間話1
間にコッソリ挟み込む程度のちょっとした小話
略して間話。
{二人のお嬢様}
学園に戻ってきた俺たちは、先生の指示を待った。
タイガー「なあ、カイ。」
俺「?」
タイガーが頭を掻いて言った。
タイガー「そろそろ服を返してもらったらどうだ?」
俺「ああ、そうだった。」
言われてみればこの服、タイガーから借りたものだった。
俺「すまん、服は選択して明日返すさ。ところで、カイの服はどこに保管してあるんだ?」
タイガー「・・・その前に、懲罰部屋について教えておくか。」
と、いうわけでタイガーから学園の規律について教えてもらうことになった。結論から言うと、元いた世界の学校と規律事態にそんな違いはなかった。
タイガー「それで、規律を破ってしまうと、先生の即決か学級裁判にかけられる。それで内容が決まったら、懲罰部屋に一定期間閉じ込められる。短くて1日、長くて1週間だ。」
俺「1週間って、授業はどうするんだ?」
タイガー「当然欠席扱いさ。その分みんなとの差も開くし、テストにも影響が出る。その上厄介なのが、懲罰部屋の中では魔法は使えないことなんだよ。」
俺「魔法が使えないのがそんなにヤバイのか?」
タイガー「まあな。お前は何ともないかもしれんが、人によってはな・・・」
タイガーがここで一息ついた。
タイガー「そういえば、お前のいた世界とやらには学園ってのはあったのか?」
俺「学校ならあったな。年齢ごとに小学校、中学校、高校、大学とあってだな・・・」
タイガー「そうか、ひょっとしたら規律については一緒なのかもな。」
俺「いや、違うな。俺のいた学校には懲罰部屋なんて物騒なものはない。」
というか、世界中どこを探してもそんな学校はないと思う。
俺「それで、その懲罰部屋と俺の服がどう関わってくるんだ?」
タイガー「おう、そうだった。それで、誰かが懲罰部屋に入れられると、それを管理する奴も一緒に決めるんだ。基本はそいつが中にいる奴の面倒を見るんだが・・・」
そういうとタイガーは、顎で示した。
タイガー「あの日はアイツだ。」
俺「・・・・・・」
タイガーの視線の先にいたのは、やっぱりアイツだった。
マリー「♪~」
俺「・・・・・・」
俺は言った。
俺「なあ、タイガー。代わりに言ってくれんか?俺はアイツのことはどうも・・・」
タイガー「知るか。お前の服なんだからお前が行けよ。」
俺「一応俺は八角慶吾だ。・・・まあいい。やっぱり俺が直接聞くよ。」
というわけで、俺はマリーに話しかけることにした。ちなみに今、マリーは一人で窓の外を機嫌良さそうに眺めていた。
俺「な、なあ。マリー。」
マリー「・・・・・・」
俺「俺の服を持っているって聞いたんだが、本当なのか?
マリー「・・・・・・」
その時だった。
(ゴン!)
俺「グゥエ・・・!!??」
マリーに金的されてしまった。
マリー「口を慎みなさい、下郎! さっきも言ったけど、アンタは私の下僕なのよ。もっとちゃんとした態度でお聞きなさい。」
俺「おいおい、同じ学園の仲間だろうよ。」
マリー「年も違うわ。アンタは14で私は15よ。」
俺「一つしか違わないじゃないか。それに、俺は向こうの世界じゃ24歳だぞ。一応大人なんだぞ?」
マリー「あら、そう? じゃあ・・・」
するとマリーはこちらを見下すようにして言った。
マリー「私はクラス2の魔法使いで、貴方はクラス1の魔法使い、学園内最弱で落第寸前でエリート組の間でも話題になってるわ。わかる? 私はあなたより格上なのよ。もしあなたが大人だと言うんなら、年の差に関係なく上司の命令には従う、でしょう?」
俺「・・・・・・」
俺はタイガーに言った。
俺「なあ、タイガー、もう少しこの服を借りるっていうのは?」
マリー「ちょっと、聞いてるの!?」
タイガー「おいおい、よしてくれ。持ってる服だって少ないんだからさ。なるべく早く返してくれた方が・・・」
俺「・・・・・・そうか。」
俺はため息をついて言った。
俺「それで、どうしたら返してくれるんだ?」
マリー「・・・フン、わかったらいいのよ。」
こうして、俺は適当にマリーの要求をのむことになった。その結果・・・
マリー「ほら、もっと早く動きなさい。」
俺「・・・・・・」
お馬さんごっこだった。
マリー「とりあえずこのまま、階段上ってくれるかしら?落としたら承知しないわよ。」
俺「・・・・・・」
とりあえず今の状況を説明すると、俺は四つん這いになって床に手をつき、マリーがその上に座っているのだが、マリーの座り方がおかしい。普通なら、俺に跨って両足を俺の両肩に垂らすのに対して、今のマリーは動くベンチみたいに横に座ってやがる。おかげで俺はマリーの生足を拝むどころか、バランスが非常に取りにくいし動くだけでも精いっぱいである。しかも、たまにマリーが足をばたつかせて俺の横腹に集中して蹴り込んでやがる。
俺「お、おい、階段って・・・」
マリー「敬語を使いなさい!下郎!」
俺「・・・階段は勘弁して下さい、マリーさま。」
マリー「だーめ、私はこれから上のほうに用事があるんだから。」
こうして、俺はマリーを乗せたまま、階段を上ることになった。会談は段差があるので、段差が下がっている分、そのまま四つん這いだとバランスが取れなくなる。なので、後ろ脚は低くなっている分伸ばす必要があるわけで・・・
マリー「こら! しっかりバランスとりなさい!」
俺「誰のせいだと・・・!」
(ゲシ!)
マリー「早くして。」
俺「・・・」
ようやく踊り場まで来た。
マリー「なってないわね。カイならもう少し利口にやってのけたわ。」
俺「そうですか。」
マリー「・・・・・・」
俺「・・・・・・」
・・・少し昔を思い出した。俺は男女共学の小中高、そして大学の出身だったが、女性とは交友がなかった。なんというか、記憶がほとんどない。思い出そうとしても、なかなか思い出せないのだ。もとより、そもそも女性と真面に話したことすらないのかもしれない。
俺「・・・・・・」
今の俺は、女性を背中に乗せて這いまわっている悲しい男ではあるが、これもひょっとしたら・・・いや、正直言ってフラグ建てようにもマリーは絶対ないな、うん。
??「(・・・・・・ラ!)」
・・・・・・あ。
??「(今日という今日は・・・絶対に勝つ!)」
・・・ようやく思い出した。いたよ。1人だけ。
??「(・・・何してるのよ、こんなところで。)」
俺「・・・・・・?」
俺は上を見上げた。
エリカ「・・・・・・」
俺「・・・・・・」
そこにエリカが立っていた。
エリカ「マリー、またカイをいじめてるの?」
マリー「いじめてるんじゃないわ。教育してるのよ。」
エリカ「貴方ね、いい加減にしないと酷いしっぺ返しを食らうわよ。」
マリー「食らうもんですか、これはただの教育なのよ。」
エリカ「はぁ。」
するとエリカは、四つん這いになってる俺に話しかけた。
エリカ「貴方も、糞真面目に付き合ってどうすんのよ。今のアナタはヤスミケイゴでしょ?」
俺「ああ、別に俺はいいんだ。」
すると、エリカが不思議そうな顔をした。
エリカ「別にいいって、恥ずかしくないの?」
俺「俺の元いた世界じゃ、こんな経験はなかったからな。こんなお嬢さん乗せて動き回るのも悪くない。」
マリー「なっ・・・!」
エリカ「えぇ・・・?」
すると、マリーが俺の背中から降りた。
マリー・エリカ「ひ、引くわぁぁぁ・・・」
俺「いや、違う!そういう意味で言ったんじゃない!」
いろいろあって俺が弁解すると、エリカが頭に手を当てて言った。
エリカ「わかった、わかったわ。私もあなたがヤスミケイゴってこと信じる。」
俺「え?」
エリカのふとした言葉に、俺は少し戸惑った。
俺「・・・信じてなかったのか?」
エリカ「当然でしょ? 記憶喪失ならまだしも、知らない世界から来た人間がカイに乗り移ったなんて、信用する方が無理あるわ。」
言われてみれば、そうだな。
エリカ「とにかくマリー、上司権限及び学級委員長として言わせてもらうわ。もうカイをいじめないで頂戴。」
するとマリーは不敵にも笑みを浮かべた。
マリー「あら? いいのかしら、そんなこと言って。そのうち貴方もお風呂覗かれちゃうわよ。」
エリカ「今のカイはヤスミケイゴでしょ! カイはともかく、ケイゴさんはそんなことしないわ。」
マリー「どうでしょうね? ケイゴも男の子だし。もっと監視したらどう?」
エリカ「・・・はあ。」
そういってマリーはどこかに歩いていった。
俺「なあ、エリカ。」
エリカ「何?」
俺「さっき、今日こそは絶対に勝つって言ってたが、今日はまだ何かあるのか?」
エリカ「は?」
エリカが言った。
エリカ「そんなこと、私は言ってないわ。」
俺「え?」
エリカ「私は、マリーを乗せたアンタを見て注意しただけ。」
俺「そ、そうだっけ?」
エリカ「第一、もうテストは終わったし、もう今日は午後の授業以外何もないはずよ。」
俺「・・・何だ。」
幻聴だったのか?もし本当に幻聴だったら、少し寂しいな。
エリカ「・・・どうしたの?」
俺「・・・その言葉、恵梨香の口癖だったんだ。『今日こそは絶対に勝つ。』」
恵梨香「・・・・・・」
ややこしい話だが、彼女は理解してくれた。
エリカ「向こうの世界にいる、私のそっくりさんのことね。」
俺「そうだ。」
エリカ「どんな関係なの?」
俺「それは・・・まあな。」
さすがにこれを話すのは、こっちの世界のエリカでも言いにくいな。
エリカ「・・・まあ、いいわ。私には関係のないことだし。」
俺「・・・・・・」
ふとここで気になることがあった。せっかく彼女もここにいることだし、確認する必要がある。
俺「なあ、エリカ、一つ聞いていいか?」
エリカ「ん?」
俺「お前・・・エリカ・シュヴァルツは、ずっとこの世界の人間なんだよな? 俺と同様、途中で向こうの世界からやってきたわけじゃないよな?」
すると彼女は、しっかりとした物腰で言った。
エリカ「それだけはハッキリと言えるわ。私はずっとこの世界の人間よ。私の家族は名門の家系だけど、お父様もお母様もすごく優しい人で、少し言葉が悪いけど、恵まれた環境で育てられたわ。」
俺「それはそれは・・・」
初めて知ったぞ。エリカはどこかのお嬢様だったのか・・・
エリカ「この弓だってそう。お父様から頂いた大切な魔道具よ。その時に教えられたこともよく覚えてるわ。」
俺「?」
エリカ「一見、弓は遠距離に有利に見えるが、使い方によってはいろんな事が出来る。魔法も魔道具も使い方次第だ。何のために魔道具を使うか、何のために射抜くのか。しっかり考えながらこの弓を使いなさいって。」
俺「ほう。」
少々、在り来たりな教え方でもあるな。まあ、俺に魔法の何がわかるかといえば、全くわからんのだが。
エリカ「わかってもらえたかしら?」
俺「あ、ああ。」
すると彼女はこんなことを言い出した。
エリカ「じゃあ、私から一つ聞いてもいいかしら?」
俺「いいぞ。俺に応えられることなら。」
エリカ「そっちの世界の私のそっくりさんってどんな人?」
(ヒュン!)
その時、俺の顔に何かが投げつけられた。
俺「な、なんだ!?」
マリー「はい、貴方の服よ。」
投げつけたのは、いつの間にか消え失せていたマリーだった。
俺「あ・・・」
顔に投げつけられたものを見てみると、Tシャツと半ズボンという、いかにもわんぱく少年らしい服だった。
俺「じゃあ、ここに用事があるって言っていたのは・・・」
マリー「・・・・・・」
マリーは言った。
マリー「ところで、貴方はこれからどうするつもりかしら?」
俺「え?」
マリー「ずっとこの世界で生きていくつもり? それとも、元の世界に帰る方法でも探すつもり?」
俺「・・・・・・」
確かにごもっともな意見だった。だが・・・
俺「戻りたいならとっくにそうしてるさ。だが戻る方法がわからない。そもそもここにどうやって来たのかも不明なんだよ。」
マリー「そりゃあ、私の雷魔法で・・・」
俺「いや、その説は絶対にありえない。確かにお前はカイの体に雷を放ったかもしれないが、向こうの世界の俺はただ寝てただけだ。」
マリー「あらそう、だったら寝れば解決するかもしれないわよ?」
俺「そんなことなら苦労はしないよ。」
すると、マリーが不機嫌そうな顔をして言った。
マリー「ま、いいわ。何をしようがあなたの勝手だし、こっちの世界で十分に満喫すれば?」
俺「・・・・・・」
マリー「それじゃあね。」
そういってマリーは階段を下りていった。
エリカ「・・・・・・」
俺「すまん。」
この会話の後になると、いつの間にか俺たちはお互いに目を背けるようになっていた。
俺「変な話になってしまったな。」
エリカ「・・・ねぇ。」
すると、エリカが言った。
エリカ「私、まだ貴方がどうやってここに来たのか聞いてなかったけど、原因がわからないままなのね。」
俺「・・・・・・」
エリカ「もし、貴方がこのまま元に戻らなかったらカイは・・・」
この問いに俺は散々迷った。結局出した答えは・・・
俺「わからない。」
この一言だった。
俺「でも、きっと丸く収まるさ。カイも元に戻る。」
エリカ「・・・そうだといいんだけど。」
確か、カイとエリカとシェリルは幼馴染と俺は聞いた。もし俺がこのままだと、カイは戻ってこないのか?
エリカ「じゃああなたに一言、言っておくわ。」
俺「?」
エリカ「勘違いしないでね。一応の慰めのつもりなんだから。」
そう言ってエリカがこっちを向いて言った。
エリカ「魔法世界にようこそ、ヤスミケイゴ。」
俺の心配を他所に、彼女は笑顔で言っていた。
・マリー(15歳・女)クラス2
慶吾が魔法世界で初めて出会った通称ゴスロリ少女。よくカイを下僕にしてこき使うらしい。実は慶吾のことが苦手。闇属性の魔法が得意。