第八話 学園の授業
ミラテリカの突然の訪問から翌日、ミラテリカはあれ以降泣きじゃくり今は目元を赤くしながらスースーと寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ている。何処かつきものが取れた表情でアグトはホッとした。
「まあ、これからだ。これからもっと明るい未来が待っているさ」
アグトは同じ年の少女を我が子を見るような目で見た。小鳥のさえずりが心地よく耳に届く。そんな中アグトは制服に着替え始める。シャツを着て、ハンガーにかけてあるブレザーとズボンを抜き取りぱぱっと着替える。
ミラテリカは昨日はバルスの付き人として学園に通っていたので、解雇されたミラテリカは現在学園に来る理由もないし来る資格もない。
「それに、昨日あんなに泣いたんだ。疲れているに決まっている」
メイドとして働くことを条件にここに住んでもらう事になったミラテリカだが、今日だけはゆっくり休んでもらおうとアグトはそっと寝室からそして家から出た。
学園の方は予想通りの周りからの反応があった。
「アティール家の御子息に喧嘩ふっかけたんだって」「マジかよ、命知らず」「でも大魔法使い様の弟子らしいよ?」
アグトは、以前に比べてより有名人となった。
「よっ! アグト」
「――ッ、びっくりした」
いきなり背中を叩かれたアグトは驚き、叩いた本人を見る。そこにはハーゲイの姿があった。
「ん、どうした? 狐につままれたような顔して?」
「い、いや、お前は俺を避けないのかなあ。と思っただけだ」
「は? はぁ、言っておくがアティールに喧嘩売ったからって縁を切るほどには落ちぶれちゃいないぜ? ちょっと相手の状況が悪いと縁を切ってちゃあ友達なんて一生作れやしねえよ」
これは名台詞ではないだろうか? とアグトは感動さえした。
「お、お前ってやつは……お前いい奴だな」
「お、おう! またお決まりの弄りがくると思ったが予想外の反応だったぜ」
「ん? そうか、弄られたいのかこのドMハードゲイ」
「だからちげぇええよ! あとMでもねえ!?」
こうしてアグトの学園生活は再び始まった。
学園での授業と言えば、先ずはド基礎から入っている。五大魔力属性の法則。魔術師なら誰しもが覚えておかなければならない基礎中の基礎。これを覚えていない者は恐らく居ないだろう。そしてハーゲイは後ろの席に居るアグトに向かって話しかける。
「なあ、五大魔力属性の法則ってなんだたけ?」
前言撤回、学園内でただ一人覚えていないものが存在していた。アグトはため息をつき、先生の話と教科書を見ろ。とだけ言い放ってハーゲイを前を向かせた。
ちょうど、シーザスがその内容を説明し始めた。
「ええ、皆も分かっていると思うが、というより分かっていない奴はいないだろうが、一応、本当にもうどうしようもない馬鹿のために超ド基礎の中のド基礎を説明するぞ」
シーザスの容赦ない言葉にアグトの前に座っているハーゲイはグハッと口にしながら机に突っ伏す。このまま寝ないかアグトは心配なところだ。
「んじゃあ、始めるぞ。先ず属性魔力についてだ。属性魔力は大きく分けて五つに分かれている。火、水、風、土(大地)、雷だ。他にも光と闇が存在するが今回は除外させてもらう。んでだ、この五大属性が円状になって相関図が出来上がる」
黒板に五色のチョークを使いながら火、水、風、土、雷の図を書いていく。その相関図は上から時計回りに矢印が書かれており、火→風→土→雷→水→火と一周していた。これが意味するのは火は風に強く、風は土に強い、と言った感じとなっている。
「まあ、これが五大魔力属性の法則なんだが。これがわかってないと相手が悪かった時撤退もせずに無駄死にする奴もいる。まあ、ここは名門学園だ。そんなへまする奴はいないだろうけど、な?」
シーザスはハーゲイを見ながら話す。どうやらアグトとの会話が聞こえていたらしくハーゲイは冷や汗をだらだらと流していた。
「モ、モチロンデストモ」
カタコトで返事をするハーゲイにアグトはやれやれとただ呆れるばかりだった。
基礎はこれだけではない。ほかの授業でも基礎を学ぶことから始まった。
さっきの授業が属性魔力・魔法の授業ならばこの時間帯は無属性魔法を学ぶ時間となっている。
「ええっと、先ずははじめまして~。私はウィスペーラ=サレイテともうします。今日からこのクラスの魔力操作授業の担当となりました~。気軽にウィズと呼んでください」
「ウィズ……?」
間延びした口調で話し、アグトたちのやる気などを削いでいく感じがした。
ウィズと言う名前にアグトは聞き覚えがあるも、どこで聞いたのか思い出せずこの思考を諦めた。ウィズと名乗る女性は何処かセラを思わせる雰囲気を漂わせており、警戒はしておこうとアグトは心に留めておくことにした。
「今日から始めるのは魔力循環です。皆さんは幼い頃にやったと思いますが今はどうしょう~? ほらやっていませんよね~?」
(勿論やっているに決まっている)
アグトは、何を言っているのか? と、疑問符を浮かべながらウィズを見る。既に日課となっているセラのトレーニング内容は今もなお続けている。強制ではなくそれをやらないともはや新しい一日が始まった感覚にならないという一種の癖としてだ。
しかしそんなアグトを除いた他の生徒は顔を俯かせたり、苦虫を噛まされたような顔をした。
「魔力循環は大切なんですよ~。魔法を使うときは必ず体の中に存在する魔力経路を通りますよね。その魔力経路に魔力を体内でグルグルと循環させていくだけの作業ですが~、それをすることによって魔法の発動が早くなったりするんです~」
「おお!」と、感嘆する生徒たち。その中で何を今さら、と鼻で笑うアグト。学園の授業はアグトにとってまだしばらく退屈になるだろう。