4日目
うっすらと恋心を寄せた人間だったころの記憶
狂った思想
狂った人間どもがぶち壊した果てる世界
その狂った人間の思想の一部を少女らは調査する。
自らの存在理由を探して、自らの失ってしまった大切なものを再び手にするため…。
実験室…。また悪趣味な光景が広がっているに違いない。そう思いながら恵は肉の鞭をうまく使って扉を開ける。先程から鳴り響く音楽も徐々に大きくなっているような気もする。
眞樹の腕に付けられた余分な眼も総動員で中の様子を探る。
中には廊下と違って何もなかった。死体も、そのかけらも…。
部屋は割と大きかった。机にはさまざまな実験器具が置かれ、それと同様に様々な何かが置いてあった。
曇った瓶の中には肉が入っていて、その肉が何を現していたかなど現状では把握できない。だが、ここでも人体実験が行われていたのは明白だったのだろう。
その肉塊をよく見てみれば胎児だった。生まれる直前のものだ。そんな胎児達が何の実験に使われていたのだろうか…。
「…千春…こんなものを見つけた。」
京香が紙束を差し出す。実験室の机の上にあったらしい。
所々風化していて、何かの黒い染みで塗りつぶされており、全容を把握するのには時間がかかった。
「えっと…【最凶のアンデットの作成…。アンデットは人間では出し得ない驚異的な膂力を誇り、かつ疲労しない。そこに着目した今回の実験はドール製作同様にアンデットを人工的に作り出すものである。
アンデットの素材となる人間を使用しないためこの人類が減少した現代の中で新しい労働力、軍事力として利用できる。この研究は帝国でもすでに始まっており、我々共同王国の中でも実用化が急がれている…。】
だって。」
「アンデットの利用か…。」
「確かに…。倫理観は別として、便利だものね。疲労や食事の心配をしなくてもいいわけだし…。」
「ねぇ、クロウ。この研究は実ったの?」
「あ?おい恵、それを俺に聞くか?まぁいいや。実ったよ。だから一部の死霊術師とアンデットと人間が暮らす集落だって存在している。人類はしぶといもので完全に絶滅したわけじゃないからな。まぁそういっても総人口の2%くらいになっちまったが…。」
「戦争は何も生まない…。核の炎で焼かれた大地はとうに死に絶えた…。」
「京香、うまいこと言うね。」
「そんなでもない。ボクはこの世界で人間が生きていることに安心した。だってボクの両親とかが生きているかもしれないんだろう?それはボクの記憶の中にある誰か大切な人を失ったような記憶に逆らえる。希望になる。」
「京香…。」
眞樹の心配そうな一言を最後にしばし、沈黙が流れた。
「ねぇ、n69の資料。見つけたよ。」
「見せて」
千春がそう声を出すと恵がそれを食い入るように見つめる。そして、静かに読み上げ始めた。
【2148年12月18日。被験者『秋元健二』実験内容。アンデット兵器の製作。製作者アドルフ=ケイヒム
実験対象『n69』ネクロマンシー技術によりアンデット化成功。自我の発現認められず。
攻撃性極めて高い水準であると言える。実験の結果自我は認められないが元となった素体の方からか言語はある程度口にできるようだ。だが、支離滅裂で決して我々が理解できるようなものではない。
一緒に運び込まれた少女は別の死霊術師、研究員の裏切りにより、逃走。この実験が公になることは非常にまずいので研究を破棄。n69は地下12Fにある格納庫にて封印措置をとった。】
「……。」
気まずい沈黙を破ったのは眞樹がゴンと壁に手を叩きつけた音だった。それと共にけたたましいサイレンが鳴り響き、ケーブルが足元に絡みつく
「っく」
「まずい!みんな逃げて!」
「え?いや!何!これ!」
【侵入者発見。自動サーチにより侵入者捕縛。敵意確認。武装確認。これより最終防衛機構を発動する。研究員は速やかに退避してください。】
「バッカ眞樹!周りには注意しなさいと言ったでしょう!」
「ごめんなさい千春姉ぇ!でもどうしよう!」
そうこうしている間に地面には大穴が開き、ケーブルはどこかに導くように4人の少女を連れ去っていった。
クロウは抜けた地面に向かって急降下すると少女たちの行方を追って飛び出した。
「っつ」
暗闇の中恵は目を覚ます。目の前にはもはや見慣れてしまった肉塊の鞭とやぶれたひまく、日本刀を携えた少女の肉体が見える。痛みは感じないはずなのに反射的に痛みを感じた。そう、自分の身体が目の前に転がっていたのだ。
「ねぇ、誰かいない?」
そう声に出してみると近くでもぞりと動く音がした。
「あらら…。ひどいありさま…。」
「その声は京香?すまないけど私の頭をくっつけてもらえる?」
「……。驚かないの?自分の頭がちぎれ飛んでるのに?」
「驚いたって仕方ないでしょ?事態が好転するわけでもあるまいに。」
「君…。本当に変わってる。」
京香に直してもらって恵たちはお互いに破損がないか確かめた。最初の頭が捥げたこと以外は特に破損もなく二人は周囲を確認する。
先程のサイレンは鳴りやみ、静寂が二人を包み込む。鉄格子の嵌った牢屋らしき場所に放り込まれているが肉の鞭でこじ開ける。
「取り敢えず…。千春たちと合流しないとね」
「そうだね。どこに行ったんだろう。」
一方そのころ
「おい、おい、寝てんじゃねぇよ。おいってば」
クロウは恵を追いかけたがその途中で千春と眞樹を見つけた。眞樹は千春の隣で泣きじゃくり、クロウが千春を起こそうにも反応がない。
呼吸も脈拍もないのだ。目を瞑って黙っているだけで壊れていないのか判別する手段はない。
「ええい、泣くんじゃねぇようるせぇな」
「だって、だって、私のせいで…。私のせいで皆は捕まっちゃったし千春姉ぇだって起きない!」
「落ち着け。まだ壊れたわけじゃねぇだろうが。ったくほら、起きろっての」
千春は夢を見ていた。その夢の中で千春の身体は生前のままで、どこにも歯車はついていない。
夢の中で千春は誰かを助けていた。誰なのか…。黒く塗りつぶされていて…。思い出せない。その誰かを助けてそして…。何か大切なことが抜けている…。そんな気がする…。
「うっ」
クロウの何度目かの足攻撃で千春は意識を取り戻した。
「ほら、眞樹、起きたぞ」
「よっよかったぁ!!千春姉ぇ!!私…。ごめんなさい!」
「眞樹…。これからは周りを注意して行動すること。それが分かったら二人を探しましょう?」
「う…。うん。」
「ったくほらさっさとしないと置いていくぞ」
「置いてくって…。クロウ、宛でもあるの?」
「言ったろ?俺は恵のお目付け役だ。恵をいつ見失うかわからねぇ。そのために俺の体の中には恵探知機みたいなもんが埋め込まれてるんだ。だから、わかるんだよ。恵の居場所だけはな」
「…。へぇ…。そんな機能もあるのね…。」
「クロウって…。ストーカーなの?」
「喧しい!行くぞ。」
そんなことはつゆ知らず。恵と千春は牢屋区画から外に出た。
外の通路を出るとそこは大型の工場のようになっていて、何体ものゾンビと警備のためか武装したゾンビが蠢いて作業していた。
「あっアンデット…。」
「しッ静かに。この状況で戦闘はまずい。隠れながら先に進もう?」
「……。」
取り乱しかけた恵を引き留め、京香は歩を進める。そして、通路に入り込み、正面で仲間を見つけた。
「ち、千春…。」
「京香!それに恵も!よかった。大丈夫だった?怪我してない?」
「怪我はないよ。恵が頭捥げてたけど。」
「大丈夫。もう治った。」
「…。そう…。ならいいんだけど…。」
「二人とも!ごめん!」
「眞樹…。もうちょっと周りを見てね?今後もこんなことが起きると身がもたないよ。」
「ごめん…。」
「さて、それじゃ全員揃ったところで『格納庫』とやらに向かいましょ」
「その必要は…。ないと思うよ。」
「え?どういうこと?恵」
「あぁ、そうだ。その必要はないぜ。なんせ目の前の部屋だからな」
金属質の通路の先には『格納庫』と書かれたプレートがかかった扉があり、その扉は黒い染みで汚れていた。
扉は内側から何か大きな衝撃を加えられた形跡があり、あとから再度立てかけられたもののようだ。
先程は気にもしていなかったが音楽もこの部屋から聞こえてくる。
「この先に…。n69…。いや、健二が…。」
「ストップ。恵、私たちが居るの忘れてないわよね?」
「…。私が…。いや、私たちが彼を…。破壊しなくてはいけない。それはつらいかもしれない。もしかしたら私たちが壊れてしまうかもしれない。それでも…。破壊しなくちゃ…。」
「うん。一緒に破壊しよう。ぶっ壊してここから出よう。」
「眞樹…。」
「じゃあ配置は後衛に眞樹と京香。前衛は私と恵。それでいいわよね?」
「うん。」
「大丈夫。」
「それじゃ中に入りましょう」
「……。」
果てた世界で出会った同じ境遇の持ち主。
狂った思想で書き換えられてしまった初恋の相手。
その終わらない悪夢は、後日談は少女らの心に深い傷をつけていくのだった
というわけで次回、戦闘回ですかね
キャラクター紹介もあと二人残っているのですが順番に。
時村京香 ポジション/ホリック
メイン /ロマネスク
サブ /レクイエム
武装3 変異0 改造2
スキル 【業怒】【時計仕掛け】【死の舞踏】【銃神】
パーツ 頭 【基本パーツ】【カンフー】【アドレナリン】【スコープ】
腕 【基本パーツ】【対戦車ライフル】【合金トランク】【アームバイス】
胴 【基本パーツ】
脚 【基本パーツ】
というわけで遠距離アタッカーです。
今後の育成方針としては子守唄と死の手を取得したいですね。あと二丁拳銃かショットガン
で近寄ってきた相手の処理も行えるようにしなくては…。
ここまで書いていて思ったこと
描写が結構思いつかないものですね。頭を悩ませながらひねり出してます。
次回は年明けか大晦日ですv
頑張ります