13ー夕日ー
13ー夕日ー
「しょーちゃん!しょーちゃん!ここにしよ !ここにしよ!
そこは、都会の方を抜けて前の方に川が見える。
そして川の向こうに夕日が見え、ちょうど寝転がれるほどの小さくて緩やかな斜面もある。
夕日を見るなら絶好のスポットだ。
俺たちは斜面を滑り綺麗なところに寝転がった。
爽やかな風が吹いて涼しく夕日が川の水に反射してとても美しかった。
「夕日...綺麗だね」
「そうだな」
ふと柊の方を見る。
柊は少し微笑んでおり顔は夕日に照らされ、髪は優しくそよ風に吹かれている。
周りにあまり音はなく風が木々を吹いてる音しか聞こえない。
まるで仕組まれたかのようだった。
その美しさにしばらく見とれていた。
「ねぇ、しょーちゃん」
柊がこちらを向く前に俺は慌てて視線をそらす。
「ん?」
いつも通りに答えたはずだ。
「しょーちゃんっていつから私の事を柊って呼ぶようになったのかな」
「いきなりだな。なんでだ?」
「幼稚園のころは香奈ちゃんって呼んでくれてたじゃん」
「昔のことだろ。忘れろ」
「えー、教えてよー」
柊の指が俺の頬を突く。
「やだ」
「へー。そんなこと言っていいのかなー?」
「はぁ。言うよ。言えばいいんだろ」
「そうこなくっちゃ!」
柊は今日最高の笑顔を見せた。
「あれだ...」
なんか柊を納得させる理由はないのか!?
「あれとは?」
そうだ...!
「男にもいろいろあるのさ」
決まった。
「なにそのドヤ顔」
「別にいいだろ。たまにはドヤっても」
「で?本当のとこは?」
言わなきゃダメらしいな。
「中学で久々に同じクラスになって呼びづらくなった、それだけだ」
「周りなんて気にしなくていいのにー」
「言ったろ?男にもいろいろあるって」
「そういうことにしておいてあげるよ」
はぁ、なんで過去エピソードを暴露してるんだか。
「じゃあさ」
再び柊が喋る。
「今、名前で呼んでよ」
「柊」
「いや、だから名前で」
「恥ずかしいからやだ」
「周りから見たら付き合ってるとしか思われてないから大丈夫だよ!」
「な、何言い出すんだよいきなり!」
「えー?いやなの?」
周りが気になって辺りを見渡す。
誰もいないか。
よくよく考えると俺と柊との間がすごく狭い。
なんか緊張してきた。
「だからさ、いいじゃん」
ここで拒んでもまた脅されるに決まってる。
だったら言ってやるよ。
「か...香奈ちゃん?」
すごく恥ずかしい。
頬が熱い。
きっと俺は顔真っ赤になっているのだろう。
夕日が隠してくれて助かった。
「違う違う!」
え?まだ何か?
「ちゃんは要らないよ」
「というと?」
わかってたがあえて聞いてみた。
「香奈って呼んでよ」
ま、そうだろうね。
「香奈?」
「うん、それがいい」
やばい。
緊張しすぎてどうにかなりそう。
早くこの場を離れなければ。
「よし!柊、帰るぞ」
そう言って俺は起き上がり、背中とズボンについた草を払う。
「柊に戻ってんじゃん」
「いや、さっきだけだろ?」
「ずっと香奈でよろしく☆」
「いや、それはちょっと...」
さすがに学校で呼ぶといろんな奴から冷やかしを受ける気がする。
義一とか義一とか義一とか。
「じゃあ、二人きりの時でいいよ」
「...それならいいけど」
「はい!じゃあさっきの場面やり直し」
まじかよ。
柊はさっき俺が寝転んでいたところをぽんぽん叩いている。
寝転がっているところからかよ。
せっかく汚れ払ったのに。
「はいはい、今行きますよ」
寝転がって起き上がりますと。
「よし...香奈帰るぞ」
「うん」
「はあ、なんか疲れたな」
「私はまだまだいけるよ」
さすがですね。
「今度はヨッシーも連れて遊びたいね」
「そうだな」
疲れが増えそうな気がするけど。
こうして俺の休日は終わった。




