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29.クオンと一緒

遅くなりました(。>人<)

すいません┏○ペコッ

 「小僧、そいつがお前の知り合いか?」


 クオンとの再会を喜んでいると、後ろから筋肉長女が声をかけてきた。

 クオンの柔らかい感触は名残惜しいが、答えなければめんどくさい事になるだろう。

 抱擁を解きながら手を繋ぎ、2人の方に向き直る。


 「…………」


 筋肉長女の目をしっかりと見つめ頷く。

 しばらく何も言わずに見つめあった後、筋肉姉妹が取り出していた斧を腰にしまい直す。


 「ふむ、なかなかなんとも言えない見た目をしていたが、小僧の仲間であるならば心配はいらないだろう」

 「ヌハハッ! しっかりと再会できて良かったな!」


 筋肉次女が近づいてきて俺の頭を撫でる。

 硬くゴツゴツした手ではあったが、なんとなく女性らしさを残した手で撫でられると、そこまで悪い気はしない。


 ギュゥゥッッ……


 クオンが若干とはいえ強く手を握りしめてきているのだが、クオンの感情はどこまで消えているのだろうか? 今のは明らかに嫉妬だと思うのだが……


 「再会できて早速で悪いんだが小僧、これからどうするつもりだ? これから私達はこの街の生存者を探しに行こうと思っているだが、正直に言うとこの様子だともう手遅れだと思っている」


 クオンが暴走していたとはいえ、仲間になったばかりのヘレナや、武器を貸してくれたおばあさんを殺すとは思えない。

 どうにかしてそれを伝えたいのだが……。


『私をお忘れではないですか?』


 この声は、愛の精霊?

 確かにコイツの能力を使えば俺の考えていることを伝えることは出来るだろう。

 だが、この能力はお互いを愛していなければ発動しても効果が無い……今のクオンじゃ……


『私を忘れていたわけではなく、先程までのクオンさんの行動をお忘れになっていたようですね』


 こいつ、さり気なく俺のことを馬鹿にしているんじゃないだろうか。

 だが、コイツの言い方からすれば先程までのクオンの行動は『愛』からの行動だと言うことだろう。


『愛とは感情の源、愛があるから怒れる。愛があるから楽しい。ならば、アナタを抱きしめ、握りしめる手から伝わるのは愛と相違ないではないですか』


 愛とは感情の源……か。

 言われてみるとたしかにそんな気はする。無関心な事に何かを感じることは無いからな。

 それならばと筋肉姉妹にジェスチャーでちょっと待ってて欲しいことを伝え、負魂機戦で使った光の壁の極小版を繋いでいる手と手の間に展開した。


 《聞こえる、クオン?》


 俺の声が届いたのかクオンの体がピクリと動く。

 無表情なままこちらを真っ直ぐ向いてくるその顔は何回見ても見とれてしまいそうになる。


 「聞こえる、セス」


 やはり愛の精霊が言っていた通り、クオンには俺の声が聞こえていた。

 内心ホッとしている自分に少し笑いそうになる。


 「おっ、小僧との意思疎通が出来るのか! だとしたら話が早いな、どうする? ワシらの救助が終わるまで待って一緒にリンドベルグまで行くか、それともこのまま別の街に行くか」


 隣国のリンドベルグ……か。

 気にならないと言えば嘘になる、折角異世界に来たのだから、なんだかんだ言ってこの世界の全ての国とかを見に行きたいとは思ってるし、ヘレナやお婆さんのことも気にかかる。


 しかし……


 《クオン、君と離れた後に少しの間だけど仲間が出来たんだ……ただ、俺の八つ当たりのせいで酷い別れ方をしちゃって……》

 「セスは別の街に行く」


 クオンの決断の早さが凄すぎて少々驚いてしまったが、実際に最終的にはそう言おうと思っていたから問題は無い。


 「ふむ、もしこの街に生き残りがいたとしたらリンドベルグで保護するつもりだから、しばらくしたら立ち寄ってみても良いと思うぞ」

 「その時はワシらにも顔を出すんだぞ!」

 「分かった、それと知り合いの武器屋のお婆さんが生きている可能性が高いからそこのお店を調べてみてほしいってセスが言ってる」

 《俺はまだ言ってないぞ!?》

 「セスの顔を見ていれば何が言いたいのかはすぐに分かる」


 そういう所は変わってないのな……俺がクオンから思考を読まれない日は来るのだろうか。


 「無理、セスはわかりやすい。それより行くんでしょ?」

 《あ、ああ……行くとするか》


 最後に筋肉姉妹に礼をして立ち去ろうとするが、出口がわからない。

 申し訳ないと思いながらも、彼女達に出口まで送ってもらい、屋敷の近くに停めてあったチューリオを頂くことにした。

 チューリオを見かけたのが森での人助け以来なのだが、だいぶ昔に感じる。


 「コレは魔力で動く乗り物……セス」

 《了解! 任せろ、クオン》


 中の構造はハンドルしかない二人乗りの自動車のようなものだった。

 アクセルとブレーキは自分の魔力で調整していくらしいが、大変なのは調整よりも魔力量らしい。


 「小僧、せいぜい魔力切れ中に敵に襲われたりしないようにな!」

 「お前に死なれると妹も悲しむしな! ヌハハッ!!」


 相当強い敵が不意打ちを仕掛けてくるのは、旅を続けていればいつ起こってもおかしくはない。

 筋肉姉妹が言っているのは、一見チューリオでの魔力切れについてかと思われるが、恐らくは旅全体の中での油断の事だろう。


 「セスがありがとう、気をつけますって」

 「おうおう! 気を張るタイミングと緩めるタイミング、間違うんじゃねぇぞ! そんじゃ、行ってこい!!」


 筋肉長女の言葉に頷き、チューリオにゆっくりと魔力を注ぐ。

 軽く動き出したことを確認し、魔力の流れを一気に早める。

 後方にいた二人に手を振り別れ、前方を確認しながら門の方へ向かう。


 「セス、どこ行くの?」

 《とりあえず獣人界を目指して行くつもりなんだけど方向がわからないや》


 ラティスが返事をしてくれれば方角くらいすぐにわかりそうなものなんだけど、いないならば仕方ない。

 それに、クオンに聞こえてるならばそれで問題は無いわけだし。


 「なら今は、適当?」

 《そうなるね。どこか行きたい所があるならそっちに行くよ?》

 「特にない、任せる。私はセスといられればどうでもいい」


 本当はレストやクローリーに謝らなければならないのだが、方角が分からなければ行けるものも行けないだろう。

 さり気なくクオンの一言に照れそうになるが、元からこれより恥ずかしいことを言われていたような気がするので問題はなかった。


 《なら、しばらくはここの草原を真っ直ぐ進むとしよう》

 「うん」


 ────────


 走り始めて体感で三時間くらいが過ぎた頃、突然隣から可愛いお腹の音が鳴り響く。


 《ああ、お腹がすいたのか。恥ずかしがらずにちゃんと言わなきゃダメだぞぉ》

 「お腹……空いてない」


 そこそこ大きい音が聞こえていたのだから、明らかに肉体は空腹状態のはずだが、恐らく食欲が湧かないのだろう。

 今度からは時間で食事を管理していかなくてはならないようだ。

 ちなみにだが……俺には空腹は訪れなかった。


 《とりあえず、これを食べておくといいよ》


 周りに障害物などがないことを確認し、ハンドルから少し手を離し収納空間に手を突っ込む。

 取り出したのは野菜串と調理していない肉の塊だ。


 「んっ、セスが言うなら食べる」

 《ホントは言わなくても食べてほしいんだけどな》


 隣から野菜串のシャキシャキの食感が伝わる良い水音が聞こえる。

 しばらく咀嚼音がした後に、串を外に放り投げたクオンは生肉の塊にそのままかじりつき始めた。

 流石に色々言うことがあったので、一旦車を止める。


 《クオン、ゴミは外にポイ捨てしちゃいけないんだよ》

 「ポイ捨て? よく分からないけど今の行動が悪いことなのは理解した」


 一度チューリオから降り、先程ポイ捨てした串を拾い上げる。

 よく考えたらゴミは伝わってもポイ捨てとかは通じないのか……言葉の選び方が難しいな。


 座席に戻りクオンから肉を取り上げ、魔法で小さな火を出し肉をしっかりと焼いていく。

 大した味付けはできないが、収納空間から以前も使った塩っぽいものを振りかけていく。


 ある程度火が通りかけた頃、クオンが俺の腕に触れ、そのまま抱きついてくる。


 「さっきの野菜もこの肉も、全部セスの匂いがする。もっと私の中に入れたい。コレが食欲……」


 肉と野菜から俺の匂いがする? どういう事だろうか。

 経緯はどうであれ、食べ物を口にしたいと思えたのならそれは食欲だろう。

 意外と感情の戻りは早いのではないだろうか。少しだけとはいえ希望が見えてきたな。


 《大丈夫、それが食欲だよクオン。ほら、お肉が焼けたぞぉ!》

 「んっ、セスの……匂い」


 あんまり俺の匂いとか言われると反応に困ってしまう。

 こちらの世界に来てからシャンプーとかボディソープを使用して体や髪を洗った訳では無いから体臭はとても気になる所なのだ。


 《クオン、あまり匂いに関しては連呼しないでくれ、恥ずかしいから》


 そう言うとクオンが俺の首筋あたり鼻をつけ思いっきり息を吸い込む。


 「すぅー……はぁ。でも、この匂いを私は知ってる。この匂いは私を受け入れてくれたただ一つの…………すぅ……すぅ」

 《おい、おーい? 寝ちゃったのか??》


 不自然なほどの睡眠導入に一旦チューリオの走行をやめ、辺りを警戒する。

 現在俺が走っていたのは街道以外は岩がそこら中にゴロゴロ転がり、敵がいても一切視認できない様な場所だった。

 最悪野盗に襲われてもおかしくはないだろう。


 「ちっ! ブスしか私の術にかかんなかったじゃねぇかよォ」


 ここらへん一帯の全方位から聞こえてくる声は間違えようもないほどの男の野太い声だった。

 正直声は聞いてしまったから仕方ないが、顔くらいは見たくないと思うのは俺だけなのだろうか。


 「まあいい! お前みたいな男はよく売れるからねぇ。同じ男だからといって容赦はしないよ、やっちまいなアンタ達ッッッ!!」

 「「「うおぉぉぉぉぉぉッッッッッッ!!!!」」」


 なんという事だろうか、言葉の通りに受け取るなら恐らくコイツらはここを餌場として数々の男達を誘拐した奴らに違いないだろう。

 今の俺は声を出すことが出来ないため肉弾戦をするしかない……がしかし、出てきた女達は20人を超え、更に皆力士も驚愕なほどの体格をしていたのだ。


 とりあえず投降するふりをして、チューリオから離れるとしよう。

 寝ているクオンを巻き込むわけにはいかない。

 静かに両手をあげ、チューリオから降り少し前進する。


 「ケヒヒッ、護衛の女が眠っちまってなす術なしってかァ? いやぁ……それにしては落ち着いてるな、警戒を怠らずにしっかりと囲んで一斉にかかるんだよ!!」

 「「「ヘイサーッッッ!!!!」」」


 チッ!! 元から俺に集中していたようだからクオンは狙われなさそうだけど、このまま殺さないように倒していくのは骨が折れそうだ。


 野党の集団が街道に降り立った瞬間に俺は走り出す。


(とりあえず数を減らす!)


 アレクター程の出力は出なくてもキャスラードだって人一人を殺す分の出力は普通に出てしまう筈だ。

 ある程度の手加減をしつつ、上手く鳩尾あたりを狙っていきたいところだ。

 接近していた相手は俺が急激に近づくことに驚き、体が強ばってしまっている。


(もらった!!)


 敵の胴体ど真ん中に蒼い装甲の腕が突き刺さった……かのように思えた。

 拳を引き抜き距離をとると、相手はゲラゲラ笑っていた。


 「兄者ァ!! コイツ、大したことないですぜェ!」

(嘘だろ!? 本気じゃないとは言え、そこそこの強さで殴ったはずなのに)


 驚愕していると、横から風を切る音が聞こえる。

 後ろに下がることで避けることには成功するが、腹部の辺りの布が切れてしまった。


 「ヒューッ!! 流石ですぜェ。お前らも続け続けェェ!!」

(クッ! 武器をッ!!)


 収納空間に手を突っ込み、棍棒を引き抜く。

 以前とは変わらない姿のまま棍棒は、ただの棍棒だった。


(流石に期待はしてなかったけど……なッッッ!!!!)


 ベキィッッッ!!


 「こはぁぁっっ……」


 目の前にいた女の先程殴った部分に思いっきり両手で持った棍棒を叩き込む。

 デカブツの一体目は気絶してしまったようで、立ち上がる気配は見せなかった。

 流石に術師一人にデカブツ十九体で、さらに囲まれそうな状態では手加減はできない。


(例え誰かを殺しても……俺はクオンと生き残る。それだけは譲らない、譲れないッッッ!!)


 瞬間腹部の裂け目から濃い青色の光が漏れ出す。

 負魂機との戦闘中にも色が変わったりと、色々あったがこれは一体なんなのだろうか。

 疑問に思ったのもつかの間、左右から「ドシン、ドシン」と地響きをさせながら走ってくるデカブツ二名。


(武器はどちらも剣ではあるが、右の方がやや早い……か)


 剣を棍棒とぶつけ合った場合、最悪の場合は棍棒が切れてしまうだろう。

 ここは以前試したのとは別に、棍棒自体に魔力を流してみることにしよう。運が良ければ耐久くらいは上げてくれるだろう。


(敵の速度でここに到達するのは恐らく五秒後、先に到達する右を怯ませたあと、勝った気になっている左を殺して右にとどめを刺す)


 到達するまでの五秒間、ゆっくりと確実に魔力を注いでいく。

 壊さないように丁寧に……ギリギリの戦場でこんなことができるようになっている事に自分でも少し驚く。


 予想通り右の敵が剣を振り下ろしてきたので、しっかり魔力を注ぎ込んだ棍棒を振り上げ刃部を粉砕し、蹴り飛ばす。

 蹴った相手は内蔵がやられたのか、口から血を吐いていた。先程までの威力とは違う……?


 考える間も与えてはくれず、当初の予定通り左の敵の胴体を思いっきり薙ぎ払うと、敵の腹部のみが飛んでいってしまった。

 やっぱり威力が段違いだ……考えられるとしたら腹部の球なんだろうが、これについて考えるのはラティスが戻ってきた後になるだろう。

 ……早く戻ってきてくれよ、ラティス。


 ────────


(場所の関係上一度に戦う敵の数が増えていくのは辛かったが、何とかなりそうだな)


 残りの敵はデカブツ二体に術師一人さっさと終わらせて旅の続きと行きたい所だ。


 「クソクソクソッッッ!! お前らみんな役立たず過ぎるだろ! 私がこれだけサポートしてやってんのにィィ」

 「だけど兄者ぁ。アレの力は異常ですよぉ、俺……胴体だけ吹っ飛ばされたくねぇよ」

 「ボクもあれは嫌ですぅ。せめて死ぬなら寿命で死にたいですぅ」


 なんという勝手な奴らなんだろうか……自分達は女を殺し、男を売り、人の人生をぶち壊してきたというのに。

 エルフの村で見たような、クソみたいな奴らに俺の中で怒りが……怒りが…………湧かない……?


(あれっ……なんだろうこの空虚感は……俺は何を考えていたんだろう)


 怒りは湧かずにただひたすら前進し始める。


(とにかくクオンのところに行かなきゃ、早く感情を戻してあげなきゃな!)

 「「「ひぅぎ……んぎゃぁぉぉぉぉっっ!!」」」


 クオンが乗っているチューリオと俺の間になんかいたので適当に潰してしまったんだけど、街道の公共物とかだったらとても申し訳ないことをしてしまった。




 ────まあ、俺とクオンの間を阻むモノにろくなものなんかあるわけないから、問題ないだろうけどさ。

読んでいただきありがとうございます。


どことなくセスもズレてきている気がしますね〜。人を殺すことへの罪悪感もだいぶ薄れてきてますね。

感情消したり治したり……繰り返してると何かがズレてきてしまうのかもしれないですよね。


そんな彼を書くのは…………とても楽しいです(●´ω`●)


それでは次回もお会いしましょう!

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