月
「ごめん……、ごめんなさい……。」
僕は、自分達に向かって弱い風を吹かせる。やっと出来るようになった風魔法。
彼の汗が引いて風邪を引かないように、細心の注意を払いながら。
この部屋に唯一存在する、高い位置についた窓。そこから黄色に光る月が顔を覗かせる。
夜はまだまだ長いらしい。
「やめ……、やめて……。」
彼の呼吸が荒い。彼の心臓音も煩い。いつものように魘される彼は汗をかく。
抱きしめられている僕。暑い。だけど僕は動かない。彼の拘束から逃れたりはしない。
「嫌だ……、行かないで……。」
回された腕に力が入る。
少し苦しい。けど平気。
殴られるより蹴られるより、ずっと軽い。
「一人、に……しな、い……で……。」
掠れた声。必死の訴え。
大丈夫、大丈夫。
『僕はずっと、お兄さんのそばにいる。』