第七話 突然の訪問者
チャイム音の描写のなくしました
学園から徒歩二十分、賑やかな街を過ぎたところにアグトは住居を構えている。
バルスとの対決をしアグトは早々に帰宅した。
「ふぃー疲れた、久しぶりにあれ使ったな」
制服にシワなど構わず制服の状態でベッドに潜り込む。本当はシャワーでも浴びたいところだがあまり使わない力の行使のせいで体が倦怠感があった。
「属性魔力耐性や魔法で事足りたからなあ。やっぱり鈍っているらしい」
うつぶせの状態から少し顔を上げて自分の手を見る。あの力をもってすれば大抵の相手は屠ることが可能だ。だが、アグトはこの力をうまく制御できておらず、もしあの力を人に向けて放てば間違いなく死者が出るのは確実だった。故にバルスへの最後の攻撃は打撃で終わらせることにした。
そんな思考をしていると次第に睡魔がアグトを襲い、徐々に深い眠りへと沈んでいった。
アグトの深い睡眠を魔道具・チャイムの音でアグトはゆっくりと覚醒する。外を見ればもう既に暗く、時計を見ればすでに九時を回ろうとしていた。
「……ん、寝てたのか」
ピンポンと未だに鳴り続けるチャイムにアグトは気づき何か注文でもしたか? と疑問に思いながら急いで玄関へと向かう。玄関のドアを開けたそこには
「や、夜分遅くに申し訳ございません」
つい数時間前に助けたミラテリカが玄関の前に立っていた。
「どうしてここに?」
「えっと……その……」
ミラテリカのいきなりの訪問にアグトは一先ず家に上がらせ、リビングへ促した。ミラテリカをテーブル越しに座らせアグトは食後にでも飲もうと思っていた紅茶を淹れる。
「あ、あのお茶を入れるのでしたら私がしますが……」
「いや、ミラテリカはお客さんだからね。そこで待っていて」
流石メイドと言ったところか、アグトが紅茶を淹れる直前に申し出て断った後もなおそわそわとした雰囲気を出している。ミラテリカが仕事熱心な証拠と言えるだろ。注ぎ終えたティーカップを銀トレーで運びミラテリカの前に一つ置きもう一つを自分の前に置いてアグトは席に着いた。
「それでどうして俺の家に?」
数時間前――
勝負に勝利したアグトが学園を出たあとの出来事。
アティール邸庭にて――
「くっそッ! なんで生きているんだ! あいつ何かッ! あいつなんかッ!」
敗北したバルスは平常心というものを忘れていた。アグトは危険区域に飛ばし完全に死んだはずだった。なのに生きている。更に生力を身につけてだ。
「これでは本末転倒ではないかッ!」
バルスの目的、それは自分が欲しいものをすべて手に入れること。アグトが身に付けているものは、そばにいる者、その立場でさえも、欲しくて欲しくて仕方がなかった。それは兄弟では有り得る感情で、しかしその感情は異常にバルスを突き動かした。
バルスが求めたもの、それは長男としての立場だった。正確には甘やかされる立場といったほうがいいかもしれない。時期と当主として育成されてきたアグトのその背中をバルスは羨ましく妬んだ。
「くっそがッ、どうしてこうなった!」
もしかしたらアグトは自分の今の地位を取り返しに来るかもしれない。そんな恐怖も同時に湧き上がってきた。
先ずバルスがとった行動はミラテリカの処分だった。ミラテリカの存在、それはアグトに対して抑止力ともなりうる可能性もあるが、それよりもミラテリカを救出せんと本家を襲撃されるとたまったものではない。アティール家、主にハリスにはアグトが生きていたことを知られたくなかった。あの力はアティール家を継ぐには適正すぎる力だ。乗り込まれれば本当に自分の立場が危うくなる。それだけは何としてでも避けなければならない。
また己の駒にならない人物はそばに置いていても使い物にならないとも思ったバルスはハリスにミラテリカの解雇を申し出た。
「父上、ミラテリカを専属メイドから下ろしてください!」
「な、いきなりどうしたのだ?」
「それは……兎に角アイツはダメです! すぐにでも!」
「なるほど、あいつらしいな」
「あ、アグト様」
「?」
ミラテリカは席を立ち、土下座をした。
「申し訳ございませんでした」
「ど、どうしたの? 俺なにか謝られることされたっけ?」
「何もかもです。あの日あの場所で私はアグト様を裏切りました」
「それはバルスの洗脳のせいだとあの場所では言っていたはずだけど?」
「はい、確かにそのせいではあります。しかし、それから逃れることすら出来なかった私はアグト様への忠誠が足りない証拠です」
いやいや、とアグトは引きつった笑を作りながら突っ込む。さすがに無理だと、アグトは思った。恐らくバルスの使ったそれは精神操作の魔法を使ったものだろう。「魔力を流しただけ」とバルスは言っていたがアグトの知りうる魔法にはそんなモノはない。となると――
「この罰は受けるつもりです」
「え! ば、罰!?」
「はい、罰です」
「罰はなし……じゃダメ?」
「ダメです! それは私が許しません!」
「うッ」
いきなり強く出るミラテリカにアグトは気圧され、必死に『罰』を考える。その罰とは――
「じゃあ、俺と一緒にここに住んでくれない?」
「え?」
ミラテリカは目を見開く。アグトはこの状況を見て懐かしく思った。
あの日、危険区域に飛ばされ瀕死で行く宛もない自分をセラは快く向い入れてくれ、それどころか諦めかけていた魔法を使えるようにしてくれた。そして今度は自分の番だ、アグトはそう思った。
「行く宛がないんでしょ? なら良ければこの家に住まないかなーなんて」
「で、でも、私は――」
「確かに、罪の意識を持つのは悪くないと思う。罪意識を持たない人より断然いいに決まっている。だけど、罪の意識に囚われてはいけない。俺がアティール家への憎しみも綺麗さっぱりとはいかないけどそれでもあの日から比べると断然薄まっている。まあ、時効という理由もあるだろうけど」
アグトは話をしながらミラテリカを自分と照らし合わせてしまう。これはセラに言われたことだ。と、言ってもその時にはアグトの中に憎しみはほとんど消え去っていた時のことだ。「ほんと、大変だったんだから」と、セラはこの結果に向けて頑張ったのだと告白した。それを聞いたアグトはもう頭を上げることはできないだろう。
「だから、さ」
「で、でも――」
「ああ、もう、これはこれは罰だよ。罰を受ける側が反論しちゃダメだろ? 一からまた築き上げようよ。ここから俺とミラテリカ二人で」
「……はい」
ミラテリカは嗚咽とともに返事をする。涙で視界が滲む、顔が熱くなって鼻水が垂れ、涙と混ざる。そしてミラテリカは改めて決意し誓った。
(私はこの方と共に……。今度こそ離れない)
感動シーンかけるようになりたい