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第零話 プロローグ

 改稿とは名ばかりの新作です。

 読んでから改稿か新作か判断していただけると幸いです

 この世界では七歳になると適正魔法診断が行われる。



 適正魔法とは、火・水・土・風・雷・光・闇属性の中からどの属性が使えるか診断するものだ。

 魔法には個人によってそれぞれ適正となるものは違い、それを適正魔法という。

 適正魔法以外の魔法も使えるが、威力・効果は芳しくないほどに下がってしまい、また適正魔法以外の魔法も使えるものと使えない魔法もある。


 適正魔法は、人によって属性も違えば持っている数も異なってくる。

 適正魔法が、一つもなかったり逆に二つあったりする人もいて世界で最も多い適正魔法の数は、三つだという。





 ルブリニカ王国の中でも七魔導に数えられる名家のアティール公爵家の長男に生まれたアグト=アティールも例外ではなく適正魔法診断を受けた。


 アグトはアティール家の中で疎まれている存在だった。

 アティール家は歴とした魔法貴族だ。それ故にアティール家は絶対実力主義、実力こそ総べてである。だが、そんな家に生まれたアグトは魔法を使うことが出来なかった。魔力こそ絶対的にアティール家の歴代で多くともその魔力を上手く使いこなせなかったのだ。



 アグトは魔法を何一つ使えなかった。



 そういった理由でアグトは魔力こそ最強の『欠陥品』として家では蔑まれてきた。一族の恥さらしで、邪魔者で、お荷物で、それはアグト自身も自覚をしていた。


 しかし、そんなアグトでも適正魔法診断は行われる。

 広大な家の土地にある離れ、その中でも最も古い石造りの建造物でそれは行われた。建物の奥地下、壁に取り付いた蝋台に付いているロウソクの先からゆらゆらと仄かに揺れる光、普段から使われないからか少々埃が被っていた。その最奥に綺麗な球状をした無色透明の水晶が石台の上に置かれていた。


 実はアグトはこの日を待ち遠しかった。もしかしたら己の適正魔法が魔力同様に異常だったら自分を見る目も変わってくる。そう思ったからだ。

 それはアティール家の皆も思っていたことだ。『欠陥品』が金の卵なのかもしれないそういう目でアグトを目利きしていた。


「アグトさっさと魔力を流し込め」


 アグトの父にしてアティール家の現当主であるハリス=アティールは、普段通りの低い声音でアグトを促した。アグトは無言ままこくりと短く頷くと言われたとおり水晶に触れ魔力を流す。

 アグトの体から濃密な魔力が体外に放出される。


「うわっ!」


 突如の魔力の風圧にアグトの妹であるクルトリアが声を上げ目をしかめる。他も声は発していないものの腕で顔を被っていた。

 何という膨大な魔力、アティール家はアグトの魔力の異常さに畏怖する。


 そして水晶は――



 砕け散った



 変色は無く、ただその球体は亀裂が入りひびは広がり砕け散ったのだ。


「な、く、砕けた……だと?」

「やはりこの者は『欠陥品』だったようですね。父上」


 ハリスの発言に続いて弟であるバルスが蔑む目でアグトを睨んだ。

 砕け散った。それが問題だったのだ。


「『欠陥品』で『異端者』でもあったのか!!」


 ハリスはもの凄い剣幕でアグトに叫び散らす。唾を飛ばしながら我を忘れているようにさえ見えた。他の人たちは無言でもはやアグトを身内としてさえ見ていない。


「ぼ、僕は…………」

「もういい、失せろ。もうキサマなど見たくもない。消えろ、失せろ、キサマはもうアティール家の者ではない! 早々にここから立ち去れ!!」


 この場にいるアグト以外を代表した言葉だった。冷徹な目、人を人としてみないその目にアグトは居た堪れなくなり走り逃げた。


 部屋を出る直前に誰かがアグトを呼び止める叫び声が聞こえたが気のせいだろう、あの中にはアグトを善しとするものは居ないのだから。




「はぁ……っはぁ――」


 家の門を駆け抜け、森をかけ分けた一本道を翔る。辺りは既に日が落ち始め、木々がその日差しさえも遮り普段以上に暗くなっていた。荷造りなんてしていない。思考がそこまで辿り着かなかったわけではない。ただアグトはあの敷地からすぐにでも抜け出したかったからだ。


 これは既に時効で解決するような問題でないことは分かっている。ならば、これからのことを考えなければならない。がむしゃらに走り回って上がっていた息が次第に落ち着いていく。

 本格的にこれからのことを考えようとしたその時に高熱の物体がアグトの背中に、右肩に直撃した。

 あまりにもの高熱に顔を歪め、アグトは道端に不様に転がる。


「うがあぁああッ! ――ッ!!」


 光熱の物体は火炎弾――火属性の魔法が背中に直撃し服を燃やし皮膚を焦がし炭と化していた。意味が分からない、何がどうなってこんなめに遭わないといけないのか、苦痛で涙を流しながらぼやけたアグトの視界にその魔法を放った張本人を確認した。


「バ……ルス……」

「なんだよ、一発で殺せって言ったよな」

「申し訳ございません、少々手加減してしまったようで」


 バルスともう一人居る、それがアグトに魔法を放った本人だろう。

 そしてその者を見た瞬間アグトは目を見開く。緑色の髪にアティール家のメイド服、心臓の鼓動が早まりドクドクと耳にまでその鼓動が届いてくる。


「ミラ……テリカ……どうして……」


 アグトの唯一心を許していた存在、年は同じで専属メイドと言うよりも遊び相手として共に成長してきた。いつも優しくただ彼女だけがアグトの心を安らがせていた。どんなに泣いたときも慰め、共に泣いてくれたアグトの大切な存在。そんな彼女がアグトに手を伸ばして魔法を放ったのだ。その顔には躊躇いなどない。むしろ皆と同じ様に蔑む目だった。


 バルスはアグトのその表情に歓喜を覚えて、狂気な笑みを浮かべる。


「ハッ、いいざまだな欠陥品。どうだ、自分の大事なモノを奪い取られる気分は?」

「き、貴様ぁあ!!」


 ミラテリカの横に立つバルスは彼女の腰に手をやり自分のもとへ引き寄せる。「きゃっ」とまんざらでもなさそうなミラテリカの声、全てに怒りを覚え狂いそうになる。


「ひゃっひゃっひゃっひゃ! まあ、いままで身内だったんだせめての情けだ。殺さないでおいてやる」


 苦痛と怒りで歪みきった顔でアグトはバルスを睨みつける。その表情がさらに気に入ったのかバルスはさらなる笑みを見せた。バルスはミラテリカから離れるとポケットから何かを取り出す。手のひらに収まりきれない程のクリスタル、それは紛れも無く転移結晶だった。それをアグトが倒れている隣に置くとうっすらと光を帯び始めた。

 その場から脱出しようとするが、未だに激痛が消えず動けないでいた。


「――っく!」

「ハッ、じゃあなお兄さん、精々生き残ってみろよ」


 皮肉を残して憎たらしいバルスの笑みを睨みつけ、裏切ったミラテリカも睨みながらアグトの視界は真っ白の世界で埋め尽くした。




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