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23.狩場

「お兄ちゃん? 声が聞こえるけど、やっぱり人だったの?」

「レスト、近づいちゃいけませんっ!! お兄ちゃん、コレを見ることは許しません!」


 こんなの見たら、レストの成長に害を与えるに違いないからな。

 なんだよ「へぁぁ……」って! 明らかにラリってんじゃねぇかよ!!


「坊ちゃん……この方は魔力中毒者でございます」

「ぬわぁぁおっ!! おまっ、いつからいたんだよ!」

「坊ちゃんが岩の後ろに回り込んだあたりからです」


 最初からじゃねぇか! って突っ込みたくはなるが、レストじゃないから大丈夫だ。


 ラリってる奴の症状に関しても詳しそうだから、レストが興味本位でこっちに近づいてしまう前に処理してしまおう。


「魔力中毒ってどうやったら治るんだ?」

「根本的には治りません……」


 治らないのかよ……もう一回しまっておくか? いや、それでは不自然すぎてレストに怪しまれる……


「しかし……依存対象の魔力を与え続けている間は正気に戻る……と、とある村の魔法使いの方が仰っていました」

「な……なるほど、ありがとう! 依存対象さえ見つかれば万事解決だな」


「お兄ちゃん? クローリーさんもそっちにいるんでしょ?わたしも見たーいっ!!」


「ふえぁぁ…………まりょくっ……くらさ……いぃぃいぃ」


(ひぇぁぁっっ!! レストこっち来ちゃうし、コイツはさっきより顔が怖くなってて、しかもずっと俺の股間ばっか見てるしッ!! ……ん? 股間…………ハッ!?)


 ミカ……恥ずかしがっててもしっかり教えてくれてありがとうな! クオンと合流できたら絶対会いに行くからな!


「クローリー、コイツの依存対象はどうやら俺のようだ」

「ええっ、彼女の目線の先にはあなたの魔力袋しかないようですからね」

「生々しいから袋とか言うな!」

「失礼致しました。それより、レスト様がすぐそこまでいらっしゃってますよ」


 くそっ、まじですぐそこまで来てんじゃねぇかよ。

 魔力の渡し方なんて知らないし、聞いてる暇もないからな……仕方ない。


「ラティス!」

「ハイハーイ、おまかせあれ〜ってねッ!」


 まだ体の共有を切っていなかったラティスに体を預けると、体全体に魔力を纏い始めた。


 全身を触られている感触がして少し嫌だが、これで何とかなるんだったら我慢できる。


 レストが到着した時には、ラリっていた獣人の女性に肩を貸している俺の姿があった。

 全身に纏っていた魔力が肌を通して相手に伝わっていくのを感じる。


 魔力を与えたからか、大人しくなって俺に体をこすりつけてくる。

 やめろ……これはこれで教育に悪そうだ。


「れ……レスト、この人は今とても具合が悪くてだな……え〜っとだな」


 しまった……なにも言い訳を考えていなかった。

 このままでは「森の中で岩盤束縛女とイチャイチャするお兄ちゃんなんて嫌いだ!」なんてことも言われかねない。


 俺の言い訳が酷かったからか、クローリーが前に出てきて。


「レスト様、こちらの方は虫に刺されて身体中がかゆみに襲われております。まだ近くに虫もいるようなので近づいてはいけませんよ」

「そうなんだ、痒いからお兄ちゃんに体を擦り付けてるんだね」


 おおっ、森という場所をいかした良い誤魔化し方だ。素晴らしい執事が仲間になってくれたようでとても助かる。


「いえっ、アレは坊ちゃんが……ゴニョゴニョゴニョ……」

「えっ!? そんな……最低だよ……お兄ちゃん」



 クロォォォリィィィッッ!!


 お前を信じた俺が馬鹿だったよ! 何だよ! 「ゴニョゴニョゴニョ」って何なんだよ。

 褒めてたじゃん、心の中でとはいえ褒めてたじゃん!


 ふぅー、一旦落ち着こうか。


「レスト、こいつは全身が痒いからお「あなたの魔力……癖になっちゃいました」オォォォ!!」


 なんてタイミングで、なんて発言してくれたんだコイツはッ!! 見てみろ、レストが笑って……笑って……?


「アハハッ、焦りすぎだよお兄ちゃん。その人魔力ちゅーどくしゃ……? ってやつなんでしょ?」


 なんだ……ただの冗談かぁ。

 魔力中毒に関しては知らなそうだけど、説明とかも冷静に聞いてくれそうだから助かった。


「とりあえず、この人を連れて森の探索を続けるのは難しいから、一旦街に帰るか?」

「いえ、それを許しては貰えないようですよ……坊ちゃん」


 クローリーが見つめる視線の先に、赤い鱗柄の壁が見えた。

 周りをよく見ると、全方位に壁が出来ていた。


「クローリー……いつから気づいていた?」

「魔力中毒者と戯れていたあたりからでしょうか」


 戯れていた訳じゃねぇよ! てか、気づいたんなら早く言えよ!


 この壁の柄を見る限り噂の蛇なことには違いないが、棒高跳び世界王者でも飛べないくらいには高いぞ……こんなの想定外だ。


 敵の大きさに驚いていると、クローリーが静かに近づいてきて耳打ちをしてくる。


「坊ちゃん、レスト様に魔力中毒者を預けて全力で守らせましょう」

「ああ、コイツはかなり厳しそうだ……レストは絶対に守ってみせる」


 その時、蛇の体から煙のようなものが周囲に広がり始める。

 煙はあっという間に周囲に広がり、ここら辺一体を包んだ後消えていった。


「い……いまのは?」

「分かりませんが、なにかしたことは確かです。私が先に向かいますので、レスト様への指示はおまかせします」

「ああ、すぐに俺も反対側への攻撃を開始するからくれぐれもすぐにやられないようにな」


 ゴブリンとの戦闘を見る限りそんなヘマはしないことは分かっている。

 それでも、言っておかざるを得ない程の存在感がこの蛇にはあった。


「ふふっ、かしこまりました。命優先での行動をさせて頂きます」


 クローリーも分かっているようで、無理な行動はしないつもりのようだ。


 クローリーが鱗の壁に向かうのと同時に、俺はレストへと近づき話しかける。


「レスト、コイツの守りを頼めるか?」

「う……うぅん、さっきから魔法が使えなくて守りきれるか分かんないよ……」


 魔法が……使えない?

 さっきまで普通に使えていたはずの魔法が使えないとなると、蛇が発した煙に原因があるのは明白だ。


「舞踏魔法も駄目なのか?」

「あっ! まだ試してなかった!」


 レストが使える舞踏魔法は二つ、精神魔法と障壁魔法。


 舞踏魔法しか使えないのであれば、戦闘が終わるまで踊って貰わなければならないので、本来であれば普通魔法で済ませて欲しかったのだが……


 レストがゆっくりとした足取りでステップを踏み始めると、周りに薄くて透明な膜ができ始めた。


「あっ! 使えるみたいだよ」

「そうみたいだけど……これ、耐久力あるのか?」

「むうっ、見た目はこうでも結構なんでも防ぐんだよ! 心配してないで、早くクローリーさん手伝ってあげて」


 蛇の体から出てきた触手の様なものに苦戦してるクローリーが目に入る。


 見るからに滑りそうな見た目の通りで、素手で戦っているクローリーは苦戦しているようだ。


 レストに何かあったらすぐ知らせてくれと言い残して、クローリーと反対側の蛇の胴体に来た。


「とりあえず棍棒で一発ッ!!」


 助走をつけて思いっきり力任せに叩き落とす。

 そこら辺の魔物なら頭部が潰れていてもおかしくはない一撃だったのだが……


「滑る……全然打撃が伝わっている気がしない」


 蛇の胴体の周りにヌルッとした膜が張ってあることに気づく。


 こちらを敵と認識したのか、クローリーが苦戦していた触手をこちらにも展開してきた。


(打撃が入らないならアレクターでも威力落ちそうだし、鎖がなくても触手は避けられる……可能性があるのは性欲の熟女か庇護欲の女騎士か)


 どちらも連結をしていないから単体での装着になることは分かっている。


(くそっ! どっちにすればいいんだ!!)


「坊ちゃんッ!! レスト様がッ!!」


 俺が悩んでいる間にレストの障壁に触手が叩きつけられていた。

 どうやらクローリーと俺が向かっていない方向から伸ばしてきたようだ。


(クソッ! クソッ!! 悩んでる暇なんかないのに……)

「お兄ちゃんッ!! 危ない!!」

「はっ!? ────ゴゥハッッ…………!!」


 戦闘中だというのに考え込んでいたせいで、今まで避けられていた触手に攻撃をくらって、レストの方に吹き飛ばされてしまった。


 障壁は味方にぶつからないらしく、吹き飛ばされるままレストにぶつかってしまい舞踏を中断させてしまった。


 耐久が脆くなった障壁は触手の一撃で破壊されてしまう。


「あ……あぁ、お……にいちゃん。こわいよぉ」


 レストは自分の周囲に集まる触手を見て恐怖に顔を染めていた。


 クローリーが気づき、慌ててこちらに駆けつけ障壁を張るが、その影響で全方位から触手が迫ってきているため、あまり長くは持たなそうだ。


(守るって……約束したじゃないか……! レストを預かる時から、こんな瞬間が訪れるってことはわかっていただろ!!)


 どっちを使うか迷う……? 馬鹿だろ。

 手段なんか選んでられないんだよ……俺自身に力がないんだから、何かを守るのなら何でもやらなきゃ!!


「セスッ!! 騎士ちゃんを呼んであげて! 「わたし達なら守れる!!」って言ってる。名前も決まってるんでしょ!」


 ラティスの言う通りだ……俺だけじゃ守れないなら力を借りればいい、今までと同じなんだ。


「頼む! 力を貸してくれ!! キアァァァァ!!」

「そんなに叫ばなくても聞こえてます。一緒に守りますよ!」


 前話した時と全然違う……これが他者を守る精霊の本気か。

 凛とした声の中に、決して曲がることのない太い芯のようなものを感じることが出来る。


「セス、あなたの庇護欲を頂く代わりに力を貸します。これから、あなたが守りたいモノをわたしにも守らせて下さい」

「ああ、よろしく頼む」


 返事をすると、レストやクローリーなどに感じていた守りたい気持ちが一切なくなってしまった。


「レスト、ぶつかっておいてなんだが……まだ踊れるか? クローリー、まだ動けるなら敵の狙いを引き付けながら動き回ってもらいたい。できるか?」


 本来の自分であれば、怖がっているレストをまた踊らせるなんてことはしない。


 本来の自分であれば、所々服がちぎれ、顔や足に怪我をしているクローリーに敵の目を引きつけて動き回れだなんて言わない。


 でも────


「う……うん、さっきはいきなりで怖くなっちゃったけど、まだやれるよ!」

「私もこの程度の傷でしたらまだまだいけます」


────時には、無理なことを言ってもいいんだと思う。


 こちらの「守りたい気持ち」を押し付けて、相手の「まだやれる可能性」を潰してしまうことは、相手がこちらを「守りたい気持ち」を潰してしまうことと同じだから。


 適度に頼り、そして守られる。

 それが、仲間であって……友達なんだと。守る気持ちがなくなって初めて気づいた。


 レストとクローリーが指示通り動き始めたのを確認した後、目を閉じ頭に流れてくる言葉を口にし始める。



──────我が心に宿るは《庇護》


────弱者の叫び、強者の嘲笑を絶ち


───幾千の民の奉謝が我が不屈の精神となる


────来れ、守護の機人 《キャスラード》



 目を開くと、左腕に深い青色の装甲が着いていた。

 アレクターはトゲトゲしく攻撃的だったのに対し、今つけている装甲はどこか平面的だ。


「セス! 装甲に魔力を装填し、味方を丸く包むようにイメージしながら放ちなさい」

「わかった!」


 言われた通りに全力で魔力を注ぎ、前線で動き回るクローリーに向けて放つ。


 放たれた魔力はホーミング式の分散レーザーのようにクローリーを捉え、その周囲に想像よりも分厚いバリアを展開した。


「レストにも放つのです」


 言われるままに放つ。


 人からの指示のまま動くのは人形のようで本当は嫌なはずなのだが、何故か逆らえない。


「言ったでしょう、あなたが守りたいモノをわたしにも守らせてほしいと」


 キアの言葉には強い意志と、妙に馴染む意思が感じられる。


 きっとあれはさっきまで持っていた俺のモノなんだろう。自分のモノなら従えるもんな。


「さあ、反撃の時ですッ!!」

「おうッ!! レストは蛇の頭が出てきた時に意識を操作出来ないか試してくれ、その時までは守りに徹してくれ」

「うん! まかせて!!」


 レストに指示を出した後は、人機を装着した影響で上がった身体能力をフルに使いクローリーに追いつく。


「クローリー!」

「おや、坊ちゃんどうなさいましたか? 私はまだまだいけますが」

「今見えている通り、馬鹿みたいに頑丈なバリアを用意した。触手は無視して構わないから本体を攻撃してくれ」

「フフフッ……お任せ下さい」


 いつもより笑みが黒く深いような感じがしたが、気のせいだと思いたい。


「……食い散らかしてやる……!!」


 クローリーの本性が怖すぎるんだが……まあ、ゴブリンの倒し方を見てても結構ヤバイやつだとは思ってはいたけどさ……


「キア、この人機はあと何が出来るんだ?」

「味方を守る障壁の他は、敵を戦闘不能にさせるための魔力、血液吸収が使えます」


 使える能力も分かったので、クローリーとは反対側の蛇の胴体に左腕で思いっきり殴りつける。


 触手が一瞬こっちへ来るか迷っているようだが、クローリーの方が危険と感じたのかこちらへ来ることは無かった。


「どっちも一気にいけるか?」

「当然です。少しでも敵を弱らせておきましょう、障壁もあまり万能ではありませんから」


 その通りだ、どれだけ頑丈でも全てのモノはいずれ壊れる。

 壊されてもまた張り直せばいい話だが、その前に決着はつけたい


 殴りつけた箇所から魔力と血液がほんの少しだけ漏れてくるのが分かると、そこに手のひらをくっつける。


 手のひらの装甲がなにか音を立てているが、自分でも何が起きているかがわからない。


 特に光とかも起こらないので、一見何もしていないようにも見えるのが少し辛い……


 レストは魔力中毒者を守り、クローリーは両手両足、それと口を使い蛇の胴体に凄まじいダメージを与え続けていた。


 そんな状況がしばらく続いた後ついに……


「クギュワァァァァォォォォッッ!!!!」


 蛇の頭が上方からやって来た。

 上から見ると丁度真ん中にいるレストが狙いやすかったのか、真っ直ぐレストに急降下してくる。


「レストォォ!!」

「レスト様ァァ!!」

「お願い! 通じてッ!!」


 こんな状況下でも一切リズムや間、ステップの間隔等を間違えることなく踊ることが出来るのは普通ではできることではない。


 レスト……クローリー。俺はこの世界の中でもとんでもない人達を仲間にしてしまったのかもしれない。


 見事蛇の強襲にも臆さずに踊り抜いたレストが上を見上げると、蛇は急降下する姿勢のまま止まっていた。


「あ……やった……お兄ちゃん、クローリーさん……ちょっと待ってて。最後……決めちゃうから」


 そして、レストが最後のポーズを決めると、蛇は地面に何度も何度も頭をぶつけていく。


「ごめんなさい、ここまでで限界かも……」

「ありがとうレスト、充分すぎる戦果だよ。ゆっくり休んでくれ」


レストがその場に倒れ込むのを支え、ゆっくりと地面に降ろしているとクローリーが近づいてくる。


「坊ちゃん、あのままでは地面の方が耐えきれないでしょう。あの高さからの落下なら魔法で串刺しにした方が……」

「そうだな、クローリーはレストを頼む」

「かしこまりました」


 クローリーがレストの視線を蛇からずらしたことを確認してから魔法を使用する。


「これで終わりだ────リリース」


 極太の氷槍が落下地点に発生する。



 その後聞こえたのは槍が蛇を貫くと音と、頭を持ち上げていた胴体が地に伏せる音のみだった。

読んでくださりありがとうございます┏○ペコ


今回の話なんですが、書いてる最中にレスト死にそうだったんですよね^^;

ただ、自分で書いてるくせに「レストが可哀想だなぁ」って思えてきちゃってやめました(笑)


一応ハッピーエンド思考なので許してください(。>人<)


それではまた次回ヾ(⌒(ノシ >ω<)ノシ

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