30.第一奴隷人発見
遂にこの作品にも奴隷が現れますよ〜!
……出す予定なかったけど!!
「はぁ、はぁ、だれ……か、たすけ……てくださいぃ!!」
車とは違い排気音がないチューリオのおかげで、前世の走行中では聞き逃してしまってもおかしくないような声でも聞こえてくる。
眠っていたクオンも目を覚ましていて、同じく声が聞こえていたはずなのだが、表情一つ動かす気配が感じられなかった。
(困っているなら助けなきゃな)
少々面倒くさいと思いながらも声が聞こえた方に方向転換する。
「助けるの? セス」
《一応、それが俺がこの世界にいられる条件だから》
だが実際の所、人助けをしなくてもあの天使のことだからきっと何も言ってきたりはしないんだろう。
それでも人を助けに向かうのは、この力に酔っているからなんだろうな。
力がなかった前世では助けられないから助けに行かなかったが、この世界では俺でも誰かを助けられる力がある。
だから俺は天使を理由にしてでも困っている人を助けるのだろう。
街道からだいぶ離れて走行していたのだが、声が聞こえたのはそこよりもやや街道寄りの方からであった。
街道から離れていた理由は通路上にそこそこの大きさの村が存在していたからである。
足りないものは特にないので寄らないまま進んできていたのだが、どうやらその村で何かがあってそこから逃げてきた人が助けを呼んでいるのであろう。
声を張り上げていたであろう女性が肉眼でも捉えられる距離に近づいた頃、その風貌に違和感を覚える。
《…………クオン、この娘は……》
「セス、この子、奴隷。しかも男性用魔力缶型」
奴隷というものについて俺はあまり深く考えたことは無かった。せいぜいが暇つぶしで読んでいた小説に登場するハーレムの一員とか、その程度であった。
が、しかし、今俺の肉眼が捉えたのは、痩せ細った体を蚯蚓脹れや水膨れなどが覆い、目を横一線に切られたかのような跡が残る小さな女の子だった。
「あ、あの……お願い……します。そこにどなたか、いらっしゃるんですよね? ご迷惑なのは理解していますが私を……連れていかせて下さい」
「どうする、セス?」
この娘を見ていると奴隷という制度がどれだけ酷いものなのかをはっきりと理解させられる……。
人の、普段は隠されている残虐性や狂気性というものを象徴しているこの娘を見ていると、俺の中にもこういう醜い感情があることを嫌でも実感させられ、今にも吐瀉物をその辺にぶちかましてやりたくなる……。
だが、性別も人種も、ましてや育ち方が全く違うというのに、この娘のなにかをレストに重ねて考えてしまう。
(今度の俺は守りきれるのだろうか)
そのせいか、俺の考えていた内容と反対の言葉をつい想像してしまった。
「連れてくって」
「……!? 本当ですか! ありがと……ケホケホッ……ケホッ……」
あまり大声を出すもんだからむせてしまったようだ……それよりも。
《クオン、なんで……》
「セスが連れていこうとしていたからそれを言っただけ。迷惑だった?」
《ん……いやぁ、大丈夫だ》
表情を読まれてしまうからこそ起こるちょっとしたハプニングだったようだ。
もしかしたらクオンに優しさが戻ったのかと思ったのだが……。どうやら先は長そうだ。
────────
奴隷少女を連れていくことになって初めての夜が訪れていた。
飯の準備をするために一旦チューリオを降りて近くの川原に歩いてきていた。
流石に、あの痩せ細った体を見る限りしっかりとしたものを食べていないことはよく分かる。
なので今回はできるだけ胃に優しいものを作ろうと思っていたのだが……米がないからお粥が作れない。
(んむぅ……どうするかなぁ)
「セス、なにか悩みごと?」
奴隷少女からこれまでの話を聞いていたクオンがこちらに歩いてくる。そのすぐ後ろには奴隷少女がクオンの服を握り締めながら恐る恐る歩いている。
クオンの手を握り、光の壁を展開しながら話しかける。
《いやぁ、久しぶりに何かを作ろうと思ってたんだけど、胃に優しいものを思いつかなくてな……》
「セスの作ったものならなんでも美味しい」
いや、そういうことを言ってるんじゃ無いのだが……。
今のクオンでは恐らく話が上手く通らないだろうから、奴隷少女にも話を聞いてみることにする。
《クオン、この娘にも聞いてみてくれないか》
「ん、君は何か食べたいものがあるか?」
「ぅあ、食べられるん、ですか? ならなんでも構いません! 残飯でもなんでも……ンゥ、ゲホゲホッ!!」
だから、興奮しすぎるから……。軽く背中を摩ってやると咳は次第にやんでいった。
昔「なんでもいいが一番困る」とよく聞かされていたことを思い出す。
こういう状況に陥ると確かに困るものだ。
何より俺自信の食欲がわかないから、メニューの決めようがない。
仕方ないので、今日は肉と野菜串についていた野菜を一緒に煮込んでいこうと思う。
焼いたり炒めたりするよりは、まだマシになることだろう。最悪スープでも飲めばだいぶマシになるだろう。
「野菜……炒め……セスの、手料理」
クオンが何かを喋った気がするが、鍋を収納空間から取り出した音であまり聞こえなかった。
野菜とか手料理とか言っていたから、もしかしたら初めの頃に作った野菜炒めのことを言っているのかもしれない。材料を揃えたらちゃんと作ってあげよう。
────────
大した味付けをすることは出来なかったが、初めに野菜と肉を炒めておくことで、煮崩れが起きることもなく綺麗に仕上げることが出来た。
味見をしてみたのだが、味は問題なかったし、俺の体も特におかしなことにはならなかった。消化とかどうなってんだろうな……自分の体なのだが少し恐ろしい。
《それじゃ、いただきます!》
「いただきます」
「……? いただ、きます?」
とりあえず今は分からなくてもいいだろう、いずれ俺が教えてあげよう。
現在の状況は焚き火の目の前に俺、すぐ隣にクオン、そして俺の膝の上に奴隷少女という配置になっている。
俺は飯を食わなくてもいいから、目が見えないこの娘に飯を食わせる係となっていた。
口から呼吸は出来ていたから、一応スープを冷ましてから飲ませることは出来ていた。
「ほいひい……ふぇふ、ゴクンッ。ご主人様のお手を煩わせてしまい申し訳ムグゥ!」
喋っている暇があるならしっかりと食え、後食ってる最中に喋るんじゃない。
これくらいの事は誰だってやる……だから、そんなに申し訳なさそうに食わないでくれ……。
「セスの……味、匂い。おかわり」
クオンも食事の度に俺の匂いとかいうのやめてくれよ……マジで体臭は気になっているというのに。
そう言えば、この娘とかクオンの体からたまに酸っぱさと女性らしさを足して二倍にしたような匂いがすることがある。
俺はクオンの皿におかわり分を盛り、渡す際に腕に触れ。
《明日は清潔日にする》
と告げた。
クオンの反応が終始変わらなかったので、伝わっているのかが非常に分かりづらい。が、伝わっていなくても明日は必ず、全てを洗って清潔になって貰おう。
勝手に気合を込めて盛り上がっていると、袖をちょんちょんと可愛く引っ張られる。
そう言えばスープを飲ませている最中だったな……スマンスマン。
────────
夜中になるとすっかり冷えてくる時期になったようだ。前まではそこまで冷えなかったんだけどな。
まあ、太陽もあれば季節もあるのだろうとか、よくわかりもしないことを少し考えてみたりする。
「んんっ、セスゥ……」
「お兄しゃん……ありがとぅ」
現在俺は色欲の海にて足がつり、溺れそうになってる最中だ。
クオン、奴隷少女、俺で川の字になって寝ているのだが、二人共俺に限りなく近くに接近し抱きしめてくるため非常にアブナイことになっている。
更に先程言ったような匂いが俺の嗅覚を刺激するため、最早俺の性欲のダムはヒビ割れを起こし決壊しそうになっていた。
バリリィィィィッッッ!!!!
俺の腰から下の部分に電撃が走ったかのような衝撃が走る。
《……! …………!!》
なんだこの感覚はッ!? まるで、頭に熱い棒を無理やりねじ込まれている感覚がする!
「……!? ………………!!」
痛みのような擽ったいような、でもどこかでこの感覚を望んでいる自分がいる。
(拒むな、受け入れろ……もう道は……できている!!)
喋られなくても構わない、ただ想い、念じろ! ……できる! これだけの熱い思いがあれば!!
──────我が心に宿るは《情欲》
────胸の奥に焦がすほどの情熱を抱き
──絡みつく因果の牙は、我らを喰い繋ぐ執着の楔
────来れ、色欲の機人 《ペクサレナ》
なんということだ……クオンと奴隷少女への欲情は心装人機を強制発現させてしまうほどだったというのだろうか。
おかげで二人への興奮は抑えられたが……。
《あらぁ、お久しぶりねぇ。セ・ス・ちゃん♪》
負魂機戦以降、愛の精霊の次に出現したのがこの精霊でよかったのだろうか……
こういう時はラティスとかミハクとかと再開して「やったー!」とかの流れだと思うのだが。
《フフッ、また余計なことを考えてましたねぇ。お仕置きお仕置きぃ》
なんか喋ったかと思った次の瞬間、股間部が激しい快楽に包まれ、俺は気を失った。
声が出せていたらあまりにも情けない声を上げてしまっていたに違いない。
あまりにも急で、強すぎる快楽は体に悪いことが学習できた。
────────
翌日の朝二人よりも早くに目を覚まし、体にかけていた布から体を出して腰のあたりを確認するが、特に異常がないことを確認する。
だが、昨日のアレは決して夢なんかではない、恐らく精霊一人とは確実に話せるはずだ。
《いる……よな?》
《フフッ、はぁい、いますよぉ》
色欲を司る人妻精霊の声が俺の問に帰ってくる。
良かった、これで他の精霊たちのことを聞ける。
《今までどこにいたんだよ、ってか他の奴らは?》
《落ち着いてくださいな、焦っても何も変わりませんよぉ。
まず私とまだ発現していなかった精霊たちは愛の精霊の復活後、貴方の意識のそこに眠っていました。決して封じられていた訳では無いので感情が消えることは無かったでしょう?》
言われてみれば、特に感情の点で不便に思ったことは無かった。
《しかし、怒りと絶望に関しては別です。彼等は今頃魔界にて再誕しているでしょう。もしかしたら別の人にくっついていてもおかしくはないのでいないこともあり得ますが》
要は俺の中には怒りと絶望はいないということか、俺があの時忠告を無視して戦いを挑んだから……。
《まあ、そこまで悲観することはありませんよぉ。あの二人があなたとラティスちゃん以外に靡くとは思えませんからぁ。それよりもラティスちゃんの居場所、知りたくはないですかぁ?》
《ッッ!? 知ってるのか? 頼む教えてくれ!!》
《ンフフゥ、やっぱり男性の必死にお願いする顔は、いつ見てもアタシの心を燃やしてくれるわぁ》
お前の趣味などどうでもいいから、早くラティスの居場所を教えてくれよ。
《フフフ、焦らないでください。ラティスちゃんは今、あなたの武器である棍棒の中に意識を移しています。彼女は今後の戦いの為に既に準備を始めています。私がここで話していられるのもそのお陰なんですけどね》
言われてみれば、今俺の体にくっついているのはキャスラードの腕とどこの感情だか分からない白銀の足、だがどちらも正の感情のものに違いはない。
だがコイツは負の心装人機にも関わらず、昨日装着された。
《混ざっているのか? 正と、負が……》
《ええ、本来正と負は混ざりあっているもの、それを分け始めたのは人間の独断です。ラティスちゃんは人間に施された分断封印の解除方法を探し、見つけることには成功していましたが……》
《宿主が悪かった……か》
《それもありますが、単に使う場面が無かったとも言えます。ただ、今回は事情が違います》
《事情……?》
《フフッ、事情についてはラティスちゃんから直接聞いてもいいんじゃないかしらぁ。私から言えることは、これからは正も負も関係なくよろしくってこと……それと、ラティスちゃんが戻ってくれば必然的にミハクちゃんも戻ってくるから、覚悟だけはしておくことくらいかしらねぇ》
負魂機戦中に意識の疎通が取れなくなり、どうなったのか全然わからなかったミハク……
とりあえずこれで無事なことは確定だからホッと息をつけるだろう。
《ただ、ラティスちゃんとミハクちゃんは二人で一人、ラティスちゃんはミハクちゃんのことを知らないわぁ……逆は知ってるけどねぇ。このことは覚えておいて損は無いと思うわよぉ》
なるほど、ラティスは他の負の精霊たちを知っていても、ミハクのことだけは知らないというわけか……ややこしいな。
《とりあえず、作業は終わっていると思うから棍棒をとりだして心の中で声をかけてみてねぇ、それじゃ、アタシはこれからもうひと眠りしてくるわぁ》
《ああ、ありがとう。これからよろしく頼む》
声がしなくなったことを確認し、収納空間から棍棒を取り出す。
相変わらず持っている感じがしないほどの重さで、見た目はただの木を荒く削っただけのものだ。
(ラティス、ミハク……どっちでもいい、聞こえているなら応えてくれ!!)
《セェスゥ……会いに来てくれたんだァ》
耳元で「ふっ」と息を吹きかけられているかのような感覚がするが現実の耳付近には何も存在していない。
どうやら現れたのはミハクのようだ。負の精霊たちはどうしてこうも出てくる場面を考えてくれないのだろうか。
《アタシが出てきたことが……不満なの? セス》
《いやいやいや、そんなことは無いゾォ! ほら、俺ミハクのこと大好きだしィィ!》
危ない! なにか今ヤバイものを踏みかけた気がした……なぜ味方にここまでビビらねばならないのだろうか。
《そっかぁ、別にアタシとしては好きとか嫌いとかよりもぉ、セスにッ! 耳元でッッ! 囁いてもらえればぁ……それで良かったんだけどなぁ》
なんか、面倒くさ値が前よりも上がっている気がする。あれだ、「アタシぃそんなつもりじゃなかったんだけどぉそこまで言うなら貰っとくねぇ」みたいなやつだ。
しばらく構ってやれなかったことで、ミハクが面倒くさ値をぐんぐん伸ばしていってしまったのだろう。
久しぶりの会話だったから、もう少し「寂しかったぁ」とか言って甘えられるのかな、とか期待した俺が馬鹿だったようだ。
ミハクは以前と同じく元気なようだ。
心の中で溜息をつきながら俺はその事に落胆と同時に安堵した。
おかえり、ミハク。
読んでくださりありがとうございます┏○ペコッ
さっさとレスト達に合流させたいんですけどね〜まあその前になんか挟んじゃってもいいかなって思いまして(笑)
とりあえず新キャラ登場させましたが、仲間になるかどうかはまだ分かりません!(レストの時も似たこと言ってた気がする)
まあ、どうなるかはこれからのお楽しみということで、また次回お会いしましょう!