなよ。警戒だってしなきゃなんだからな」」



 こうして、俺達は未来的なデザインのドーム『メルセルニア』に向かって行った。


 「「あ、チューリオまだ使えそうだからアレ乗ってちゃっちゃと行っちゃおう!!」」

GWも関係なしにお仕事ちゅー♡


皆様も頑張ってね&楽しんでねー!


今回も読んでくださりありがとうございました┏○ペコッ

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