第5話
今回で第1章終了です。
今日の学園の講義は、午前中は抜き打ちテストのみだったらしい。そんなもんで大丈夫なのか疑問だが、何にせよ現在は昼休みに入っていた。
俺「・・・学食だって?」
タイガー「ああ、ここの学園は全寮制だからな。食事の時間は寮に戻んのさ。」
というわけで、俺たちはこの学園の寮に着いた。だが、気になる点がある。
俺「なあ、何でみんな一緒なんだ?」
タイガー「ん?」
俺の周りにはタイガーだけでなく、他の女子メンバーも一緒にいたのだ。
マナ「言いにくいけど、男女共用の寮なのよ。」
俺「・・・!」
マナ「2階が男子寮、3階が女子寮なのよ。1階が共用スペースと食堂。」
俺「へぇ、じゃあ風呂とかは・・・?」
マナ「・・・・・・残念だけど、風呂とトイレだけは別スペースよ。」
俺「す、すみません。俺はタイガーに聞いたつもりで・・・」
マナ「あら、そうだったの?」
ともかく、こうして俺はここに来て初めての食事をとることになった。俺はタイガーから自室を教えてもらい、カイの所持金を少しもらい、みんなと一緒に食事をとった。
俺「へぇ、料理を頼むと魔法が自動で作ってくれるのか。」
調理場には一人しかいない。
俺「さて、どこに座るかな。」
俺は辺りを見渡した。一番奥にはエリカとシェリルが座っている。
エリカ「・・・・・・」
シェリル「・・・・・・」
エリカはともかく、問題はシェリルだった。俺・・・もといカイが記憶喪失に近い状況になったと聞き、相当重いショックを受けていた。それをエリカが慰めているといったところか。あそこは無理だ。
続いて一番端、そこにはマリーが一人で座っていた。
タイガー「やめとけ。アイツは一人が良いんだってさ。」
俺「おいおい、それでいいのか? 本当は引き籠ってんじゃないのか?」
タイガー「今日だけの話だ。いつもはお前をパシリに使ったり、尻に敷いたりしてるぜ。」
俺「・・・・・・」
あそこもやめよう。
となると、残った場所は1か所、一番手前。
タイガー「ほら、早く座れって。」
マナ「狭くてごめんなさいね。」
ミナ「ケイゴ兄ちゃん、そこに座ってよ。」
この3人か。まあ、この状況なら妥当だな。てか、むしろ呼ばれているな・・・これ。
俺「あそこの席は?」
俺は向こうを指さした。この食堂にはテーブルが4つあり、そのうち一つがすごく綺麗な場所で、日当たりもいい絶好の席がガラ空きだった。
タイガー「ああ、あそこはエリート組の席だ。」
俺「・・・そういえば、お前たちの他にもいたんだっけ。」
マナ「エリート組は、今日は野外活動らしいわ。サンディ先輩もそっちに向かったんじゃないかしら。」
俺「・・・・・・」
サンディ先輩、“思う存分魔法を学べ”、とか言ってたな。
タイガー「にしてもさ、さっきのテスト。お前よくあれで合格したな。」
俺「ん?あ、ああ。」
マナ「一時はどうなるかと思ったけど、まあ、先生が合格といったなら合格でいいじゃないかしら?」
俺「そ、そういうものなのか?」
タイガー「まあ、そうなんじゃねえの?」
・・・・・・
タイガー「どうした?」
俺「実は、マナ姉さんに聞きたいことがあります。」
マナ「?」
タイガー、マナは俺のほうを見た。ミナは首をかしげている。
マナ「・・・私で答えれる範囲ならば。」
マナは少し真剣な目で言った。
俺「さっきのテスト、あれは何の為のテストなんですか?」
マナ「・・・・・・」
タイガー「・・・・・・」
ミナ「・・・・・・」
俺のこの質問に、全員が黙り込んだ。
マナ「やっぱり・・・気づいたのね。あえて言わないようにしてたけど。」
俺「そりゃあ、単純な破壊じゃなく、どのように破壊するかが重要って言ったら、大体予想が・・・。」
マナ「そうね。」
マナは少し笑って言った。
マナ「戦争の為よ。」
俺「・・・・・・」
マナは続けて言う。
マナ「アラストルっていう言葉は聞いたことあるかしら?」
俺「いいえ全く。」
聞いたことはあるが、昔やったゲームのボスなら知ってる。と答えたらエライことになりそうなので止めた。
マナ「この世界の王様っていったらいいのかしら。私たちが教わった歴史だと、今から1万年ほど前、私たちの先祖はサルの仲間だったの。」
俺「そりゃあ、まあそうだな。」
マナ「え?」
マナは驚いて俺を見た。
俺「ああ、俺の世界でも、先祖はサルだったんです。」
マナ「あら、そうなの。」
俺「すみません、続けてください。」
マナは続けて言った。
マナ「その時、遠い宇宙のかなたから、巨大な隕石が落ちてきたの。それがこの星に衝突したと同時に膨大な魔力がこの星全土を覆ったの。その膨大な魔力を、一部のサルが吸収して人間に進化したとされているわ。私たち人類は、その身に宿した魔力を使って文明を作り上げたわ。しかし、5000年後に異変が起こった。」
俺「?」
マナ「その隕石の正体は、巨大な一つの神様だったの。その神様は、私たちの星に魔力による進化を促すために、ワザと魔法をばら撒いたの。だけど、私たち人類のこれ以上の進化が望めないと悟った神様は、自分自身が育てた生物を使って、この星を侵略し始めた。私たち人類は、その神様の魔の手から逃れる為に、5000年もの間、戦争を続けてきた。」
俺「5000年!?」
マナ「ええ。その神様は、魔法を司る神から魔神と呼ばれる存在となった。」
俺「それが、魔神アラストルか。」
マナ「そう。そして魔神がこの星を侵略するために放った生物が、魔物と呼ばれてる。」
俺「魔物? 相手は人間じゃないのか?」
マナ「ええ、モンスターとも呼ばれてるわ。」
俺「なんだ、それなら・・・」
俺は少し安堵した。
俺「俺はてっきり、人間同士で戦争してるのかと思ったんだ。だけど、生存競争だったら仕方ないな。」
マナ「いいえ、人間もいるわ。」
俺「おっと・・・」
マナはさらに続けた。
マナ「人間の中には、さらなる魔力の発展のために、魔神アラストルからさらなる魔力を受けようとした者もいるわ。魔神アラストルは彼らに魔力を分け与えるのを条件に、魔神側につくことを約束したの。事実、彼らの魔法は恐ろしいほど強力という噂よ。」
俺「背信者ってわけか。」
なるほど、何となくだが理解できた。
マナ「まあ、前線に立てるレベルがクラス4以上の魔法使いだから、貴方には関係のない話よ。」
俺「クラス4ってことは・・・サンディ先輩も?」
マナ「もちろん。」
俺は直感で聞いてみた。
俺「なあ、さっき言ってたエリート組の野外活動ってもしや・・・?」
マナ「・・・・・・そういうこと。」
・・・やっぱりそうなのか。
タイガー「ところでカイ、お前も前線に立ってモンスターを狩りたいと思ってるか?」
俺「え?」
タイガー「例えばこの先、お前がカイのままだとして、頑張ってクラス4になったら戦争に行くか行かないかって話だ。」
俺「それは選べるのか?」
タイガー「もちろんだ、戦争は強制じゃない。」
俺「・・・・・・」
俺は少し迷った。仮にこのままだとしたら・・・
俺「・・・マナ姉さんはどうですか?」
マナ「あら、私に振るの?」
俺「いいえ、俺にとっては遠い先の話で、現段階でクラス3のマナ姉さんなら・・・」
マナ「そうねぇ。私なら、前線には立たないと思う。どっちかと言ったら・・・」
マナは笑って答えた。
マナ「先生になって教える側になりたいかな。」
俺「あ、そういう選択もできるのか。」
マナ「選択というより、不足しているからなりたい感じかな。先生になるには全属性の魔法を扱えるのが条件だから。」
俺「マナ姉さんなら似合いそうですね。」
マナ「お世辞のつもりかしら?」
マナは冗談交じりに笑って答えた。
次に俺は、奥に座っているエリカとシェリルを見た。
俺「あの二人は・・・」
マナ「エリカは間違いなく前線ね。シェリルは迷ってるみたい。」
俺「・・・・・・」
エリカが前線か・・・。
俺「・・・俺も立つ。」
マナ「え?」
俺「どちらかと言えば、いつか俺も前線に立ちたい。前線に立って、みんなを守りたいかな。」
マナ「へぇ、カイとは真逆のことを言うのね。」
俺「え?」
マナが笑って答えた。
マナ「カイは戦争を望んでなかったの。カイの魔力が小さいせいもあるけど、もっと夢のあることを言ってたわ。」
俺「そ、そうなのか?」
タイガー「ああ。まあ、真っ当な正論だったな。」
俺「何なんだ?教えてくれ。」
マナが答えた。
マナ「“自分たちが神様に認められなかったのは、人間同士で戦争を起こしていたからだ。僕は戦争をして神様を倒すんじゃなくて、神様に認めてもらえるような、みんなが平和に暮らせるような街を作りたい。”って。」
俺「・・・・・・」
なるほどな。魔力が低いからこそできる考え方か。いい考え方だ・・・っていうか、カイの一人称は僕だったのか。
タイガー「だけど、もう戦争は昔の話になったんだ。」
タイガーがそういうと、マナが怒った。
マナ「マイトラ、誤解を招くことは言わないで!」
俺「おいおい、どういうことだ?」
タイガー「確かに、5000年前から戦争は繰り返されたのは本当だ。3年に1回は侵攻してきたって話だ。だけど今は、10年前からアラストル軍が1度も侵攻してこないんだ。人によっては、5000年間の戦争が終わりを告げたって話もチラホラ上がってるんだぜ。」
マナが反論した。
マナ「いいえ、向こう側が攻撃してこないだけ。こちらから攻撃を仕掛けても反撃はするし、膠着状態といっても過言ではないのよ。」
タイガー「だがなあ、どうやら敵は戦力を溜め込んでるわけでも、罠を仕掛けてるわけでもなさそうだって話だぜ。おまけに今まで奪われた領地も、上の連中が順調に取り返してるって話だ。」
マナ「・・・何で貴方がそんなことを知ってるの?」
タイガー「ライオネルから聞いたんだ。」
マナ「・・・はぁ。」
マナは頭を抱えた。
俺「ライオネルって?」
タイガー「ん? ああ、エリート組の人だよ。」
俺「マジか! 知り合いなのか?」
タイガー「いや、知り合いも何も・・・っと。」
タイガーが嫌な笑みを浮かべた。
タイガー「まあ、本人と会ったときに教えるさ。その方が面白い。」
俺「・・・何だよそれ。」
タイガー「・・・それによ。」
タイガーが続けて言った。
タイガー「実は、もっとやばいことが起こってるって話だ。」
俺「えっ?」
マナ「マイトラ!!!」
突然、マナが怒鳴った。
マナ「・・・・・・」
何だか、雲行きが怪しいな。
俺「おいおい、もっとヤバイことってなんだ? 俺に関係ある話なのか?」
マナ「・・・この国のいたるところで行方不明者が相次いでいるのよ。数日ごとに一定の人が一斉に失踪してしまう現象が続いてるわ。そこら辺にいる人が一晩で一斉に失踪してしまうの。目撃者の情報も未だなし。もう少し調査すれば有力な情報が得られそうだけど。」
俺「失踪って・・・それは魔法なのか?」
マナ「わからないわ。でも一番有力な説は、アラストル軍が関係してるってこと。」
うわ、背筋の凍りそうな話になってきやがった。
俺「それって、人を消したりしてしまう魔法とか?」
マナ「そのとおり。でも今の所、そんな魔法を作ることは魔神アラストルでも困難だという説もあるわ。本気で消してしまうようならば、私たち全員を一気に消滅させてしまうでしょうし。だけどその説が今の所一番強いの。」
俺「ふむ・・・・」
その時、どこからか音が鳴った。
タイガー「おっと、出来たみたいだ。」
すると、俺たちのテーブルの前に料理が現れた。
俺「うわ! ビックリした・・・」
タイガー「ん?向こうの世界はこういう仕組みじゃないのか?」
俺「いや、まあ。」
まあ、向こうの世界との違いを一々説明するのも少し面倒になってきた。ここにいる連中が俺の住んでいる世界に来るわけでもないしな。
タイガー「さて、じゃあいただくとしますか。」
俺「・・・・・・!」
この瞬間、俺は不思議な感覚を味わった。
ミナ「どうしたの?」
俺「・・・・・・いや。」
俺はもう一度、目の前に現れた料理を見た。
俺「・・・・・・」
俺の目の前に出された料理は、未だかつて一度も見たこともない料理だった。料理を頼むとき、タイガーと同じものを頼んではいたのだが、前に出されてみると、おぞましい料理が出されたものだ。米でもパンでも野菜でもない、豚でも鶏でも牛でも魚でもない、得体のしれない肉料理が出されたのだ。
だが、俺の中ではこの料理がそんなに得体の知れないものだとは思わなかった。その料理を見た瞬間、これは無害なものだと悟ると同時に、普通においしいものだと認識できるようになった。
俺「・・・いただきます。」
タイガー「いただきます。」
ミナ「いただきます。」
マナ「いただきます。って私達はいいけど、あなたは大丈夫なの?」
俺は少し考えて言った。
俺「ああ、恐らく。」
次の瞬間、気が付けば俺は料理を口の中に運んでいた。
俺「・・・うまい。」
マナ「・・・そう。ならいいんだけど。ちなみにそれは野犬と呼ばれるモンスターの肉で、魔神アラストルが生み出した中でも弱い方の位置にあるの。ちなみにその付け合わせの野菜はリクギンチャク(イソギンチャクの陸版)と呼ばれるモンスターのもので、ソースはデスザート(直訳して死の砂漠)から採れる岩塩とそこで息絶えたモンスターの骨で煮込んだ出汁を・・・」
俺「・・・・・・・・・・・・・・・」
聞くんじゃなかった。にしてもうまい。
マナ「ひょっとしたら、カイの体だから適応しているというのが関係してるかもしれないわね。」
俺「・・・・・・」
なるほど、本能の問題か。そう考えれば辻褄が合うか。要はこっちの世界の食われる側と食う側の生体の相性の問題かもしれない。こっちではこういう食事が当たり前なのかもな。
(数分後。)
俺「ふぅ・・・食った食った。」
タイガー「ごちそうさんっと。」
俺は聞いた。
俺「なあ、この後って何があるんだ?」
タイガー「普通に授業があるはずだぜ。魔法関係のな。」
俺「・・・俺にできるか?」
タイガー「十中八九無理だな。でも大丈夫さ、黙って聞いているだけでいい。」
そういわれて少し安心した。
それから俺たちは、学園に戻って午後の講義を受けることになった。
この世界の学習内容についてだが、結論から言うと国語と算数は元いた世界とほぼ同じで、数学は一部違っている。理科や科学の授業は存在しない代わりに、魔法学という授業がある。社会・歴史の授業もあったが、そこで学んだのはこの世界の詳しい歴史のことで、俺の知っている知識とは全く違うものだった。と、いうくらいかな?
ちなみにエリカは、学習面でも優秀らしい。それに次いでシェリルとマナ、そしてクラス2の面々、その次にカイの順に優秀だった。そう、カイは学力面も下のほうだったのである。
・・・気が付けば、夕方になっていた。
先生「それでは、本日の授業はここまで、じゃ!」
俺「ふぅ・・・」
さて、これからどうしようか?
タイガー「どうするって、行く当てがないんだろ?寮で休めって。」
俺「・・・わかった。いつかカイにお礼を言っといてくれ。」
タイガー「・・・・・・」
こうして俺は寮で泊まることになった。夕食の時間もあったが、周りの女子達とも特に進展はなかった。
そして俺は、タイガーに案内させられてカイの部屋に連れられた。
俺「・・・一人一部屋か?」
タイガー「ああ。行方不明者も相次いでいるからな、寮の部屋も結構空いてんだぜ。まあ、基本悪いことはできないようになってんだがな。」
俺「悪いことって?」
タイガー「部屋で強力な魔法をぶっ放したり、変なものを持ち込んだり、異性を部屋に入れたりな。ちなみに変なものってのは、爆弾みたいな強力すぎる魔力を保有している物品とかな。」
俺「なるほど、ところで俺みたいに、体は同じだが中身は別ってのはどうなるんだ?」
タイガー「さあな、このドアを潜れば大丈夫なんだが・・・」
タイガーはドアを指さした。
タイガー「このドアには入出を管理する魔法が組み込まれてるんだ。寮生なら誰が入ろうとしてるか一発でわかる。異性に対してはドアすら通れないし、同性でも中から許可が下りないと入れない仕組みだ。」
・・・意外とハイテクだな。
タイガー「まあ、ゆっくり寝ておけ。」
俺「・・・・・・」
俺はドアを開けた。意外と中は綺麗に整理されている。
タイガー「なんだ、大丈夫じゃねえか。」
俺「これでOKなのか?」
タイガー「ドアを開けることが出来たら大丈夫さ。それじゃあ、俺は寝るぜ。」
俺「ああ、ありがとうな。」
そういって俺はドアを閉めた。
俺「・・・・・・」
それにしても綺麗すぎるな、これが男の寝室なのか? まあ、俺は寝るだけだから問題ないだろうが。
・・・・・・・・・
(その夜、寮1階の談話スペース)
エリカ「・・・・・・」
シェリル「・・・・・・」
このスペースは、食堂以外に男女が共同できる唯一のスペースである。そこには、エリカとシェリルがすでに座っていた。
そこに、一人の人物が現れた。
マナ「あら、待たせちゃったかしら?」
エリカ「いいえ全然、ミナは?」
マナ「もう寝かせたわ。さすがにこの時間まで起こしておくのも気の毒だし。」
エリカ「・・・そういえば、まだ10才だったのよね。」
マナが向かいのソファに座った。
マナ「マイトラとマリーは?」
エリカ「まだ来ていないわ。」
マナ「そう・・・じゃあ先に始めましょうか。」
こうして、女子3人による談話が始まった。シェリルはまだ暗い顔をしている。
シェリル「ねえ・・・カイが記憶喪失って・・・」
マナ「・・・・・・」
シェリル「昨日の私たちお風呂を覗いて、私達から色々言われるのが怖くて、ワザとあんなことをしているだけだよね・・・?」
マナ「・・・・・・」
マナは答えた。
マナ「残念ながら、疑いの余地なしよ。あれは正真正銘別人だわ。」
シェリル「!!!」
シェリルの顔が青ざめた。
シェリル「どうして・・・?」
マナ「例えカイじゃなくても、あそこまでの作り話をするとも考えられないわ。」
シェリル「でも、今朝会った時はいつも通りのカイだったし・・・」
マナ「いいえ、マリーの話だと、懲罰部屋で起きた時から症状が出ていたみたいよ。」
シェリル「じゃあ、またカイに魔法をぶつければ・・・」
マナ「命が危険よ。」
そこまで言って、マナは咳払いをした。
マナ「それに、もしカイが嘘をついているとしたら、マリーだったら真っ先に見破るはずよ。」
シェリル「・・・・・・」
マナ「彼女も彼女で、今日1日元気がなかったわ。」
シェリル「・・・・・・」
マナは深刻に語った。そのうちシェリルの目から涙がこぼれた。
シェリル「私が・・・・この前あんなこと言わなきゃ・・・!」
マナ「まあ、貴方のせいではないはず・・・」
エリカが口を開いた。
エリカ「ねえ、カイが記憶喪失になった原因ってわかる?」
マナ「まだわからないわ。一応、ヤスミケイゴにも聞いてみたけど、彼も原因がわからないらしいわ。」
エリカ「・・・元に戻る見込みは?」
マナ「今の所なしよ。ただ、いつどこかで何かの拍子で元に戻るかもしれないわ。」
エリカ「・・・そう。」
エリカも少しながら暗い表情を見せている。マナは言った。
マナ「まだ可能性は残ってるわ。明日は彼らが返ってくるはず。彼らに調査のほうを依頼してみましょう。」
エリカ「・・・エリート組ね。」
マナ「サンディ先輩はカイのこと知ってるはずだし、彼らの意見を聞いてみましょう。」
エリカ「正規軍に通報は?」
マナ「今は極力避けましょう。エリート組のほうが信憑性あるし。」
エリカ「そうね。」
その後、しばらくの間沈黙が続いた。その後結局、マリーとマイトラは現れることはなかった。
・・・・・・・・・
(カイの部屋)
何か、また時計の音がうるさいな。ん?時計?
(ガサッ)
俺はベッドから起き上がった。すぐ側にある壁を見上げてみると、確かにそこには時計があった。
俺「この世界にも時計はあるのか・・・」
時刻はいつの間にか11時57分を指している。恐らく、俺の元いた世界の時計と同じ見方だろう。
しかしどうするか、完全に目が覚めちまった。当然の如く、外はまだ暗い。
俺「そうだ、今日覚えた魔法でもやってみるか。」
タイガー曰く、強力な魔法でなければ大丈夫との話だ。ならば、弱い魔法をいろいろ試して、へとへとになったところで寝ようではないか。
俺「・・・そういえばマナ姉さん曰く、魔法を変換するにはスキルがどうとか・・・」
(キューーーーーーウ)
マジックボールは問題なく出せた。
(シューーー・・・)
が、しばらくすると消えてしまった。長時間出し続けることはできないのか?
俺「どっかに魔法の本は・・・」
先の授業で使われた本は、学園内にある生徒専用の棚に保管してある(忘れ物防止だろうな)。俺はベッドのそばにあった机を探ってみることにした。
俺「おっ、あったあった。」
タイトル:一から学ぶ魔法入門。
俺なページを開いてみた。だが、そこにはマジックボールについてと、炎の性質や水の性質など、元の世界でも教わる程度の常識が書かれていた。
俺「こんなんじゃない。もっとレベルの高い本は・・・あった。」
タイトル:初めてでもわかるスキルの使い方
俺は早速ページを開いた。
(・・・・・・)
なるほど、やり方は覚えた。なら、バレない程度で実戦でもしてみるか。
俺「こ・・・こうか?」
(ピカッ!)
その後、俺は魔法の使い方を徹夜で勉強しながら、結局3時まで起きる羽目になった。元の世界にいた時でも、寝ていただけでこっちの世界に来れたのだから、こっちでも寝れば元の世界にも戻れたかもしれないのに・・・
ぶっちゃけ、俺にとってはその寝る行為自体が怖かった。元の世界に戻れるならまだいい。ここからさらに別の世界に飛ばされたとしたら・・・?そう考えただけでも俺は恐怖した。まあ、俺の身に起こったことは全部話した。もしかしたら、この世界にいる連中が確実に元の世界に戻れる方法を探してくれるかもしれない。それからでも遅くはないはずだ。
(・・・・・・・・・)
結論を言うと、今日この1日で、俺が元の世界に戻ることはなかった。
(・・・俺にとって今日この夜、魔法を徹夜で勉強したことが、後に良い結果になるとは予想もしていなかった。戦争の話を聞かされた時は驚いたが、それが近いうちに思わぬ形で身近なものになるなんて誰が予想できたことか。)
時刻は3時9分。俺は睡魔に負けて、明かりを消してベッドに横になった。
~ミニ登場人物紹介~
・エリカ・シュヴァルツ(15歳)クラス3
名門シュヴァルツ家の長女。学園の普通組の中では常にトップでありたい性分だが、別にシュヴァルツ家は強要していない。元の世界の桝野恵梨香という人物と瓜二つ。魔法は弓を用いたものが多い。