8ー過去ー
8ー過去ー
俺は不自由のない家庭で育った。
母さんはとても温和で優しく、
父さんは厳しい人だった。
そして大企業の社長だった。
『お前は立派になって父さんの後を継ぎなさい』
これが口癖だった。
でも父さんは俺のことをよく考えてくれた。
中学校までは立派になって父さんの後を継ぐ。
それが夢だった。
でも、父さんは母さんと大げんかして家から出て行った。
俺に『父さん』という人はいなくなって夢も消えた。
でも、母さんは、
「大丈夫だからね」
寂しそうな笑顔でそう言った。
でも俺は荒れていった。
酒飲んだりタバコ吸ったりした。
でも家ではいつも通りに振る舞った。
高校生になってすぐに彼女もできた。
片桐 凛花という子だ。
だけど2週間ほどで別れた。
俺から別れ話を持ち出したのだ。
そして、あの日...
2ヶ月前、8月26日。
「やめて!翔矢!」
まだあの感触が残ってる。
あの感触はもう当たり前のことになったのだが。
俺は母さんを殺してしまった。
母さんにタバコがバレて喧嘩になった。
たったそれだけのことだ。
頭に血がのぼった。
言い訳にしかならない。
俺が悪かった。
その時の俺はそれに気づかず、
怒りに任せ母さんを包丁で刺したのだ。
あぁ、俺は『父さん』と同じだ。
あの夫婦喧嘩は『父さん』が悪かったのに『父さん』は家を出ていったんだ。
そして俺も家から逃げ出した。
夜の道を死に物狂いで走った。
涙が止まらなかった。
...どれくらい走っただろうか?
落ち着いたとこで空を見上げると、
涙でぼやけていたが星が綺麗だった。
俺は地面に崩れ落ちた。
靴を履き忘れていたので、靴下がボロボロだ。
俺は母さんに謝りたかった。
少しでいい。
謝りたかった。
でも、もう母さんは死んでいるだろう。
それなら、俺が会いに逝こうかな。
その時だった。