第4話
その後、俺たちはエリカに連れられて、抜き打ちテストの実施場所に連れてこられた。
俺「・・・ふぅ。」
実は、この時俺は別の服に着替えていた。さすがにランニングシャツとパンツ一枚ではテストも受けられないというので、タイガーから服を借りた。っていうか、ここでのカイは一体何着てたんだろう?
タイガー「にしても、毎回移動が面倒だよな。」
マナ「ええ。」
俺は今、この世界で初めて外に出ていた。ぶっちゃけ俺の予想では、学園内でもあった水晶玉が至る所にあって、建物もフランスのパリ街並みを一つ上回るくらいの斬新すぎる街並みを予想していたが、どうやらここは町から少し離れたところにあるらしく、周りを森と草原に囲まれた自然豊かな場所だった。
タイガー「もしかして、外に出るのも初めてか?」
俺「だな。」
タイガー「まあ、こっからじゃ目ぼしいもんも見えないしな。」
俺は空を見上げた。空はこちらの元いた世界とほとんど同じ空で、雲も一つ二つ浮かんでいる。鳥も見える。
俺「・・・・・・」
っていうか、俺は何とかこの世界を受け入れちゃってるが、ここまで来て壮大なドッキリでしたってオチは・・・ないな。俺自身が魔法を出せてたし・・・いや、今話題の特殊エフェクトとか。どこかにテレビカメラとメルが隠れていて、ニヤニヤ笑いながら俺のことを・・・
タイガー「どうした?カイ。」
俺「・・・・・・メル。」
タイガー「?」
俺「いや、何でもない。」
エリカ「さて、着いたわ。」
学園を出て10分ほどの時間をかけてようやく到着した。
俺「な、何だあれ・・・」
俺たちの目の前に立ちふさがったのは、真っ黒い壁に大きな星マークが描かれた巨大な建造物だった。幅と高さは30メートルといったところだろうか?
先生「ホッホッホ。ようやく来たようじゃな。」
その声とともに出てきたのは、いかにも大先生らしい白髪とお髭とお腹を兼ねそろえたお人が立っていた。
先生「ずいぶん遅かったようだのう、エリカ。」
エリカ「先生、遅れて申し訳ありません。」
エリカは頭を下げた。さすが学級委員長といったところかな?
先生「ホッホッホ、まあ良かろう。いきなり呼びつけたのはわしだからのう。」
サンディ「ほっほっほ。ありがたき慈悲を感謝しますです。先生。」
先生「・・・・・・」
サンディ「・・・・・・」
先生がサンディ先輩の存在に気付いた。
先生「サンディ、お主なぜここにおる!」
サンディ「まあまあ先生。これには深いわけがあるのですよ。それもこれも何ともふか~いわけが・・・」
先生「どうせまた遅刻したのであろう?」
サンディ「いえいえ滅相もございませんよ。ここにいるカイが道端にぶっ倒れてたので救出活動をしていたまでですよ。」
先生「道に倒れていたカイを救出? お主が?」
サンディ「ええ。」
先生が怒り顔で叱っているのに対し、サンディ先輩は笑いながら答える。
先生「ウソをつけ! この前わしが道端に発作で倒れてた時、お主は“また日向ぼっこか”といって通り過ぎたこともあろう! わしはそんなにボケとらんぞ!」
サンディ「ほえ? そんなことありましたっけ?」
先生「またまたお主、適当に遅刻の言い訳にでも利用したのじゃろう。」
サンディ「い、いやいやいやいやいや、そんなことないですよ先生。」
なるほど、要はサンディ先輩は、俺の救出を遅刻の口実にしたかったわけか。口調は変だが優しい人だと思ったのに・・・
すると、エリカが割って入った。
エリカ「先生、サンディ先輩の言っていることは本当です。」
先生「何、本当か?」
エリカ「私は現場を見たわけではありませんが、今カイの身に起こっていることを考えると・・・」
先生「ぬ・・・? カイがどうかしたのか?」
エリカは事の詳細を説明した。
先生「カイが記憶喪失じゃと?」
エリカ「はい。」
先生「それじゃあ、そこにいるカイは・・・?」
俺「・・・・・・」
俺はただ黙っていた。すると先生がこちらに近づいて言った。
先生「カイ。」
俺「は、はい。」
先生「おはよう。」
俺「・・・?」
なぜか知らないが、突然先生から挨拶された。
俺「お、おはようございます・・・?」
先生「なるほど。確かにこれは重症じゃの。」
エリカ「ええ。」
な、何だ? 今ので何がわかったんだ?
先生「しかしのぅ、もし記憶喪失が本当だとしたら、テストは受けられないのぅ。」
俺「・・・・・・」
先生はお髭をいじくりながら語る。
先生「テストが受けられないと・・・落第になるのぅ。」
俺「!!」
エリカ「せ、先生! いくらなんでもそれは・・・」
先生「テストじゃからのぅ。魔法が扱えないとなれば・・・」
むぅ、やはりこうなってしまうのか・・・どうする?俺。
先生「・・・・・・ん?ちょっと待つのじゃ。」
突然、先生が言った。
先生「のう、エリカ。」
エリカ「はい・・・?」
先生「・・・一人足りなくないかの?」
・・・え?
先生「最初、わしはちゃんと7人いるのかと思っておったが、そのうちの一人がサンディじゃったからのぅ。」
エリカ「・・・そういえば。」
驚いてエリカが辺りを見回した。
エリカ「シェリルは?」
タイガー「あれ?」
マナ「あららら。」
ミナ「・・・あれ?」
マリー「はぁ。気づくの遅いわね。」
・・・そういえば、そんな話もあったっけ。ってことは、この学級の人数は全部で7人なのか。
ん、ちょっと待てよ?
(―――――――――――――――――――――――
マリー「シェリルの胸も触った時もあったわね? それで泣かしたこと、あの子まだ許してないわよ。」
―――――――――――――――――――――――)
確かそうマリーが・・・
(―――――――――――――――――――――――
??「もう・・・アナタなんか・・・・・・キライ。」
俺「え? え? え? え?」
??「キライキライキライキライキライキライキライキライキライキライキライ嫌い・・・・!」
―――――――――――――――――――――――)
俺「・・・あっ!!!」
エリカ「え?」
玄関で会った金髪の少女か!そうか、それであの時俺を・・・
エリカ「どうかしたの?」
俺「い、いや、何でもない。」
先生「ぬぅ・・・シェリルが来ないとなると、シェリルも落第になってしまうのぅ。」
エリカ「へ・・・?」
え? ちょっとそれは・・・
タイガー「先生、さすがにそれは重すぎだぜ。カイはともかく、シェリルはクラス3の魔法使いだぞ?」
ミナ「シェリルがいなくなっちゃうなんて・・・ヤダよぅ!」
マナ「・・・・・・」
マリー「うーん、さすがに私も異議を唱えるわ・・・たった一回テストさぼったからってそれはどうかと思うわ? きっと事情があるのよ。」
みんなも少なからず動揺している。マナは・・・少し黙っていた。
俺「あの・・・マナ姉さん?」
マナ「カイ、いやケイゴ。たぶん大丈夫。」
俺「え?」
マナ「あの子は少し傷ついているだけ。もう少しすれば異変に気付いてこっちに来るでしょう。貴方はこれからのことを心配するの。いい?」
マナはとんでもないほど超冷静だった。
俺「・・・わかりました。」
その時、先生が言った。
先生「むぅ。みんなの意見はわかった。シェリルのことは検討しよう。じゃが、カイのほうはのぅ。」
・・・どうやら、雲行きが怪しくなってきたみたいだ。
エリカ「カイの記憶喪失は本当なんです! 朝からカイが別人のように・・・」
先生「それは先ほど聞いたんじゃが、ほら、折角ここに防護壁を用意したのじゃから・・・」
エリカ「そんなの、明日やればいいんです。今はカイが・・・」
先生「とはいってものう、わしはこのためだけに朝4時に起きて・・・」
俺「待ってください!」
俺は言った。
俺「俺、こっちの世界にきてから間もないですが、魔法なら使えます。」
先生「・・・・・・ほえ?」
(キューーーーーー)
俺は先ほど教わった、マジックボールを出してみた。
先生「・・・ほう!?」
俺「先生。お願いします。テストを受けさせてもらえませんか?」
エリカ「へ?」
俺がこんなことを言い出すと、エリカが止めに入った。
エリカ「待ちなさいよ! マジックボールを出したくらいじゃテストなんて。」
俺「まあ待て。あれを破壊すればいいんだよな?」
そういって俺は星マークのついた黒い壁を指さした。
エリカ「まあ、そうだけど。」
俺「やり方を教えてくれないか?要は攻撃魔法とかいう奴を。」
エリカ「・・・・・・」
すると、タイガーが言った。
タイガー「まあ、本当に初歩の初歩なら教えられるぜ。」
俺「本当か?じゃあ、是非・・・」
エリカが止めに入った。
エリカ「待ちなさい!今のカイにそんな・・・」
タイガー「どうせ今も昔も変わらんだろ。カイの魔力だと。」
エリカ「アナタ、さっきからカイの魔力が小さいからって・・・!」
タイガー「いや、ひょっとしたらだろ?」
タイガーがエリカに耳打ちした。
タイガー「あのカイがいとも簡単にマジックボールを出せたんだ。ひょっとしたらってこともあるだろう?」
エリカ「へ・・・?」
そしてタイガーは俺に言った。
タイガー「カイ、いやケイゴ・・・さっきのマジックボールがあるよな?」
俺「あ、ああ。」
タイガー「それを腕に纏うんだ。パンチが強力になるぞ。」
ほう、なるほど。定石通りか。
俺「先生。あれを破壊すればいいんですよね?」
先生「うむ、言い忘れておったが、今回のテストはカイがトップバッターじゃ。」
俺「タイガー、本当にそれであの壁を壊せるんだな?」
タイガー「ああ。一応な。」
一応、俺が今立っているところから黒い壁までは50メートル位あった。要は俺がここから壁に向かって走り、適当な所でマジックボールを出し、それを腕に纏ったと同時にその勢いで壁を破壊する。そんなところだろう。
俺は構えた。
俺「・・・・・・よし。」
タイガー「カイ、コツはぶつける寸前に魔力を放出することだ!」
マナ「ちゃんと集中して!あなたならきっとできるわ!」
ミナ「カイ兄ちゃん、がんばれ~!!!」
エリカ「・・・・・・」
心配そうに見つめるエリカに、マリーが近づいた。
マリー「どうしたの? 応援は?」
エリカ「いや・・・こんなの流石に無謀すぎるわ・・・」
マリー「あらら、アンタがそれじゃあ話にならないわね。失礼。」
あとは俺次第だな・・・・・・。
先生「それではテスト、はじめ!!!!!」
俺「・・・よし!」
呼吸が整うのを見計らい、俺は一気に前に踏み出した。
(ダンッ!)
この間、踏み出してみて気づいたことがある。俺の実年齢は24だが、こちらでのカイの年齢は14。その差10歳もの体の差があった。壁に一気に走る際、中学生並みの運動量、瞬発力が、昨日までの俺をすべて上回っていたのだ。
俺「よし!」
(キューーーーーー)
俺は走りながら右手にマジックボールを出し、それをそのまま握りつぶした。
(ドゴォン!)
俺の勘は当たった。握りつぶした魔力は俺の右腕をすぐに包み込んだ。
俺「お?・・・肩まで魔力が。」
いつの間にか魔力が右肩まで回っていた。包みこまれた右腕が、魔力によってどんどん硬質化するような感覚が広がっていく。
俺「いっけえええええええ!!!」
(ドゴォン!)
俺の拳が黒い壁に命中した。さらに同時に右腕に纏った魔力を直感で解放した。
(ボォン!)
すると、俺の右腕の先から凄まじい衝撃波が広がり、危うく俺の目がつぶされるところだった。
(ピキ…ピキ…)
タイガー「お!?」
タイガー含めたギャラリーは、目を丸くした。テスト用に配置された黒い壁が、断末魔を上げながら崩壊していくのだ。
俺「・・・・・・!」
黒い壁が俺の目の前で崩壊した。辺りは大きな砂ぼこりに包まれ、俺は破壊した時の手ごたえを感じながら、急いでその場を退散した。
俺「先生! やりましたよ!」
先生「うむ・・・。」
俺はみんなのもとに戻った。
俺「タイガー、これでどうだ!?」
タイガー「へ?あ、ああ。まあ・・・」
俺「マナ姉さん!」
マナ「え、ええ。でも・・・」
俺「エリ・・・カ・・・?」
エリカ「・・・・・・」
・・・ちょっと待て、おかしいぞ。どうしてみんな俺を憐れむような眼をしている?
エリカ「・・・はぁ。」
エリカがため息をついて俺に話しかけた。
エリカ「カイ、後ろを見て。」
へ? 後ろ?
俺「・・・・・うぇ!?」
な、なぜだ・・・? 砂ぼこりが上がった地点から、俺が粉砕したはずの黒い壁がいつの間にか復活している。
俺「こ、これは一体どういう!?」
エリカ「カイ、落ち着いて聞いて。」
エリカは言った。
エリカ「実は、貴方が破壊した壁の後ろに、全く同じ壁が一定間隔で99枚並んでるの。」
俺「へ?」
エリカ「これは、個々の魔力の強さを図るためのテストなの。たった一撃の魔法だけでどれだけの壁を壊せるかを競うのが目的。」
俺「・・・・・・」
うわあ・・・やっちまった。
俺「タイガー。」
タイガー「?」
俺「カイの今までの最高記録は?」
タイガー「5枚だ。」
俺「1枚しか壊してないぞ。」
タイガー「まあ、気にすんな。」
俺「・・・・・・」
さ、最悪だ・・・
タイガー「でも、初めてのわりに1枚を丸々粉砕するなんて、俺はすごいと思うぜ。」
すると、エリカがタイガーに駆け寄った。
エリカ「貴方、カイにちゃんとルールを教えてなかったの!?」
タイガー「い、いや、俺はちゃんと考えがあって・・・」
エリカ「この始末、一体どうするのよ!」
先生「・・・いや。」
突然、先生が衝撃の言葉を放った。
先生「合格じゃあああああああああ!!! 文句なしの合格じゃああああああ!!!」
エリカ「え!?」
俺「え!?」
エリカが驚いて目を見開く。俺も唖然とした。
先生「十分じゃ! 十分の合格じゃ! こんな奇跡がおこるとは・・・!」
エリカ「先生・・・一体どうして?」
先生「ん?いや、それはだな・・・」
先生はいったん息を整えて言った。
先生「エリカ、お主も見てただろう。今までカイが1枚を丸々破壊したことなんてあったかの?」
エリカ「そ、それは・・・」
先生「以前は確かに5枚とはいえ、壁に穴をあけて貫通させたものじゃったろう。そのカイがここまでできるようになったとは大したものじゃ。」
エリカ「は・・・はあ。」
先生「何も多く壊せばいいというものではない。個人の実力に合わせてそれだけの成果を上げればよい。ホッホッホ。」
先生はカラカラと笑った。
先生「さて、問題はカイが記憶喪失だということじゃが、そのことについては後で調査しよう。」
俺「は、はい。ありがとうございます。」
どうも俺は運よく合格点をもらえたらしい。どうもしっくりこないが・・・
先生「さて、今度はお主たちの番じゃ。」
これで、俺の出番は終わりか。ならば、今度はこいつらの放つ魔法を見せてもらうとしようか。
マナ「カイ、ちょっといいかしら。」
俺「あ、マナ姉さん。」
マナ「そこの丘に登りましょう。そこからなら良く見えるでしょうから。」
そういってマナが指さしたのは、ここより少し高い丘だった。
ミナ「ミナも一緒に行く!」
マナ「だ~め。ミナはテストが終わってからにしなさい。」
ミナ「えー。」
マナがそう言ったので、俺たちは丘に登った。そしてここで俺は、ようやくテストの全貌が明らかになった。確かに星マークが付けられた黒い壁が100枚位ある。
俺「あれ? 俺が壊した壁は?」
マナ「もう先生が復活させたわ。」
俺「そ、そうか。」
出来れば、もう一度壊した跡を見たかったな。
俺「でも、いいんですか? マナ姉さんもテストがまだ・・・」
マナ「何となく今回の順番はわかるから・・・」
俺「え?」
マナ「恐らく、魔力の弱い順。」
その時、先生が言った。
先生「次は、マイトラ!」
タイガー「い、いきなり俺かよ!」
エリカ「いきなりって、二番手でしょう?」
タイガー「まあ、仕方ないか。」
タイガーが前に出た。
タイガー「その前に質問。」
先生「何じゃ。」
タイガー「今日はこいつを使ってもいいですか?」
タイガーはそういって鉛筆を取り出した。
先生「もちろんじゃ。」
タイガー「よし! カイ、よく見てろよ。これが俺の・・・」
エリカ「カイならもうあっちに行ったわよ。」
タイガー「・・・・・・おいおい。」
エリカ「勝者の特権ってわけね。」
タイガーが構えた。
タイガー「まあ、問題ないぜ!」
そういってタイガーは、鉛筆に力を込めた。
先生「では、はじめ!!!!!」
タイガー「いくぜ!“質量・倍掛け、ニードルショット”!!!」
(シュバッ!)
(ドゴゴゴゴゴゴ!!!)
タイガーは魔法と共に、鉛筆を魔力と共に壁に向かって思いっきり投げた。鉛筆は壁を数枚貫通し、落下した。
俺「あれは・・・?」
マナ「マイトラの魔法よ。物質に魔力を込めて、重量・質量・エネルギーを変化させるの。鉛筆を一定まで強化した後、更に倍掛けをの魔法をかけて威力を増したの。」
なるほど。やはり魔法にもいろいろあるわけだな。
先生「・・・13枚じゃの。前回より1枚増えただけじゃ。」
タイガー「よっしゃあ!これで・・・」
先生「はい合格。つぎは、ミナじゃ。」
タイガー「・・・・・・」
タイガーを横目にしながら、ミナが前に出た。
ミナ「・・・いきます!」
ミナが構えると、ミナの足元に魔法陣が現れた。
マナ「そうそう、魔法の使い方についての補足をしておくわ。」
俺「はい?」
マナ「基本は、体内の魔力を結集させて、マジックボールを作るのもありなんだけど、技術があれば体内に魔力を結集させることもできるわ。」
俺「体内で魔力を結集・・・?」
マナ「そう。だけど、これは簡単にできることじゃないの。何度も魔法を使って、自分の体感で覚えるの。」
俺「はあ・・・。」
マナ「そして一番重要なのが、自分の魔力を変換させるための魔法陣。通称スキル・・・」
(ゴォォォォォォォ!)
ミナの周囲に風が纏わり始めた。
俺「スキル?」
マナ「そう。今ミナは、自分の魔力を魔法陣で変換して、風属性の魔力を増幅させてるわ。」
俺「お・・・おお・・・」
この力は俺にもわかった。俺やタイガーが使った魔法とは比べ物にならない力を感じたのだ。
ミナ「・・・サイクロンⅠ! 発動!!!」
その瞬間、ミナが纏っていた風が、すさまじいスピードで前方に放出された。
(ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン!・・・)
黒い壁は命中したところから順番に粉砕されていく。やがて、しばらく進んだところで風は収まった。
先生「ミナ・・・27枚!」
ミナ「やったぁ!」
タイガー「ガーン!」
ミナは大はしゃぎして喜んでいた。
俺「すごい! あんなに小さい子が・・・」
マナ「ミナも最近習得したの。前回は13枚だったから、記録大幅更新よ。」
俺はマナを見て言った。
俺「やっぱり誇らしいですか? 姉として。」
マナ「・・・少しだけ。」
マナは自信なさげに言った。
先生「合格じゃ。次・・・マリー。」
マリー「は~い。」
さて、俺が初めて会ったゴスロリ少女のお披露目か。その実力はいかに。
マナ「ちなみに、マリーは闇属性が得意よ。」
俺「あれ? さっきは雷を・・・」
マナ「スキルによっては闇属性の雷魔法も可能よ。」
俺「ほ、ほう。」
マリーは、自身の前方に魔法陣を展開した。
マリー「いくわ。ダークネス・ウェイブ!」
直後、マリーは構えることなく魔法を放出した。いかにも闇属性らしい紫の魔法が壁を次々と破壊した。
先生「・・・33枚!」
マリー「まあ、妥当なところかしら。」
先生「お主、手を抜かなかったか?」
マリー「いいえ。私は全力ですわ。」
先生「まあ良い。合格。」
マリーはのんびりと後ろに下がった。相変わらず憎たらしい少女だ。
ミナ「おーねーーちゃーん!」
気が付くと、テストを終えたミナやタイガーが丘を駆け上がってきてた。
マナ「あ! いけない!」
俺「マナ姉さん?」
マナ「うっかりしてた・・・ごめんなさい。行ってくるわ。」
そういってマナはミナとすれ違って丘を駆け降りていった。
ミナ「あ! おねーちゃん・・・」
ミナはすれ違った姉を見て呆然とした。
先生「次、マナ!」
マナ「は、はい!」
マナが息を切らしながら到着した。
タイガー「よし、じゃあ今度は俺が解説を・・・」
サンディ「私がしようではないか。」
俺・タイガー「うわっ!!!」
突如、俺とタイガーの隣にサンディ先輩が現れた。というか、まだいたのか。
タイガー「サンディ先輩、今から俺が解説を・・・」
サンディ「クラス2は黙って勉強じゃ。ほっほっほ。」
その時、マナが構えに入った。
マナ「先生、今回のテスト、属性の指定はありますか?」
先生「無論、お主に任せるわい。」
マナ「では、火属性で行かせていただきます。」
すると、マナの前方の左右に、二つの魔法陣が向かい合うように現れた。
サンディ「お、あの娘・・・」
俺「?」
サンディ「どうやら、新しい魔法を試すようじゃの。」
サンディ先輩が続けて言った。
サンディ「あの魔法は発動に時間がかかる。この間にクラスについて補足説明しておくぞ。」
俺「は、はい。」
サンディ「単純に言えば、魔法を扱える実力のことじゃ。学園に入学当初は皆クラス1から始め、自分自身に合った属性の魔法を身につける。その属性魔法の中で、クラスごとに設けられた所定のスキルを身につけることで、晴れてクラスチェンジできるのじゃ。」
俺「ふむ。」
サンディ「しかし、クラス2までなら頑張れば簡単に辿り着くことができるのじゃが、クラス3、及びクラス4へのチェンジは恐ろしくハードルが高い。」
俺「・・・・・・」
サンディ「マナ、シェリル、エリカの3人は、これまでの連中とは別格の強さだと思ったほうがよい。特に、マナは全属性の魔法を扱うマイティ・メイジだからのぅ。」
すると、マナの周囲に巨大な魔力が纏わり初めた。
マナ「フレイムライン・・・インフェルノ!!!」
(ゴォォォォォォ!)
突然、前方に出現した二つの魔方陣が走り出し、黒い壁の両脇を通過した。
俺「あれは!?」
サンディ「目標を炎で包み込む魔法・インフェルノ。それを黒い壁が設置されたラインに沿って、包み込んで滅却するように変形させたのじゃ。」
すると、走り出した二つの魔法陣の間から、真っ赤な炎が燃え上がった。その炎の出現とともに、黒い壁は先頭から跡形もなく消えてゆく。
マナ「・・・ふぅ。」
魔法の発動を終えて、マナは一息ついた。
先生「マナ、53枚! 合格!」
俺「す・・すごい・・・」
マナが破壊したのは、設置された黒い壁のうち、約半分だった。だが、その威力はこれまでの3人と比べ物にならない。彼女の魔法に飲み込まれた壁は、跡形もなく灰と化していたのだ。
サンディ「要は壊し方の問題じゃ。黒い壁を50枚以上破壊するのはクラス3のノルマじゃからのぅ。どんなやり方が効率いいかをこのテストで示したのじゃ。」
俺「はあ・・・」
サンディ「まあ、効率が良い方法を探すのは、まず強くなってから考えるのじゃ。」
俺「・・・・・・」
この時俺は、妙な胸騒ぎがした。
タイガー「さて、いよいよ本日のオオトリだぜ。」
俺は前を見た。マナも丘の上に上がってくる。残る人物は一人・・・
先生「次、エリカ。」
エリカ「はい。」
残るはエリカ一人、この学園の学級委員長の実力が今明かされるのか。
黒い壁の正面に立ったエリカは、最初に左手を差し出した。
エリカ「・・・・・・」
すると、エリカの左手から巨大な弓が出現した。
俺「あ、あれも魔法か?」
サンディ「まあ、魔法というか魔法具じゃ。指にはめている指輪のおかげでの。」
俺「・・・・・・」
その時、エリカが魔法の発動体制に入った。エリカは左手の弓を少し上にあげ、弦を引いた。
エリカ「連撃・100連鳳火!」
(バシュ! ドドドドドドド)
エリカが巨大な1本の矢を放ち、矢は黒い壁の頭上を越えようとした。すると、巨大な矢の下部から大量の小さい爆弾のようなものが投下された。
まるで爆撃だった。100連というくらいだから、恐らく100発のも爆弾が1発ずつ黒い壁に命中しているのだろう。
(ヒュルルルルル・・・・・ボォン!)
やがて矢が最後部の壁に命中し、爆発した。その爆発でも壁を数枚吹き飛ばした。
エリカ「・・・・・・」
先生「・・・・・・」
二人は黙っている。数秒後、爆炎が収まった。
先生「エリカ・・・78枚!」
エリカ「・・・・・・」
爆炎が晴れると、ところどころ爆発に巻き込まれなかった黒い壁がぽつぽつと残った。
俺「78枚か、ははは・・・」
サンディ「・・・・・・」
さすが学級委員長だけのことはある。2位のマナを差し置いてダントツのトップだ。
先生「ふむ・・・。のうエリカ。」
エリカ「はい。」
先生「今の技・・改良の余地がありそうじゃの。」
エリカ「・・・心得ております。」
先生「いや、わかっていればいいんじゃ。」
エリカは少し不満そうな表情をし、後ろに下がった。
俺「あの・・・エリカはどうして・・・?」
サンディ「そりゃあ、100連といいながら命中したのが78枚じゃからのぅ。命中率としては微妙な所じゃ。」
俺「でも、俺でさえ1枚壊すのにやっとなのに、78枚も破壊したんですよ?」
サンディ「それはわかる、あくまで私からの意見じゃ。」
俺「・・・・・・」
サンディ「まあ、成績を上げるには、という観点の話じゃがの。」
そういえば今、丘の上には俺、タイガー、サンディ先輩、今到着したマナとミナの姉妹。そして・・・
マリー「・・・・・・」
マリーもいつの間にかいた。
俺「・・・・・・」
マリー「何よ?」
俺「意外だなと思って。」
マリー「・・・うっさいわね。」
マリーはそっぽを向いた。少しばかり可愛い奴め、フフフ。
先生「おーい、お前たち-! 早く戻って来んかああああああ!」
下で先生が俺たちに向かって叫んでいる。
俺「おっといけね。戻るか。」
俺が動いたと同時に、丘に上がってきていたみんなも、丘を降り始めた。
俺「・・・ん?」
その時、俺は何かに気付いた。
タイガー「どうした?」
俺「誰かが・・・こっちに来る。」
マナ「?」
みんな前を見た。すると、誰かが息を切らしてこっちに走ってくるのが確認できた。
??「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
俺「・・・・・・!」
あの子だ・・・玄関で出会った金髪の少女・・・!
タイガー「シェ・・・シェリル!」
マナ「あら、まあ・・・」
サンディ「ほっほっほ、ようやくきおったわい。」
やはり、あの子がシェリルなのか・・・。
シェリル「・・・・・・!」
シェリルが俺と目を合わせた。
俺「うっ・・・!」
・・・とっさに、俺は目を逸らしてしまった。
タイガー「・・・やっぱりか。」
タイガーが言った。
タイガー「お前、今朝シェリルにやられたんだろ?」
俺「・・・・・ああ。」
すると、タイガーが鼻で笑った。
タイガー「ははは、安心しろ。事情は俺たちが説明する。もうお前が記憶喪失・・・てか、別人に成り替わったってことは、ここにいるみんなが知ってる。乳揉みもお前がやったわけじゃないんだろ・・・・・・?」
俺「・・・・・・」
タイガー「ぶっちゃけ、俺も一瞬戸惑ったぞ。もしお前が本当にカイだったとしたら、間違いなく人間の屑だ。」
俺「ああ、わかるさ。だが断じて誓う。俺は太陽系第3惑星、日本国東京都在住、株式会社ヘンゼルカンパニー勤務、日本生まれ日本育ちの24歳、八角慶吾だ。」
タイガー「・・・・・・はい?」
俺は堂々と言い張った。
・・・そういっている間に、シェリルが丘の下にいる先生とエリカと合流した。
先生「これ、シェリル! 今までどこいっとった!!」
シェリル「すみません! まさか今日が抜き打ちテストって・・・知らなくて・・・」
俺「・・・・・・」
改めて金髪の少女もとい、シェリルの容姿を見てみると、長身でスタイルもいい。背丈はマナと同じくらいでエリカより少し高い。そして、微妙ではあるが胸が少しばかり大きい。というより他の女性陣が胸が小さ・・・
マナ「・・・・・・」
背後にマナの気配がしたのでこれ以上の記述はやめておく。
先生「・・・まあ、よい。テストにもギリギリ間に合ったということで、遅刻の件は不問に処そう。」
先生はにっこり笑った。
シェリル「あ・・・ありがとうございます!」
シェリルも笑った。・・・初めて見たが、意外に可愛かった。
先生「ではシェリル、お主で最後じゃ。やって見せなさい。」
シェリル「はい!」
シェリルは一礼をし、黒い壁の正面に立った。
俺「・・・・・・」
俺は今、少し複雑な思いを抱いていた。さっきは一方的にぶっ飛ばされたとはいえ、事情を知らずにわけのわからない返答もした。彼女に謝るべきだろうか・・・
サンディ「お主、よく見ておれ。」
俺「・・・?」
サンディ「あの子はこの国においても滅多にいない、聖属性の魔法使いじゃ。」
俺「聖属性ってことは、回復とかそういう魔法を使えるのか?」
サンディ「ん? よく知っておるのぅ。じゃが、あの子は戦ってもすごいぞ。」
俺は前を見た。・・・だが、シェリルはその場で目を閉じ、動かないでいる。
サンディ「おっほっほ・・・」
すると、サンディ先輩がニヤニヤしながら黙り込んだ。何やら、サンディ先輩はこの後起こることがわかっているらしい。
俺「・・・・・・?」
タイガー「・・・・・・?」
マナ「・・・・・・?」
ミナ「・・・・・・?」
マリー「・・・・・・?」
エリカ「・・・・・・?」
混乱していたのは俺だけではなかった。周りの仲間たちも、訳が分からずキョトンとしている。
サンディ「皆の衆、ヒントをやろうか?」
サンディ先輩がここぞとばかりに言った。
サンディ「上じゃ。」
俺「上?」
俺たちは真上を見上げた。すると、いつの間にか大きな光の玉が、シェリルの頭上1重数メートル付近に現れていた。
タイガー「な、なんじゃありゃ!?」
ミナ「え? 何あれ・・・?」
俺「元気d・・・・いや、何でもない。」
マナ「?」
すると、機が熟したのか、シェリルが目を見開いた。
シェリル「太陽の神、大地の精霊よ、太古に纏わる粛清の力で、わが目前の障壁を取り払え・・・リトル・ネメシス。」
(ピカッ)
その時、頭上に形成された光の玉から、一筋のレーザーがシェリルの前方の地面に向けて放たれた。
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・)
レーザーは徐々に角度を変え、1枚目に直撃した。
エリカ「・・・!」
マリー「ちょ、これ・・・!」
先生「お・・・おお・・・おおおおおおお!」
レーザーは1枚目の壁を簡単に貫通し、2枚目3枚目・・・10枚20枚と簡単に焼き尽くしていった。
やがて、レーザーは地面と平行になりかけようとした。その時だった。
シェリル「・・・・・・っ!ぐっ!げほっ!げほっ!」
突然、シェリルが足元から崩れ落ちた。すると頭上の光の玉は消え、レーザーも止まった。
俺「・・・!!」
タイガー「シェリル!」
マナ「シェリル!」
ミナ「シェリルねえちゃん!」
先生「シェ、シェリル!大丈夫かの!?」
みんながシェリルのもとに駆け寄った。俺も無意識のうちに、シェリルのもとに駆け寄った。
シェリル「だ、大丈夫。・・・ちょっと、失敗しちゃったかな?」
タイガー「いや、失敗ってレベルじゃねえよ! スゲェよ! 今の魔法!」
マナ「本当にすごい! 今の魔法、本には載っていない魔法よね!?」
ミナ「すごいすごい! 壁がほとんど消えちゃった!」
俺「・・・・・・!」
俺も、彼女に声を掛けようとしたが、何かが俺の言葉を封じた。
俺「・・・・・・」
俺の頭の中で、ここに来てからの記憶が走馬灯のように駆け巡った。これは俺の記憶か?それとも・・・
そうだった、今の俺は中身こそ俺だが、この体はカイのものだ。過去の自分によく似ている体だろうが、決してこれは俺の体じゃない。
俺「・・・うっ!」
ダメだ。声を掛けようとするとめまいがする・・・
シェリル「みんな、ごめん。もう大丈夫だから・・・」
シェリルは息を整えて立ち上がった。
シェリル「・・・・・・あっ!」
俺「うっ!」
・・・シェリルと目が合った。
俺「い・・・いや・・・お・・・俺・・・・・」
ひ・・・ひどい、何でこんなに・・・
シェリル「・・・・・・」
突然、シェリルが言った。
シェリル「カイ・・・さっきは・・・ごめん。」
俺「!!」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中につっかえていた何かが外れた。
シェリル「いえ・・・もうごめんですまないことしちゃったけど・・ごめん。」
俺「あ、ああ・・・まあ。」
シェリル「・・・?」
・・・しまった、シェリルはまだ知らないんだった。俺は近くにいたタイガーとマナ、ミナに目で合図をした。
タイガー「あ、ああ、ちょっと待ってくれ。今、ちょっとカイが偉いことになってるもんで・・・」
シェリル「・・・えらいこと?」
マナ「そ、そう! ちょっと今はカイに話しかけない方がいいかな・・・」
シェリル「・・・マナさん?」
シェリルはきょとんとした表情で二人を見た。
実はこの時、体調を崩したシェリルに駆け寄らなかった人物が3人いた。
一人はマリー。
マリー「・・・・・・」
実を言うと、マリーは途中までシェリルに駆け寄っていた。だが、何かに気付いて立ち止まってしまった。
マリー「・・・・・・」
彼女は後ろを振り返った。そこにいたのは・・・
エリカ「・・・・・・・・・」
エリカだった。みんながシェリルを気遣って彼女に駆け寄るのを他所に、エリカはレーザーで焼かれた黒い壁を呆然と眺めていた。
マリー「・・・・・・ふん。」
マリーは彼女を見兼ねて、その場からシェリルを取り囲む仲間を見た。
そして、サンディ先輩。彼女も丘の上からエリカを見ていた。
サンディ「んー・・・」
この時、サンディ先輩の顔は複雑な顔をしていた。あれだけヘンテコリンな彼女が、やけに真剣な顔でエリカを見ていたのだった。
まあ、この時の俺はシェリルに集中していてエリカもマリーもサンディ先輩も気にかけていなかったのだが・・・
先生「ゴホン、とりあえず、テストの結果を言ってもいいかの?」
シェリル「は・・・はい!」
先生「なんとビックリ、78枚じゃ!」
その時、エリカがピクリと動いた。
タイガー「78枚!? ってことは・・・」
ミナ「エリカおねーちゃんと同じ!?」
マナ「あら・・・あららら・・・いつの間に越されちゃった・・・」
シェリル「あ、ありがとう。みんな・・・」
・・・今の俺には知らないことが多かったが、彼女はこのテストにおける魔法でドデかい一撃を放ったらしい。一体何が彼女をそうさせたか・・・想像はついているのだが。
先生「まあ、遅刻はしたが、それ以上の成績を収めたので合格じゃああああああ!」
この時の先生も、表情はあまり喜んでいなかった。
タイガー「よし! これで全員合格だな!」
シェリル「え? 全員?」
その時、シェリルが俺を見た。
シェリル「ってことは・・・カイも合格!? やったあ!!」
俺「!?」
突然、シェリルが俺の両手を握った。
シェリル「よかった! 合格おめでとう!」
俺「・・・?・・・?・・・?」
ちょっと待て、おかしいぞ。さっきまで俺に敵意を向けていた理由はよくわかる。だが、数時間すぎてこの反応はなんぞ・・・?
タイガー「く、詳しいことは学園に帰ってからにしようぜ。シェリルにはちょっとキツイかもしれないが・・・」
シェリル「・・・?」
マナ「そうね。帰りましょう。」
先生「そうじゃの。壁出すのも疲れたしの。いったん学園に帰るぞい。」
シェリルは少し首をひねったが・・・
シェリル「うん・・・わかった。」
何やら不安げの表情をしながら納得してもらえた。するとミナが、後ろを向いて言った。
ミナ「エリカねえーちゃーん! かえるよー!」
タイガー「(ギクッ)」
マナ「(ギクッ)」
俺「・・・・・・?」
エリカはずっと黒い壁を呆然と眺めていた。
エリカ「!・・・え、ええ。」
ミナの言葉でエリカは我に返った。
シェリル「そういえば、エリカは何枚だったの?」
タイガー「・・・」
マナ「・・・」
二人は言おうとしない。丁度その時だった。
サンディ「さあーて! 私もやるかの!」
突然、丘の上にいたサンディ先輩が言った。
先生「やるって?・・・まさか、テストをか?」
サンディ「当たり前じゃ! せっかくここにわしがいるんじゃ。ここは先輩として、示しをつけねばならんだろう。」
先生「いや、もうテスト用の壁も取り外そうと・・・」
サンディ「わし自身が用意すれば問題なかろう。」
そういうと、新たに黒壁が100枚生成された。今度はサンディ先輩が用意したものだろう。
タイガー「まずい・・・!」
マナ「ええ・・・!」
俺「?」
ミナ「あわわわわ・・・」
シェリル「え?どうしてサンディ先輩がここに?」
エリカ「・・・ゴクリ。」
マリー「わ、私はお先に失礼するわ!あとはよろしく!」
先生「ほええええ!」
サンディ「ほーっほっほっほっほっほ。クラス4の実力、今ここに見せてやるわい。それ!」
(ドォン!)
サンディ先輩が地面を1回蹴った。すると、サンディ先輩の周囲に5つのマジックボールが瞬時に生成された。それも俺の生成したものより数倍の大きさだ。
俺「これが・・・クラス4の魔法・・・!」
タイガー「馬鹿! 逃げろ!」
俺「へ?」
マナ「急がないと火の海になるわよ!」
俺「は?」
いや、それはおかしい。壁は向こう側に並んでいる。それなのに、ここが火の海になるのはこれいかに・・・
(ガシャン、ガシャン、ガシャン)
すると、5つのマジックボールから魔法陣が展開され、機械仕掛けの音とともに5つの発射装置が形成された。
サンディ「さーて、いきますよ。ヘイトリッド・ブラスト!」
その瞬間、5つの発射装置からラグビーボールのような形をしたミサイルが無数に発射された。
(ドゴォン!)
・・・先頭の1発が命中しただけで10枚位吹っ飛んだぞ。
サンディ「にゃはははははははははは!!!!!」
100枚の黒い壁は一瞬で蒸発した。
タイガー「早く逃げろ、カイ!」
俺「え?」
俺はハッとした。いつの間にか、みんながいない。タイガーも100メートル先まで逃げていた。
俺「ぎゃあああああああ!!」
俺も全速力で逃げた。いつの間にか、前方に発射されていたはずのミサイルが周囲に拡散している。
サンディ「おーい!カイ、聞こえるか!」
全速力で逃げる俺に、サンディ先輩が爆炎の中から呼びかけた。
サンディ「わしは、これからエリート組のところに合流することにした。次に会うのは明後日くらいになるかもしれん。もしお前が本当に異世界から来たというのなら、ここで思う存分魔法を学ぶがよい!魔法は便利じゃぞ?お前の思う存分暴れるのじゃ! にゃはははははははは!!!」
俺は振り返った。すると、爆炎の中にサンディ先輩があった。彼女は爆炎の中で、右手を挙げてビシッと敬礼して叫んだ。
サンディ「また会おうぞ! ヤスミケイゴ!」
その時、俺は爆炎の中でサンディ先輩が笑っている姿を見た。
俺「・・・・・・フッ。」
思わず俺も笑ってしまった。
学園に戻った俺たちは、サンディ先輩が学園を去ったことと共に、シェリルに事情を説明した。
シェリル「う・・・うそ・・・カイが・・・記憶喪失!?」
俺「・・・・・・」
シェリルは顔が真っ青になった。
シェリル「ねえ!私のことは覚えてる!?」
俺「・・・・・・」
すると、タイガーが口をはさんだ。
タイガー「いや、厳密には記憶喪失というよりは、魔法のない世界から来た別人になっちまった、ってところかな?」
シェリル「え?」
マナ「本名は確か・・・ヤスミケイゴだったかしら?」
シェリル「ヤスミ・・・ケイゴ?」
するとシェリルは、俺に向かって言った。
シェリル「本当なの!?」
俺「・・・・・・ああ。」
シェリルは俺の目を見つめた。
俺「・・・・・・」
マズいな・・・非常に気まずい。
実は、サンディ先輩が放ったから逃げる際、タイガーからこんなことを聞かされたのだ。
タイガー「あのさ、今、シェリルやエリカがだいぶ先に走ってるから言っとくけどさ。」
俺「?」
タイガーが走りながら言った。
タイガー「カイとエリカとシェリルは、幼馴染だったんだ。」
俺「えっ?」
タイガー「学園に入る前はよく一緒だったらしいぜ。俺はよく知らないけどな。」
俺「・・・・・・」
俺は聞いた。
俺「じゃあ、カイとシェリルはどういう関係だったんだ?」
タイガー「結構仲良かったぜ。当然エリカとシェリルもな。」
俺「じゃあ、他の連中は?」
(ドガーン!)
タイガー「く、詳しい話は学園に戻ってからにしようぜ!」
俺「お、おう!」
そんなこんなで学園に戻ってきたのだ。
~ミニ登場人物紹介~
・カイ・ヴァルクサンダー(14歳・男)
八角慶吾に体を乗っ取られた人物。魔法世界のファフニール魔法学園に在籍中。魔力はとても低く、結構スケベな性格らしいが詳細は不明。シェリル、エリカとは幼馴染。