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イマ編

はい、こちらはイマちゃんの事を書く本編です。・・・・・とはいっても、こいつが一番難しい。はっきり言って苦手な処です。自分の子供達の様子を思い出しながら、書いてみましょうかねぇ。ということで、始まり始まりぃ~。

<イマ編>


あのイベントの初日午前、黒服の男がイマに話しかけた。


Q1.イマちゃんは自分のことかわいいと思う?

A1.あのね、このあいだ、久し振りにお父さんと一緒にTVを観たの。

   そのときに、ポニョを歌ってる大橋のぞみちゃんが出てたのね。

   そしたらパパが、「かわいいね~、イマにそっくりだねぇ~」って

   言ったんだ。わたしは、のぞみちゃんのほうがかわいいって思う

   し、わたしとのぞみちゃんはちょっと違うと思うし。わたし、歌

   も好きだけど、楽器も好きだよ。あとね、走るのが大好き。

   TVでのぞみちゃんが、でんじろう先生と実験してるのを見た

   ときには、ちょっとだけうらやましかったかな。ああいうのは

   いっぱいやってみたい。


Q2.イマちゃんは、何かおしゃれしてる?

A2.え~、お化粧とか別に興味ないよぉ。ん~、あ、髪。髪の毛結ぶ

   のが好き。ポニーテールってゆうのかな、真ん中でひとつにする

   のは簡単にできるし、くびがらくだし、大好きかな。結ぶゴム紐

   は別に飾りとかなくていいけど、あの茶色い色んなもの止めてる

   輪ゴムだけはいや。


Q3.イマちゃんは、何に興味がある?

A3.きょうみぃ~?好きなこととかぁ?外で遊ぶの好きだし、追い

   かけっことか鬼ごっことか好きだな。でも、来年になったらみんな

   塾に行くって言ってるから、一緒に遊ぶのは今のうちかも。

   あ、あとね、色んな色がきらきら変わるの好き。万華鏡だっけ、

   あの覗くの大好きだよ。あとは本とか。TVは、なんか馬鹿みたい

   なことやってるのとか、わざとらしいのとかが多いからあんまり

   見ない。NHKとかでやってるきれいな景色とか面白い生き物の話

   とかは好きだよ。



   ね、おじさんだれ?どこからきたの?

   知らない大人と一緒にいるとお母さんが心配するから、じゃあね。


イマは、黒服の男は、悪い人というよりも、怖い人という印象を持った。

なんで、私の名前を知っていたんだろう?それも怖かった。


-----


イマには、人に言えない秘密があった。小さい頃から。

父や母にも言っていない。

それは、「普通の人には見えないモノが見える」こと。

別にお化け・幽霊・魑魅魍魎の類の話ではない。

イマは、「見える」波長の幅が極端に広いのだ。

それに、その変化も、ある程度の時間分なら、例えばスローモーションのように頭の中で再生出来る。

極端な話、見ようと思えばある程度の周波数の電波まで見えてしまう。

普段は、そんなものが見えていたらくたびれてしまうので、「目を閉じて」いる。つまり、「普通の人」が見える範囲を、会話の中で覚えて、その帯域幅しか感知しないようにしているのだ。物心つく頃、このことに気がついた。そして学習した。「変なやつ」は「いじめられる」ことを。

だから、イマは普通の子のように生活している。困るのは視力検査の時。集中すると、見えなくても良いものまで見えてしまう。それを止めると、「はい、1.5ね」という程度で済む。もっと小さくても見えるのに。

そういう想いは心の中にしまった。

ただ、「目を閉じて」いても、例えばある人が元気かどうか、それは見えた。

世間では「オーラ」とか呼ばれる種類のものと、恐らく一緒である。イマは「絶対違う」と思っていたが。

これはこれで便利であった。具体的には、「いい人」と「悪い人」が一発で判ってしまう。見える色が違うのだ。

何色か、というのは、イマには説明出来ない。そもそも普通の人間が識別出来る色では無いから、当たり前と言えば当たり前の話であった。


いつかイマには、アフリカの草原で遠くの象の群れが見えるか、挑戦して貰いたい。これは後にタカがイマの秘密を知ってから思った勝手な妄想である。


-----


イマがタカを勝手にカナブンと呼ぶことに決めた日。


タカは、自分が話をしているときに、イマが自分の目線よりも上を見ている事があることに気が付いた。

タカ「イマさん、私の頭に何か付いてますか?」

イマ「ううん、別に、そうじゃないの。・・・・・カナブンにはちょっとだけ話してもいいかな。あのね、私、ちょっとだけ他の人と違うものが見えるの」

イマは、本当はちょっとだけじゃ済まないことについては、そのときは話さなかった。

イマ「ちょっと頭の上に、その人がいい人か悪い人か、とか、病気なのか元気なのか、とか、なんか出てて判るんだ。だからね、最初にカナブンを見たときから、悪い人じゃないって判ったんだ。それでね、カナブンが色んな話を、そうね、面白い話をしてくれてるときって、カナブンの頭の上がすんごくきれいなの。わぁ~きれいってみてたんだ」

タカは、イマがいわゆる「オーラ」の類を見えるのかな、と思った。

タカは化学者であるが、そういったものを頭から否定はしていない。

わからないものはわからない。わかるように研究するだけだ。そう思っている。

タカ「きれいなんですね。どんな色ですか?」

イマ「う~んと、色って言うのとちょっと違うかも。だって説明出来る色じゃないもん」

タカ「そうですか。・・・・判りました。じゃ、イマがきれいなものを出来るだけ見られるような話をしましょうね」

ともかく、タカはイマを楽しませたかった。いや、自分が楽しみたかったといった方がいいかもしれない。



イマは気が付いていた。カナブンは、私に敬語を使うけど、違うときがある。敬語と、「さん」付け。私のことを見て、考えて、私中心の時には敬語と「さん」付けになってる。でも、話に夢中になると、敬語じゃ無くなって、「さん」も取れて「イマ」と呼んでくれる。イマは、カナブンが「さん」付けで無いときの方が嬉しくなった。好きになった、というのとは未だちょっと違うかもしれないが、とにかく一緒にいるのが楽しくなった。


イマは、ちょっと意地悪な質問をカナブンにした。これは答えが見つかっていないことを本を読んで知っていた。

イマ「あのね、カナブン。じゃあ、宇宙の果てってあるものなの?あったら、その先は何があるの?」

タカ「これはまた大変な質問ですね。イマさん、その話どこかで聞くか読むかしましたか?難しいですね。何かで知ったのなら、ビックバンって言葉があったと思います。う~んと小さくて、う~んと重たい、宇宙全体が詰まった「点」があったと思って下さい。私は思うんですが、その「点」のときには、その外側には何かあったんだろうって。続けましょう。その点が、あるとき、大爆発を起こした。これも何かきっかけか判りません。とにかく、とてもとても大きな爆発で、そのとき色んなものが出来た。星達もそのとき出来た。そして、広がっていった。星を研究している人たちは、そう思ってます。でも、それを証明出来ない。今現在観測出来る内容からは、赤方偏移等からその説は有力です。でもね、イマ。それは現在の状態なんですよ。現在、そして望遠鏡とかで見える、遠い先から届いた昔の光や電波。そういうものから、仮説を立てているんです。彼らも、その先に何があるか知りたくてたまらないんです・・・・・えぇ~っと、イマさん、お話、少し難しかったですか?」

イマ「う~んと、全部は判らなかった。でも、何となく、「今は判らない」って言うことは判った。カナブンって物知りだよねぇ。頭の中に色んなものが詰まった引き出しが一杯入っているみたい」

タカ「イマさんも、頭の中に質問の引き出しが一杯あるみたいですね」

イマ「そうだよ。だからカナブンと話してると全然飽きない」


イマは内心、やった、1回だけだったけど、「さん」無しで呼んで貰った、という事を喜んでいた。


この先、「さん」付けでなくなることが増えても、それがイマが喜ぶ内容であるかどうかは別のことになっていく。


-----


イマの父親は、とある中央官庁に勤めている。

上級管理職試験を受けていないため、いわゆる「ノンキャリア」組である。

それでも、課長級まで来た。

三十代後半で、しかもノンキャリで、ここまで昇進するのは、かなり早い方である。

同期には、キャリア組もいる。同期は、泊まりがけの研修を同じくしたため、省庁を超えて、今でも親交がある。「同じ釜の飯を食った仲」というやつである。


建て売りではあったが、都心からさほど遠くない処に、家を買った。 限りなく県に近かったが、それでも東京都内である。

気が利く嫁と、活発で利発な娘がいる。

自分はこれで結構幸せだと思っている。

昇進は、さほど期待していないが、定年までに次官補くらいまで登れたらラッキーだと考えている。

ともあれ、ごく普通の、一般的な父親であった。

イマが「彼」と関わるまでは。



イマの母親は、いわゆる良家の箱入り娘であった。

女子校、女子大学と進学して、家事手伝いとして広い実家を切り盛りしていた。

イマの父親以外の男性との付き合いは、無かった訳ではない。

いわゆる合コンである。

在籍していた女子大は、合コンでは人気があった。

更に言えば、彼女は中でも人気があった。

よく気が利くからである。

お茶や食事を供にした男性もいた。

だが、それ以上の事は無かった。


気が付くと、二十代後半になっていた。

周囲が気にして、見合い話を幾つか持ってきていた。

彼女はその中で、実直そうで「馬鹿」が付くくらい真面目そうなのが写真からも判る男と見合いをした。

それがイマの父親であった。

数回デートらしきものをして、結婚を決めた。

若干ではあるが、姉さん女房であった。

実家よりかなり狭いので、切り盛りが楽なことと、子供が出来てお給金だけでは多少足りないことから、昼間短い時間、パートに出ていた。

自分はそれなりに幸せであると思っていた。

イマが「彼」に逢うまでは。



-----


イマの誕生日は、4月3日である。

このため、幼い頃は体格の差からか、男子・女子入り混じって遊んでいても、イマは強かった。鬼ごっこ、影踏み・・・

しかし、TVゲームや携帯ゲームは、弱かった。弱い、というのは正確ではないかもしれない。イマは、その画面をまともに見るのに結構負担があった。「目」のためである。ゲームは特に、可視光の他のものがかなり混じる。だから、イマは親にゲーム機をねだったこともない。


誕生日が学年替わりの時期でもあったため、イマは友達とお誕生日会をやった事がない。他の子のお誕生日会にプレゼントを持って行った事があるばかりだった。イマは特別気にしていなかったが、親が気にしていた。

そのせいか、誕生日プレゼントは割と豪華だった。小学3年に上がったときは、携帯電話と、中古の自転車。携帯電話は、イマは別に要らないかなぁ、と思った。だが父から、「イマが出かけるとき、これを持っていれば、お父さん達がイマは何処にいるか判るようになってるからね。いつも外に行くときは持っていくんだよ」と言われた。自宅の電話番号は既にメモリされていて、ボタン1つでかかるようになっていた。まぁ、あれば便利かも、とイマは思った。自転車は、近所で使わなくなった小さな補助輪付きの自転車、それも未だ新しいものを貰って来てくれた。イマは、すぐに補助輪無しで乗れるように練習した。休みの日には、父が見守ってくれた。「後ろ持っているから、思い切り漕いでごらん」「離さないでね、離さないで」「ちゃんと持ってるよ」その声がすぐ後ろでない事に気が付いたとき、イマは一人で自転車を漕いでいた。気が付いた途端に転んだが、こつは飲み込めた。次から、走り出すときだけ父の手を借りて、後は自分で漕いだ。曲がり方も覚えた。ブレーキの使い方も。走り出しの処だけ、ちょっと難しかった。「ペダルをね、此の位置にして。それで、漕ぎ出してごらん」父の教えで何度か失敗しながら、漕ぎ出しも出来るようになった。自転車は、乗れるようになると楽しいものである。すぐにあちこちと走るようになった。

小学4年に上がるときの誕生日プレゼントは、新品の自転車だった。

サドルを一番下にして、イマがやっと乗れる位だったが、車輪径は26インチである。これから大きくなってもずっと乗れるサイズであった。イマは大事に乗った。しかしたまに、親に内緒で遠出をした。原宿まで行ったこともあった。クルマの排気ガスで少々気持ち悪くなったが。


その小学4年。イマは、タカとほぼ毎日メールをやりとりしていた。日常会話的なものが殆どだ。イマは、タカが文字数の関係からか、メールでは「イマ」とさん付けではなく呼びかけてくれることが嬉しかった。


イマの家庭では、携帯電話は全てダイニングキッチンのテーブルの上で充電することになっていた。イマの携帯は、GPSと連携した追跡が出来る機能をセットしてあった。たまに、父のパソコンからイマの現在位置を確認していることは、イマも知っていた。メールも読まれていることも、知っていた。携帯に暗証番号ロックは、かけていない。カナブンとのメールは読まれて恥ずかしい事は何にもないもん。その頃のイマは、そうだった。


小学4年。友達は、やはり殆どが塾に通い出した。イマは気にしていない。学校での授業中は、メモを取りながら一所懸命考えていた。雨の放課後は、図書室の本を読んだ。そのうち、全部読み終えてしまった。

イマは、自転車で図書館に通うようになった。借りてくるだけでなく、その場で数冊読んでしまう。そんな日が続いた。借りるには、鞄がもうちょっと大きければいいのに、と思った。


イマの小学校では、小学5年以上の高学年は、通学鞄はランドセルでなくてもいいことになっていた。理由としては、やはり塾等で運ぶ荷物が増えていることや、体格からランドセルではつらくなる子(特に早熟な女の子)がいることを考慮してのことであったのだろう。


イマは、5年生になる前、いやクリスマス前から真剣に鞄を選んでいた。

母には、「この先、クリスマスプレゼントやお誕生日プレゼントが無くてもいいから、いい鞄が欲しい。自分で選ぶから、それを買って欲しい」と相談していた。


携帯で検索できる範囲は限られている。イマは、父のパソコンを借りて、様々な鞄を検索した。これは、と思ったものは、自転車で近所のショッピングモールまで出かけ、そのブランドの店に臆しもせず入り、じっくりと手にとって確かめた。店員から、「お母様へのプレゼントですか?」と訊かれたときには、「う~んと、そんな感じ」と曖昧に返事をした。そんなブランドものをイマが自分で使うとは、店員も考えていなかっただろう。


イマがじっくりと検討した結果、鞄が決まった。マチが大きく、アコーディアオン状になっていて、しっかり大きなジッパーでくちを止められ、かぶせがあるものを選んだ。これなら多少の雨でも中のものは濡れない。ブランドは、昔から革製品で有名で、その昔は馬具を作っていた処。ショルダーにも手提げにもなる、革製品。小物は自分で小さな袋にでも小分けにすればいい。それより、大きなものでも入る方が優先した。ブランドの約束で、修理すれば長く使えることもポイントだった。

自分の使い勝手、大きさ、重さ、デザイン等々色々検討した結果、選んだものを母に報告した。母は、覚悟はしていたが驚いた。値段は、二十数万円。もう少しで30万円だ。買えない訳ではないが、多少家計のやりくりが必要である。しかし、母はイマとの約束を守ることにした。父は、鞄とかそういったものの値段には疎い。「お父さん、イマがやっとプレゼントして欲しいものを決めましたよ。鞄です。買ってやっていいですね?」「ああ、鞄か。まぁ、いいでしょう」決まった。母は嘘をついていない。ただ、値段を伝えなかっただけだ。

小学4年から5年になる春。イマと母は、連れだってそのブランドショップに行った。店員は、何度もイマが来ていたので、覚えていた。

「いらっしゃいませ。あら、今日はお母様とご一緒ね。決まったの?」

「はい。これを、ください。色は、黒じゃなくてナチュラルブラウンのものです」

「いいものを選ばれましたね。当ブランドでは一番トラディショナルなデザインです。お母様もお嬢様からのプレゼントだなんて嬉しいでしょう?」「えぇ、まぁ」そうか、私が使うことになっているんだ、此の店では。母はとっさにそのように振る舞うことを決めた。「娘が一所懸命選んでくれたものですから、とても嬉しいですわ。娘はお小遣いの前借りとか申してますけど。お支払いは、現金でよろしいかしら?」

母は、30万円分の現金を会計に差し出した。昨日銀行から引き出してきた、新札である。自分のパート代が入金される口座だ。数ヶ月分に相当する。「はい、ただ今お包みしますので、暫くそこのソファにおかけになってお待ち下さい」

母はイマに、アイコンタクトで(そういうこと?)(そう。)と会話した。プレゼントが逆と思われている事についてだ。

間もなく、立派な箱にリボンをかけられて、大きな紙袋に入ったものがやってきた。「お嬢様から、ちゃんとお母様にお渡しして下さいね。ご利用ありがとうございました。」

イマがひきずりそうになる袋を、母はそっと手を添えて持ち上げた。重さを感じる。この子の将来分の重さかもしれない。母は、何となくそう思った。勘は良い方である。実際、その鞄はその後のイマと、半生を供にすることとなる。


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小学5年の春。

クラス替えがあった。4年生の時と同じクラスメートが何人もいたので、イマは友達がまた増えるね、と思った。

やはり大抵の子は、ランドセルではなく手提げかショルダーバッグを持ってきていた。イマの鞄は、デザインと色から、それほど目立つものではなかったが、革製品独特のにおいがした。

「お前、これ革じゃん。いいの持ってるな」早速、男子から構われた。

「あれ、これって、TVで観たことがあるような気がする。何処かの偉い人の奥さんが持っていたような」女子からも注目を浴びてしまった。

イマは、「お母さんにねだって買って貰ったの。ずぅ~っと使えるものがいいって、これにしたの。革だけど、ほら、ランドセルだっていいものは革でしょ。そんなに違わないよ」とかわした。イマは嘘をつくのが嫌いだ。でも、本当のことを全部言う必要はない、と考えていた。

ひとしきり構われてから、後はもう鞄のことでからかわれるような事は無かった。それより、5年生になったら4年生までとはかなり違う、難しい授業になり、他の子達はそれどころではなくなっていた。塾も大変らしい。

イマは、授業にはちゃんとついていった。予習・復習もちゃんとやった。

授業中に質問して、先生の答えにまた質問して、時間の都合があるからと打ち切られるくらいだった。


小学5年の夏休み。イマは、お腹が痛い日が続いた。パンツも汚れた。

母に相談すると、「イマ、大人になったのよ。お祝いしなきゃ。それと、後で必要なものを買いに行きましょうね」と言われた。大人になった?もしかしてそれって・・・・そうか。ついにやってきました。もしかしてこれから毎月お付き合いしなきゃならないのかな?面倒だなぁ。イマは知識だけはあったから、自分の身体に何が起こったかを理解した。


ひとしきり買い物を済ませたその晩。父が帰宅して、晩ご飯となった。出てきたのはお赤飯である。「なんだぁ?この時期に赤飯だなんて」ちょっと鈍い父。母は、「イマが、大人の女の子になりましたのよ。そのお祝いです」と応えた。父は暫く黙り込んだ。そしてイマに、「おめでとう、でいいのかな?これでイマも一人前の女の子だ。多少面倒かもしれんが、まぁ女ってのはそういうもんだ。母さん、ビールだ。お祝いしよう」


イマは、食事を終えると、タカにメールした。「カナブン、イマは今日から大人の仲間入りです。これからもよろしくね」


イマからのメールを受信したタカもやはり、少し鈍かった。暫くの間、考えた。そして、ふと思い当たった。そうか、イマもそういう年頃なんだ。

メールへの返信。「イマ、おめでとう。これから色々大変かもしれないけど、自分の身体の事は自分で手当する位の気持ちで、頑張って下さい。こちらこそこれからもよろしく」


イマは、メールを受信して、カナブンは理解したことが判った。相変わらずお腹は痛かったが、何となく嬉しくてベッドの上で飛び跳ねた。おっと、ずれちゃうか。やっぱり少し面倒。

こうして、イマは大人になった。


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小学5年の秋。進路相談のための三者面談が始まった。

担任は、イマの成績が抜群にいいため、某附属中学への進学を勧めた。

母親は、「我が家には、それほど余裕はございませんの。イマには、普通に公立学校へ進学して貰いたいと思ってますのよ。どう、イマ?」

イマはとっくに決めていた。「私は、普通に過ごします。普通に、公立中学校に進みます。きっと高校も、近所の公立高校に進むと思います。私は、普通の暮らしをして、色んな事を教わって、色んな事を覚えたいんです。特別な処には行きたくありません」 はっきりと、宣言した。担任は暫し呆然としたが、「判りました。それでも、イマさんは勉強をちゃんと続けて下さいね。あなたみたいな人は、此の世の中にはそんなにいないですから」

それはそうだろう。私の「目」。タカとのこと。こんな小学生が、世の中にそんなにいたら大変だ。イマは心の中で苦笑していた。それは、もしかしたらイマにとって初めての苦笑だったかもしれない。


この頃、珍しく転校生が入ってきた。オーストラリアからの帰国子女である。

イマは、英語も日本語も話せる彼女がうらやましかった。

すぐに話しかけ、友達になった。そして、英語を身体で覚えた。頭の中では、「翻訳」はしていない。英語は英語として考えるやり方で、どんどん覚えていった。判らない単語は、その場で彼女に訊いたり、辞書で調べたりした。

イマの英語力の下地は、こうして小学校卒業までに出来上がった。


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イマはあるとき、タカから、「コンビニ前襲撃事件」のことを聞いた。

タカの若さと脚力と、黒服の男達のおかげで切り抜けたことを。

イマも脚力には自信があるが、果たしてカナブン(タカ)のように綺麗に立ち回れるか、自信が無かった。

何か習いたい。イマは近在を自転車で探して、とある小さな合気道教室を見つけた。

恐る恐る覗いてみると、何と目の前におばあさんがいるではないか。イマは心底びっくりした。

婆「よく来たねぇ、お嬢ちゃん。合気道を習いたいのかい?・・・・違うね、この子は自分を護りたいんだね」

言い当てられて、さらにイマはうろたえた。「あ、あの、こんにちは。こちらでは、合気道を教えていただけますか?」

婆「あぁ、もちろんだよ。もう殆ど生徒は居ないがね。・・・・いい目をしてるね。自分の他にも護りたいものがあるんだね?いや、そこまでは言わなくていい。いつから通うかい?月謝は、そうだね、4000円ってとこかね」

イマ「は、はい、母と相談して、また参ります。失礼しました」逃げ出すように外に出て、自転車に乗った。

悪いお婆ちゃんではないみたい。頭の上は綺麗だった。それに、まるで占い師みたいに、私のことが判るみたい。あそこに通いたい。

イマは、その晩、母に相談した。「私、自分を護りたいの。だから、合気道を習いたいの。塾よりは安いと思うけど、月謝は4000円だって。いいおばあさんの処だったの」

母は、若干戸惑った。自分を護りたい?何か、いじめでもあるのかしら。でも、イマの目はそうは言っていないわ。真剣。こういう時のイマの言うことは、聞いてあげた方が良い。

母「判りましたわ。今度、お母さんと一緒に、そのお婆さまの処に行って、お願いしましょう」

イマ「やったぁ!お母さん、ありがとう!」 もうそれほど小さくはないイマが、母に抱きついてきた。

母「お父さんには、お母さんから伝えておきます。イマは、イマがやりたいことをおやりなさい。いつ行くか、決めておいてくださる?」

イマ「はい!。今度の日曜日に、行きたいです」


次の日曜日。

イマは、母と一緒にその教室を訪ねた。歩いて行くには、少々遠い。お婆さんは、にこにこと待っていた。

「よく来たね、お嬢ちゃん。お名前は?」

「はい、よしい いま と言います。このお教室に通わせて下さい。お願いします」最後はお辞儀をしながら言った。

母は、一目でいい人だと思った。実家のお婆さまと、姿形は違うが、同じ雰囲気を持っている。

母「我が儘で強情っぱりで、大変な子かと思います。今後ともよろしくお願いいたします。」母はお辞儀をしてから、封書を手渡した。「これは、入学金ともうしますか、お教えいただく月謝の半年分です。お納め下さい」

婆「そんなもんは要らないよ。この子には、本当に護身術が必要なんだ。・・・・どうしても、というなら、そこらに置いていって。半年分の月謝に充てるからね。いいね?」

母「ありがとうございます。今後とも、イマをよろしくお願いいたします。」母は、深々と頭を下げた。

「今後ともよろしくお願いいたします。」イマも母を習って、深々と頭を下げた。

婆「それじゃ、早速ちょっとやってみるかい?普段通うときも、学校に通うような格好であればそのままでいいよ。ドレスみたいなのは、ちょっと勘弁だけどね。合気道は、普段のまま、いかに力を逃がし、活かすかということだから」

早速、稽古が始まってしまった。暫く眺めていた母は、再び頭を下げると、一人で帰って行った。


母は、父に大事なことを告げるのが上手である。大抵、アルコールが入っている時に伝える。もしくはそのときに伝えた、と言う。合気道もそうだった。その日の晩。「お父さん、イマが、合気道を習い出しましたのよ。勉強は、特段に出来るからと学校の先生のお墨付きですから、塾の替わりに丁度いいのではないかしら」

父「そんな話、初めて聞いたぞ。いつから始めるんだ」

母「あら、先々週の、ほらあなたが会合で遅くなって、だいぶ酔ってらしたときにはお伝えしましたわ。それから、習い始めは早速今日からだそうですの。これから、イマの帰りもちょっと遅くなるますのよ。でも、ご心配なさらなくてよろしくてよ。なにしろ、習っているのは護身術ですから」母は、含み笑いをしながら、父に告げた。この展開では、父は何も言えない。「まぁ、なんだ、このご時世だからな。護身術ぐらい習っていてもいいだろう」そういうのが精一杯であった。


イマは一所懸命に合気道を習った。時間帯は、級友達が丁度塾に通っている時間を選んだ。お婆さんは、毎日行っても、何回行っても、何時間やっても、月謝を変えなかった。それより、イマが上達するのが楽しそうだった。

「呼吸だよ、呼吸。自分の息と、相手の息。相手が人間じゃなくたって、たとえ岩でも「息」はしている。それを感じ取れるようになったら一人前だ」 これがお婆さんの口癖であった。イマは、試しにちょっとだけ「目」を使ってお婆さんの隙を伺ったことがあった。すぐにバレてしまった。「イマ、おまえさん、何か試してみたね。そいつは、合気道をやるときには封印しておきなさい。覚えるにはかえって邪魔になる。はい、呼吸、呼吸」 お婆さんは、気配でイマが何かをやったことは判ったみたいだった。だが、それをあえて追求はされなかった。ただ、使うなと。イマにはそれがよかった。呼吸を整え、相手を見据える。「目」ではなく、「心」で何かを感じる。動く。流れる。逆らわず、利用する。かつてタカが本だけで覚えたよりも、実践している分合気道に関してはイマの方が上達しそうであった。


イマが小学6年に上がる頃。

家では、2月頃からまるで引っ越しのような騒ぎだった。納戸(物置)から次々にモノを出して、トラックに乗せたりしていた。父親は、今の自分に縁のないものを捨てることにした。母親は、嫁入りの際に持ってきて、最近殆ど使わなくなったものを、実家に返すか捨てることにした。端から見ると、様々なガラクタ。がらんとした納戸は、意外に広く感じられた。4畳半ある。収納も、それなりにある。ベッドと机くらいは置けるだろう。


それまで、イマは両親と寝起きを供にしていた。小さな頃からの習慣であったから、違和感はなかった。昨秋までは。イマが「大人」になってからは、父親を気にするようになった。着替えは、風呂場の脱衣所で行うようになった。

仕事以外はまるで気にしていない父親であったが、さすがにイマの様子は気になっていた。

正月。

年賀挨拶回りがてら、母親に相談していた。「おい、イマの部屋を作るぞ。とはいっても家はあのままだからな、納戸にしている部屋を空ける。要らないものは全て処分だ。いいな」

いつものように、相談と言うにはあまりにも有無を言わせない言であった。母親も同じ気持ちであったから、ここは父親をたてた。

母親「お父さん、それは良い考えね。それでは、今度のお誕生日プレゼントは、イマのお部屋、ということにいたしませんこと?お正月が開けたら、私のものは少しずつ処分いたしますから、お父さんもお願いしますわ」

父親「当然だ。とはいっても、あの部屋には私のものは今ではガラクタしか入っておらんから、全部捨ててしまおうと思う。お母さんのものは、実家にでも戻すのか?」

母親「大事なものは、そうさせていただきますわ。それ以外は、私もガラクタばかりですから、基本は捨てることにいたします。それから、空いた部屋には、ベッドと椅子と机くらいはご用意しましょうね」

父親「うむ、判った。そういうことだ」

2月。

母親は、手放したくないものは、実家の自分の部屋に戻した。それ以外は、売れるものは売った。イマのベッドや椅子・机を買う分には充分な金額になった。それ以外は粗大ゴミである。業者に頼んで、処分した。

3月。

母親は、イマの誕生日プレゼントが何であるか、イマにタネ明かしをした。イマは大喜びした。そして連れだって家具店に行き、ベッドや机・椅子を慎重に選んだ。驚いたことに、イマはそれまでダイニングキッチンのテーブルで勉強していたのだ。その方が母親と会話をして、勉強が進むこともよくあった。だが、これから先は、一人の方が何かと都合がいい。家具は、納得するまで数店廻った。大事な買い物をするときは、いつも幾つかの店を廻るのは昔からの習慣であった。その結果、部屋の大きさに見合った、ベッドと机と椅子を買うことにした。母親は、例の処分金から支払った。間もなく、空き部屋となった部屋にそれらが搬入された。2階の部屋であるため、少々手間取ったが、何とか収まった。収納も、ドアもちゃんと使える配置が出来た。「お母さん、照明も」イマから言われて、母親ははっと気が付いた。照明は古ぼけたつり下げ型ライトであった。「じゃ、これを取り替えるのを、お誕生日にやりましょうね。それでよろしくて?」「はい!決定!」イマから元気よく返事が返ってきた。イマは、自分のものを部屋に入れることは、誕生日まで待つことにした。

4月。イマの誕生日。割と立派なペンダントライトがイマの部屋に付いた。随分と明るい。しっかりしたフルカバーがついているため、蛍光灯の目に刺さるような明るさではなかった。

夜。父親は、ちゃんと定時で帰ってきた。料理は、イマも昼から手伝って、クリスマスよりも豪勢なものが並んでいた。父親のためには、いつもよりちょっと高いお酒が置かれていた。

最近にしては珍しく、全員で食卓を一緒に囲んだ。

父親「イマ、お誕生日おめでとう。2階のあの部屋は、今日からイマの部屋だ。自分の好きに使いなさい。では、乾杯しようか。お母さん、あなたも今日くらい少し付き合いなさい。イマはジュース、あるね。では、乾杯!」「乾杯!」

その晩の食事は、話が弾んだ。イマは、学校のことよりも、合気道のことやカナブンのことを話した。今日ばかりは、父親もにこにこと聞いていた。母親は、絶妙なタイミングで合いの手を入れ、これまた絶妙なタイミングでテーブルの上の料理を切り替えていった。最後に、コーヒーとケーキ。イマも、この頃からコーヒーを牛乳入りだが飲むようになっていた。一同にとって、とても幸せな夜だった。


・・・・父親の記憶では、幸せな食卓は、此の晩が最後だった。


イマは、誕生日の晩から、自分の部屋で寝るようにした。最初は、ドキドキして寝付けなかった。私のお部屋。わったっしのおっへやぁ~。わぁ~い!あ、枕元のライト、欲しいかも。机の上の勉強用ライトも要るかも。兼用出来るかな。明日、お母さんに相談しよう。そう考えているうちに、いつの間にか寝入っていた。


イマは、6年生になっても勉強はしっかりとやった。予習・復習は欠かさなかった。自分の部屋が出来てから、更に勉強の時間を増やした。このため、その年の暮れには、通常はこなしきれない6年生の教科書の内容を、全て予習していた。

イマは、合気道もしっかりと続けていた。寒さが身にしみる頃になり、お婆さんから「わたしゃもう、あんたに教えることが無くなったよ、イマ。卒業試験しようか」と言われた。

イマ「卒業試験って何?」

婆「ちょっと裏庭まで来てくれるかい?靴を持って、裏口からまた出るから」

いわれるまま、裏庭に出た。そこには、小さいながら立派な庭園があった。いや、かつては立派だったのであろう、今は手入れもされていないらしく、荒れ地のようになっていた。その中央に、大きな岩があった。

婆「イマ、何をやるか、予想出来るかい?」

イマは、周囲を見渡し、岩に視線が張り付いた。あちらこちらに、誰かが何かやった跡がある。

婆「気が付いたようだね。わたしんところの卒業試験は、その岩、それを割るか、砕くか、削るか、動かすことだ。イマならやれる。何をどうするか、よぉく岩と呼吸を合わせてごらん」

イマは言われるままに、岩と正対した。調息して、丹田に重心を置き、全身はリラックスする。岩は語ってくれる、そのうちに。イマは信じた。待った。・・・・ふと、岩が「ここだよ」と言っているような気がした。イマは、静止姿勢から一気に岩に向かった。ちょっとだけ、突いた。岩の上部が、見事に砕け飛んだ。

婆「やるねぇ、イマ。岩の声が聞こえたかい?そうかい、そうかい。よかったねぇ。これで卒業だよ。もうほんとに教えることはない。これ以上の事をやりたかったら、それこそ立派な道場にでも通うんだね」

イマ「はい、ありがとうございました。ここまでやってこれたのも、先生のおかげです。他には、行く気はありません。ある人から教わりました。何であれ、有段者の手足は凶器と見なされるって。護身のつもりで、相手を怪我させて、私が捕まってもつまらないですから。ほんとうにありがとう、 お婆ちゃん」

イマはお婆さんにぎゅっと抱きついた。イマが抱えられるくらいの大きさしかなかった。

婆「おまえさんは、えらいことを教わったねぇ。確かに、あんたなら他の道場だと、立派な有段者だよ。自信を持って、これからも生きていくんだよ」

そういいながら、お婆さんはイマから身を離していった。

婆「さて、卒業だから、もう明日から来なくていい。いや、二度と此処に来ない方がいいだろう。あの岩は、誰かが定期的に確認してるみたいだからね。それじゃ、さよならだ」

イマ「ほんとうにさよならなの?イマ、ちょっと寂しいな。遊びに来ても行けないの?・・・判った。じゃ、お婆ちゃん、何時までも元気でね」

イマは自転車に乗り、振り返るとお婆さんが見ていたので手を振った。慌てて前を見直した。

それが、イマがそのお婆ちゃんをみた最後のときであった。


年明け早々、イマが散歩がてら自転車でお婆さんの教室の前を通ったとき、驚いた。更地にされていた。どうやらマンションでも建つらしい。あの岩も、跡形も無かった。お婆ちゃんが手配したのか、それとも亡くなったのか?イマには判らなかったが、お婆ちゃんは家屋敷を売って、老人ホームに行ったらしい、という噂を後で聞いた。その先は、本当に判らなかった。


イマが中学生になる前。タカから母親に電話がかかってくる前後。

イマは、母親から、携帯電話ショップに行く、と誘われた。「機種変更ですわ。イマのは、子供用の簡単なものですから、大人用のものにいたしましょう。それが、今度のお誕生日プレゼントです。それから、私も携帯電話を買います。パートの時間をちょっと長くする予定ですの。ですから、イマが学校から帰ってきても、私が家に居ないこともありましてよ。そう、合い鍵も作りましょうね」

言われるままに、ショッピングモールに入っている携帯電話ショップに入った。新しい電話かぁ。長く使いたいから、最新機種がいいけど、予算は大丈夫かな?イマは余計な心配をしていた。母親は、操作が簡単な電話を選んでいた。先日、父親から代理手続きのための委任状に署名と捺印も貰ってある。みんなで家族割引にしましょうね。

やがて、イマが気に入った機種を見つけたようだった。長期利用割引を利用しての機種変更でも、数万円かかる。母は覚悟していた。これから、カナブンさんとの連絡ももっと頻繁になるでしょう。メールも通話も。定額割引の類は全部手続きしましょう。母親は、これからお金が更にかかることを覚悟して、パートの時間を長くすることにしていた。父親の収入も順調に増えていたが、飲んで帰った晩に、そっと財布の中身を確認して、補充する額も増えていた。

手続きは順調に行われたが、機種変更には数十分かかるという。その間に、同じショッピングモールにあるホームセンターで、合い鍵を作った。2つ。これは最初から父親のこだわりでカギを2つ付けていたためだ。

合い鍵も十数分かかるという。母親は、イマとコーヒーショップに入った。

母親「決めた機種は、イマは使いこなせますわね?なんでも、ワンセグはバッテリーを早く消耗するそうですから、あまり使わない方がよろしいらしいわ」

イマ「それくらい知ってるよぉ。もともとワンセグなんて、殆ど使うつもりはないし。でも、アドレス帳は移行出来てもメールは移行出来ませんって言われたのがショックだなぁ。元のって、手元に戻ってくるの?」

母親「戻してくれるそうですわよ。メール、残しておきたいのですよね?カナブンさんとの。大事に持ってらしたら」

イマ「はい、そうします。あと、この携帯、ダイニングじゃなくて自分の部屋で充電してもいい?目覚まし代わりにもなるし。ね。はい決定!」

母親は、以前からこのイマの「決定!」と言う言葉が好きだった。この子は、決めたことは守る。守らせる。

此処だけは父親に似て良かった処ですわね。

間もなく、合い鍵も出来、機種変更も終わった。電話番号は変わっていないが、この機械のメールアドレスは自分で再度設定しなければならない。アドレス帳のメールアドレスは残っていたのでイマは少し安心した。

母親は、これからが大変、と思っていた。この先、本当に大変なことが待っていた。

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