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番外メモ・そして大団円

はい、こちらは本編の素材としてメモした内容です。既に本編に取り込まれたものや、廃棄されたアイデアもあります。自分の作成工程の記録として残しておきます。それでは、始まり始まりぃ~。

<番外メモ>


3つまたは6つの電極だけである面積または容積の複合色素体を微弱電流で整列・方向転換を制御出来るか?


中学生になったイマに、片道1時間かけてカナブンの研究所へ向かいたいと思わせる理由


タカ(カナブン)が小遣いをやり繰りしてイマに贈った自動チャージsuica。タカの口座から引き落とされる。イマは他に使う?タカは気にしない?


単なる研究員であるタカが、レベル2セキュリティカードをイマのために発行してやれるか?そもそも何故タカは研究所で高く評価されているのか?研究所よりも前、大学でも、高校、何より中学入試で試験管に何を語った?国から目を付けられている?見張られている?守られている?


世の中に広く普及している製品との競合、圧倒的優位、国・企業ぐるみの隠し事。例えば蛍光灯の時。


タカの親は亡くなる前に何処で何をしていた?


タカがイマに対する想いは、共に研究するものとしてか、恋愛対象としてか・・・自分で判るのか?





Q1.タカはイベントで他の小学生に話しかけなかったのか?

A1.もちろん話しかけた。だがまともに話が出来たのはイマだけだった。


Q2.タカは普段は寡黙なのか?

A2.必要な時は喋る。むしろプレゼンテーション等では能弁である。


Q3.タカは今まで恋愛をしたことがあるのか?

A3.あるといえあばる。施設に入った頃、仲が良い女の子がいた。

   年を経て中学、高校でもそれなりに話しかけてくる女の子が

   それなりにいたが、共通の話題があまりに少なくて、いたたまれず

   女の子の方から離れていった事が多い。

   タカの方から告白したことは、記録に残っていない。




・・・・・これは誰のメモだ??








・・・・・・くっそぉ、どうせ相手から見えない処しか居ちゃいけないんだから、アサルトライフルぐらい支給しろってんだ。まぁいちいち電車で移動するときには別のめんどくささがあるけどな。てか俺のこの体格で目立たないようにしろって方が無茶じゃねぇか?おっと、出てきた。とりあえずいつものルートだな。しゃあねぇ、ついていくか。














・・・・・・・・・・・・・・・・・って誰????





イマの目の色は何色?


イマの目はいつもキラキラしてる、例の能力のせいか?

イマはあまりTVを見たりゲームをしたりしない、例の能力のせいか?


タカがイマに惹かれた理由、科学的なモノの他に何?


タカは自分の研究を、特に中学受験のとき何処まで実現可能と思ったのか?そのとき既に完成型は頭にあったのか?誰に、何処まで話してあるのか?記録はどうやって取っている?何処に残している?


「ハニーフラッシュ」は、絶対にやらない(苦笑)


研究にイマを利用するタカ、でも研究のためだけじゃない感情。どう表現する?どう抑える?


イマの「目」の秘密は、イマが15~16歳頃にタカは気づく。少しずつ。そして直接尋ねる。イマは嫌がる。タカは研究のためにはイマの「目」が欲しい。しかし大事なイマは傷つけるわけに行かないので悩む。


イマがTVで見た、深海生物たちの話。研究室の雑談で出る。タカは興味を持ち検索する。大きなヒントがある。海洋研究所・深海研究所と連絡を取る。実際に行ってみる。イマを連れて。恋人達の旅行?イマはその旅行先で「センサー」や「アナライザ-」として利用される?心が傷つくイマ。研究が大幅に進みそうで興奮するタカ。イマの心が傷ついていることにタカは気づけるか?


SP矢島とタカが直接話を始めるきっかけは?何故それから定期的に連絡を取ってる?




イマの家は、東武伊勢崎線五反野駅、またはその付近。つくばエキスプレスとは、北千住で乗り換える。高速道路とのアクセスは、さほど悪くないところ。駅からは徒歩数分で、明るい商店街が続く街。

ショッピングモールのイメージは、とえりあえずラゾーナ川崎みたいな感じ。



タカは、中学受験のとき、「太陽光発電の逆をやってみたい。電荷をかけると、それ自体が発光するものを作りたいんです。もちろんフルカラーで、動画も映るもの。基本は、モーターと発電器の関係と同じ事です」と面接官に話していた。面接官は、その中学が付属している大学から派遣されてやってきていた。そして、新世代モニタの候補の1つに、タカが言った原理と同じものが入っていることを聞いていた。小学生がこんなことを考えるなんて。すごいぞ、こいつは。我が校で囲うべきだ。とっさにそう判断した。


研究所の所長室は、ある意味妙な場所にあった。1階の、研究棟のほぼ中央、窓のない部屋。もちろん周囲は分厚い壁である。レベル4セキュリティのタカは、登録許可さえあれば、所長室に自由に入れた。しかし、その必要はない、と思っていた。あるときまでは。

所長室には、両側の壁に立派な百科事典と絵が飾ってあった。手前に応接セット、奥に立派な机。机の後ろの壁は、何故か白いままである。

さらに机の上には奇妙なことに電話が数台。1つは、他の研究室や事務室にもある、内線と外線をかけられるビジネスフォン。普通はこれだけで足りるはずだ。その他の数台、よくみると番号ボタンが付いていないものもある。所長は、その他に携帯電話を数台所持している。違う電話会社のもの。そして、衛星電話。

所内の噂では、所長が通勤しているところを見たものはいない、らしい。

出かけることはある。黒塗りのクルマで、都心方面へ。やはり黒塗りのクルマが都心方面から来ることもあった。何人か乗っていて、黒服のほかに偉そうな人が混じっている。かれらは、所長室に、こともなげに入っていく。少なくともレベル4セキュリティの場所に。会社の偉い人がいたのを目撃したものもいた。その他に、TVかどこかで見かけたような顔の人が来たときもあった、らしい。


研究所の敷地は広い。そして、店の類からは遠い。当然、食堂や売店はあった。事務棟に。そして、事務棟の脇にはかなり広い芝生のスペースがあった。天気が良いときは、そこで食事をするものもいた。食後の休憩で、芝生に寝転ぶものも多かった。


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有機ELが発表されたとき、正直タカは焦った。同じ原理だったら、自分の研究が無駄になってしまう。だがその後、Web等で調べていると、原理も何も全く違うことが判った。なにより、寿命が違う。

「ソラ」は、例えばある色素が発光しなくなると、隣り合う色素同士がその穴を埋める。だから、液晶のドット落ちとか、ブラウン管の照射ビームのずれとか、ましてや有機ELの寿命とは、全く無縁である。極端な話、色素体が1つでも生きていれば、何とか観られる画面になるのだ。イマに初めて見せた「ソラ」は、まさに1つだけの色素体であった。


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イマに対する、カナブン(タカ)の謎かけ(質問)の1例。


タカ「イマさん、三角形の内角の和は、習いましたか?」

イマ「うん、とっくに。180度だよ。」

タカ「では、四角形の内角の和は?」

イマ「えぇと、360度。ぐるっと1周するからって覚えた」

タカ「では、五角形・・・は難しいですから、六角形。計算が簡単なように、内角の1つずつは120度ずつの、正六角形の和は?」

イマ「う~んと、120度が6つだから、720度。あれ?1周通り越しちゃって2周してるよ?なんでだろ?」

タカ「それでいいんです。多角形の和を、角の数を無限に増やしていって、それを利用していくと、円の計算が出来ます。イマは円周率は未だ習ってませんか?π、こう書きます。「およそ3」って習ったとしたら、それは忘れて、「3.14」と覚えて下さいね。

イマ、円周率の求め方としては、ガウス・ルジャンドルの公式とか、ボールウェインの4次の収束公式とかもありますが、私は多角形法が好きです。円は不思議ですよ。私にとっては同じくらい、三角形も不思議ですけどね。・・・・ごめんなさい、また少し難しい話をしましたね」

イマ「ううん、またタカの頭の上がきれいだったから、いいよ」



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決して書きたくはない、大団円のさわり、プロット等だけ。


「あのお方」の遺言を、顧問弁護士が持参してきた。遺産は、タカとイマに贈る、とあった。


イマの母親の実家、松平家も、母以外誰も居なくなった。

イマは母から、「私の実家は、私が居なくなったら、あなた方が住むなり、好きに使って下さる?」と言われていた。

既にその屋敷に住むものは居なくなっていた。

その母も、あるときガンが見つかり、既に末期で手の施しようがなかった。

父は号泣したが、「そのとき」は来てしまった。


イマの父は、「此処が俺の城だ。自分の身の丈に合っている。他は望まん」と言っていた。

あるとき、職場で急性心不全となり、逝ってしまった。


タカとイマは、「血の呪縛」を断ち切るために、子供は作らない、と決めていた。

「ソラ」と同じ原理の「目」。秘密のまま、無くなった方が良い、というのが二人の結論だった。


様々なことが一段落したとき、タカが言った。

タカ「家が4軒に、数十兆のお金ですか。使い切れませんね。イマさん、たぶん私の方が先に逝くと思いますから、あなたの老後が充分に暮らせるには幾らくらいあればいいんでしょうね?」

イマは、その質問をある程度予想していた。

イマ「まず、家はこの借家だけ残しましょう。此処からが、一番研究所に通うのに便利ですから。その他の家は、処分しましょう」

タカ「本当にいいんですか、あのお方の邸宅はさておき、他はあなたの思い出も詰まっているんでしょう?」

イマ「イマは今。今とこれからがいいんです。思い出は、心の中にしまっておきます。ということで、家の処分は決定!」

タカ「でましたね、いつもの決定。はい、判りました。家具調度とか、美術品は?同じように処分ですか?」

イマ「そうなります、よね?だってこの家には入り切りませんから。預金だと、税金だけ毎年取られるのがちょっと悔しいけど、その分また入ってくるから、いいよね?そしたら、私は、特許料だけで充分暮らしていけると思うの。国によって年数は違うけど。だから、今ある預金は、例えば何処かに寄付するとかはどう?」

タカ「寄付、ですか。真っ先に研究所が欲しがるでしょうね」タカは苦笑いをした。

タカ「そうですね、国や企業にとらわれない、公共の処に寄付でもしましょうか。なんでしたらユニセフとか。あ、すみませんが、私が育った施設が未だ残っていますから、その分は残してということで」

イマ「良いんじゃないかしら。じゃ、せぇので・・・・」「決定!」タカとイマは、声を揃えて言い、暫く笑い転げていた。


その後、世の中がどうなったか、何かが変わったかは、表面上はよく判らない。

タカとイマは、相変わらず研究の日々を暮らしていた。

いずれ、世界中のみんなが楽に暮らせますように。二人は、それだけを願っていた。


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しかし結局、寄付はされなかった。寄付では、何処かで誰かに搾取され、本当に必要な人達には何も届かない。その事実を知ったとき、決断した。寄付の代わりに、財団法人が創設された。理事長は、名前だけイマが使われた。

タカは、実務をある男にどうしても頼みたかった。タカの警護を、最初からしてくれていた、黒服の男。

タカは連絡先を探して探して、ついに見つけた。現在は警視正ですか。さて、どうなりますか。

タカ「金澤と申します。矢島様に、お取り次ぎ願えませんでしょうか?カナブンと言って下されば判ると思います」

タカは電話をかけた。間もなく、取り次がれた。

タカ「矢島様ですか。随分ご無沙汰しています。金澤と申します。あの頃は、大変お世話になりました」

矢島「・・・・どうして私に辿り着いたかは、あえて問いません。本当にご無沙汰しております。私も年を取りまして、もう現場には居りません。印鑑を押す毎日です。・・・・それで、わざわざご連絡いただいたということは、何かあるのですね?」

タカ「はい、どうしても信用出来る方が矢島様しか思いつきませんでした。実は、財団法人を作りました。その法人の目的は、ピンポイントで困窮されている方々を助ける事業です。あなたなら、きっとお任せ出来ると考えました。もちろん、現在のお立場やしがらみがおありになるでしょうから、今すぐご返答いただくつもりはございません。それでも、もし、私達を助けて下さる気持ちをお持ちになられるようでしたら、今から言う連絡先にご連絡下さい」

矢島「いえ、腐っても何とやらです。今でも、あなた方のことをモニタしているものからの報告だけはちゃんと目を通しています。しかるべき時に、しかるべき連絡先に、ご連絡させていただきます。・・・・次の、つまらない会議の時間が迫っておりますので、そろそろよろしいでしょうか?失礼いたします」


矢島は、タカが此処まで追いかけてきたことに、まず驚かされていた。興味深い男だったが、此処までやるものだったのか。財団法人の話も聞いていた。だが、その実務の管理が、自分に廻ってくるとは思ってもいなかった。

矢島は暫く考えた。幸い、家族は居ない。世界中を廻ることになるだろうから、それは有利だろう。

この組織にも、そろそろ飽きた。決断するべきか。


数日後、タカの借家の電話の留守電に、矢島からの連絡が入っていた。どうやら、わざわざ留守電にしたかったようだった。「矢島です。お話の件、お引き受けします。直近で、お二人とご相談出来る日時と場所をご指定下さい。時間は、2時間程度を想定しています。よろしくお願いします。」必要最小限、それこそ逆探知も出来ないような長さで録音されていた。未だ彼は錆び付いてはいない。タカは確信した。彼なら、私達が目指していることを、それこそ肌で知っている。彼なら、信頼出来る。国とのしがらみも、きちんと始末してくれるだろう。


数日後、研究所の関連電機企業には、別注で沢山の「ソラ」で出来たプレートの注文が入った。

閉鎖系で、同じ文字を表示し続けるもの。珍しく、TOP承認が下りた。

それは、2種類あった。1つは、各国語で作られた。日本語では、「sol-α、ソラは金沢高文と吉井 今によって発明・開発された。この施設は、彼らの財団からの贈り物である」となっていた。そしてもう1つ。やはり各国語である。

「この発電設備は、金沢義文と真理子夫妻によって発明・開発された原理を用いている。彼らの功績を称える」とあった。財団からの発注である。本来ならば特に後者は、発電設備を必要とする側が用意すべきものだが、タカとイマはあえて自分達で作り、それを無償で配った。


世界各地の原子力発電所は、老朽化によって停止を余儀なくされてきていた。

そこに、新技術が発表され、実運転の模様も中継された。常温核融合による、放射能汚染の心配のない発電施設であった。実運転の様子は、何処で撮影されたかは、明らかにされなかった。

各地の原子力発電所は、直ちに改修され、この新技術を用いた発電所になった。それらには、必ずあのプレートが設置された。火力発電所は、その役割を終えた。新技術による発電で、必要充分以上に電力が供給されたためである。もちろん、「ソラ」の普及も一役買っている。原油産油国は地団駄を踏んで悔しがった。だが、彼らの国に、民間レベルで拡がっていった事実に、ついに沈黙することとなった。国家予算も縮小され、軍事費の出所が無くなって、戦争・紛争も少なくなった。人間の「さが」として、無くなることはなかったが。


かつての黒服の男達は、次々と矢島の招聘に応じていた。彼らほどタカとイマを知るものはいない。

矢島は、タカが彼と彼らを見込んだ理由を充分に理解していた。

護身術、相手を組み伏せる術、交渉術、それに要人警護の際に必要な語学力。彼らはみな備えていた。

矢島は、現役の黒服には慎重に声がけを自重していたが、彼らの中からも応募があった。矢島は、しがらみが断ち切れるものだけを選んで、採用した。

矢島は、特定の国に行くものには、とある暗号を手渡していた。現地のガンロッカーにアクセスするもの。

「まぁ、普段放っておかれているから、調整するくらいのつもりでいてくれ。必要なものは必要な時に最小限。以前通りだ」 日本的に言えば、「非合法なもの」である。だから、誰かが使っても、元に戻ってさえいれば誰からも文句は言われない。

こうして、かつての黒服の男達は、明るいスーツを身につけて、世界中に散っていった。


財団法人「カナブンといま」(英文表記では、何故か「KANABUN to IMA」となっていた)は、様々なソラを各地で買い付けて、設置していった。ソラを自分達で持ち込むのでは、その国の経済のためにはならない。だから敢えて、現地で買った。製造されていない国では、わざわざ輸入して貰って購入した。砂漠地帯の村落へ、そして砂だらけの畑へ。強烈は日差しは遮断され、冷房さえ可能になった。元々砂地に強い植物が選ばれ、植えられ、緑が拡がった。寒冷地の移動民族へ、そして凍った土地へ。日差しの弱い白夜でも、暖房が出来た。折りたたみ、丸めれば運搬も簡単だった。気候を変えるまでのことは無かったが、彼らの暮らしは格段に楽になった。高地へ、ジャングルへ。特にブラジルでは、森林伐採が止まった。燃料としての木の必要性が無くなったからである。かつて伐採していたもの達は、「ソラ」を売り歩くようになった。ブラジルに限らずアマゾンは、地球の二酸化炭素の多くを吸収し、酸素の多くを供給している森である。北極と南極には、特別な「ソラ」が設置された。その機能は、財団からは公表されていなかった。だが、確実にオゾンホールは拡大を止めた。気がつけば、二酸化炭素放出量は、かつての京都議定書のレベルをクリアしていた。排出量取引等に関係なく、である。


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借家がさすがに手狭になったので、地主と交渉して、隣接した「居住棟」を建てることにした。

地主も、状況は知っている。何故、買わないのかと尋ねた。

タカとイマは、声を揃えていった。「お借りして、家賃を払っている事に意義があります」と。

今までの借家は、「研究棟」となった。

居住棟は、どことなくイマの実家に似たような間取りであった。

イマは、そこではのびのびと過ごした。

タカは、相変わらず研究棟暮らしが多かった。

だが違うのは、少なくとも朝食と夕食は居住棟で普通にイマが作り、普通に食事していたことだった。


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もし、イマが「徹子の部屋」に出るならば。黒柳徹子は、殆ど妖怪のような存在である。

「イマさん、うちのプロデューサーがね、「イマちゃんとの約束」の現場に居たらしいんですの。そのとき、さすがね、動画を録画したということで、ちょっとクリアフィルタかけてるので音声と映像が途切れがちになりますけど、ご覧になっていただけますか」

「え?いや、ちょっと・・・若気の至りですから」苦笑するしかなかった。


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狙撃された?殺気を感じて、一瞬頭と胸を守るように身体をひねったが、タカは腕に傷を負った。かなりの出血をしている。

逃げられるか?ふと殺気を感じた方を見ると、既になにも気配は無かった。

1,2分で、黒服の男達が辺りを警戒するようにしながら寄ってきた。中で話しかけてきたのは、見覚えのある男だった。コンビニ前の時にも、話している。

男「大丈夫ですか、意識はありますね。この傷では、通常の病院では面倒ですから、恐縮ですが応急手当をさせていただいて、警察病院までお送りします。よろしいですね?」 有無を言わせぬ確認であった。

タカ「はい、私も通常の扱いでは良くないと考えます。・・・・今後も、こういった事があると面倒です。差し支えなければ、あなたの名前と連絡先だけでも教えていただけませんか?」

男は、暫く無線で連絡を取った後、ゆっくりとタカを見て、応えた。「・・・・矢島、といいます。連絡先は通常公開出来ませんが・・・・こんな事があるようならば、仕方ありません。一度しか言いませんから、覚えて下さい。それから、携帯のメモリやメモの類には一切残さないで下さい。電話番号は、***-****-****です。ピッっと鳴ったら、次の番号をプッシュ信号で送って下さい。その場で緊急事態の場合は、#*****。緊急で連絡を取りたい場合は、#*****。覚えましたか?その場の時は、今日のように1,2分で誰かが駆けつけます。連絡の場合は、30分以内にコールバックします。コールバック先は、モニタした状況により、使い分けさせていただきます。これでよろしいですか?」

タカ「・・・・はい、何とか覚えました。証拠は、何も残しません。矢島さん、でしたね。ありがとうございます。」


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タカは、イマと知り合って間もない頃、とんでもない依頼を所長に出していた。

「各研究室にて携帯電話を利用可能にする工事」

所長から説明を求められ、臆しもせずにタカは「プライベートな用件が主な理由です。ちなみに、屋上にアンテナ(中継局)を付けるならば、各研究室全部に配線する方を安くするとのことです。添付した見積書はご覧いただけましたか?」

所長はうなった。なんでこんなことに金を使わねばならんのだ。しかし、費用は思ったほどでもない。

しかし、「あのお方」からは、タカからの要求は非合理的な理由がない限り受け付けるよう仰せつかっている。

確かに、各研究室とも便利になるだろう。セキュリティも、屋上アンテナの手前にファイアウォールとモニタを噛ませればなんとかなる。手回しの良いことに、タカの持ってきた見積書にはそれにも触れてあった。

さらに、さりげなく地下500mまでの配線と、屋内アンテナ複数個も書き添えてあった。さすがにこれらの工事見積もりは入っていない。所長も、此処が出来た時とは時代が違う、必要だと内々思っていたので余計に悔しかった。

「本社の方に上げておく。結果は、期待しないように」所長は、そういうのが精一杯であった。


間もなく、本社からの指示で、アンテナ工事が始まった。所長は、「やっぱり通るんだ、やつの依頼は」と納得せざるを得なかった。

タカは、思った。これでイマと何時でも連絡出来る。それに、例の矢島さんにも。


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イマが研究所でアルバイトを始めた頃。

イマの主な仕事は、翻訳であった。研究所の誰よりも英語が達者であったからである。

様々な研究室から翻訳の依頼が来た。日本語から英語へ、英語から日本語へ。

基本的に内容は機密である。しかし、イマは大抵の内容を覚えていった。

もちろん、内容を他の誰にも、タカにさえも漏らすことは無かった。


時たま、海外からの研究者が研究所を訪れることがある。

それが週末の場合、イマが通訳として頼まれた。

イマは日常会話だけでなく、それぞれの研究室の研究内容も、翻訳依頼が来ている処なら概略は理解しているため、通訳として立派に活躍した。少しだけオージー訛りが混じっていたが。

あるとき、海外研究者から名前を聞かれた。イマは、「My name is IMA. This mean like a 'now'.」と応えた。

母音の多い「イマ」という発音は、喋りづらかったのだろう。すぐに「Ms. Now」と言われるようになった。

こういった研究者達は、大抵連携のためのメーリングリスト(ML)に参加している。そのMLで、あるときこの研究所の話題になった。ある研究者が書いた。「Ms. Now is Ms. know.」何でも知っているかわいいなお嬢さんが居る、とそのMLでは知れ渡った。それ以来、通訳としてイマを指名してくる研究者や、エアメールで「Ms. Now」宛のものが届くようになった。


遙か後日。

例のプレートのイマの名前は、英文では「Ima 'Ms Now' Yoshii」と表記された。


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イマは、夜学と通信制をフル活用して、研究所通いをしながら順調に大学の単位を取得していった。

後は卒業論文を書くだけ、という段になって、イマは困ってしまった。書くことが、無い。

正確には、何か書くとすれば、カナブンとソラに触れざるを得ない。未だ公表していない事まで書かなければならないかもしれない。しかし、所長との約束で、8年以内に卒業しなければならない。

イマは決断した。カナブンと出会ってからのこと、全てを書くことを。カナブンから聞いた、全てを書くことを。

自分の「目」に触れないように気をつけながら、論文の作成を進めていった。それは、ある意味一遍の「サーガ」(物語)とも言える内容になった。論文の題名は、「カナブンといま」。財団名と同じである。

やがて、大学は無事卒業できることになった、条件付きで。その条件とは、卒業論文を出版することであった。

世間一般に知られている「カナブンといま」は、イマの論文主体である。

此処で書かれているものは、イマからも伏せられた内容を全て拾ったものである。

公表されるかどうかは、判らない。    ---金澤 高文

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