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鏡下の秋桜  作者: 晴嵐
序章:旅の始まり
7/76

間話1

間にコッソリ挟み込む程度のちょっとした小話

略して間話。

{二人のお嬢様}


 学園に戻ってきた俺たちは、先生の指示を待った。


タイガー「なあ、カイ。」

俺「?」


 タイガーが頭を掻いて言った。


タイガー「そろそろ服を返してもらったらどうだ?」

俺「ああ、そうだった。」


 言われてみればこの服、タイガーから借りたものだった。


俺「すまん、服は選択して明日返すさ。ところで、カイの服はどこに保管してあるんだ?」

タイガー「・・・その前に、懲罰部屋について教えておくか。」


 と、いうわけでタイガーから学園の規律について教えてもらうことになった。結論から言うと、元いた世界の学校と規律事態にそんな違いはなかった。


タイガー「それで、規律を破ってしまうと、先生の即決か学級裁判にかけられる。それで内容が決まったら、懲罰部屋に一定期間閉じ込められる。短くて1日、長くて1週間だ。」 

俺「1週間って、授業はどうするんだ?」

タイガー「当然欠席扱いさ。その分みんなとの差も開くし、テストにも影響が出る。その上厄介なのが、懲罰部屋の中では魔法は使えないことなんだよ。」

俺「魔法が使えないのがそんなにヤバイのか?」

タイガー「まあな。お前は何ともないかもしれんが、人によってはな・・・」


 タイガーがここで一息ついた。


タイガー「そういえば、お前のいた世界とやらには学園ってのはあったのか?」

俺「学校ならあったな。年齢ごとに小学校、中学校、高校、大学とあってだな・・・」

タイガー「そうか、ひょっとしたら規律については一緒なのかもな。」

俺「いや、違うな。俺のいた学校には懲罰部屋なんて物騒なものはない。」


 というか、世界中どこを探してもそんな学校はないと思う。


俺「それで、その懲罰部屋と俺の服がどう関わってくるんだ?」

タイガー「おう、そうだった。それで、誰かが懲罰部屋に入れられると、それを管理する奴も一緒に決めるんだ。基本はそいつが中にいる奴の面倒を見るんだが・・・」


 そういうとタイガーは、顎で示した。


タイガー「あの日はアイツだ。」

俺「・・・・・・」


 タイガーの視線の先にいたのは、やっぱりアイツだった。


マリー「♪~」

俺「・・・・・・」


 俺は言った。


俺「なあ、タイガー。代わりに言ってくれんか?俺はアイツのことはどうも・・・」

タイガー「知るか。お前の服なんだからお前が行けよ。」

俺「一応俺は八角慶吾だ。・・・まあいい。やっぱり俺が直接聞くよ。」


 というわけで、俺はマリーに話しかけることにした。ちなみに今、マリーは一人で窓の外を機嫌良さそうに眺めていた。


俺「な、なあ。マリー。」

マリー「・・・・・・」

俺「俺の服を持っているって聞いたんだが、本当なのか?

マリー「・・・・・・」


 その時だった。


(ゴン!)


俺「グゥエ・・・!!??」


 マリーに金的されてしまった。


マリー「口を慎みなさい、下郎! さっきも言ったけど、アンタは私の下僕なのよ。もっとちゃんとした態度でお聞きなさい。」

俺「おいおい、同じ学園の仲間だろうよ。」

マリー「年も違うわ。アンタは14で私は15よ。」

俺「一つしか違わないじゃないか。それに、俺は向こうの世界じゃ24歳だぞ。一応大人なんだぞ?」

マリー「あら、そう? じゃあ・・・」


 するとマリーはこちらを見下すようにして言った。


マリー「私はクラス2の魔法使いで、貴方はクラス1の魔法使い、学園内最弱で落第寸前でエリート組の間でも話題になってるわ。わかる? 私はあなたより格上なのよ。もしあなたが大人だと言うんなら、年の差に関係なく上司の命令には従う、でしょう?」

俺「・・・・・・」


 俺はタイガーに言った。


俺「なあ、タイガー、もう少しこの服を借りるっていうのは?」

マリー「ちょっと、聞いてるの!?」

タイガー「おいおい、よしてくれ。持ってる服だって少ないんだからさ。なるべく早く返してくれた方が・・・」

俺「・・・・・・そうか。」


 俺はため息をついて言った。


俺「それで、どうしたら返してくれるんだ?」

マリー「・・・フン、わかったらいいのよ。」


 こうして、俺は適当にマリーの要求をのむことになった。その結果・・・


マリー「ほら、もっと早く動きなさい。」

俺「・・・・・・」


 お馬さんごっこだった。


マリー「とりあえずこのまま、階段上ってくれるかしら?落としたら承知しないわよ。」

俺「・・・・・・」


 とりあえず今の状況を説明すると、俺は四つん這いになって床に手をつき、マリーがその上に座っているのだが、マリーの座り方がおかしい。普通なら、俺に跨って両足を俺の両肩に垂らすのに対して、今のマリーは動くベンチみたいに横に座ってやがる。おかげで俺はマリーの生足を拝むどころか、バランスが非常に取りにくいし動くだけでも精いっぱいである。しかも、たまにマリーが足をばたつかせて俺の横腹に集中して蹴り込んでやがる。


俺「お、おい、階段って・・・」

マリー「敬語を使いなさい!下郎!」

俺「・・・階段は勘弁して下さい、マリーさま。」

マリー「だーめ、私はこれから上のほうに用事があるんだから。」


 こうして、俺はマリーを乗せたまま、階段を上ることになった。会談は段差があるので、段差が下がっている分、そのまま四つん這いだとバランスが取れなくなる。なので、後ろ脚は低くなっている分伸ばす必要があるわけで・・・


マリー「こら! しっかりバランスとりなさい!」

俺「誰のせいだと・・・!」


(ゲシ!)


マリー「早くして。」

俺「・・・」


 ようやく踊り場まで来た。


マリー「なってないわね。カイならもう少し利口にやってのけたわ。」

俺「そうですか。」

マリー「・・・・・・」

俺「・・・・・・」


 ・・・少し昔を思い出した。俺は男女共学の小中高、そして大学の出身だったが、女性とは交友がなかった。なんというか、記憶がほとんどない。思い出そうとしても、なかなか思い出せないのだ。もとより、そもそも女性と真面に話したことすらないのかもしれない。


俺「・・・・・・」


 今の俺は、女性を背中に乗せて這いまわっている悲しい男ではあるが、これもひょっとしたら・・・いや、正直言ってフラグ建てようにもマリーは絶対ないな、うん。


??「(・・・・・・ラ!)」


 ・・・・・・あ。


??「(今日という今日は・・・絶対に勝つ!)」


 ・・・ようやく思い出した。いたよ。1人だけ。


??「(・・・何してるのよ、こんなところで。)」

俺「・・・・・・?」


 俺は上を見上げた。


エリカ「・・・・・・」

俺「・・・・・・」


 そこにエリカが立っていた。


エリカ「マリー、またカイをいじめてるの?」

マリー「いじめてるんじゃないわ。教育してるのよ。」

エリカ「貴方ね、いい加減にしないと酷いしっぺ返しを食らうわよ。」

マリー「食らうもんですか、これはただの教育なのよ。」

エリカ「はぁ。」


 するとエリカは、四つん這いになってる俺に話しかけた。


エリカ「貴方も、糞真面目に付き合ってどうすんのよ。今のアナタはヤスミケイゴでしょ?」

俺「ああ、別に俺はいいんだ。」


 すると、エリカが不思議そうな顔をした。


エリカ「別にいいって、恥ずかしくないの?」

俺「俺の元いた世界じゃ、こんな経験はなかったからな。こんなお嬢さん乗せて動き回るのも悪くない。」

マリー「なっ・・・!」

エリカ「えぇ・・・?」


 すると、マリーが俺の背中から降りた。


マリー・エリカ「ひ、引くわぁぁぁ・・・」

俺「いや、違う!そういう意味で言ったんじゃない!」


 いろいろあって俺が弁解すると、エリカが頭に手を当てて言った。


エリカ「わかった、わかったわ。私もあなたがヤスミケイゴってこと信じる。」

俺「え?」


 エリカのふとした言葉に、俺は少し戸惑った。


俺「・・・信じてなかったのか?」

エリカ「当然でしょ? 記憶喪失ならまだしも、知らない世界から来た人間がカイに乗り移ったなんて、信用する方が無理あるわ。」


 言われてみれば、そうだな。


エリカ「とにかくマリー、上司権限及び学級委員長として言わせてもらうわ。もうカイをいじめないで頂戴。」


 するとマリーは不敵にも笑みを浮かべた。


マリー「あら? いいのかしら、そんなこと言って。そのうち貴方もお風呂覗かれちゃうわよ。」

エリカ「今のカイはヤスミケイゴでしょ! カイはともかく、ケイゴさんはそんなことしないわ。」

マリー「どうでしょうね? ケイゴも男の子だし。もっと監視したらどう?」

エリカ「・・・はあ。」


 そういってマリーはどこかに歩いていった。


俺「なあ、エリカ。」

エリカ「何?」

俺「さっき、今日こそは絶対に勝つって言ってたが、今日はまだ何かあるのか?」

エリカ「は?」


 エリカが言った。


エリカ「そんなこと、私は言ってないわ。」

俺「え?」

エリカ「私は、マリーを乗せたアンタを見て注意しただけ。」

俺「そ、そうだっけ?」

エリカ「第一、もうテストは終わったし、もう今日は午後の授業以外何もないはずよ。」

俺「・・・何だ。」


 幻聴だったのか?もし本当に幻聴だったら、少し寂しいな。


エリカ「・・・どうしたの?」

俺「・・・その言葉、恵梨香の口癖だったんだ。『今日こそは絶対に勝つ。』」

恵梨香「・・・・・・」


 ややこしい話だが、彼女は理解してくれた。


エリカ「向こうの世界にいる、私のそっくりさんのことね。」

俺「そうだ。」

エリカ「どんな関係なの?」

俺「それは・・・まあな。」


 さすがにこれを話すのは、こっちの世界のエリカでも言いにくいな。


エリカ「・・・まあ、いいわ。私には関係のないことだし。」

俺「・・・・・・」


 ふとここで気になることがあった。せっかく彼女もここにいることだし、確認する必要がある。


俺「なあ、エリカ、一つ聞いていいか?」

エリカ「ん?」

俺「お前・・・エリカ・シュヴァルツは、ずっとこの世界の人間なんだよな? 俺と同様、途中で向こうの世界からやってきたわけじゃないよな?」


 すると彼女は、しっかりとした物腰で言った。


エリカ「それだけはハッキリと言えるわ。私はずっとこの世界の人間よ。私の家族は名門の家系だけど、お父様もお母様もすごく優しい人で、少し言葉が悪いけど、恵まれた環境で育てられたわ。」

俺「それはそれは・・・」


 初めて知ったぞ。エリカはどこかのお嬢様だったのか・・・


エリカ「この弓だってそう。お父様から頂いた大切な魔道具よ。その時に教えられたこともよく覚えてるわ。」

俺「?」

エリカ「一見、弓は遠距離に有利に見えるが、使い方によってはいろんな事が出来る。魔法も魔道具も使い方次第だ。何のために魔道具を使うか、何のために射抜くのか。しっかり考えながらこの弓を使いなさいって。」

俺「ほう。」


 少々、在り来たりな教え方でもあるな。まあ、俺に魔法の何がわかるかといえば、全くわからんのだが。


エリカ「わかってもらえたかしら?」

俺「あ、ああ。」


 すると彼女はこんなことを言い出した。


エリカ「じゃあ、私から一つ聞いてもいいかしら?」

俺「いいぞ。俺に応えられることなら。」

エリカ「そっちの世界の私のそっくりさんってどんな人?」


(ヒュン!)


 その時、俺の顔に何かが投げつけられた。


俺「な、なんだ!?」

マリー「はい、貴方の服よ。」


 投げつけたのは、いつの間にか消え失せていたマリーだった。


俺「あ・・・」


 顔に投げつけられたものを見てみると、Tシャツと半ズボンという、いかにもわんぱく少年らしい服だった。


俺「じゃあ、ここに用事があるって言っていたのは・・・」

マリー「・・・・・・」


 マリーは言った。


マリー「ところで、貴方はこれからどうするつもりかしら?」

俺「え?」

マリー「ずっとこの世界で生きていくつもり? それとも、元の世界に帰る方法でも探すつもり?」

俺「・・・・・・」


 確かにごもっともな意見だった。だが・・・


俺「戻りたいならとっくにそうしてるさ。だが戻る方法がわからない。そもそもここにどうやって来たのかも不明なんだよ。」

マリー「そりゃあ、私の雷魔法で・・・」

俺「いや、その説は絶対にありえない。確かにお前はカイの体に雷を放ったかもしれないが、向こうの世界の俺はただ寝てただけだ。」

マリー「あらそう、だったら寝れば解決するかもしれないわよ?」

俺「そんなことなら苦労はしないよ。」


 すると、マリーが不機嫌そうな顔をして言った。


マリー「ま、いいわ。何をしようがあなたの勝手だし、こっちの世界で十分に満喫すれば?」

俺「・・・・・・」

マリー「それじゃあね。」


 そういってマリーは階段を下りていった。


エリカ「・・・・・・」

俺「すまん。」


 この会話の後になると、いつの間にか俺たちはお互いに目を背けるようになっていた。


俺「変な話になってしまったな。」

エリカ「・・・ねぇ。」


 すると、エリカが言った。


エリカ「私、まだ貴方がどうやってここに来たのか聞いてなかったけど、原因がわからないままなのね。」

俺「・・・・・・」

エリカ「もし、貴方がこのまま元に戻らなかったらカイは・・・」


 この問いに俺は散々迷った。結局出した答えは・・・


俺「わからない。」


 この一言だった。


俺「でも、きっと丸く収まるさ。カイも元に戻る。」

エリカ「・・・そうだといいんだけど。」


 確か、カイとエリカとシェリルは幼馴染と俺は聞いた。もし俺がこのままだと、カイは戻ってこないのか?


エリカ「じゃああなたに一言、言っておくわ。」

俺「?」

エリカ「勘違いしないでね。一応の慰めのつもりなんだから。」


 そう言ってエリカがこっちを向いて言った。


エリカ「魔法世界にようこそ、ヤスミケイゴ。」


 俺の心配を他所に、彼女は笑顔で言っていた。


・マリー(15歳・女)クラス2

 慶吾が魔法世界で初めて出会った通称ゴスロリ少女。よくカイを下僕にしてこき使うらしい。実は慶吾のことが苦手。闇属性の魔法が得意。


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