第6話
~3日目~
(まず、この日の感想を言おう。学園には女性が多いと思いきやそうでもなかった。)
前日、夜中の3時に眠ったはずなのに、起きたのは6時過ぎだった。
俺「・・・・・・」
思い切って目を開けてあたりを見渡した。
俺「・・・・・・一緒だ。」
俺の目の前に広がっていたのは、昨日と同じ光景だった。フカフカのベッドの上、机に広げられた魔法書、そう。俺はやっぱり魔法世界のままだった。
(コン、コン、コン)
部屋のドアがノックされた。
俺「おいおい、まさかこの時間から授業だったりするのか?まだ6時30分だぞ?」
朝礼でもやるのか?俺はドアを開けた。
タイガー「・・・・・・」
マナ「・・・・・・」
ミナ「・・・・・・」
エリカ「・・・・・・」
シェリル「・・・・・・」
マリー「・・・・・・」
そこにいたのは学園の生徒たちが女子も含めて全員勢ぞろいしていた。
俺「おやすみ。」
(ガチャン)
俺はドアを閉めた。
タイガー「うおおおおおおおおおおおい!!??」
俺「・・・いったい何なんだ?」
タイガー「話は後だ、まずドアを開けろ!」
俺「・・・・・・」
俺はドアを開けた。
俺「んと、なんかあったのか?」
タイガー「・・・・・・」
タイガーは思い切って聞いた。
タイガー「いいか、俺の質問に答えろ。お前の名前はカイ・ヴァルクサンダー、だよな?」
この時、俺は質問の意図を一瞬で理解できた。だが残念ながら、現実はそんなに甘くない。俺は正直に答えた。
俺「いいや、俺の名前は八角慶吾。株式会社ヘンゼルカンパニーに勤務中だ。」
その瞬間、俺の目の前にいる全員がガックリと顔を下げた。
タイガー「お前か、やっぱりお前なのか。」
俺「ああ、残念ながら。」
タイガー「昨日は寝れたか?」
俺「まあ、寝れたな。少し考え事にふけっていたが。」
タイガー「考え事?」
ここで徹夜で魔法の勉強をしていたと答えると反感を買いそうだ。
俺「あまり眠れなかったんだ。俺のいなくなった向こうの世界では何が起きてるのか。」
タイガー「あ―――。」
この時、シェリルの顔が一層暗い表情になったのを、俺は見逃さなかった。
俺「みんな、すまない。何が起こるかわからないが・・・よろしく頼む。」
エリカ「・・・やむを得ないわね。」
そういって俺は頭を下げた。
そして俺は朝食をとることになった。俺はタイガーに連れられて、学食に向かった。
タイガー「やり方はもうわかるよな?」
俺「ああ。」
俺は料理を注文した。後は出来上がるのを待つだけだが・・
マナ「・・・おはよう。」
ミナ「おはよー。」
タイガー「まあ、座ろうぜ。」
夕食の時もそうだったが、結局この3人なのか?
タイガー「別に席が決まってるわけじゃないぜ。俺とカイ・女子全員の二組に分かれることもあれば、カイとマリー・その他もろもろって組み合わせもある。まあ、一番メジャーなのが、ここか向こうに座ることだな。」
タイガーはそう言って奥を指差した。そこは今、エリカとシェリルが座ってる場所だった。
タイガー「幼馴染の集いだ。」
俺「・・・・・・」
タイガー「どうする?座るか?」
俺は二人を見た。だが、二人とも昨日以上に浮かない顔をしている。二日たっても幼馴染が戻ってこないのだから気持ちはわかる。わかっているが、俺にだってどうしようもないんだよ。
俺「・・・いいや、やめておこう。」
タイガー「そうか。」
俺は席に座った。だが、みんな不安なのか、タイガーもマナもミナも浮かない顔をしている。昨日までとは打って変わって、物静かな雰囲気に包まれていたのだ。
ちなみにマリーはというと・・・
マリー「♪~♪♪♪~」
超いつも通りではないか、もう少し空気を読むべきだぜ、お嬢さん。
俺「・・・・・・」
いや・・・? あれはあれで落ち着きすぎじゃないか?
その時だった。
(ガタンッ)
タイガー「ん?」
入口のほうで物音がした。
マナ「・・・もしや!?」
ミナ「あっ!!」
マナとミナも立ち上がる。エリカやシェリルも気づいて入口を見る。
俺「な、なんだ? 一体どうした・・?」
タイガー「帰ってきたんだよ、エリート組が!」
俺「お、おお・・・!」
ここで、初めて読む方の為にもおさらいしておこう。このファフニール魔法学園には2つの学級が存在する(学級と言う意味でのクラスという単語はあえて使わないぞ、この世界でのクラスは別の意味を指すからな)。一つが、今ここにいる全員が所属する普通組。簡単に言うと元の世界の小・中・高の学校レベルの魔法使いの集まりだ。ここにいる連中はエリート組を目指して日々勉強と鍛錬を行うのが日課だ。そしてもう一つ、エリート組は元の世界で言う大学生相当にあたる。昨日もエリート組であるサンディ先輩の魔法を一度お目にかかったが、その魔力は尋常ではない。そこにいる連中は将来、前線に立って敵のモンスター集団と戦うための貴重な戦力となる。また、在学中でも野外活動の一環で特別な任務を行うこともある。
今、エリート組はその野外活動から帰ってきたところだったのだ。
俺「・・・ゴクリ」
しばらく経って、彼らが姿を現した。
・・・・・・?
タイガー「あ、あれ・・?」
マナ「あらら、貴方だけなのね。」
マナは肩を下した。俺の期待とは裏腹に、いざ入ってきたのは一人の少年だけだった。
ライオネル「・・・・・・」
その少年はとても背が低く、俺と背の高さが同じくらいの白髪の紫色の目をした少年だった。その少年は学食に入るや否や、学園の仲間を見渡した。
ライオネル「・・・・・・!」
少年は、俺のことを見るや否や、俺にスタスタと駆け寄った。
マナ「待って、やっぱり貴方はわかるの?」
ライオネル「・・・・・・」
ずいぶん寡黙な少年だと俺は思った。俺のいた世界ではよく見かけたぞ、こういう中二病もどき、将来コミュ障待ったなしだな。まあ、冗談だが。
ライオネル「ここから先・・・機密事項だ。僕はカイに話がある。カイ、ちょっと来て。」
俺「は、はい。」
ライオネル「!!」
俺が返事をした瞬間、ライオネルは俺を睨み付けた。
ライオネル「・・・こっち。」
ライオネルが指差したのは、学食にあるエリート組専用のテーブルだった。
俺「い、いいんですか?」
ライオネル「・・・エリート組の言うことは聞いておいたほうがいいよ?」
俺「わ、わかりました。」
やっぱりこの少年、サンディ先輩と同じエリート組なのか・・・?
タイガー「・・・・・・」
マナ「・・・・・・」
ミナ「・・・・・・」
エリート組専用の席とはいっても、別に壁で隔てられているわけでもなく、機密事項どころか外から丸聞こえなのだが。
ライオネル「・・・・・・」
その瞬間、テーブルの周囲の世界が歪んだ。そう思ったとき、テーブルの周囲の世界観は、まるで曇りガラスを張ったように囲まれてしまった。
ライオネル「大丈夫。ただの空間遮蔽の魔法。これでこの声が外に漏れることもない、周りからも僕たちの姿を見ることもできない。」
少年はまっすぐ俺を見つめた。この時、俺はこの少年の放つ凄まじいプレッシャーを肌で感じていた。やはりこの少年は只者ではない。
ライオネル「・・・本題に入る。」
俺「あ、ああ。」
少年は手を前で組んだ。
ライオネル「まず、君の正体を聞きたい。」
俺は言った。
俺「俺の名前は八角慶吾、こことは違う別世界から来た。」
ライオネル「別世界?」
俺「正確には、地球という星の日本という国の、東京という町に住んでる会社員だ。」
ライオネル「・・・地球とトウキョウはわかる。日本って?」
俺「えっ?」
ライオネルは言った。
ライオネル「ふざけないで・・・ここが地球なのは知ってる。トウキョウも知ってる。日本って何?」
俺「なんだって・・・・・・?」
地球?・・・ここが地球だと?
俺「あの・・・ここって、この星って地球なのか?」
ライオネル「うん。」
俺「う、嘘だろ?」
ま、待て、とりあえず落ち着け、俺。
ライオネル「もしかして、宇宙人?」
俺「NO」
ライオネル「ちがうの・・・?」
ともかく、ここで変な答え方したら我が身に危険が及ぶ。
俺「と、とにかく、俺はこことは違う別の世界からやってきた。だが、決して君たちに危害を与えるつもりはない!」
ライオネル「・・・・・・」
すると少年はこんなことを言った。
ライオネル「宇宙から来たわけじゃない・・・他の国から来たわけでもない・・・じゃあ君はどこから来た?」
俺は答えた。
俺「異世界だ!」
ライオネル「・・・・・・」
少年は、さらに眼を鋭くして言った。
ライオネル「・・・カイは今どこにいる?」
俺「!?」
おいおいおい、他の連中はすんなり信じたのに、何でこいつだけこんなに・・・
俺「それは、わからない。」
ライオネル「・・・答えろ。」
すると少年は立ち上がって言った。
ライオネル「僕の友達を・・・どこに隠した!」
俺「ま、待て・・・!」
マズい・・・! 少年が何らかの魔法を使おうとしている!
俺「知らないんだ! 昨日の朝起きてからこんな姿だったんだ! 俺に何が起こったのか、こっちだって知りたいんだぞ!」
ライオネル「・・・・・・」
俺が必至で弁解すると、少年の魔力が収まった。
ライオネル「どういうこと・・・?」
すると、周囲に張られていた結界のようなものが消えた。恐らく少年が自ら消したのだろう。
マナ「・・・!」
結界が消えて、みんなの姿が映るようになった。その中でマナだけ、何かのポーズをとっていた。
ライオネル「マナ姉さん・・・覗きはよくないよ。」
マナ「・・・・・・ごめんなさい。でも・・・」
マナ姉さんは俺に近づいて言った。
マナ「彼が言ってることは本当よ。私たちも昨日1日見張っていたけど、嘘をついている様子はないわ。」
ライオネル「・・・・・・」
マナ「それに、危害を加えちゃだめよ。中身は別人だけど、その体はカイのものよ。もし傷つけたりしたら、カイが傷つくわ。」
ライオネル「え?」
少年は俺を一目見た。だが、何を思ったのか、少年は俺から少し離れた。
マナ「ケイゴさん、この子はライオネル。エリート組の中で最年少よ。」
俺「ライオネルだって?」
ライオネル「・・・・・・」
確か、昨日もその名前が出てきたな。
マナ「彼もクラス4だけど、彼の場合は特殊な力も持ってるわ。」
俺「特殊な力?」
お、でたよ。男心をくすぐる“特殊な力”。
俺「一体それは・・・?」
マナ「・・・詳しいことはまだ解明されていないのよ。魔法じゃないことは確かなんだけど。とにかく特殊なのよ。」
俺「え?」
マジかよ、余計興味が沸いてしまうではないか。
ライオネル「待って。マナ・・・信じるの? そいつのこと。」
マナ「・・・・・・ええ。今の所は。」
すると、ライオネルが俺を指さした。
ライオネル「証拠。証拠を見せて・・・」
俺「え?」
ライオネル「君が異世界の人間である証拠。どこから来たか・・・じゃなく、君が異世界から来たことを・・・」
俺「・・・」
やはり、エリート組と呼ばれるだけあるな。
しかしどうする? 今の所、俺はそんなものは持っていない。中身だけ俺だから、向こうの世界から何かを持ってきたわけでもない。もしこのような魔法が存在する世界にメルを連れて来たら一発で証明できるのだが・・・
俺「・・・・・・!」
その時、俺に電流が走った。
俺「これは・・・!」
ふと俺の目に映ったのは、スプーンとフォークが大量に入った容器だった。
俺「・・・・・・」
早速俺は一本取りだしてみた。間違いない、元の世界にあったスプーンと同じものだ。しかも魔法具ではない、ごく普通の食器だ。
ライオネル「それが・・・?」
俺「見ろ! ライオネル!」
俺は取り出したスプーンをライオネルの前に出して見せた。
ライオネル「・・・・・・?」
俺「いいか? 俺の聞いた話だと、カイという男は相当な落ちこぼれらしいな。」
ライオネル「・・・カイの悪口はやめろ。」
俺「だったら、カイにこんなこと出来るか!?」
そういって俺は、そこにあったスプーンとフォークを5本取り出した。そして、俺は右手にスプーンを3本、左手にスプーンを3本握った。
ライオネル「・・・・・・?」
俺「スゥーーーー・・・・」
これが・・・俺の本職だ。
俺「(低温)ヘーイ、リズ身に合わせてェ、3…2…3,2,1,GO!」
(シュッ、シュッシュッシュッ、シュッシュッシュッシュッシュッシュッ)
ライオネル「!?」
シェリル「!?」
俺の必殺技・・・ダンシング6本ジャグリングだ。
俺「ヘーイ!」
そして、俺は瞬時にスプーンとフォークを1本ずつポケットにしまい込み、4本でジャグリングを行った。
俺「まだまだいくぜぇー! ヘイ! ヘイ! ヘイ! ヘイ! Come oooooooooooooon!」
ステップ!ステップ!ステップ!ステップ!ターン!ステップ、
ステップ!ステップ!ステップ!ステップ!ターン!ステップ、
(そして1分後)
ドゥッドゥッドゥン!ドゥッドゥン! ドゥッドゥッドゥン!ドゥッドゥン! スタッ!
俺「シャキーン!」
決まった。
(ドサッ)
エリカ「ああ!シェリル!」
後ろから見ていたシェリルがぶっ倒れた。
ライオネル「・・・・・・・・・・うっ」
ライオネルの様子もおかしい。目の焦点が合っていない、大丈夫か?
ライオネル「&#☭〄;$※♂☞&#☭〄;$※♂☞&#☭〄;$※♂☞&#☭〄;$※♂☞!!!」
突然、ライオネルは食堂の出口に向かって走り出した。
俺「おい!」
ライオネルは玄関を出て、寮の外に出て力の限り叫んだ。
ライオネル「ゔわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
その瞬間、ライオネルの叫びと共に地面が吹っ飛んだ。しかもその衝撃は距離にして100メートル近くまで及んだ。さらに・・・
ライオネル「ゔわ゛あ゛あ゛あ゛!!ゔわ゛あ゛あ゛あ゛!!ゔわ゛あ゛あ゛あ゛!!」
ライオネルはそれを多方向に向けて連続して放った。衝撃波が寮の前の地面をどんどん抉っていく・・・
(10分後)
ライオネルは食堂に戻ってきた。
ライオネル「取り乱した。ごめん。」
俺「・・・・・・」
あー、死ぬかと思った。ライオネルが寮に向かって叫ばなかったのが唯一の救いだ・・・
ライオネル「わかった、認める。君はヤスミケイゴだ、よろしく。」
俺「よ、よろしく。」
あれだけの壊れっぷりをしたのにライオネルはそっけなく手を差し出した。俺も併せて手を差し出し、握手した。
ライオネル「・・・よく見たら、魔力もいつものカイと違うじゃないか。これなら一発でわかったのに。」
俺「魔力が違う?」
俺が首をひねっていると、マナが補足説明してくれた。
マナ「魔力には人それぞれ特徴があるの。ライオネル位だと簡単に見分けることが出来るの。」
と、あっさり説明されたが俺には何が何だかさっぱりわからん。昨日読んだ本にも書いてなかったぞ。まあ、多くのファンタジー作品ではよく聞くことだが。
ライオネル「・・・・・・だけど。」
俺「?」
ライオネル「君がカイじゃないのはわかっても、アラストル軍か行方不明事件のどちらかにかかわっている可能性は否定できない。」
・・・行方不明については、マナからも言われたな。だけど、俺は知らない。
俺「それについては、俺にもわからない。」
ライオネル「本当に・・・? 重要だよ・・・?」
この時、後ろのほうで聞いていたエリカが、ショックから立ち上がったシェリルに囁いた。
エリカ「ねぇ、今日のライオネル変じゃない?」
シェリル「うん、何かおかしいよ。いつものライオネルらしくない。」
エリカ「どうしてあんなに怒ってるの・・・?」
ライオネルは俺をじっと睨む。
ライオネル「・・・知らないのか。」
俺「すまん。」
その時、後ろのほうからエリカが声を掛けた。
エリカ「ねえ、ライオネル。一つ聞いていい?」
ライオネル「・・・・・・?」
エリカが前に出て聞いた。
エリカ「他のエリート組の人たちは?」
ライオネル「・・・・・・」
ライオネルは少し間をあけて答えた。
ライオネル「・・・消えた。」
エリカ「えっ?」
消えた・・・?
ライオネル「野外活動・・・集団での偵察任務中に、みんな消えた。」
エリカ「ちょ、ちょっと!」
おい、それって・・・
ライオネル「巻き込まれた。みんな一斉にいなくなった。」
エリカが言った。
エリカ「クラン先輩は?コーネリア先輩は?ムツキ先輩は?シャドウ先輩は?」
ライオネル「消えた。みんな徐々に・・・消えた。」
ライオネルはそう言うと、身震いした。
~ミニ登場人物紹介~
・シェリル(16歳)クラス3
慶吾と出会って早々、彼を瀕死に追い込んだ通称金髪の少女。こう見えて貴族の娘である。カイ、エリカとは幼馴染で、カイのことは特に可愛がっていたらしい。聖属性の魔法が得意。