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1話:進路

10月、そろそろ綺麗な紅葉が見える時期になるころ。

とある中学の教室で少年が机に突っ伏しながら唸っていた。



「あ~、暇」


と呟くこの短髪で顔は見た感じでは童顔ともいえる顔立ちの少年がブツブツと呟いていると彼の目の前に同じく短髪で調った顔立ちの少年が歩み寄りため息をつきながら話しかける。


「トシ、さっきからそればっかじゃん」


トシと呼ばれた机に突っ伏している少年。

彼の名前は横山俊哉。そしてその彼に話かけた少年は村神秀二という名である。

二人は野球部でつい二か月ほど前に現役を引退した選手たちである。

しかも引退するときの肩書はすごいもので「リトルシニア選手権大会優勝」の肩書を持っての引退であった。

横山俊哉(以降より俊哉)は最後の打者の打球を捕った選手であり、村神秀二(以降より秀二)はチームのエースである。


二人は少し他愛もない、あの授業の内容はどうだとかあの店に新しい物が入っただとか何気ない話をしていると、秀二はとある話題を口にした。


「トシはさぁ、進路とかどうすんの?」


そんな村神の言葉に俊哉は少し考えるとギィッと椅子の背もたれに寄りかかりながら話し出す。


「ん~、やっぱ明倭かなぁ。家から近いし、それに有難いことにお誘いの声ももらってるしねぇ。シュウは?」

「俺?俺は、神奈川の陵應に行こうと思ってる。」


その学校の名前を聞いた俊哉は驚いた。

神奈川陵應といえばここ6年間連続で甲子園へ出場している名門校である。

もちろん部内での競争は凄まじい物であることは安易に想像できるが、俊哉は秀二が十分やっていけるという確信を持っていた。

すると二人の元へ背が高く体格が良い少し濃い顔立ちの生徒が近づいてくると俊哉が手をヒラヒラとさせながら話す。



「お、君は我野球部の4番打者でこの全国大会で5本のホームランを放った優勝の原動力となった神坂龍司君じゃないか」


「・・・なんだその説明気味のセリフは」


と苦笑いをしながら返答をする神坂龍司(以降より神坂)は俊哉を見た後に秀二を見るとすぐさま口を開いた。


「俺も陵應へ行くつもりだ。そこでだトシ、お前も陵應へ行かないか?俺らと一緒に甲子園を目指さないか?」


「うおぉ・・・」


思わず口に出した情けないセリフ。

ここまでも真剣な目で神坂から甲子園、ましてや自分らと一緒に目指そうと言ってくるとは思いもしなかったのだ。

この秀二と神坂の二人は中学でも超がつくほどの有名選手で今年のリトルシニア選手権大会優勝へと導いた原動力の選手として、強豪校や名門校など引く手あまたである。

そんな彼らに対し俊哉はお世辞にも有名とは言えない選手であり、県内では明倭高校の他にも何校か声を頂いてはいるが、県外からは正直な所声などはかかっていない。


「陵應なら設備は勿論や環境は勿論だけど、俺らによってもより上に行けると思うんだ。トシもそうするべきだと思うんだ。お前も俺も。トシは自分を結構下に見てるけど、俺は違うと思う。」


まっすぐな目で言われる。

歯の浮くような恥ずかしいそのセリフを聞いた俊哉は内心とても嬉しかった。

秀二が俺と一緒に行こうと言ってくれることに感謝の気持ちさえ出てくるのだが、俊哉自身がこの選択が本当に正しいのかが分からなかった。


「うん、少し考えさせて・・・少し」


そう言葉身近に答え、その場はここで終了。

放課後となり俊哉は帰路につきながらポツリと呟いた。


「甲子園・・・か。」


次回へ続く。


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