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第四話 入学

「ここが学園? 建物でかいし土地広すぎやしない?」


 シュベッツ魔法国立学園。ルブリニカ王国の中でその名を知らないものはまずいないだろう。およそ三百年ほど前、魔族という強大な敵の存在を人類が認識し魔術を編み出した。その技術をさらに高めようと当時の国王が多額の国費を使い建設した魔術師育成専門学校だ。その実績は素晴らしく、今現在活躍している魔術師の八割型はこの学園の卒業生だということだ。それ故か、この学園は各国からの留学生がくるほどの魔術師見習いにとっては聖地となっている。


 そのことはアグトも承知だった。が、この建物のでかさには驚かされる。


「さすが国内で二番目にデカイ建造物なだけあるな」


 勿論一番の建造物は王城だが、それに最も近い規模の建造物がこの学園に校舎と言うわけだ。

 校門をくぐるとまず目の前に現れるのは校舎まで続く道。石が敷き詰まれたその道は横に五人は並んでも平気なくらいの幅があり、一人で歩いているアグトは少し心細さを感じるレベルだ。次に両脇にある広大な校庭が目に映る。豊かな緑が広がり離れたところには噴水やベンチが見受けられた。



 入学式会場へ到着したアグトは静かに空いている席へ座った。だんだんとアグトと同じ制服を纏った生徒たちが見え始め、アグトの周りの席も埋めつくされていく。丁度アグトの後ろの席に誰かが座ったあと全員が揃ったのか入学式が始まった。



 入学式も滞りなくすみ、いよいよ自分のクラスへ移動となった。クラスは掲示板に貼られておりそこは既に人が騒がしく集まっていた。アグトはここへ来る前に事前に確認をしていたのでその横に設置されている校内地図をチラッと確認して自分のクラスへと向かった。




 アグトの教室は1年E組だ。クラスは基本的にA、Bクラスには貴族達が入り、その他をC、D、Eに振り分けられる。またアグトのような外部の人間もC、D、Eのいずれかに部類される。

 教室の横スライド式ドアを開けて教室に入る。そこにはまた黒板に群がる生徒たちが居て、そこに座席表が貼ってあることがわかった。後ろ方で少し背伸びをして自分の座席を確認するとアグトはその席に向かって座る。すると、前に座っていた男子生徒がくるっとアグトの方を向いた。


「んよっ! 俺はハーゲイ=スナックだ。よろしく!」

「お、おう、ハードゲイか……あまりよろしくはしたくないな」

「ま、まて早まるな、俺はハーゲイであってハードゲイじゃない!!」

「とは言うがな……って冗談だって、悪かったよ機嫌直してくれ」


 さらに追い打ちをかけようとアグトは思ったがハーゲイの心は既にズタボロだったらしくハ-ゲイは自分の机に突っ伏した所で素直に謝った。


「俺はアグト=ローズワーズ、アグトでいい」

「ローズワーズ? ……ってあの?」

「ああ、多分そのローズワーズであっていると思う。俺はあの人の養子だ」

「ほぇー、やっぱり噂は本当だったんだなあ。いやさ、今年あの大魔術師『セラ=ローズワーズ』の弟子が居るって聞いたけどよ、あれデマかと思ったら同じクラスだったとはなあ」


 確かに英雄と並ぶ有名な人物の弟子だ。デマと思ってもそれは逆に普通のことだ。しかし、その弟子は今目の前に存在する。その事をハーゲイは感動した。


「見てみればお前結構良い体つきしてんもんな」

「おい、それは俺を口説いているのか? ハードゲイ」

「だから違うって!! なんで分かってくれないんだよ!!」

「ははは、すまん弄りやすい名前だったからつい、な」

「な、じゃねえよ! こっちは結構気にしてんだよ、気を使ってくれ!」


 本当に気にしているのかハーゲイは既に充血するほど涙を流している。


「しかし、あの大魔術師さまがまだご存命だったとは」

「……ああ、も生きているさ」


 アグトが発するその言葉は何処かずっしりと重い言葉だった。


「でも生きているなら街とかには顔出さないといけないよな? 誰一人として見つけることができなかったのはどういうことだ?」

「ああ、それなら簡単だ。『危険区域』に今は住んでいるからだ」

「き、危険区域!?」


 ハーゲイは音量を気にせずに声を上げる。その瞬間周りのクラスメイトの目はアグトとハーゲイに向けられた。しかしそんなことはお構いなしにハーゲイは再び話し始める。


「それじゃあ何か? お前も危険区域で生活してきたっていうのか?」

「あーうん、最強な保護者がいたからね」

「そ、そうか、なるほど。どうりで誰にも見つけられないわけだ」


 セラの生存確認が今まで取れなかった事とアグトが生き残っていた事に納得が行ったハーゲイは頷く。

 そして丁度予鈴の鐘が鳴る。それを耳にした生徒たちはそれぞれ与えられた席に付き始め、ハーゲイも前を向き直した。


 暫く待つと教室のドアが開き担当の教師が入ってきた。短髪のオールバックの灰色の髪を持った男性教師。


「今日からこのクラスの担任教師となったシーザスだ。よろしく頼む」


 それからこれからの事をシーザスがアグトたちに事細かに説明する時間が始まった。時間が経ち、先生の説明も済むと既に昼食をとる時間となっていた。


「なあアグト、食堂行こうと思うんだが一緒にどうだ?」

「ん? ああ行くよ」


 食堂を利用する生徒は多く、どの生徒も口に運んでは美味しそうな顔をしている。その表情を二人は目にしてゴクリとどれほど美味しい料理が出てくるのか楽しみでならなかった。

 注文待ちで並んである行列にアグトとハーゲイは最後尾に並ぶ。最後尾にも関わらず既に食欲のそそる匂いがここまで届いて、遂には腹の虫が鳴った。


 いよいよ注文まであと数人と来たところ、その時アグトは誰かの肩と接触した。


「あっ、すみま……せ――ッ」


 アグトはぶつかった相手を見て固まった。緑色のセミロングの髪に、同じ緑色の瞳、服装は違い顔立ちだって身長だって違う、だがひと目でわかる。その顔に見覚えがある。八年前までずっと一緒に居た人、そして最後にアグトを裏切った人物――ミラテリカだった。

 ミラテリカを見た瞬間アグトの顔は強ばり、嫌な冷や汗が吹き出してくる。


「いえ、こちらこそ申し訳ございません」


 制服姿のミラテリカが謝罪の一礼をする。その顔には疲労の影が見えた。長袖の隙間から見える包帯はいじめや虐待にあっているようにしかアグトには見えなかった。

 ミラテリカはアグトを見て一瞬目を見開くも、すぐに悲しそうな表情をし顔を横に振るとアグトの前から居なくなった。


「アグトー、注文すっけど何にする?」

「あ、ああ日替わりにするよ」


 アグトはその日の昼食の味を全く覚えていなかった。

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