第1話
初の異世界モノ小説にチャレンジです。タイトルの読みは鏡下の秋桜(きょうかのコスモス)です。
~今の自分から君にメッセージ~
異世界から来た君へ。まずはこれを最後まで読んでほしい。
ここに来るまで、君は今まで何をしていたのだろうか? 突然連れてきて済まない。当然君のことだから、間違いなく混乱しているだろう。申し訳ない。
ここはある研究施設の実験場だ。君は今、幽閉されている。出ることはできない。だが、ここには3食分の食事が用意されているから、空腹の心配はしなくて良い。とても息苦しい気分だろうが、どうか君には最後までこの手紙を読んでほしい。
今からここに記すのは自分自身の“14日間”の記憶である。内容量は膨大だが、必ず最後まで読み切るんだ。そしてここには、この世界の正体とこれから起きる未来についても記されている。
そして君は、立ち向かわなければならない。これから起こる悲劇的な未来に、君の協力が絶対に必要なのだ。
君は・・・・・・
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~1日目~
(それは、7日前のことだった。)
「異世界モノの小説?」
俺は24歳の現役バリバリの社会人だった。名前は八角 慶吾。
「そうなんですよ、先輩。」
そして今、俺と話しているのが俺の後輩。こいつの名前は丸山 翔だ。
「今、インターネットの某小説投稿サイトで、ランキング上位を占めてるジャンルがそれなんですよ。」
「何か聞いたことあるぞ。あれだろ、普通の生活送っている人間が、何らかの理由で別世界に飛ばされるとか。」
「そうそう、まさにそれでしてね。」
ちなみに、俺はこの後輩のことをトビマルと呼んでいる。
「その、なんていうか見ているとどうも・・・」
「魔法の世界に飛んでみたいとかか?」
「いやいや、そんな・・・」
トビマルは苦笑いしながら答える。
「逆ですよ、読んでてとても飽きるんです。」
「え?」
「あまりにも数が多すぎて。」
「多いって・・・ランキングに乗ってるやつ以外にもか?」
「一例ですよ?例えば、“ファンタジー”で検索すると60000件近くヒットします。」
「ふむ。」
「で、異世界と検索すると約40000件ヒットする。」
「6万のうち4万だって? 半分以上じゃないか。」
「そうなんですよ。」
俺は鼻息でため息をついた。だが、よく考えてみると…
「でもそれ、魔法を扱う作品自体が大体異世界の物語とかじゃないのか?非現実的な世界観という観点なら納得もできるぞ。」
「それは理解できますよ。ただ自分は・・・」
トビマルはこっちを見て言った。
「どっちを向いても異世界モノっていうのが気に食わないんですよ。」
「ああ、なるほど。…ってことは、内容が面白くないわけじゃなく、読みすぎて飽きたと・・・」
「そうなんです!これまであのサイトで数百作品ほど目を通しましたが、疲れてしまいまして。」
「たまには現実世界中心の推理物とか読んだらどうだ?」
「金がかかるのは嫌っす。」
「図書館は?」
「距離遠いっす。何より面倒くさいっす。」
「ネットで本を注文は?」
「だから金がかかるのが嫌なんです。」
「・・・それで例のサイトを巡回してるわけか。なら、推理小説でも面白い作品の一つや2つ・・・」
「そんなたいそうなものも止めてないっすよ。せいぜい素人が作ったやつで。」
「素人?どうして?」
「素人が考えたヘンテコロジックにいちゃもんつけたり・・・・」
・・・早い話こんな奴だよ、このトビマルという男は。
「・・・・・・」
ちなみに俺は、異世界モノの小説は嫌いじゃない。参考程度に読んでいるが、悪くはないさ。魔法の世界に行きたいかどうかの話は別だが。
「ヤスミ先輩はどうです?」
「俺か?俺はだな・・・」
その時俺は、先ほど上司からもらった給与明細の紙を取り出した。
「・・・・・・」
俺の給与明細をトビマルが目にした瞬間、トビマルの表情が固まった。それも当然だろう。俺の今月の給与は住民税分を差し引いても初任給の2割増しだったのだ。
「俺は、こっちの世界で満足だ。」
「・・・でしょうね。」
別にこれは、給料だけにとどまる話じゃない。世界中には住む家もなくその日暮らしの人が大勢いる。明日食う食料がない人もいる。それを考えれば、俺は住む家(アパート)にも恵まれてるし、食事(インスタント)にも恵まれ、着る服(ランニングシャツ・パンツ)にも恵まれている。たまにゴキブリとダンゴ虫が家にお邪魔してくることがあるが、殺虫剤を吹きかければ問題ない。一見、地味な生活に見えるが他の人から見ればまだ満足した暮らしができるのだから、家に帰ればもう天国さ。
・・・ただ一つ。今ほしいものがあるとすれば、彼女くらいかな・・・。
そんなこんなで、俺はアパートに帰宅した。相変わらず自分の働きぶりには自分自身でも感動するものがある。こんなボロアパートでもパソコンは使えるし、スマートフォンの通信も快適で、暖房もある。立地は日当たりが非常に悪いが、その分夏は快適に過ごせる。日の光がほしいときは日当たりの良い近くの図書館で、本を読むふりをしながら寝る。倫理的にはあれだが、俺にとっては最高のひと時だ。その甲斐もあって、貯金は少し多めに設定しても生活できるのだ。まあ食事がインスタントだけなのは健康的にマズいがな。
さて、突然だが俺のスマートフォンの話をしよう、アクティブネット(通称:アクネ)と呼ばれるアプリがある。このアプリは無料チャット・無料通話など様々なツールが使える通信アプリなのだ。問題はその中に登録されている俺の仲間たちだが、小中学校・高校・大学のサークル・その他もろもろも含めて人数はなんと約100人いるのだが、どうも腑に落ちないのだ。その約100人の仲間たちの内、100%が男なのだ。
今までにも何回か女性に対して“アク友”を申し込んでみたが、何故かすべて断られる。それだけじゃない。俺は子供のころから女性に異常に避けられる体質で、彼女を作ることはもちろん、まともに会話したことすらない。話そうと思えば話せるのだが、気づいた時には向こうから去ってしまうのだ。その反動として、俺は男から非常にアプローチされるようになり、気づいた時には男一色の関係になっちまった。ちなみに俺は全くそっちの趣味はないことはここに明言しておく。
とはいえ、実は例外が一人だけいるのだが・・・いや、彼女の場合は少し論外だ。
・・・しかし、そんな俺にもようやく光が差し込んできたのだ。確かに俺はとあるボロアパートの一室に住んではいるが、実は入居者はもう一人いるのだ。
(ヒュン!)
「あなたの背後に正義のヒーロー、“メル・ギブソン”、ここに参上!」
・・・・・・?
「・・・メル、その“ギブソン”って何だ?」
「正義の味方の名乗り口上だよ?」
「おいおい、メル・ギブソンってそんな明るい役柄じゃないぞ、どこでそんな単語覚えたんだ。」
「テレビ通信。」
「テレビ?お前が?」
「変かな?」
「変って、お前テレビをどうやって・・・?」
メルは自分のほっぺに指をあてて、微笑みながらにっこりした。
「研究所からテレビ放送を受信してるんだよ。電脳空間の中で展開させて、私がこの目で実際にテレビを見ることが出来るの。テレビ放送だけじゃなく、映画とかラジオも受信出来たりしちゃうの。すごいでしょ?こういう事もちゃんと学習できるんだよ?」
ああ、実はこの子は人間ではない。彼女の正体はこの国を代表する研究機関、未来クラフト研究所が開発した仮想少女(バー・チャル子)シリーズNo.0である。メルという名前は俺が付けた。
「ああ、わかった。頼むから後ろから近づくのはやめろ!」
「えー、ちょっとくらい良いじゃない。」
「毎回やってるだろうが。」
メルは俺に向かって微笑みかける。
「それよりケイゴ、今日は給料日だって聞いたよ?どうだった?」
「上がってた。」
「どれくらい?」
「2割。」
「・・・・・・」
メルは自分の顎に指を立てて考える。
「2割っていうと、うれしい位?それとも微妙なところ?」
「・・・・・・」
前述のとおり、彼女は人間に作られた機械およびプログラムで動作するだけの、ただの人形でしかない。だがいざ話してみると、声はとても人間らしくて、とても表情豊かで、まるで本物の人間のような感情を持っている。まだ少々ぎこちないが。
「まあ、微妙・・・かな?」
「ふむふむ。」
メルはどこからか紙を取り出した。
「人間は給料が2割増し程度では喜ばない。っと・・・メモメモ。」
「ロボットがメモを取るな! それと、今のは俺だけの問題だから普通に記録しなくていい。」
するとメルは、メモをどこかにしまい込んで言った。
「どうして嬉しくないの?」
「・・・」
俺は目の前のちゃぶ台に肘を置いて座り込んだ。言い忘れていたが、アパートの床は4畳半の畳の部屋なのだ。
「なんというか、率直に言えば、金を使って欲しいものがないんだ。」
「え?」
「給料が上がったのは確かにうれしい。だけどいざもらってみたら、これと言って買いたい物もないんだ。」
「・・・・・・」
「まあ、だからこそ貯めるんだけどな。」
俺は本音を言った。この生活には満足してるし。メルを維持するための費用も足りている。そのおかげで貯金もあるのだが、今のところ使い道が全くないのだ。
「ケイゴさまは高給取りのくせにお金を使わない真性の給料泥棒である。メモメモ・・・」
「変なことをメモるな! あと、給料泥棒の意味間違えてるぞ!」
早い話、メルはこんなやつである。彼女についての詳しい話はまた次の機会に紹介しよう。
「あ~あ、眠い眠い。そういや、明日は休日だ。」
「ケイゴさま、正確には9月の26日だよ。」
「ああ、わかってる。一々突っ込まなくていいよ。」
「むぅ~。今日のケイゴはなんか不機嫌だな~。なんか面白くない。」
メルはやれやれというポーズで部屋をうろつく。
「疲れてるだけさ。今日は寝て明日起きれば元気になる。」
「ホントに?」
「ああ。当然だ。」
「メモメモ」
メルが何かメモった。
「おい、今何をメモした?」
「教えませんよ。」
「コラ、教えろ。」
「イヤです。」
そういった瞬間、メルの姿が消えた。もともとの彼女の住処である電脳空間に戻ったのだ。たちまち、壁に立てかけてある巨大なモニターが点灯し、彼女の姿が現れた。
「私も眠くなったから寝るよ。つまんないもん。」
「そうかい。」
「だってケイゴが・・・」
そういうと、メルはモニターの中で口を尖らせた。
「最近のケイゴは忙しいよね。」
「・・・まあ、忙しい時期だからな。」
「・・・・・・」
メルは黙り込んでしまった。モニターの中で背を向けて、まるで俺に何かを訴えるようなポーズをとっている。
「わかった。明日の休日、お前と出かけよう。」
「え?」
「久しぶりにショッピングに行こう。データの参考くらいにはなるだろう。」
「ホントに!?」
するとメルは一転して元気になり、子供のようにモニターの中で飛び跳ねた。
「約束だよ? 絶対だよ!?」
「ああ。約束だ。だから今日は早く寝る。」
「は~い。」
そういって俺は、部屋に敷いていた布団(事前にメルが敷いてくれた)に入り、蛍光灯を消した。
「・・・・・・」
だが、壁のモニターが点灯している為、まだ明るい。
「メル、消してくれ。」
「・・・・・・」
返事がない。
「メル、どうした?」
「いいえ。」
すると、メルがにっこりと笑って言った。
「おやすみなさい。ご主人様。」
(プシュン)
「あ!おいっ!」
メイド口調はやめろ・・・っと言おうとしたが、伝えることができなかった。
「・・・・・・」
寝るか。
「・・・・・・」
俺は風呂にも入らずに、そのまま布団の中に直行した。だが、今日の夜はなぜか寝苦しい。どこからともなく時計の音が響いている。隣の部屋の人が変な時計でも買ったんだろうか?
「・・・・・・」
そんな状況でも、10分後には無事に寝ることができた。とてもささやかだが、これが俺のいつもの日常でもある。11時前に就寝し、6時に起きる。そんなバカみたいな規則正しい生活を社会人になって2年間続けていた。いつまでこんな生活ができるかわからないが・・・
「zzz・・・」
(まさか次の日の朝、そんな生活を破滅させる事態が、俺に待ち受けていることなんて誰に予測できたことか。事が起こったのは確かに翌朝だが、俺はそれが何を意味するか、知る由もなかった。)
時計の針が12時を指した。
~2日目~
(この日が、俺の転機となった瞬間の日だった。最初は危うく風邪をひきそうになったが、何とか事実を受け入れて全て丸く収まったんだ。この日は結局、俺の身に何が起こったのか分からなかった。)
俺は目を覚ました。
「ん?」
なんだろう、やけに布団が固い。それに匂いも変だ。
「・・・・・・!?」
俺の目の前に広がったのは、ボロアパートの一室とは明らかに違う天井だった。
「なんだここは・・・?」
驚いて飛び上がると、ここはボロアパートの一室ではない。あたり一面が白いタイルで覆われた謎の部屋だ。
しかも、俺が寝ていたものはフカフカの敷き布団から鉄製のベッドに代わっている。掛け布団はどこかに消えた。
「へっくし! ・・・痛てて。」
体がものすごく痛む。鉄製のベッドに寝かせられたせいだろうか?誰が寝かせたのか知らんが・・・
「って、これは・・・!?」
俺は目を見開いた。いつの間にか俺の体は全身傷だらけになっていた。体中殴られ、斬られ、火傷のあともある。まるでリンチにでも会ったかのような恐ろしい傷を負っていたのだ。
「これは・・・一体何があった・・・? メル! メルはどこだ!?」
呼びかけてみたが返事はない。
改めて昨日の出来事を再確認しよう。昨日は2割増しの給料をもらい、後輩のトビマルと異世界モノ小説論議をし、メルと明日一日付き合うことにした。あとはランニングシャツとパンツのまま寝床についた。その後は特にトイレに行った訳でもないし、自室から一歩も外に出ていないはずだ。
「へっくし!」
とにかく体が寒い・・・とにかくここから出ないと・・・
「え?」
俺はあたりを見渡して、扉を見つけた。だが、それは扉というよりは、壁をくりぬいて設置した鉄格子のようなものだった。
「檻・・・?」
とりあえず俺は把握した。どうやら俺は幽閉されているらしい。
「誘拐でもされたか・・・?お~い!誰か!誰かいるか!」
呼びかけてみたが返事はなかった。仕方ない、体が傷だらけだが何とかベッドを下りた。幸い、ベッドと扉の距離は意外に近く、4、5歩でたどり着いた。
(ガチャガチャガチャ)
鉄格子はやはり扉のように開閉できるようだが、案の定ロックが掛かっている。
「ったく、人を閉じ込めるなら看守の一人でも置いとけ。中で人が死んだらどうすんだっての。」
(カッ、カッ、カッ、)
む、人の足音か?丁度良いところに来たもんだ。
??「・・・・・・」
その人物は鉄格子の向こう側に姿を現した。その時、俺は目を疑った。足音とともに鉄格子の向こう側に現れたのは、牢獄に似つかわしくないゴスロリを着た少女だったのだ。背は、俺と同じくらい・・・?
俺「アンタか?俺をこんなところに閉じ込めたのは?」
??「・・・・・」
少女は何も答えなかった。そればかりか、少女は鬼のような形相でこちらを睨み付けている。
俺「答えてくれ、俺が一体何したんだ・・・?」
??「ムカッ!」
その瞬間、ゴスロリの少女が右手を突き出し、俺に向かって白い光弾を放った。
俺「ぶゥッ!!!」
白い光弾は鉄格子をすり抜けて俺の顔面に直撃し、俺は頭から真後ろに倒れた。何だ?今何をされた?何かを投げたのか?
俺「・・・・・・」
??「・・・はぁ? “俺が一体何した?” ですって? ばっかじゃないの!?」
ゴスロリ少女は首をぐるりと回して再び俺を睨み付けた。
俺「・・・・・・???」
何故だ・・・? 何故このゴスロリ少女はここまで怒りに満ち溢れている?
??「アンタねぇ、弁解するならもう少しまともな弁解しなさいよ!今時そんな惚け方したって無駄よ!無駄!」
俺「??????」
なんだ?以前に俺が何かしたのか?
俺「俺には思い当たる節なんてないぞ?お嬢さん、一体俺が何をしたか、教えてくれないか?」
俺がこう質問したが、ゴスロリ少女は激昂した。
??「は? うっざ!!! 馬鹿もここまでくるとただのゴミだわ!」
そういうとゴスロリ少女は、口元で何かを唱えた。すると、牢獄中に何かが震える音が鳴り響いた。
(ゴゴゴゴゴゴゴ)
俺「何だ?何をしたんだ?」
??「目覚めの一発よ!」
その瞬間、牢獄内の四隅から電撃が放たれた。
俺「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」
生まれて初めて体内に電流が流れた。全身が痺れ、途端に筋肉が硬直し、俺は再び後ろに倒れた。
??「どう?もうこれに懲りたら、二度とあんな真似はしないことね!」
俺「あんな真似・・・?」
??「はぁ・・・」
俺が聞き返すと、ゴスロリ少女は呆れて頭を抱えた。
??「大したものだわ、その根性。あれだけ女の裸見まくったくせに、たったこれだけの罰なんてね。」
俺「裸??? 俺が・・・?」
??「あら?ひょっとして記憶まで吹っ飛んじゃった?」
俺「・・・・・・」
記憶が吹っ飛んだ?まあ、確かにその可能性もあるな。
俺「そうかもしれんな、ハッハッハ!」
??「・・・・・・?」
ゴスロリ少女はムカついた顔をしながらも、こう言ってきた。
??「アンタ、本当にかい?」
俺「ん?」
・・・?
??「いいえ、何でもないわ。」
そういうとゴスロリ少女は、何かを動かした。
(ブォン)
ん?鉄格子が消えた?
??「どちらにしても、あんたの幽閉時間は終わったわ。釈放よ。」
俺「なんだ、それはよかった。」
俺はほっと一息をついて鉄格子の外に出た。
俺「・・・ほう?」
檻の外はそれほど殺風景というわけではなかった。壁には不思議な文様が描かれ、通路もきれいに掃除されている。先ほど彼女が動かしたのは・・・何だこりゃ? まあいいや。
俺「まあ、忘れてしまったもんは仕方ない。いつか思い出すさ。それで俺が何をしたんだ?君の裸を見てしまったのか?」
??「いいえ、全然違うわ。」
俺「ん?じゃあ誰の裸を?」
??「うちの学園の女子全員の裸よ! アンタはうちの女子寮に侵入して女子全員の入浴を覗き見したのよ!」
俺「ぶふっ!!!」
思わず吹き出してしまった。
俺「おい、冗談だろ? いくら俺が血迷ったとしても、そんな愚行は・・・・・・」
??「よく言うわね! 普段からやってるくせに。」
俺「???」
??「風呂覗きはこれで3度目よ? 強化された警備の中どうやって近づいたかは知らないけど、アンタの潜入能力だけは感心するわ。」
俺「?????」
??「シェリルの胸も触ったわね? それで泣かした事、あの子まだ許してないわよ。」
俺「ちょっと待て、さっきから何言ってるんだ?」
??「?」
俺は慌てて聞き返した。
??「かい、どうしたの?」
俺「普段からやってるってどういうことだ? ひょっとして、誰かと勘違いしていないか?」
??「え?」
俺「さっき学園っていってたよな? 言っておくが、俺は社会人で24歳だぞ?」
??「・・・は?」
ゴスロリ少女が驚いて俺を見た。
??「カイ、あなたさっきから何言って・・・?」
俺「待て、その“カイ”っていうのは、俺の名前のことか?」
??「え?そうだけど・・・?」
俺「はぁ・・・」
俺は呆れて両手を挙げた。
俺「俺の名は八角慶吾だ。カイじゃない。」
??「ヤスミ・・・ケイゴ・・・?」
ゴスロリ少女は真っ青な顔で言い返した。
??「あなたはカイよね? カイ・ヴァルクサンダー・・・」
俺「・・・? それ、人の名前か?」
??「・・・・・・・・・」
俺「あのさ、その・・・カイという奴と俺は、人違いとかそっくりさんの間違いじゃないかな?」
??「まさか・・・そんな・・・」
するとゴスロリ少女ははっとしたように顔をあげ、俺に言った。
??「貴方・・・やっぱり記憶喪失・・・?」
俺「・・・・・・」
違う・・・と俺は言いたかったが、彼女の表情を見て口に出すのをやめた。万が一だが、本当に記憶喪失の可能性もある。
俺「そうだ、ちょっと鏡を持ってきてくれないか? 俺が本当に俺なのか確認したい。」
??「イヤ・・・」
俺「いやって・・・」
俺はゴスロリ少女の顔をみた。
??「鏡なんてそこら中にあるから・・・自分で見てみればいいじゃない!」
俺「そ、そうか、じゃあそうしよう。ってどこにある?」
??「と、とにかくついてきなさい!」
そういってゴスロリ少女はスタスタと通路を先に進んでしまった。
俺「おい、待ってくれよ。」
俺も続いた。
俺「そうだ、ついでにあと一つ聞きたいことがある。」
??「何かしら?」
俺「さっき、俺が君たちの風呂を覗いたといったな。やっぱりお前の裸も見たのか?」
??「えっ!?」
ゴスロリ少女は目を見開いた。
??「バ・・・バカ! そんなこと私に聞かないでよ!!」
俺「ハハ、確かにそうだな。まあ、見れたとしたら惜しいな。覚えていないことが実に残念。」
??「ムカッ!」
(バリバリバリバリバリ)
俺「ギャアアアアアアアアア!」
??「口を慎みなさい! 下郎!」
また雷が飛んできた。まあ、非は自分にあるのだが・・・
誤字脱字等ありましたらお知らせください。